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後編

━学年末試験後。


試験結果が張り出された場所に2人は並んで佇んでいた。


1人はショックを受け、もう1人は歓喜が表情に出ていた。


最後の賭けに勝ったヴィルジールは嬉しさをぐっと抑えてから、隣でショックを受けていたマリアンヌに声を掛けた。


「マリアンヌ。俺の勝ちだ。」


「‥‥‥見れば分かりますわ。嫌味ですの?‥‥ああ、そうですわね、お願いですわよね?─なんですの?」


若干やさぐれ気味のマリアンヌが自棄になりつつ問うが、気にする余裕のないヴィルジールはいつも通りを心掛けつつ返した。


「ここでは話せないから、放課後の時間をくれるか?」


「え?‥‥はい、もちろんですわ?」


マリアンヌは『ここでは話せないって何をお願いされるのかしら‥‥?』と若干不安に思うものの、これまで無茶なお願いをされたことがないので、特に疑うこともなく、とりあえず頷いた。


━放課後。


ヴィルジールは城の庭園にマリアンヌを連れて来ていた。


そして、四阿の側で立ち止まったかと思うと、緊張しながらマリアンヌに振り返った。


「マリアンヌ。試験で勝ったことでのお願いなんだが‥‥」


「‥‥はい。」


(緊張されていらっしゃる‥‥?そんなに躊躇うことって本当に何かしら‥‥?)


そう思いつつ、ヴィルジールの言葉の続きを待った。


そして、意を決してヴィルジールがついに━


「マリアンヌ。俺の婚約者になってくれ!」


広がる無言。


ヴィルジールが恐る恐るマリアンヌを見ると、目を見開いて固まっていた。


学園では既に令嬢の模範たるべき公爵令嬢の地位に相応しい完璧な淑女と謳われている、あのマリアンヌがだ。


ヴィルジールが何か言うべきかと思案し始めたところで、マリアンヌが復活した。


「‥‥殿下、今なんと‥‥?」


「だから、俺の婚約者になってくれと。」


一度言ってしまえば、二度目はするっと言えてしまえる不思議。


「わ、わたくし‥‥が、で、殿下、の、こ、婚約者‥に‥‥?」


しどろもどろになるマリアンヌが面白かったが、今笑ったらそれこそ後悔する未来しか浮かばない。とぐっと堪えたヴィルジールはマリアンヌの両手をそっと取り、眼を合わせて言葉を紡いだ。


「ああ。‥‥今までずっと恥ずかしくて言えなかったが、初対面からマリアンヌは可愛くて‥‥10歳の時のお茶会も、更に可愛くなっていたマリアンヌに戸惑いもあって、幼い頃の様にマリィと呼べなかったんだ。‥‥改めてあの時はごめん。半分は八つ当たりで氷魔法をぶつけてしまった。」


「え!?‥‥え?‥‥えっと、あの‥‥‥って八つ当たり?」


初めて聞く事実に戸惑っていたマリアンヌだが、聞き捨てならない言葉に反応した。


「ああ。‥‥マリアンヌは俺がいなくても楽しそうだったから苛立ってしまった。」


「‥っ!‥‥ふふっ‥‥」


吹き出したマリアンヌにきょとんとするヴィルジール。

マリアンヌは笑顔のまま━


「わたくし、楽しそうに見えました?」


「え?‥あ、ああ。─違ったのか?」


「ええ。─あの時、わたくしは複数の令嬢や令息と一緒にいましたでしょ?」


「ああ。」


「わたくし、ずっと聞き役でしたの。皆様、お茶会に何しに来たの?と伺いたくなる程、殿下には目もくれずで。─もちろん、殿下と挨拶や軽くお話した後の方々ですわよ?─その方々はどうやら、ご自身の婚約者探しも兼ねていたようでして。話しが合った方々が集まる場所に何故かわたくしまで呼ばれてしまいまして。盛り上がっていらっしゃる皆様の様子を見ていただけでしたの。でも、たまに話を振られるので、勝手に去ることもできずにどうしようかと思っていたぐらいですわ。現にあのお茶会後、一緒にいた令嬢と令息で何組か婚約してらっしゃいますわ。」


