13、楽しい休日の過ごし方
私とルイーゼのけんかから一週間、休日を控えたある昼休みの出来事だった。土砂採石場でまたしても囚人たちのけんかが始まった。
「テメー、俺のパンを盗んだな!」
「知らねえよ、自分で食べて忘れていたんだろ!」
「はあ? 俺食っていねえし」
私はとっさにムチを地面に叩いて威嚇した。
「お前たち、何をもめているんだ!」
「あ、看守。実は122号が俺のパンを食ってしまったのです」
「だから、俺は食っていねえと言ってるだろ。そんなに疑うなら証拠を出せよ」
再び私はムチで地面を叩いて威嚇をした。
「お前たち、2人とも懲罰だ!」
私とルイーゼはけんかをした121号と122号に手錠をかけて懲罰房へ送った。その間の見張りはルイーゼとユナにお願いをした。
「しばらく、ここで頭を冷やして反省していろ!」
「お前、俺をここに何回閉じ込めれば気が済むんだ?」
「うるさい! 少しは言葉や態度を慎め! そうすればここに来なくて済むはずだ!」
「なあ、ちょっと小耳に挟んだけどさ、お前ら謹慎食らったんだろ」
「余計なことを言うと、こうだ!」
動揺した私は、思わず122号の囚人にムチを入れた。
「俺にこんなことをしていいのか? また謹慎食らうぞ」
「黙れ、お前には関係ない。ここで反省していろ!」
「はいはい」
私は扉を強く閉めて、クレアと一緒に土砂採石場へ戻った。
「総員異常なし!」
「ご苦労!」
ルイーゼの報告に私は敬礼をした。そのあと、終わりまで4人で監視を続けていた。
日没近くになって、私たちは囚人を部屋に戻したあと、夜勤部隊に引き継がせて、帰る準備をしようとした時だった。非常サイレンが鳴ったので、急いで現場に駆けつけたところ、洋裁部屋で女性囚人がハサミを振り回して暴れていた。
「何ごとだ!」
騒ぎに駆けつけた私たちはムチを構えて威嚇したが、まったく効きめがなかった。
「今すぐハサミを置け!」
「黙れ! 奴隷はもうウンザリなんだよ!」
男性看守は警棒を持って、ゆっくり近づき、ハサミをを持っている右手を強くつかんで手錠をかけることに成功した。
「では、自分はこのあと、懲罰房へ送り届けますので、皆さんは帰る準備をしてください」
男性看守に言われ、私たちはそのまま宿舎へ戻った。
「疲れた一日だったね」
仮面とウィッグを外した私は疲れ切った表情でクレアに言った。
「でも、もうじき休日じゃん。だから頑張ろうよ」
「そうだね……」
「私、休日が楽しみ」
「私も」
クレアの一言に私は短く返事をした。
私が部屋着姿になって少し経った時、いつものようにルイーゼたちが私の部屋に入って食事に誘ってきた。
「お腹がすいたから、ご飯をたべよ」
ルイーゼはテンション高くして私に言ってきた。
「ルイーゼ、今日はテンション高いけど、何かいいことでもあった?」
私はビックリした表情でルイーゼに聞いた。
「だって、もうじき休日じゃん」
「確かにそうだけど……、今からテンションを上げていると疲れるよ」
「私は平気だから。じゃあ、食堂へレッツラゴー!」
こうなってしまったら、テンションが高いっていうより、小学生になり下がった状態になっていた。
テーブルに着くなり、いろんな場所から、夕方の女性囚人のハサミ騒動の話題が広がっていた。
私がスパゲティを食べようとした瞬間、ルイーゼから出た言葉は案の定、洋裁部屋の出来事だった。
「さっきの女性囚人、凄かったね。ハサミをビュンビュン振り回してさ。それを取り押さえた、男性看守もかっこよかったよ」
ルイーゼは目の前にある料理を食べることも忘れて、話に夢中になっていた。
「ねえ、知ってる? 他のグループから聞いたけど、さっきの男性看守、所長から感謝状をもらえるみたいだよ」
クレアもテンション上げて言ってきた。
「もしかして、1人で取り押さえたから?」
私も横から口を挟んできた。
「その可能性は十分あると思うよ。だってハサミをビュンビュン振り回した囚人を取り押さえたからね」
「ルイーゼ、さっきからそればっか」
今度はユナが突っ込みを入れてきた。それを聞いていた私とクレアは思わず笑ってしまった。
「2人とも笑いすぎ」
「それより私は昼間の事件も凄かったと思うの」
「昼間って、土砂採石場のこと?」
「うん。121号と122号がパンをめぐって、いざこざになったの」
「パンって、囚人たちに支給する固いパンのこと?」
「そう。それを122号が取られたと騒ぎ出して、もめ事になったの」
「なんか、子供みたい」
ルイーゼは笑いながら答えていた。
「『食べた』とか『食べてない』とかでずっともめていたの。あ、そうそう。122号を懲罰房へ入れた時、気になることを言われたの」
「気になることって?」
「私とクレアが謹慎食らったことを囚人たちが知っているらしいの」
「あ、それなら私も同じことを言われたよ」
今度はクレアが口を挟んできた。
「マジで!? 情報筒抜けになっているじゃん」
