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三十七話

 そして、時は現在へ。


「アイシクルソード!!」


「おぉ……! おおっ!」


 フィオの手のひらから発せられた冷気が空気を凍らせ、剣を形作っていく。


 以前初めての魔法講習の際にこれを見せられた時はフィオが張り切りすぎてしまったこともあり、その重さに押し潰されるというなんとも情けない結末を迎えたわけだが。


 今日は違う。


 色や形こそ同じなものの、その重量は彼女の華奢な腕でも充分に扱える程度なようで。


 ひゅいんっ! ひゅいんひゅいんっ! と。軽々と振られた剣が空を切る。


「かっけぇ!!」


「むふんっ。そうでしょうそうでしょう」


「″あの″フィオとは思えないくらい様になってるな!」


「ぬぐっ。なにか喜ぶに喜びづらい褒められ方なんですが……。ま、まあいいでしょう」


 いや、ほんと。びっくりするくらい男心をくすぐられるかっこよさだった。


 やはり異世界ヒロインが剣を持つという姿はなんとも乙なものだ。魔法の杖なんかもいいものだが、それでも男心を根っから一番に刺激してくるのは、結局のところ一本の剣なのだと再認識させられた。


 よし決めた。俺も魔法が使えるようになったら絶対剣を帯刀しようっと。炎の剣に水の剣、雷の剣、氷の剣……岩で物理的にかっこよく仕上げた剣を良いし、風で刀身の見えない初期のエク○カ○バーを再現するのも最高だ。治癒属性だった時はまあ……諦めるしかなさそうだが。


 なんて、ニヤニヤしながら妄想を膨らませていると。フィオは続いて「鞘」を作り、刀身をそこに収納した。コイツ、ロマンを分かってるじゃあないか……。


 だが、感心したのも束の間。彼女はてっきりそれを腰に刺すのかと思いきや……俺の前に差し出してきて、言う。


「はい、どうぞ。これはカイト様の分です」


「……え?」


 ゾクッ。身体中を興奮信号が走る。


「俺の、分?」


「ええ。カイト様は魔法がまだ使えませんから。自衛の手段としてこれを持っていてください。あ、氷で出来てますけどちゃんと耐熱効果の付与はしてありますから。火にでも焚べない限り今日一日は充分に保つと思います♡」


「お、お前ッ! ……いや、先生ェッ!!」


「ふふっ、礼には及びません。ささ、ぜひ手に持って。試しに振ってみてください?」


「おお! おうとも!!」


 無意識のうちに、まるでおもちゃを買い与えられた子供のように無邪気で、それでいて光り輝いている瞳を向けながら。そう答えた俺は、差し出されている剣ーーーーアイシクルソードを手に取る。


 氷で出来ているはずのそれは、思っていたより冷たくはない。少しひんやりしている程度だ。


 そして驚くほどーーーー軽い。


 前にフィオの手を押し潰すほどの質量で全く同じものが顕現する場面に立ち会ったから無意識に比べてしまっているのかとも思うが、それにしてもだ。


 剣としてのサイズはまさにエク○カ○バー。それでいながら、軽さで言えばほうきと同等レベル。本当にこれでモンスターと戦えるのかと少しだけ不安になる。


 が、間も無くして。その不安は全くの杞憂であったと思い知らされることとなる。


「スゥー……」


「わぁっ! 見事な一刀両断ですね! かっこいいですよカイト様!」


 ひゅぃんっーーーー。


 その場で何度か素振りをした後。つい試し斬りをしたくなって、そこら辺に落ちていた膝下ほどまであるそこそこの大きさの石に向かって刀身を振り下ろしてみた。


 すると気づいた時にはもう、まさに読んで字の如く空を切ってその石に触れた切先が、一切の抵抗や詰まり無く石を切り裂いていて。


 そこにはただ、それはそれは美しい断面で二つに切断された石と、その下にまで斬撃が到達したことによって抉れた地面があるだけだった。


「どうでしたか、カイト様。振り心地の方は♡」


「……サイコウ、ダヨ」


「えへへ、よかったです! ここら辺の雑魚モンスターならそれで充分戦えると思いますから! もしもの時は……その切先を、迷わずモンスターの首に振り下ろしてくださいね♡」


「ひ、ひゃひっ……(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)」


 フィオは言っていた。この辺はあの家の持ち主であるステラさんによってある程度整備されており、強いモンスターはほとんど彼女が″斬った″のでもういないと。いるのはせいぜい、何種類かの雑魚に近い種くらいだと。


 そして俺は、それでも願わくは出会いたくないものだと思った。隣にフィオがいてくれることもあり安全はほぼ担保されたようなものだが、やはり遭遇しなくて済むならそれに越したことはない。それに魔法初心者の俺から見ても明らかに″強い″彼女が言う雑魚が、俺にとっての雑魚とも限らないからと。


 その気持ちは変わらない。やはりモンスターとは出会いたくないものだ。


 だが、理由は変わってしまった。


 今俺の中にあるのは、全く別の恐怖。


(こ、こんなのを首に……って……)


 頼む。本当に頼むお願いだ。


 モンスターさん。俺の前に出てこないでください。


「さて、装備も整ったところで。いざ行きましょう!」



 絶対、R18Gになるから……ッ!!

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