「え!?」


「ふふっ。‥確かに氷は痛かったですが、帰るきっかけになりましたので、殿下には感謝してもいたのです。」


「そうなのか‥‥?」


「はい。‥‥ですが、八つ当たりだったとは‥‥」


「うっ‥‥理不尽だよな‥‥」


「‥‥謝って頂きましたし、もういいですわ。」


「ありがとうございます‥‥」


「ふふっ。‥‥それで、殿下?わたくしは今でも殿下には魅力的に映ってますか?」


「!! もちろんだ。‥‥マリィ。今では可愛くもあるが、綺麗だと思うこともある。‥‥俺にはマリィしか考えられないから‥‥誰にも取られたくなくて、父上と公爵を説得して俺達の婚約者を決めないでもらっていたんだ。」


「え!?‥‥それでずっと公爵令嬢であるにも関わらず、婚約者がいないのにお見合いする気配もなかったのですね‥‥」


マリアンヌは正直、久しぶりの『マリィ』呼びに反応したかったが、またもや衝撃の事実を知ってそちらに思考が移ってしまった。


「ああ。‥‥それで、その、返事を聞いてもいいだろうか‥‥?」


「!‥‥殿下、もう一度仰って頂けますか?」


「お、おう。」


と返事したものの、またも深呼吸の後に。


「‥‥改めて、マリィ。俺の婚約者になってくれないか?」


若干、言葉は変わったものの、緊張を滲ませながら本当にもう一度告げたヴィルジール。

それに今度は嬉しそうな笑顔を浮かべてマリアンヌは答えた。


「はい。喜んで。─わたくしをあなたの婚約者にしてくださいませ。‥‥ヴィル様。」


「!!!‥‥‥いいのか?」


「はい。」


「あ‥‥ありがとう‥‥!って、今、ヴィルって‥‥」


「駄目でした‥‥?」


「駄目じゃない!!‥‥これからは婚約者として堂々とヴィルと呼んでくれ。」


「え?‥ですが、まだわたくし達の口約束です。陛下とお父様からの許可がないと‥‥」


「マリィ。さっき、俺なんて言った?」


「え?‥‥‥‥‥あ!」


「分かった?─父上も公爵も、マリィがいいならいいよ。と仰ってくださってる。マリィの了承なしに婚約者にはしないとな。だから」


「わたくしが頷いたので、すぐに婚約が纏まる筈‥‥と?」


「そういうこと。─これからマリィは王太子妃教育も受けて貰うことになるが‥‥」


「ええ。頑張りますわ。」


「!!─本当にありがとう、マリィ。」


「ふふっ。」


「その、突然だが、我儘言っていいか?」


「なんでしょうか?」


「マリィを抱き締めたいな‥‥と。」


「あら。‥ふふっ。どうぞ?」


「いいのか!?」


「ええ。」


すると嬉しそうにマリアンヌを抱き締めたヴィルジールはしみじみと呟いた。


「やっと‥‥やっとだ‥‥マリィ、ずっと好きだったんだ。‥‥やっと囲い込めた‥‥」


「あら。‥‥ふふっ。捕まってしまいましたわ。」


「‥‥‥なあ、マリィ。」


「はい?」


「マリィは?俺のこと、どう思ってた?」


「ふふっ。‥‥‥わたくしは最近気付きましたの。ヴィル様をお慕いしていたのだと。」


「え?最近?」


「と言っても夏季休暇明けぐらいですわよ?」


「え?‥‥自覚する切っ掛けが謎なんだが‥‥」


「ヴィル様にはそうでしょうね。‥‥領地でずっと一緒にいましたでしょ?夏季休暇が終わらなければいいのに‥‥来年は一緒に過ごせないのかな‥‥と考えて、それを寂しく思ってましたの。」


「!!‥‥それは俺もだよ。‥‥せめて婚約者だったら、公爵領に行かずに一緒にいてくれって言えるのにな‥と。」


「‥‥そうでしたの。─ふふっ。では来年、仰ってくださいますの?」


「!!‥‥言うだろうな。」


「是非、遠慮せず仰ってくださいませね。わたくしも嬉しいですから。」


「!‥‥ああ。これからはなるべく話す様にしような、マリィ。俺も例え恥ずかしくても素直に言う様にするから。」


「はい。仰せのままに、ヴィル様。」


その後、満足したヴィルジールがマリアンヌを離すと、そのまま国王の執務室に2人で突撃した。


そして、ヴィルジールからマリアンヌが婚約に了承したと伝えると、国王はマリアンヌに視線を移すと━


「マリアンヌよ。本当にこの言葉足らずの愚息でいいのか?」


「‥‥父上、酷いです‥‥」


そのやり取りに苦笑いを浮かべたマリアンヌだが、すぐに笑顔で答えた。


「はい。殿下はこれからはなるべく言葉を尽くすとお約束くださいましたから。─殿下はこれまで嘘を吐いたことはございませんから、信用できますわ。─陛下。わたくしこそ、殿下に相応しくあれるよう、努力させて頂きます。なので、わたくしに殿下の婚約者として隣にいる権利をくださいませんか?」