「うん……。私もそれを聞いて少し驚いたの……」
「それって、少しっていうレベルじゃないわよ」
ルイーゼは興奮気味になって私に言ってきた。
「たぶん、誰かの会話を盗み聞きして、入手した情報なんじゃない?」
今度はユナが口を挟んできた。
「その可能性は高いわ」
「とにかく、囚人たちの前では余計な会話は控えたほうがいいよ」
「そうしよ」
ユナが少し険しい表情で忠告をしたので、この話は終わりになった。
部屋に戻るなり、私はベッドで横になって独り言のように「なんか疲れた」と呟いていた。
「どうしたの?」
「ねえ、休日どのように過ごす?」
「私は一日中遊び倒すかも。ストレスもたまっていることだし」
クレアはタウン雑誌を広げながら、少し愚痴をこぼしていた。
「言っておくけど、休みは明日からじゃないよ」
「わかっているって」
本当にわかっているのか、正直疑いたくなってきた。
「遊園地に水族館、あと街で買い物もいいよね」
「クレア、明日は仕事だということを忘れないでね」
「わかっているわよ」
なんだか怪しくなってきた。
「ねえ、一緒にアイスクリームを食べようね」
「うん、そうだね」
この分だと間違いなく明日寝坊しそう。私の中で不安がよぎってきた。
「明日も早いから、もう明かりを消すよ」
「ちょっと待って」
「どうしたの?」
「この部分だけ」
クレアはタウン雑誌を広げながら、消灯を長引かせた。
「明日また見ればいいじゃん」
「えー!」
「『えー!』じゃないでしょ? もう消すわよ」
「わかったわよ」
クレアは渋々と返事をしてベッドに入ってしまった。
翌朝の事だった。案の定、私が着替え終わっても爆睡していた。
「クレア、起きてよ。時間だよ」
「ちょっと待って。待ち合わせ時間まで、少し余裕があるわよ」
「誰と待ち合わせをしているの?」
「ルイーゼたちと」
「そのルイーゼは部屋の中にいるわよ」
「マジ?」
「マジだよ」
起き上がるなり、制服姿の私やルイーゼたちを見た瞬間、驚いていた。
「ねえ、なんで制服と仮面の姿になっているの?」
「なんでって、今日仕事じゃん」
「今日休みなんでしょ?」
「何を言っているの? 今日は仕事よ。休みは明後日」
「マジ!?」
「マジだから、言っているんでしょ?」
クレアは私に言われて、あわてて着替えたあと、仮面とウィッグを着けようとした時だった。
「ちょっと悪いけど、ウィッグを手伝って」
「じゃあ、この椅子に座って」
私はクレアを椅子に座らせて、ウィッグを直してあげた。
「手袋とブーツは自分で出来るでしょ?」
「うん、ありがとう」
クレアの身支度が終わって、私たちは急ぎ足で事務所まで向かった。
「おはようございます」
「おはよう、明日はもう少し早く来てちょうだいね」
私がユイさんに挨拶をしたら、一言注意を受けてしまった。言い訳をしたいのを我慢して私たちは朝礼に参加したけど、どうも苦手だった。ただ聞いているだけだから、楽と言えば楽だが、その分眠くなりやすかった。あくびをしても仮面をしていれば、ばれないのが、女性看守の特典だと私は思っていた。しかし、実際はそんなに甘くはなかった。クレアがあくびをした瞬間、ユイさんの雷が飛んできた。
「クレア、随分と眠そうだね?」
「そんなことありません」
「あくびをしていたの、わかっているわよ」
「私ではありません」
「じゃあ、誰だと言うの?」
「鈴鬼さんです」
「ごまかしても無駄よ。あなたの声が聞こえたんだからね」
「すみません、気を付けます……」
クレアが謝った途端、みんなは笑い出した。
朝礼が終わって、囚人たちに点呼と食事を取らせたあと、奴隷作業に入った。
いつも土砂採石場だったのに、その日は金属加工を担当することになった。技術面では私もクレアもそんなに詳しくなかったので、専門の技術者を手配して作業することになった。技術者は囚人の作業を手助けが出来ないので、アドバイスをすることしか出来なかった。
今回、なんで金属加工を担当することになったのかというと、言うまでもなく、先日囚人を熱中症にさせたという前科があったからなのである。
技術者は私やクレアと一緒に囚人たちの手の動きをずっと見ていた。ちょっとでも変な箇所があれば「ここは、こうしたほうがいいよ」と技術者がアドバイスをしてくれる。囚人たちは「ありがとうございます」と一言お礼を言って作業を進める。
その日の午前中はトラブルがなかったので、作業が滞りなく終わってしまった。
「交代です」
男性看守が入ってきて、私とクレアは「ご苦労」と言って敬礼をしたあと、宿舎の食堂へと向かった。
「今日の囚人、珍しく大人しかったね」
食堂へ入ったクレアの最初の一言だった。
「そうだね」
私も仮面を外したあと、疲れ切った表情で答えた。
「午後もこのまま、うまくいくといいけど……」
クレアはため息交じりに呟いた。
「大丈夫よ」
「私、あの地下の懲罰房へ行くのいやよ」
「なんで?」
