#21「ギルドにて」
「ついた〜〜〜...!ここが、商業ギルド『メルカート』!そのイニティア支部でーす!」
疲れ気味だったマーノさんが、それを感じさせない楽しげな雰囲気でこの建物を紹介してくれる。
商業ギルド『メルカート』...ここはイェソド大陸内の交易を担う場所で、この大陸の大きな街には必ず支部があるそうだ。ここに来るまでにマーノさんが教えてくれた。
「遠かったね〜。街ってこんなにおっきかったんだ...!」
アンリが感嘆の声を漏らす。
先ほどレストランで、あの美味しい鶏肉を食べてからすでに丸々2時間ほど経過している。
レストランを出てからは真っ直ぐここへ向かっていたのだが、街の広さと...アンリが何かに興味を示すたびにマーノさんが解説をしてくれる、というやりとりが多かったこともあり、おそらく倍近い時間が掛かっていた。
「じゃあ、早速入ろうか!...私も入るのは初めてだからちょっと緊張〜...!」
マーノさんに促されるまま、私達はメルカートの扉を開く。
――中は多くの人で賑わっていた。机に集まり談笑する人たち、掲示板の前で真剣そうな表情で話し合う人たち、受付と思われるカウンターで来訪者の対応や書類の整理をしている人たち......ここまで歩いてきた街の中も賑やかだったが、ここはなんというか、活気が溢れているという感じだった。
「ようこそ!メルカートイニティア支部へ!今日はどのようなご用件でしょうか?」
カウンターまで進むと女性が迎え入れてくれる。
「北門の通行許可をもらいたいんですが...」
緊張しているのか少し萎縮したマーノさんが答える。
「通行証の発行ですか?...失礼ですが、許可が必要なのはお三方でしょうか。もし他に対象者がいる場合は......」
「あ!いえ、許可が欲しいのはこっちの2人だけです!」
私達がここへ来た目的は、街の北門からの通行許可を得るためだ。イニティアでは街の北...つまり村が多く点在する南側の反対側への通行を厳しく管理している。
イニティア周辺は南から来る魔獣への対抗のために栄えてきた歴史があるが、北側は遥か遠くに聳える山脈へ至るまでの大部分が自然を残しており、魔獣の出現頻度が多いわけではないとはいえ人の助けが入りにくい環境で危険が大きいため、許可が必要とのことだった。
「お二人...のみですか?」
そんな危険が存在する場所への許可を欲しがっているのは、私達子供2人...受付の女性も少し困惑しているようだ。
「ダメ...なんですかね...?」
マーノさんが不安そうにし始めた。
...もし許可を貰えなかったとして、街の外側から北へ向かうということも出来るが、その場合、万が一にも長期間消息を確認できない状況になった際に捜索願いをギルドで受理してもらえない可能性が高くなる。そのため、私達の旅立ちの条件の一つとして街の許可は必須であるとお父さんに言われている。
それにお父さんは...
「もしかして、君達はプルウィア先生の娘さん達かな?」
受付の後ろから落ち着いた男性が現れた。
「あ...はい。私達はナデル・プルウィアの娘のスズネ・プルウィアとアンリ・クリムベルです。」
「そうか、君達が...。君、この方達の対応は私がするから奥の書類対応を頼むよ。」
「はい、わかりました。」
男性にそう言われた受付の女性は、男性と入れ替わるようにカウンターの奥へと向かっていた。
「さて、君たちのことはお父さんから聞いているよ。通行許可は問題なく発行させてもらうから安心してくれ。」
昨日、お父さんが通行許可の話をした時に事前に私達に許可を出してもらえるようお願いしていたそうだ。子供2人というだけでは問題があったようだが、お母さんのお墨付きを得ているという話をしたら納得してもらえたらしい。...お母さんの影響力はどこまで強いのだろう...?
「しかし、本当に二人だけで行くのかい?あのエリナさんに認めてもらっているということだけど、もしよければケントルアとの交易を行うキャラバンに随行するという手段もある。...もちろん随行料は頂いてしまうがね。」
その手段は、お父さんも話していた。しかしアンリは――
「ううん!大丈夫!早く行きたいから!」
とのことだった。
「ははは、そうかい。確かにキャラバンが次にここを出るのは早くても数週間後だ。待てないというなら仕方ないな。」
「うん!」
キャラバンへの随行自体はアンリも不服は無いようだったが、その機会が数週間後だと知ると一転して嫌がってしまった。それに加えて、それを承知していたお母さんが後押ししたこともあり私達は2人で街の北へ出ることになった。...お父さんは少し不安そうにしていたけれど、お母さんに説き伏せられ最後には折れてしまった。
私としてもキャラバンとの随行という安全な手段は魅力的ではあったが、街の北であの猪の様なサイズの魔獣が出ることはないし「あなた達なら大丈夫」というお母さんの言葉もあり、この決定に従うことになった。
...というかお母さんは私達くらいの歳の頃には単身で家を飛び出て、南からこのイェソド大陸まで渡ってきたという過去があることもあり、私たちに求めることが少々ワイルドすぎるところがあると思う......。
「よし、ではすぐに許可証を発行してこよう。許可証があればすぐにでも街から出られるようになるから、しばらく待っていてくれるかい?」
「はーい!」
「はい。」
こうして無事に許可証を発行してもらえることになった。
いよいよ、誰の助けも得られない2人だけの旅となるという事実に強い覚悟を決める――。




