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#1「空架ケル虹の下で」

澄んだ快晴。

雲一つない広々とした空には、一筋の七色の光の帯が走っている。何処までも続く虹、地平線の果てまで真っ直ぐと架かる七色の光。あの光は、このまま太陽が昇りきる頃に一度去り、しばらくして戻って来たかと思うと陽が沈む頃には頭上に架かっている。そして、月が顔を出し、昇りきる頃にまた去っていき、朝を迎える頃には頭上へと帰ってくる。それを永遠に繰り返しているのがあの虹だ。

あの虹の、あの光の先には――

「何があるんだろう...」

空の虹を真紅の瞳に映し、呟く。きっとあの虹の先には見たことがない景色が広がっている。この小さな村では見ることのできない、きっととてもワクワクするものがいっぱい待っているに違いない。

「あ!アンリ、またこんなところにいた!」

いつものように家の屋根の上で寝転がっていたわたしを玄関から出てきた少女が見つける。

「そろそろ道場に行く時間だよ!準備するから早く降りておいでー!」

「はーい」

体を起こして屋根から飛び降りる。着地すると目の前には、肩まで伸びた艶やかな黒髪と空のように澄んだ深い青色をした瞳の少女、スズネちゃんの姿があった。

「もう、また朝から屋根なんか登って。しょうがないんだから。」

「だって朝の屋根は風が気持ちいんだよー?」

言葉とは裏腹に朗らかな笑みを見せるスズネちゃんに少しばかりの抗議を入れる。

「ほらほら、わかったから、朝ごはん食べて。その間に髪もやってあげるから。」

「はぁい」

わたしの抗議は華麗に流され、玄関を通りあっという間に朝食の席に着けられる。

「あれ、お父さんは?」

「今日は街の方まで行くからって、早く出たよ。もちろんお母さんはもう道場にいるはずだから私たちも遅れないようにしないと。」

さっそく用意された朝食に手をつけながら問いかけるわたしに、背中まである赤みがかった茶髪を結いながらスズネちゃんが答える。

わたしは小さい頃に拾われたらしいのだが、そんなわたしを育ててくれているのがスズネちゃんのお父さんとお母さんだ。

お父さんは、この村では珍しい学者をしていた人で、今はこの村や周辺の村、少し遠くにある街までいろんなところの子供たちに勉学を教える先生をやっている。

勉強は難しいけどお父さんの話はいつも楽しい。

それから、お母さんは剣の達人で村の道場で武術を教えてくれる先生の1人であり、スズネちゃんのお母さん兼師匠だ。そして、料理の達人でもある。

今日の朝食のメニューは、ベーコントマトエッグのサンドイッチと搾りたて果汁のアップルジュース。肉の旨みとトマトの酸味がパンの甘味に包まれ、食べ進めると半熟の黄身から濃厚なまろやかさが溢れて――。

「おいひぃ」

サンドイッチを飲み込むや否や次は、アップルジュースに手を伸ばした。毎朝、お母さんが庭で採ったりんごを絞って作ってくれている。素手で潰して。

「んっんっんっ...っはぁ〜」

パンで水分を奪われ、肉の油や卵の黄身でこってりとした口の中をりんごの果汁が洗い流す。酸味がありながらもとろけるような強い甘味が舌を滑り喉を潤した。

やっぱり、お母さんのサンドイッチとうちのりんごは絶品!

「幸せそうな顔しちゃて...カワイイんだから...。はい!できたよ、今日は三つ編みツインお団子!」

絶品サンドイッチを食べ終わる頃には、スズネちゃんがわたしの髪を結い終えていた。振り返るわたしに向けてくれた鏡には、左右に三つ編みにした髪をクルクルと巻いたお団子が頭の上にちょこんと二つ、まるで羊の角みたいな髪型が映っていた。

「わあ、今日もすごい!かわいい!」

「ふふ、そうね、アンリはカワイイね♡......ふふふ、ホントカワイイ...、いやもう天使...?うふふ...」

スズネちゃんは、優しくて頼りになるお姉ちゃんのような存在だ。たまに、わたしを見つめてぼそぼそと何かを呟きながら上の空の様になっている事があるが、そういう時は大体嬉しそうなのでなんだかわたしも嬉しくなる。

「...ふふっ、アンリカワイイ...私の天使........。......はっ!いけない、もうそろそろ時間危ないかも!アンリ出る準備して!」

「あ、うん!わかった!」

スズネちゃんに釣られてニコニコしていたら、いつの間にか時間が経っていたようだ。我に返ったスズネちゃんに言われるがまま、部屋に戻って着替える。

「お着替えかんりょー!」

半袖半ズボンの寝巻きの上から、動きやすい朱色の上衣と深い紺色の袴に袖を通し、黒の帯できっちりと締めたら準備万端。

朝からしっかり着替えていたスズネちゃんの方は、淡い空色の上衣にわたしと同じ色の袴と帯に身を包んでいる。お母さんお手製のお揃い道着だ。

「ほら、アンリ急ぐよ!」

着替え終わり玄関に出てきたわたしの手をスズネちゃんが引く。

「うん!」

こうして、慌ただしい朝を置き去りに2人で駆け出していった。


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