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これからプロになるにあたって

作者: 浅井 直正


 やっと、気がついた。

 小説、マンガ、映画、音楽。その中で私が好きだったり感動したものはぜんぶその人ひとりが作ったものではないということに。

 なぁ、何百回だって見てきたじゃないか。エンドロールを、謝辞を書いたあとがきを。

 どうしてこんなことに気づけなかったんだろうか。

 一人で感動を作ってるんじゃない。

 それはいろんな人に支えられてできている商売というものなんだ。本当のところ。


 この感動を自分も作れるようになりたい。

 ずっとずっとそう思っていた。

 作家はひとりでただ、書いていればそれでいいと思っていた。

 大間違いだった。


 それは商売であり、他者。読者というお客様ありきのものということ。

 新人賞は独りよがりのものを提出する場所じゃない。それは売り込みだ。

 「おっ、こいつは金になりそうだな」と思わせられるものを提出できるかの場所だ。

 または「こいつと組んで面白いことをしたい」と思わせられるかの場所だ。


 とある読書家はこう言った。

 「本を買ってるんじゃないんです。セカイを買ってるんです。これは」

 あぁ、なんとなく分かる。

 うすぼんやりと感じる、本からあふれ出ている体温のようなもの。

 素っ気なく言ってしまえばその人の文体。

 そして魅力的なキャラクターとストーリー。

 この先どうなるんだろう?という好奇心を奮い立たせ、共感できる物事を差し込む。

 それらが合わさってできている物語というもの。

 それがセカイだ。


 小説を書いてみて分かったこと。

 プロの文章には体力があるなと思う。

 私の今書いている文章には体力がない。

 体力をつけるには筋トレをするしかない。

 

 セカイを作るには書き続けなければならない。

 「なにがあっても書き続けるほかない。

 作家になるには自ら鞭打ってひたすら書く姿勢が求められるのだ」

 とある作家はこう言う。 

 一日のスケジュールが狂っていようとも、走った後でも、眠いときでも。

 なにしろ人には寿命というものがある。時間は無限ではなく、有限なのだ。

 人生は歯医者の椅子に座っているようなものだ。

 さぁ、これからが本番だと思っているうちに終わってしまうとも聞いた。


 でも、今はこう思う。この人生を生きて思う。


 私は心の底から納得できる理由がないとなにもできないんだ。

 コンパスは正しい方向を向いているか?

 まず、正しい場所にハシゴは掛かっているか?

 私の場合、それは酒を辞めることが絶対条件だった。

 酒が入ればコンパスはくるくる回る。


 ここまで来るのにずいぶんと時間が掛かってしまった。

 それでもいいじゃないか一番最後に笑うことができたら。

 本当に私はこのタイプだと思う。笑えるのは本当の最後の最後。 

 結局のところ年齢なんて関係なかった。

 才能があるやつはいいよなぁじゃなかった。

 あのマンガもトネガワも呪いだった。

 年齢も身分も関係ない。

 何歳まで。今更ってのは本当に呪いの言葉だ。


 仕事の裏紙に今、こうして感じていることを書いている。

 頭からずるずる出てきた書かずにはいられない、アウトプットせずにはいられない言葉をぐしゃぐしゃと書き殴ってできた「らしきもの」を整理して分かりやすいようにしている。

 何のために? なぜそこまで時間と労力を投入して?

 それがやらずにはいかないことだからだ。

 これは好きとはちょっと違うかもしれないな。

 それが私の、人と交流することのできる一番うまくいくやり方だからだ。

 私はものすごく不器用だ。

 人にも散々言われてきたし、自分でもそう思っている。

 だから私はずっと世界との交流を閉ざしてきた。

 でも、歳をとるにつれて考えが変わってきた。

 それでも私は交流をしてみたい。

 ずっと前に焼いた橋をもう一度作ってみたい。

 人と繋がりたい。

 私はこう考えているということを世界に向けて発信したいと、

 ヒトとしての本能がそう叫んでいる。

 

 すべては誰かに伝えるために、ちゃんと届いて欲しいがためにだ。


 そうしてこのエッセイだって今こうして他人に読まれている。

 

 届いているだろうか。

 ちゃんと届いているだろうか。

 独りよがりのオナニーじゃなくて、ひとり、ひとりの心をちゃんと動かす音に。

 

 ノックする音になっているだろうか。

 


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