「「!!」」


「ふむ‥‥ヴィルジール。ちゃんとマリアンヌの心を掴めていた様だな。」


「はい。‥‥それで、父上‥‥」


「ああ。公爵と話そう。─マリアンヌ。公爵邸に帰ったら、先に公爵に伝えておいてくれるか?」


「! はい。もちろんですわ。」


「よし。‥‥まあ、マリアンヌがいいなら、すぐに婚約は纏まるだろう。─よかったな、ヴィルジール。」


「はい。ありがとうございます、父上。」


「マリアンヌ。親としてだ。─ヴィルジールを受け入れてくれて、ありがとな。」


「!!‥‥勿体なきお言葉にございます、陛下。」


3人共、笑顔で終わった話の後、予想通り2人の婚約はすぐに纏まった。


*****


━時は流れて、ヴィルジールとマリアンヌが卒業の年。


「え!?‥‥な、何故ですの!?」


「やった!!最後、マリアンヌに勝った!!」


卒業前、最後の定期試験の結果を確認した2人。


━そう。2人は婚約しても尚、対決を続けていた。


婚約後2年に上がり、揃って生徒会にスカウトされて入った2人は、後にヴィルジールが会長に、マリアンヌが副会長になったが、2人は先日後継に引継ぎを終えたその日まで、その才覚を遺憾無く発揮し続けた。

ヴィルジールは王太子として公務や執務も熟しつつ。マリアンヌも王太子妃教育を受けつつだ。

それでも、2人共学園での成績を落とすことなく、ずっと首席の座を争っていた。


正しく、他の生徒達の模範となる様な生徒であり続けた。‥‥お互いに対する態度以外。


そして、試験で負けたマリアンヌは愕然とし、勝ったヴィルジールは歓喜を隠そうともせず、声に出していた。


「ヴィル様ぁ~?」


涙目で睨むマリアンヌを見て、青褪めるどころか『可愛い』と思っているヴィルジールは笑顔のまま━


「なんだ?」


「っ!〜〜あぁ!もう!笑顔なのが余計腹立ちますわね!」


「マリィ、睨んでも可愛いだけだよ?─結果はこれから変わることはないんだから、受け入れような?」


「っ!‥‥勝ったからってぇ‥‥」


「勝ったからな。─ねぇ、マリィ。お願い、聞いてくれるよな?」


「‥‥‥‥なんですの?」


マリアンヌは苛ついたままだったが、負けたのは事実なので、仕方なく問い掛けた。


すると、ヴィルジールはにっこりと笑顔を浮かべてマリアンヌの手をとった。


「え?」


「ちょっと移動するぞ、マリィ。」


再び「え?」と戸惑うマリアンヌの手を握ったヴィルジールはそのまま歩き始めた。


「‥‥え!?ちょ、ヴィル様!?」


ということで、必然的に連れ出されるマリアンヌ。


そうして、2人が来たのは学園内の庭園だった。


━ここは生徒達の憩いの場。

四阿やベンチもあることから、昼食を食べたり、休み時間に友人や婚約者と話したりなどによく使われていた場所。


だが、今は誰もいなかった。

今日は定期試験の結果を確認するためだけに来ただけなので、大半の生徒達が帰路についている。━


そして、ヴィルジールは庭園の奥の高位貴族や王家の者しか入ることを許されていない、温室までマリアンヌを連れて来た。


そうして、温室の奥まで来たところで、漸くヴィルジールは足を止めた。


ここまで無言だった2人。


ヴィルジールはマリアンヌの手をとったまま、振り返り、その場に跪いた。


「ヴィル様!?制服が汚れてしまいますわ!─それに、王太子ともあろうお方が」


それに驚いて声を上げたマリアンヌの言葉をヴィルジールは遮った。


「マリィ。─いいから、聞いて?」


「っ!‥‥はい。」


有無を云わせぬ圧を初めて感じたマリアンヌは黙った。


「マリィ。─いえ、マリアンヌ・レスピナス嬢。私、ロートレック王国王太子、ヴィルジール・ロートレックはマリアンヌ嬢を初対面の時からずっとお慕いしております。」


「!!!」


「マリアンヌ嬢。─私の至らなさ故に2年に上がる前に漸く気持ちを伝えることができ、婚約者になって頂けたこと、本当に嬉しく思います。もうすぐ卒業で、その後すぐに婚姻を結ぶ準備に入る予定にはなっておりますが、改めて言わせてください。─マリアンヌ嬢。私と婚姻を結び、妃となってください。」


