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空架ケル虹の彼方 -Unlimited Longing-  作者: 山並萌緩
イェソド大陸-デシデ村

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19/85

#19「旅立ち」

村の北門には多くのひとが集まっていた。...多くというか、全員?

朝、目を覚ましてすぐに準備を済ませ、早速村を発とうと家を出たわたしとスズネちゃんを待っていたのは、北門の方に見える人だかりだった。

「みんな朝からあなた達を見送ろうと集まってたみたいね。」

一緒に出てきたお母さんが言う。

「アンリがお寝坊したせいで待たせちゃったかもね?」

隣のスズネちゃんもわたしに言葉をかける。ちょっといじわるだ。

「うぅ、だってー...」

「ははっ、仕方ないよ。昨日は夜遅くまで色んな話を聞かせてしまったからね。」

後から出てきたお父さんがわたしにフォローを入れてくれた。

確かに今日の朝のわたしは、いつもより起きるのが遅かった。

お父さんとお母さんの話は覚えることが多くて、とても頭が疲れてしまったせいもあるのだろう。昨日、スズネちゃんが寝かしつけてくれなかったらもっと起きるのが遅くなっていたかもしれない...。

そんなスズネちゃんは、わたしより早く起きていたのだけど。

「あ、そういえばスズネちゃん、朝何かしてたよね?」

ふと寝起きのことを思い出す。

いつもなら朝目を覚ました時に真っ先に目に入るのはスズネちゃんの顔だ。それは目を覚ましたのがどっちが先でも変わらないことが多い。

しかし、今朝目を覚ました時に目に入ったのは、部屋の机に向かい何かをしていたスズネちゃんだった。すでに着替えも済ませ、いつでも出られる姿をしていたスズネちゃんを見て、慌てて準備をし始めたのでそれを気にする余裕がなかった。

「ああ、あれは...これを作ってたの!」

スズネちゃんが差し出す右腕には......ミサンガ?

なんだか色に見覚えが......。

「昨日、切ったアンリの髪で編んだの!」

ああ、だから見覚えがあったんだ。

「え......。スズネ、あなた正気?」

「え?なんで?」

お母さんが引きつった顔でスズネちゃんを見ている。

「......あ、でもお父さんも昔似たようなこと...」

「ほら!みんな待ってるんだ!早く行ってあげよう!」

お母さんが何か言いかけていたが、遮るようにお父さんが声を上げた。

確かにみんなを待たせてしまっている。急がなきゃ!

そうして家族全員で北門へと向かった。


―――。

「お、アンリー!スズネー!」

こちらに向かい手を振りながらわたし達の名前を呼んでいるのは......ししょーだ!

「ししょー!」

スズネちゃん達より一足先にししょーの元に駆け寄る。周りには道場の子達もいた。

「てっきりもっと朝早くには出ていっちまうと思ってたが、寝坊か?」

「えへへ...。」

さすがししょー、鋭い。

「アンリおねーちゃん、おねぼうしたの?」

「アンリ、おねぼー!あはは!」

次々と口を開くリーネちゃんとユンくんに笑われてしまう。

「うぅ、寝坊はしちゃったけどぉー」

「アンリさん、一昨日は大変だって聞いてますし、きっと疲れが残ってたんですよ。」

ウロくんがわたしを庇ってくれる。

「お、そうだ。一昨日、すごい頑張ったんだってな?アンリも、スズネも!」

ししょーがわたしと、後ろの方にも声をかける。

いつの間にかスズネちゃん達がわたしに追いついていた。

「うん...。すごく大変だったけどね?」

一瞬、少し悲しげな表情を見せたスズネちゃんだったが、すぐに控えめな笑顔へと変わっていった。

......一昨日のことはうまく行くことばかりじゃなかったもんね......。

わたしも一昨日のことを思い出し、少し暗くなってしまう。が、それを掻き消すように――

「そうだぜ!一昨日見つけたあの魔獣、ここ最近じゃ全くお目に掛かれなかったサイズだったんだ!しかも、それを二人だけでやっちまうたぁ大したもんだ!はっはっはっ」

シーチおじさんが笑いながら話に入ってくる。

「いや、オッサン笑い事じゃないのよ。アンリぶっ倒れて意識なかったんだから。」

トトちゃんもやってきた。そうだ...

「トトちゃん!あの後わたしのこと看てくれたんだよね。ありがとう!」

「いやいや、それが私のお仕事だし。...もう体は大丈夫そ?」

「うん!」

「...ん。そりゃ良かった。」

トトちゃんがわたしの頭を撫でてくれた。

...そんなやりとりをしていると、いつの間にかわたし達の周りを村のみんなが取り囲んでいた。

みんな口々に声援や一昨日のことを讃える言葉を投げてくれる。

「ナデルさーん!エリナさーん!準備おっけーでーす!」

村のみんなを隔てた向こう側から大きな声が聞こえた。みんなが道を開けてくれた先にいたのは、荷馬車に乗ったマーノちゃんだ。

「悪いね、マーノ。今日で3日連続になってしまった。」

「いえいえ!気にしないでください、ナデルさん!私、街行くの大好きなので!」

マーノちゃんはお父さんが街へ行くときや狩った動物のお肉を売りに行く時などにいつも荷馬車を出してくれている。よく見れば今日も大量のお肉が...ん?

「私もお肉のことまで任せちゃってごめんね。」

「大丈夫です!任せてくださいエリナさん!」

やっぱり昨日のお肉だ。

「さ、アンリちゃんもスズネちゃんも乗って乗ってー!」

マーノちゃんがわたしたちを手招きする。

「え、いいの?」

「私が頼んだのよ。お肉のこともあったし、あなた達に街のこと案内してもらおうと思って。」

わたしの疑問にはお母さんから答えが出された。

「はい!街のことならこの村で一番詳しいので!」

マーノちゃんが胸を張っている。

「さ、それじゃ乗っちゃいなさい。」

お母さんに促され、スズネちゃんと荷馬車へ乗り込もうとする。

「ほらシイラ、2人とも行っちゃうぞ?」

「...わかってる......」

荷馬車へ足をかけたところで、カンくんとシイラちゃんのやりとりが耳に入る。

「......スズネもアンリも...が、頑張れよ...!」

「俺も応援してるからな!」

シイラちゃんは少し照れくさそうにしていたけど、2人もみんなのようにエールをくれた。

「さて、それじゃ最後の挨拶ね。」

荷馬車へ乗り込んだわたしとスズネちゃんの前にお母さんが立った。

「オホン。......スズネ・プルウィア、アンリ・クリムベル。あなた達はここから一歩踏み出せば、しばらくここへ帰ってくることはなくなります。――覚悟は出来てる?」

真剣な表情の問いに、

「「もちろん!」」

2人同時に答えた!

「うん!それじゃあいってらっしゃい!」

「「行ってきます!!」」

「――よーし、それじゃあイニティアに向けてしゅっぱーつ!」

マーノちゃんの声を合図に荷馬車が走り出す。お父さんやお母さん、村のみんなが大きな声で送り出してくれて、見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた――。

――こうしてわたしとスズネちゃんの旅が始まった!

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