#17「プレゼント」
「...さて、スズネは戻ってきてないけど、今日の本題に入りましょうか。」
わたしが、ゆっくりじっくりケーキを味わい、3つ目に手をつけようとしたところでお母さんが口を開いた。
「お父さん、お願い。」
「...ああ。」
......なんだろう?
「アンリ、実は今日はケーキだけじゃなくてもう一つプレゼントがあってね――」
「プレゼント!!」
思わず声が出る。――「プレゼント」その言葉の響きは、それだけでここまでのごちそうと同じくらい...いや、それ以上にわたしの胸を高鳴らせる。
「――うん。...ただ、プレゼントと言っても物じゃない。.........アンリに話があるんだ。」
......おはなし?
「どーいうこと?」
首を傾げる。プレゼントというので何かが貰えると期待してしまったが、どうやらそうではないらしい。
「そうだね。...順番に話すからしっかり聞いてくれ。」
「う、うん。」
先ほどまでの楽しいパーティとは打って変わり、お父さんの表情は真剣なものになっていた。
「まず、昨日のこと...アンリもスズネも...よく頑張った...!」
「...!」
昨日のこと...というと、森へ魔獣狩りをしに行ったことだろうか...。わたしが寝ている間にお母さんから話を聞いたのだろう。
「実は、アンリには話していなかったが、昨日のことは事前に決めていたことでね...。二人が組み手をしたことも、魔獣と...戦ったことも――予定通りのことだったんだ。」
「......え!?」
昨日のことが予定通り...?確かに昨日はいつもと違うことばかり起きていたけど...。――そういえば組み手の時、わたし以外はその予定を知っているようだった。
「もしかして、昨日のこともプレゼント......!?」
組み手、魔獣狩り。いずれも以前からわたしがやりたいと駄々をこねていたことだ。特に、危険なためたまにしか連れて行ってもらえない魔獣狩りはともかく、スズネちゃんとの組み手は定期的にやらせてとねだっていた。...だから、誕生日前日であった昨日、あれだけいつもと違うことが起きたのだろう。
「え、あはは...。そう捉えるか。」
「まあ、昨日のことはアンリにとって念願叶ったって感じだったでしょうからねえ。」
お父さんとお母さんが口々に反応する。...うーん?どうやら、プレゼントというのは昨日のことではないようだ。
「昨日のことはね、アンリとスズネに対する――試練だったの。」
「しれん?」
...確かに、わたし自身が望んだこととはいえ、昨日のことは楽しいことばかりでは無かった......。それが試練であったというのなら納得できるが...、今度は「何のために?」という疑問が浮かんでくる。
「ここからがプレゼントの話になるんだけど、昨日の試練、――組み手でスズネがアンリに勝つことと魔獣狩りで二人が私の手を借りずに無事帰ってくること、この二つを乗り越えられないようなら今回のプレゼントは無しになる予定だったの。」
......つまり、昨日の試練は今日のプレゼントのためのもの...?疑問が晴れるようで、無くならない。では、プレゼントというのはいったい...?
「......二人が相手にした魔獣が、予想より遥かに大きいものだったと聞いた時は肝を冷やしたけどね...。」
「でも倒したって言ったでしょ。...二人とも強い子よ。」
「...ああ。」
二人がそんなやりとりをする。
最初のお父さんの真剣な表情に始まり、今この場にはなんとも言えない緊張感が漂っていた。
「じゃあ、プレゼントについて伝えよう......。」
ゴクリ
重苦しささえ感じる空気の中、ついに疑問の答えが与えられる。
「アンリ、キミが夢見る世界......広い世界を見に行くことを――許そうと思う......!」
「ぇ......」
――お父さんはいま...?......世界?...広い世界を見に行っていいと......?
頭が言葉を理解してくると、大きく目蓋が開かれる感覚がある。開いた目蓋から覗かせる眼球が空気に触れる感覚は、見える世界を煌びやかに透き通らせるようだった。
「......ほ、ホントに!?!?!!??」
今日一番に大きい声が出る。今日はもうすでに嬉しいことがたくさんあったが......、最後にこんな...!!
「......ああ、本当のところ僕はまだ早いとも思っているんだけどね...。でも、お母さんとも話し合って決めた試練を、二人は乗り越えた...!だから、アンリ、キミが村を出て旅立つことを...許可しよう...!」
「―――っ!!!」
紛れもなく、正確に、「旅に出ていい」と告げられた......!
「やったーーーーーーー!!!!!!!」
家中に響く大声は、今日一番の声量をすぐに更新することとなった。