「!!!‥‥‥お答えしてもよろしいでしょうか?」


「是非お聞かせください。」


「‥‥‥」


マリアンヌは感極まって眼に涙を溜めたままではあるが、ヴィルジールに笑顔を向けた。


「王太子殿下。‥‥まさか、改めて仰って頂けるとは思っておらず‥‥少々お待ち頂けますか?」


「もちろんです。」


そう言ってヴィルジールは立ち上がり、ハンカチでマリアンヌが流した涙を拭い、目尻に残った涙も丁寧に拭った。


「ありがとう‥ございます。」


「ゆっくりでいい。」


「‥‥はい。」


この会話の間も涙は止まらず。

ヴィルジールはマリアンヌの涙をひたすら丁寧に拭い続けた。


数分後。


漸く落ち着いたマリアンヌは眼が赤くなっていたものの、改めてヴィルジールに笑顔でお礼を告げた。

それにヴィルジールも安心した様に表情を綻ばせた。


そして━


「王太子殿下。─改めて、お返事させて頂きますわ。」


「はい。」


ヴィルジールは緊張が戻ってきた。


婚約者として2年。幼馴染としては13年共に過ごしてきた。

だから、マリアンヌの答えは分かっているつもりだが、やはり一抹の不安はある。


なので、自然とマリアンヌの両手をそっと取り、視線を合わせて続く言葉を待った。


「わたくし達が出会ってから、もう13年も経ちましたわ。」


「はい。」


「幼馴染としてずっと側にいたからこそ、なかなか気持ちの変化に気付くことができず、わたくしこそ申し訳なく思います。」


「そんなことない。」


「ふふっ。‥‥殿下。殿下は本当にお優しい方ですわね。」


「え?」


「殿下の優しさに甘え続けてしまい、婚約者にと望んでくださったその時まで焦らせてしまい申し訳ありません。」


「いいんだ。それは私の自業自得だから。」


「いいえ。殿下だけのせいではありません。‥‥わたくしも言葉足らずでしたわ。‥‥あの時の殿下のお言葉で実感しましたの。─そして、今も。」


「え?」


「殿下。わたくしも改めて申し上げますわ。─わたくし、マリアンヌ・レスピナスは、王太子ヴィルジール・ロートレック殿下を心よりお慕い申し上げております。殿下がわたくしを妃にと望んで頂けること、心より嬉しく思います。ですから‥‥」


