#30「夜は続く」
激しい爆発音と共に土煙が上がる。
ドサッ
爆発音が消えた直後、地面に何か落ちる音がした。
「スズネちゃんっ!!!」
確信があり、叫ぶ。
スズネちゃんは、明らかに無理をしていた。勢いを乗せるためとはいえ、わたしの全力の拳を何度も受けて......。
この土煙の先で落ちてしまっているであろうスズネちゃんの元へ早く行きたいが、手足の硬直が......。
土煙はゆっくりと晴れていき、永遠にも感じられた数秒間が終わる。
「スズネちゃん!!大丈夫!?」
すぐに走り出し、地面に突っ伏す状態となっているスズネちゃんに駆け寄った。
「あ、アンリ......コウモリは......?」
良かった、意識はあるようだ。
「大丈夫だよ...!ちゃんと倒したよ......!」
わたしの一撃によって、核から肉片に至るまで"破壊"されたコウモリの魔獣は今は僅かな骨の残骸を残すのみとなっている。
「そんなことより、スズネちゃん体は!?」
「うん...大丈夫......。ちょっと全身が痛むけど、しばらくすれば大丈夫になると思う...。」
「......ホント...?」
無理をしていないか心配になる......。
「...ふふっ、そんな心配しないで...?本当に大丈夫だから。......それよりアンリ...悪いけど肩、貸してもらえる?」
スズネちゃんがそう言いながら体を起こそうとする。
「だ、ダメだよ。無理に起きちゃ...」
「うん。そうしたいとこなんだけど...鞄、取りに行かなきゃ...。」
そういえばスズネちゃんが持っていたはずの鞄はいつの間にか無くなっていた。
「どこにあるの...?わたしが取ってくるから...!」
「えっと...たぶんずっと南に行ったところ...。アンリが私を降ろしてくれたところに置いてあるの...。私たちずっと北に全力で走ってたでしょ...?だから結構離れちゃってるかも...。」
あの時から...そうなると確かにかなり距離が開いてしまっているだろう。行くのにはそう時間が掛かるわけではないかもしれないが、そうなると...
「アンリは私のこと置いてっちゃうの...?」
「そんなことしないよ!!」
「ふふ...うん。だから一緒に、ね?」
スズネちゃんにはこのまま休んでいてほしいが、この状態で1人にするのは危険だ...。
「...うん。でも肩は貸さない」
「え、......わっ、アンリ......!?」
スズネちゃんを背負い上げる。
「また、背負ってくから捕まってて?」
「でも...!<壮烈>のオーラを2回も使った後でしょ...!そこまでしなくていいから...!」
「大丈夫。体はちゃんと動くから...それに――」
「――わたしもスズネちゃんのためなら頑張れるよ。」
「.........!........うん、そっか...。ごめんね......。ありがと.........。」
そこで会話は途切れ、わたしは南へ歩き出した......。
―――。
「あ、あれかな」
コウモリとの追いかけっこは思った以上に長い距離に及んでいたようで、歩いて戻ってくるのにかなり時間が掛かってしまった。
前方には僅かに差し込む月明かりが薄っすらと照らす中に少し大きめの影が2つ並んでいるのが見えている。
「スズネちゃん、見つけたよ。」
背中のスズネちゃんに声をかける......が返事がない。
「スズネちゃん?」
よく聞けば僅かに寝息が聞こえる。やっぱりかなり消耗していたようだ...。
でも、良かった。これで休んでもらえる...。
そのまま進み鞄へと辿り着き、近くの木にもたれ掛けさせるようにスズネちゃんを降ろした。
「ちょっとまっててね...。」
すぐに鞄の様子を確認する。
中に干し肉が入っていることもあり、動物に荒らされている可能性も考えたがその様子は無かった。
おそらく近くにいたとしても、先ほどまでの騒音を考えれば遠くに逃げてしまっているだろうから大丈夫だったのだろう。
鞄を開け寝床用の布を取り出す。
「よいしょ」
地面に敷いた布にスズネちゃんを横たえさせた。
これで安心かな...。わたしも......
「あれ...」
気づく。
スズネちゃんが寝てしまっているので、警戒用に"知覚"出来る枝を用意できない.....。
うぅ...スズネちゃんを起こしたくないし.....。
スズネちゃんの横に布を敷いてすぐに自分も寝ようと思っていたが、諦めよう。
スズネちゃんが起きるまでわたしが見張らないと...!
決意を固めてスズネちゃんのそばに座った。
「わたしが見てるから安心してね。」
呟くように声をかける。
視線の先のスズネちゃんは安らかな寝顔を見せており、痛みでうなされているということは無さそうだ。
こうして、夜が明けるまでわたしの長い夜は続いた......。




