#25「森の中」
旅立った日から3日が経った。
順調に川を辿っていき、今のわたしたちの周りには背の高い樹木が立ち並んでいる。
木々によって日光が遮られ薄暗い雰囲気になっているのは村の南にある森と同じだが、こちらは川が流れていることもあってか、しっとりとした澄んだ空気が流れていた。
そしてこの森に入ってから変わったことがある。
「あ、スズネちゃん!またあったよ!」
前方にある低い木の枝の先に赤黒いものがぽつぽつと生えている。そこへ走って近づき、枝からちぎった赤黒い木の実を口に入れる。
「甘酸っぱ〜!」
ぶつぶつとした表面の木の実は、口の中で潰れると強い酸味と確かな甘みを溢れさせた。
すごく美味しい。
「食べるのもいいけど、ここからも少しもらっていこ?」
「うん!」
この森に入ってから、時折このような木の実の生えた木が目に付くようになってきた。その度にわたしたちは、そこから木の実を採ってすぐに食べたり、持っていけるように袋に入れたりしている。
今もスズネちゃんが小さな袋を取り出して、わたしが実を入れられるように開いてくれていた。
ぷちっぷちっ......
10個ほど木の実を採ったところで袋に入れる。
あ、そうだ...!
「スズネちゃん!あーん!」
スズネちゃんは木の実を見つけた時は食べられるものか確認するためにも口にしていたが、それ以降は夜に休むときまであまり食べていなかった。特に摘みたては最初以外食べていなかったので、採ったばかりの木の実を口に運んであげる。
「えぇ...!?......えへ、あ、あーん......♡」
口に運んだ木の実は幾度かの咀嚼の後、スズネちゃんの喉を通った。
「美味しいよね〜」
「うん...そうだね...。......幸せ.........♡」
思ったより嬉しそうだ。良かった。
―――。
「今日もいっぱい進んだね〜」
辺りがすっかりと暗くなってきた頃、今日もわたしたちは焚き火をして焼き魚を食べている。
「うん。でもまだ森に入ったばかりだし、あと一週間くらいは歩かないと出られないはずだから頑張ろ。」
「うん!」
この森はずいぶんと広範囲に及ぶものらしく、抜けるのに一週間...つまり7日以上はかかると言われた。
とはいえ、未だ川で魚を獲ることは出来るし、今日だけでも袋いっぱいの木の実が手に入ったので食べるものに困る事はなさそうだ。
「そうだ、今日は思ったよりいっぱい採れたし、好きなだけ食べていいよ。」
そう言いながらスズネちゃんが袋いっぱいの木の実を差し出してくれる。
「やったー!」
昨日までは見つけられる数もあまり多くなかったので、採ってきたうちの数個ずつを食べていたが、今日は森が深くなってきたこともあってかいっぱい見つけることができたので食べる量を増やしてもらえた。
「あ、好きなだけって言ったけど半分くらいは残るようにね?明日からも採れるとは限らないから。」
「はーい。スズネちゃんも一緒に食べよ?」
「うん。」
焼き魚と木の実でお腹を満たし、今日も一日が終わりを迎えていった。
―――。
あれからさらに3日経った。
森を抜けられるのに一週間以上くらいということであれば、そろそろ半分くらいは進んでいるのだろうか。
森もさらに深くなり、木の実の付いた木を見つける機会も増えてきたのだが...
「うーん。ここも黒いのはあんまり無いね」
昨日辺りから黒く熟した木の実を見かけることが少なくなってきた。
「何度か見た動物が持っていっちゃってるのかもね。」
確かに動物を見かける機会も増えてきたし、木の実は枝からちぎられている跡もあるのでそうなのかもしれない。
「...でも、この木の実のちぎり跡......綺麗すぎるような...。」
スズネちゃんが呟く。
言われてみれば、動物が採っているのだとしたら細い枝などが折れていたり齧りかけの木の実が付いているものだが、ここにその様子はあまり見られず、どちらかというと丁寧に枝からちぎられている跡の方が多い。
昨日からなにか違和感を感じていたが、これのせいだったのかも。
「もしかしたら、わたしたちみたいに旅をしてる人が近くにいるのかな?」
「うーん。キャラバン以外じゃ人の通りは滅多にないって聞いてるけど......まあ、無くはないのかな...。」
少しスズネちゃんが考え込む。
ここから少し離れた位置には、イニティアから出た時に通った街道が続いているらしい。わたしたちは水と食料の確保を優先して川沿いを歩いているが、キャラバンは街道を使うらしいし、それ以外にも通る人がいても不思議ではない。とはいえそれも滅多にないことだとお父さんたちが言っていた。
「まあ、考えてても仕方ないか。採れる木の実が少なくなってきたのは残念だけど、先に進めばあるかもしれないし早く進もっか。」
「うん」
スズネちゃんに促され、さらに森の奥へ進む...。




