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#13「空を見上げて」

――チョキン

静寂を切り裂くような鋭い音が耳に届く。

今、わたしは玄関から家を出てすぐの位置に生えている木、その陰に入る場所で椅子に座り、スズネちゃんに髪を切ってもらっている。

髪が服につかないように肩から布を羽織っているので、すこし窮屈だ。......それに。

「......」

スズネちゃんが何も喋ってくれない...。

最初にわたしの左側の髪を括り、右側に合わせるように切った後、「じゃあ、今から整えるね。」と、スズネちゃんが口にしてからこの場では一切の会話が発生していない。

......。

やっぱり、スズネちゃんにも思うところがあるんだろうか...。

昨日の猪との戦闘で失った髪――。それは、スズネちゃんが結ってくれたお団子であり、それを守ろうと勝手な行動をとってしまったわたし...、そしてその行動を咎めてくれたスズネちゃん......、その全てを思い起こさせるもので、少し気分が沈んでしまう。

昨日、わたしを咎めるスズネちゃんは泣いていた。そして今日、昨日のことを思い返していたわたしも泣いてしまった。そんな悲しい気持ちを象徴するかのようなわたしの髪が切られる事には、前を向く力をもらえるような、でも少し寂しいような......胸をチクリと刺されじんわりと熱くなる、そんな感覚を覚えた。

チョキン、チョキン、チョキン......。

未だ続く沈黙の中、耳に届き続けていたハサミの音が止まる。

後ろでスズネちゃんが左右に動く気配があるが、ただじっと沈黙を続けてしまう。

「――よし!できたよアンリ!」

沈黙を破ったのはスズネちゃんの元気な声だった。

ん?

「うん。我ながら完璧な出来――。最高にカワイイよアンリ♡」

あれれ、思ってた雰囲気と違う...。

嬉しそうなスズネちゃんに鏡を手渡され、流されるままに構えると、スズネちゃんが持っている鏡に映ったわたしの後ろ姿が見えた。

「わぁ...」

そこには、首元あたりで綺麗に切り揃った後ろ髪が映っており、右側も左側も跳ね上がったりするものが無く、整然としていた。

もしかして、静かだったのは――集中してたから?

スズネちゃんも悲しい気持ちになっていないか少し不安だったが、大丈夫だったみたいだ。

「ふふっ、ありがとう、スズネちゃん。」

「?うん、どういたしまして。」

いらない心配をしてしまっていたことについ笑ってしまったわたしを見て、少し不思議そうな顔をしたスズネちゃんだったが、すぐに笑顔を見せてくれた。

「それでアンリ、お母さんにはゆっくりしてなさいって言われたけど、今からどうしよっか?」

スズネちゃんに尋ねられる。

ゆっくり...、ゆっくりかあ...。

普段なら修練をしたり、畑仕事を手伝ったりしている時間だ。いざ、ゆっくりしろと言われると何をしたものか...。

そう考えながら、ふと上を見上げると()()()()が目に入った。

「じゃあ――」


―――。

立てかけられた梯子を伝い、屋根に登ったわたしたちは、空を見上げるように隣り合って寝転んだ。

「本当にここ好きだよね。」

「うん、風が気持ち良くて、――空が広く見えるから。」

視界には邪魔するものが何もなく、ただただ青い空が広がっていた。一つ残念なのは、太陽がすでに上りきろうとしており、虹がその姿を隠そうとしていることだ。

――沈黙。

またもわたしたちの間から言葉が消える。ただ、先ほど感じた少し息苦しい沈黙と違い、今度はただ心地良い風に身を任せ、温かさと優しさに溶け込んでいくような...そんな感覚があった。

「ねぇ、アンリ」

しばらくの沈黙の後、スズネちゃんが少し微睡んだような声で話し始める。

「...アンリは、どうして空が好きなの?」

――。

「......空を見てるとね、ワクワクしてくるんだ...。この広い空の向こう、あの虹が続く先には...きっとわたしの知らないものが、たくさんある...。そう思うとね、行ってみたいって気持ちが......溢れて来るんだ......あの、――空に架かる、虹の彼方に.........」

「......そっか。――うん、そうだよね――」

そこまで答えたところで、スズネちゃんの方へ視線を移す。その目に映ったのは――強い光の宿った...瞳――

あれ...なんだか、眠く......。

視界に映った瞳は、ゆっくりと閉じた目蓋で見えなくなっていった。

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