スマホがないと死ぬ男
どうも、作者の小川俊です。
今回の小説は今までとは、ちょっとテイストが違います。
よろしければ、読んでみてください!
「おーい山本、今日飲み行かないか?」
声をかけてきたのは、僕の友人だ。
飲みに行くのは問題ない。重要なのは、飲みに行く場所だ。
「駅前に新しい居酒屋ができただろ? そこへ行ってみようぜ」
あー、あそこか。僕は素早くスマホで情報をチェック。
……なるほどね。
「そこ、キャッシュレス対応してないからパス」
僕の返答を聞いた友人は、鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔になった。
面白い顔だな。
パシャリ。
スマホに友人の顔を収めた僕は、颯爽とその場を後にする。
このご時世、スマホで決済できるんだから、現金なんて持ち歩かない。キャッシュレス非対応のお店なんて、時代遅れもいいところだ。
そうでなくても、僕はスマホゲームに好きな配信者のライブ、SNSの更新もあるんだから、忙しいのさ。
「うおっ」
その時、見知らぬおっさんの声が前から聞こえてきた。
「前向いて歩け! 危ねえな」
なんか言ってるだけど、無視無視。それよりもスマホが優先だ。
それにしても、スマホって本当に便利。生活のありとあらゆる場面が、スマホで便利になる時代。何より、使っていて楽しいし!
今や人間にとって、スマホは生活必需品だと思う。スマホが無ければ、人は生きていけない。
つまり、スマホは命と同じだ。もし、スマホが使えなくなれば、僕は死んじゃうかも。
後日、僕は友人と外を歩いていた。
何でも、新しく出来た居酒屋に行くらしい。そこは前に誘われた居酒屋ではないそうだ。
「ったく。お前がスマホで支払いできる所が良いって言うから、そっちにしたんだからな」
友人が若干呆れた様子で僕に言ってくる。
何がそんなに気に入らないんだろう。そもそも現金は無くす危険性もあるんだから、絶対スマホの方がいいのに。
まあいいや。それよりも、日課のデイリーミッションを終わらせないと……。
「お前、マジでスマホ人間だな……っておい! 前見ろ!」
すると、突然友人が声を荒げ始めた。
「え?」
確認する暇もなく、スマホから顔を上げた時には、額に鈍い痛みが走っていた。
どうやら、電柱にぶつかったようだ。
「前向いて歩かないから、そうなるんだよ」
くっ……大正論である。
言い返したくても言い返せないので、僕は代わりに額を撫でた。
──あれ、待てよ。僕のスマホは?
いつも手に感じていた重量がないことに気付く。急激に背筋が冷たくなった。
「そこにあるだろ」
焦る僕を尻目に、友人は地面に落ちているスマホを指差す。
よ、よかった! ほっと安堵したのも束の間、スマホを拾い上げた途端、信じられない光景が広がっていた。
「…………え?」
おそらく、液晶部分から地面に落ちたからか、画面を埋め尽くさんばかりに亀裂が走っていた。
電源ボタンを押すが、液晶には何も映らない。震える指で画面を触るも、何も反応せず、ただ破片が溢れるだけ。
「あ! お前やっちまったな!」
友人が何か言ってるが、その声がどんどん遠ざかっていく。
スマホが、壊れた。
僕の大切な、命と同じくらい大切な、スマホ──。
「うぐっ!?」
突如、僕の胸を激痛が襲った。
電柱にぶつけた時とは、非にならないほどの痛み。全身の力が抜け、息をすることさえままならない。
もう……立っていられいない!
──きゃあああああ!?
──お、おいどうした!? 大丈夫か!?
硬い地面の感触。周囲にいる人々の悲鳴と、友人が僕を心配する声。他にも何か聞こえた気がするけど、よく分かんない。
ただはっきりしてるのは──僕のスマホが壊れたこと。
僕は前々から、スマホは命と同じだと口にしてきた。そして、そのスマホが壊れた。
つまり、これが意味することは──。
「僕の命、壊れちゃった……」
薄れゆく意識の中、友人が言い放った言葉が、僕の生涯で聞いた最後の言葉となった。
「こいつ、馬鹿じゃないの……」
いかがでしたでしょうか。
感想など、お待ちしております!