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カルマドライブ  作者: めーた
ナーダのサドゥー
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006

久しぶりに書きました。次は主人公交代です。

佐藤美桜は一人で立ち尽くしていた。眼前には焼け野原があり、黒焦げの木材、歪んだ金属片。そこは確かに、数日前まで自分が両親と暮らしていた家があった場所だった。


 3日前、両親の葬儀が終わって国の手配で自分はホテルにとりあえず住んでいた。お葬式はほぼ家族葬のような形で最低限で取り行った。両親の近しい親族と友人が何人か来ただけで、寂しいお葬式だった。カルトとは縁を切ったお葬式にしたので、カルト関係の人は誰も来なかった。お坊さんが読経をあげている間、私はなんでこんなことになってしまったのだろうと考えていた。あの日、私がハジュンに変貌しなければ今日もお父さんといがみ合って、お母さんには真面目に信仰しないことにお小言を言われて、それでも家族は有ったのだと思う。


 ハジュンの体内から奇跡的に助け出されたものの、わたしは帰るべき場所も家族も失っていた。悲しみに浸る間もないままにとりあえずホテルに泊まり、最低限のものを整えて生活していた。今後は、どこかアパートを借りることになるだろうとぼんやりと考える。ハジュン災害にあった人間は国から保護を受けることができ、未成年の場合は成人まで生活保護を受けることができるようになっていた。

 保護を受けたものの、何もやる気も出ず学校も休んだままで私は気がつけば、両親との思い出が染み付いたこの焼け跡に立っていた。崩れた瓦礫の隙間に、二人の笑顔が幻のように浮かび上がり、再び会えるような錯覚に囚われる。


「お父さん、お母さん…。」


 乾いた喉から、絞り出すような呟きが漏れる。生前の両親との関係は複雑だった。カルトへの信仰を巡っては何度も衝突した。それでも、決して嫌いだったわけではない。ただ、あの狂信的な熱に囚われる前の、優しかった両親に戻ってほしかった。また、私のことをちゃんとまっすぐ見てくれればよかった。私を慈しみ、愛してくれていた頃の二人に。その記憶が蘇るたび、私の瞳からとめどなく涙が溢れた。


「佐藤さん、だよな?どうしたんだ、こんなところで?」


 背後から、力強い声が私の沈んだ世界に響いた。振り返ると、同じ高校に通う乾雷人くんが、心配そうな表情で立っていた。明るく、誰にでも分け隔てなく接する彼は、同じクラスで私もよく知る顔だった。



「あ…、乾くん。ここね、私のお家だったの。」

「ああ…、ここがそうだったんだな。」


 雷人くんが美桜に申し訳なさそうに項垂れる。雷人くんたちがハジュンを倒す前にハジュンはここから現れて家を破壊した。他ならぬ、ハジュンとなった自分が知っている。だから、何も雷人くんは悪くない。なのに、目の前の彼は自分が助けられなかったことを強く悔やんでいるようだった。


「今はどうしてるんだ?ハジュン災害の認定が降りたんなら生活保護を受けられてるんだろ?」

「今はとりあえずホテルに泊まってる。もう少ししたらアパートを借りることになると思う。そこまでは国の生活保護でやってもらえるみたいだから。」


 それを聞いて、雷人くんは何か考え込んでいるようだった。少し悩んだあと、彼は美桜に意を決して話しかけた。


「なぁ、佐藤さんは一人ぼっちになってしまったんだよな。思うんだけど、一人ってよくないと思うんだぜ。俺ら、ダルマチャクラの寮に住んでるんだ。佐藤さんも住んでみたらどうだ?月華もいるから、寂しくないと思うぜ。」


 突然の申し出に頭が混乱してしまう。ダルマチャクラの寮って関係者以外は入れないのではないだろうか。そこのところを聞いてみると、雷人くんは快活に笑いながら返答してきた。


「はっはっは、困ってる女の子のためなんだ。なんとかしてみるんだぜ。」


 その時は無理にでも明るい話で私のことを元気付けようとしてくれていたのだと思った。後日、話は急展開を迎えることになるとはその時の私は知らなかった。


「佐藤さん!寮に入る代わりに、サドゥーにならないか!?」


  あの時から2日後、放課後にホテルに帰ろうとしているところを元気よく雷人くんから声をかけられた。唐突なことに頭が真っ白になる。


「佐藤さんの適合結果が白紙になってたらしく、理由を調べてみたら親御さんがサドゥー拒否をしてたみたいなんだよな。罰金払ってまででもし続けていたんだから、よっぽどだったんだろうけれど。でも、今はその支払いが出来ていない。佐藤さんには適合試験を受ける義務が発生してるんだ。サドゥーになるなら、寮に住むこともできるし、ダメなら仕方ないで別の方法を考えてみるぜ。」


 私の適合試験が拒否されているのは知っていた。それもイジメに遭っていた理由の一つだ。今や人類の義務となった適合試験を拒否するなんて、人類への裏切りだ、と。イジメのリーダーになっていた息栖美沙希さんの顔が思い浮かぶ。彼女は自分の親の働いていた工場がハジュン災害にあって壊滅したせいで苦労していた。その関係で私がハジュンカルトの身内だと知って、攻撃してきたのだ。


「私なんかが、適合試験を受けて良いのかしら?ハジュンになっていた人間がサドゥーになって、あまり良くないんじゃないかしら?」

「大丈夫だぜ!そんなのサドゥーになれた時点で帳消しになるぜ!!サドゥーになったってことは、ハジュンに対抗する力があるってことだぜ。あとは広報の人がいい感じにしてくれるぜ。」


