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四十話

ーーーー1時間後ーーーー


「アイシクルエッジ!」


 叫んだフィオの頭上に四本の、鋭利な″氷の杭″のようなものが現れる。


「……おお。相変わらず便利だなぁ、氷魔法」


「ふふっ、どうですか? ちゃんと固定できてます?」


「できてるよ。それこそ風どころか台風が来ても飛びそうにないくらいガチガチにな」


 そしてそれをひょひょいっ、と。ブルーシートの四角に予め開いていた穴それぞれに刺し込むと、地面に張り付けるようにして完全に固定したのだった。


「……ふぅ。にしてもやっと腰を下ろせたな。流石に疲れたわ」


「えへへ、お疲れ様でした。カイト様のおかげでいつもよりだいぶ早く終わった気がします」


「本当かぁ? 俺あんまり役に立ってなかった気がするけどな……」


「そ、そんなことないですよぉ!」


 籠いっぱいに詰まった果実を横目に。俺は苦笑した。


 一時間前……この場所でお昼ごはんを食べることを決め、同時に先に全ての採取を終わらせようと決意して。


 俺たちが回った採取スポットは、全部で四つ。


(にしても、やっぱり本当に元いた世界と同じ果物や野菜が成ってたな。んでどれもこれも美味そうだ……)


 それで採取できたのは「桃」、「みかん」、「ぶどう」、「バナナ」、「トマト」、「キャベツ」の六種類だ。


 相変わらず、どれもこれも日本にいた頃食べていたものよりも圧倒的にビジュアルが綺麗だったり、瑞々しかったり。ただでさえ腹が減っていたので見ているだけで涎が出そうな品質のものばかりである。


 ……まあ、そのどれも。今食べることはできない状況なんだけれども。


「ふふっ。大変でしたけど……楽しかったですね」


「まあ、な。……あと俺は、今日のでより氷魔法が使えるようになりたいと思ったよ」


「! ほ、ほんとですか!?」


「そりゃああんなに汎用性を見せられまくったらな。あとやっぱりかっこいいし」


 この一時間に限らないことだが。フィオの見せる氷魔法は、やはりとても魅力的だった。


 まあまずなんと言っても汎用性が高過ぎる。これは氷魔法がというより、もしかしたら単にフィオの練度が高過ぎるだけなのかもしれないが。


 家の中に冷凍庫を作れたり、高い所に手が届かない時氷で土台を作れたり。あとはさっきみたいに氷の杭を飛ばしたり、この籠の中の果物や野菜にしたように表面だけを凍らせて食べ物の品質を守ったり。


 氷で様々なものを自由に造形し、意のままに操る。そんなの、男として憧れないはずもない。


「カイト様がもし、氷魔法を使えたら……」


「生活の水準上がるだろ。あとなんと言ってもやっぱりかっこいい!」


「! そ、そうですね……」


 ……ん? あれ。


 なんかこう、想像してた反応と違うんだが。「きっとカイト様なら似合います! かっこいいです!!」みたいな……黄色い声援を飛ばしてくれるのかと思ったのに。


 なぜ目を逸らす? しかも、甘い息を吐きながら……


「こ、氷の手錠……氷の、首輪……氷の礫で、お腹をボコボコ……お、お漏らししてもやめて、くれない……」


「…….…」


 おっと、そうだった。


 コイツーーーードMのド変態だったっけな。


「た、楽しみでしゅ……ぁあんっ♡」


「はいはい。この話終わりな。ごはんの用意するぞー」


 全く。どうしてコイツはこう……


 何度も俺にそんな性癖は無いと伝えているだろうに。言っとくけど仮に氷魔法が使えるようになったとしても絶対そんなド変態プレイには使わないからな??


 口で言っても無駄なのは分かっているので、心の中でツッコみつつ。一人で身悶えしているその姿を横目にバスケットを開ける。


「……はっ! いい匂い!」


 取り出したのは三段式の大きなランチボックスと、それから二人分のお味噌汁が入った保温水筒、使い捨ての紙コップとお皿、スプーンやフォークなどの諸々が入ったランチセットたち。


 バスケットに入れていた時は気にならなかったが……いざ取り出してみると、そのどちらからもとてもいい匂いがしてくる。それこそ妄想の世界に入門してしまったフィオを一瞬で現実に引き戻せるほど、魅力的な匂いだ。


「ごはん! ごはんの時間ですね!?」


「そうですよ。もう腹ペコペコだろ?」


「はい、 ペコペコのペッコンペッコンです!!」


「なんじゃそりゃ」


 たちまち、フィオの目は光り輝いて。まるで餌を待つ雛のように、今か今かと俺がランチボックスを開けるのを待っている。


 全く。さっきのド変態モードはどこへやら。まあそれだけ俺の作るお弁当に期待してくれているということだろうから、正直悪い気はしないけれども。


 それに、このお弁当は俺の自信作だ。


 森にお出かけしてピクニックをすると聞き、お弁当を作ると決めた時。俺はどうせならとびきり美味いので喜ばせてやろうと決意した。


 俺はフィオにとっての料理の師匠。そこから来るプライドのようなものがあったのはもちろんだけれど……それ以上に。


 とにかく、彼女に喜んでもらいたかったのだ。


 フィオはいつも、俺の作る料理をそれはそれは美味しそうに頬張ってくれる。美味しそうに、そして嬉しそうに。


 そしていつしか、そんな彼女の姿を見るのが俺にとっての日常になって。……幸せを感じることになっていて。


「じゃ、開けるぞ」


「……ごくりっ!」


 だからこの力作を前にした時、一体フィオはどんな顔を見せてくれるのか。



 とても、楽しみだ。

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