「マリィ‥‥」


最後、再び涙が溢れてきたマリアンヌにヴィルジールはすかさずハンカチで涙を拭った。


「ありがとう‥ございます、殿下。あと、一言‥です。」


「ああ。─ちゃんと聞きたいから、頑張ってマリィ。」


「はい。」


涙を溜めたまま笑顔を浮かべたマリアンヌは、その涙を拭ってくれたヴィルジールの手をとってゆっくり息を吐き、そして━


「王太子殿下。わたくしは喜んで殿下の妃になりますわ。」


満面の笑顔でそう告げたマリアンヌ。

今度はヴィルジールが感極まって涙する番だった。


「っ!‥‥ありがとう‥‥マリィ‥‥」


「ふふっ。─あらあら、今度は殿下の番ですの?」


「嬉しくて‥‥それに、今のマリィの笑顔がめちゃくちゃ可愛くて‥‥」


「え?‥‥ヴィル様。」


「ん?」


「ふふっ。わたくし達、似た者同士ですわね。」


「だな。‥‥泣くつもりなかったのに‥‥」


「わたくしもですわ。‥‥あ、一応申し上げますが、全部嬉し涙ですわよ?」


「それは俺もだよ。」


2人して嬉し涙を流すことになったが‥‥


少しして、漸く2人共落ち着いたところで━


ヴィルジールは制服のポケットから、小さな箱を取り出した。

それをマリアンヌの手に載せて━


「?─ヴィル様、これは?」


「開けてみて。」


「え?今、開けていいのですか?」


「うん。むしろ開けてほしい。」


「??‥‥分かりましたわ。」


そして、丁寧に包装紙を捲り、箱から更にケースを取り出したマリアンヌの手からヴィルジールが箱と包装紙を取った。

『ケースを開け易い様に』という意図に気付いたマリアンヌはそのことを特に指摘せず、ケースを開けて━固まった。


「殿下‥‥これ‥‥」


ケースの中の台座にあったのは指輪。

それもヴィルジールの瞳の色を思わせるエメラルドが一粒埋め込まれている。


ヴィルジールはマリアンヌに笑顔を向けたあと、台座から指輪を取り出し、マリアンヌの左手をとって、その薬指に嵌めた。


それをまじまじと見た後、マリアンヌがヴィルジールを見上げると、ヴィルジールは再び笑顔を浮かべた。


「婚約指輪だよ、マリィ。」


「!!!」


「学園内では指輪は禁止だっただろ?」


「はい。」


「それに例外があるのは知ってるか?」


「え?」


数秒後。


「あ。」


「思い出した?─3年の最後の試験以降は卒業式まで、登校日にしか学園に来ないだろ?だから、その間からは指輪を嵌めることも許されるんだ。」


これは学園卒業後、すぐに婚姻を結ぶ者が多いためだ。

貴族は特にその傾向にあるし、ヴィルジールとマリアンヌの様に相思相愛で婚約、婚姻を結ぶ者もわりといるため、この処置がとられる様になった。


「そうでしたわね。」


「マリィ、ずっと嵌めたままでいてほしいなって思うんだけど‥‥」


「え?‥‥結婚式までですの?」


「ああ。‥‥駄目か?」


「いいえ。‥‥嬉しいですわ。ヴィル様の色ですし。」


「‥‥‥」


そろ〜っと視線を逸らしたヴィルジール。


その様子にマリアンヌはピンときた。


「‥‥わたくしはヴィル様のもの。と‥‥」


「!!!‥‥‥‥嫌?」


「いいえ?」


「え?」


「独占欲を出して頂けるほど、わたくしのことを好いてくださってますの?」


くすりと笑いつつ問い掛けたマリアンヌに一瞬だけ視線を戻したヴィルジールは━


「‥‥おう。もちろんだ。」


その言葉を聞いた瞬間、マリアンヌはヴィルジールの頬に両手を添えて、ぐっと動かし、目線が合う様にすると━


「眼を見て仰って頂けますか?」


「‥‥‥」


至近距離で見つめ合う2人。

一気に真っ赤になった顔のまま、ヴィルジールは告げた。


「そうして婚約指輪で独占欲を出したくなる程、俺はマリィが好きなんだ。だから、俺のために指輪を嵌めたままでいてくれないか?」


「畏まりましたわ。」


「!─いいのか?」


「もちろんですわ。‥‥独占欲を嬉しく思ってますので。」


「!!‥‥‥マリィ。」


「はい?」


「今、無性にマリィを抱き締めたい。」


「あら。─ふふっ。どうぞ。」


「ありがとう。」


そう言ってヴィルジールはマリアンヌを抱き締めた。


***


━卒業式前、最後の登校日。


「マリィ!」


「ついて来ないでくださいませ!!」


「嫌に決まってるだろ!?」


「は!?」と振り返ったマリアンヌを追いついたヴィルジールはすぐに抱き締めた。


「ヴィル様!?」


「マリィ。逃げないでくれ‥‥謝るから。」


「‥‥‥」


「マリィ。俺はまだマリィとチェスやりたいから、勝ち逃げしたりしないから、またやろう?」


何事かと見ていた在校生と少ない3年生はすぐに表情をげんなりさせた。


『なんだ、今度はチェスか‥‥』 と。


この2人は学園卒業間近だろうと関係なく。

更には婚約者になろうと、きっと夫婦になってもずっと何かしらの対決をし続ける。


それが2人なりのコミュニケーションの取り方の一つだから。

ちなみに、作者は幼馴染いません。ライバル‥‥もいなかったです。

なので、『こんな感じもあり得たかな〜?』と想像のみで書き上げました。

先に書き上げて投稿しました『かくれんぼ』もですが、チャレンジ企画の内容で例えばの例を見て、思いついたまま書き上げました。

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