 最後の方、かなり他人頼りの話をしていたが雷人くんなりに入寮できる方法を調べてくれてたのだと思うと、胸の中にじんわりと優しさが沁みた。自分は優しさをかけられたことがここ数年なかったのだと自覚する。せっかく調べてくれたのだし、適合試験は受けるだけ受けてみようと思う。そのことを伝えて、ホテルへと帰る。

 帰る途中に、自宅の焼け跡に立ち寄り思い耽る。自分の胸には両親への反発心と同時に、確かな愛情も思い出されていた。病弱だった自分を治すため、ハジュンカルトに入信したのがきっかけだったのだと朧げながらに覚えている。その後も、両親のやることは自分のためになることだと奔走していたのもわかっている。そのやり方が自分が望むものとは違っていたけれども。

 

 土曜になり、ダルマチャクラ鹿島支部でに適合試験を受けることになった。雷人くんと月華が迎えにきてくれた。月華とは小さな頃からの幼馴染だけれど、サドゥーになり激務で学校に来れなくなってからは会うのは久しぶりだ。

 私が高校でいじめに遭っているのは月華は知らない。高校生になるのと同時にサドゥーとして戦い始めたのだから、当然のことだ。カルトに入信した両親のことを知っているけど、中学の頃はイジメにはあってなかった。近くに月華がいてくれたからかもしれない。


「ごめんね、美桜。雷人から聞いた。私、あなたがイジメに遭ってるなんて知らなかった。今ここで謝ってどうにかなるものではないけれど。」

「ううん、いいのよ月華。それよりも、適合試験ってどうすればいいの?」


 自分にはサドゥーに関する知識はあまりない。採血するってことだけは知ってるけれども。


「ちょっと血を抜いて、その血でカルマドライブと適合するかを調べるんだぜ。詳しい理屈は俺も知らないけれどな。」


 笑顔で答える雷人くん。それに呆れた顔をする月華。二人の親密さが不思議だった。同じサドゥー同士で仲良くなったのかしらと思う。

 

「それじゃ、行こうぜダルマチャクラ鹿島支部へ。」


 うなづくと、3人で送迎に用意された車に乗り込む。程なくして、ダルマチャクラ鹿島支部へと到着した。噂には聞いていた施設だが、大きい。案内されて、3人で医務室のような場所に通される。採血をされて、結果が1時間ほどで出てくるらしい。早いのか、遅いのかわからないけれど、地球上に存在するカルマドライブの合致を調べられるのだから凄いのだと思った。


「美桜、サドゥーの適合性があったらどうするの?私たちは納得して乗ってるけれど、あなたは大丈夫なの?」

「うん、わたしね。お父さんとお母さんのお葬式の間に考えてたことがあるの。なんでハジュンを救世主みたいに崇める人がいるのかって。」


 人類を滅ぼしにきたとしか思えないハジュンという存在に救いを見出している人たち。なぜなら、ハジュンには知性があるものがあり、人の欲望を叶えるものがいる。私の身体が丈夫になったのは、きっとハジュンに願いを叶えてもらったに違いないと思っている。出なければ、両親があれほど熱心に信じるわけないと思っている。私は喋るハジュンに会っている。それとは1分間にも満たない場しかなかったけれども、両親が大金をはたき信者になってからのことだったから覚えている。

 あの時、私の身体は間違いなく回復した。それ以来、ただの風邪を引くとひどく長引いた自分の体が、風邪ひとつ引かなくなった。だから、ハジュンカルトが単なる宗教ではないことは身をもって体感している。でも、きっとそれは何かを引き換えにして得たもので、単にお金を払ったから得られたわけじゃないと思う。

 あの日飲んだ粉末は、もしかしたらその引き換えにして支払ったものだったものかもしれない。もし、そうならば皆が皆納得して信じているわけじゃない。


「あの日の事、私がハジュンになった日のことを私は忘れない。お父さんとお母さんを亡くした日を忘れない。あんなことを起こさせたくない。他の人にも。」


 二人の視線を受け止めて、わたしは決意を宣言した。その1時間後、私の結果が出た。答えは適合者だった。私は自然と両腕を握りしめていた。二人がそっと肩に手を置いてくれて励ましてくれる。その後、ミーティングルームのようなところで施設の人が丁寧に説明をしてくれる。


「あなたにはナーダタイプのヴァジュラに乗ってもらうことになります。ナーダタイプは後方支援型で、特殊なエネルギーを味方機に付与して性能を増強することが主な能力になります。他の機体とは違い特殊な運用となりますが、どうか乗りこなしていただきたい。まずは、東京の訓練施設へ行き半年ほど訓練を行なってもらうことになると思います。」


 説明を終えると、後ろにいた二人が笑顔で声をかけてくれた。


「歓迎するんだぜ、佐藤さん!まずは訓練だけど、頑張ってくれよな!!」


「私も歓迎するわ、美桜。訓練は大変かもしれないけれど、私は美桜なら無事に訓練を終えられると信じてる。」


 二人の温かい歓迎と力強い激励の言葉を受け、私の中に、自分がサドゥーになったのだという実感がじわりと湧き上がってきた。両親を失った悲しみはまだ癒えないけれど、今は、目の前の新たな道に、かすかな希望の光を見出していた。

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