「暗いし、臭いし、行きたくないよ」
「仮面しているだけマシだと思ったほうがいいよ」
「囚人や男性看守は私たちより地獄を味わっているんだよ」
「確かにそうだけど……」
クレアは今一つ納得していなかった。
「あとはムチの怖さを教えて、大人しくさせるのも一つの方法だよ」
「そうだよね」
「じゃあ、早く食べて現場に戻るわよ」
私とクレアは残りのサンドイッチを食べ終えて、お皿とトレーを戻したあと、現場へ戻ることにした。
午後の作業は木工作業場の監視だった。私とクレアはすぐに午前中組の看守と交代をして監視に入り、技術者に挨拶をした。
技術者は表情一つ変えず、ずっと厳しい表情で囚人の監視をしていた。
「お疲れ様です。囚人の監視につきましては、私どもがしますので、どうかリラックスして見ていてください」
「そうしたいのは山々ですが、以前この作業場でトラブルがありましたので……」
「それも含めて、私どもが監視に当たります」
私がそう言っても、技術者は簡単には引かなかった。きっと過去に大きなトラブルに巻き込まれたに違いない。私は心の中で呟いていた。仕方がなかったので、技術者は私とクレアと一緒に監視をすることになった。特に大きなトラブルもなく、何とか終わりそうだった。終わり間近に男性囚人が1人質問した程度で、あとは大きなトラブルもなく、その日の作業は終わりとなり、技術者を見送ったあと、私とクレアは囚人を部屋に戻して、終業まで巡回をしていた。
事務所へ戻ってから、書類の整理をして、私とクレアが帰ろうとした時だった。
「ねえ、明後日休みなんでしょ?」
ユイさんが突然私とクレアに声をかけてきた。
「はい、そうですが……」
私も少し緊張しながら返事をした。
「実は、最近出来たテーマパークのチケットなんだけど、よかったら受け取ってよ。この1枚で4人分だから」
「いいのですか!?」
私とクレアのテンションは一気に急上昇した。
「これで楽しんでくれ」
「ユイさんは行かないのですか?」
「私はこう見えても友達が少ないから、1人で行ってもつまらないんだよ」
「わかりました、それではお言葉に甘えて……。一つ気になりましが、このチケットはどうされたのですか?」
「ん? これ? 街に行ったときに、知り合いが経営している雑貨屋さんからもらったんだよ」
「そうなんですね」
「そういうわけだから、明後日楽しんできてよ」
「あ、一つ気になましたが、このテーマパークってどこにあるのですか?」
「街の外れに教会があるだろ? それとは反対方向の小高い丘の上に出来たんだよ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
私はチケットを受け取って、事務所をあとにした。
宿舎の部屋に戻って、部屋着に着替えたあと、クローゼットの中を見ていた。
「明後日何を着ていこうかな」
「美鈴、どうしたの?」
「明後日着ていく洋服を探しているの」
「美鈴こそ、明日休みと勘違いしないでね」
クレアは私に言われたことを強く根に持っていたらしいので、これを機に仕返しをしようと考えていた。
「大丈夫よ。私は誰かさんのようなマヌケはしないから」
「そんなことを言って明日寝坊しないでよね」
「私がそのように見える?」
「じゃあ、かけてみる?」
「何を?」
「明日、私が美鈴より早く起きたら、街で何かおごるってどう?」
「いいわよ」
「その約束忘れないでね」
その日の夕食、私はルイーゼにユイさんからテーマパークのチケットをもらったことを話した。
「え、テーマパークのチケットをもらったの!?」
ルイーゼは急に大声出して反応していた。
「ルイーゼ、声が大きい」
「あ、ごめん……」
ユナに注意されて、ルイーゼは大人しくなってしまった。
「それで、このチケット4人分だから、みんなで行こうかと思っているの」
「いいね!」
ルイーゼは再びテンションを上げていた。
「ルイーゼ、食事中だよ」
「ユナ、言い方がお母さんみたい」
「ルイーゼが行儀悪くしているからでしょ?」
それを聞いていた私とクレアは思わず笑い出してしまった。
「美鈴とクレア、笑いすぎ」
ルイーゼは顔を膨らませて注意してきた。
「ヤッホー! 明後日、休日なんでしょ?」
今度は後ろからシンディたちがやってきた。
「シンディ先輩お疲れ様です」
「よ、お疲れ」
シンディはテンション上げて私たちに声をかけてきた。
「先輩はこれからお食事なんですか?」
「まあね。あ、そうそう、こんな先輩から可愛い後輩たちへプレゼントがあります。ジャーン!」
シンディはそう言って、手に持っているチケットを見せてくれた。
「先輩、このチケットは?」
「これ、スイーツバイキングの割引券。4人分あるから、これを使ってデブになってください」
「シンディ先輩、意地悪を言わないでくださいよ」
「ハハハハ、冗談よ。友達がケーキ屋でバイトしているから、もらってきたの」
「そうなんですね」
「じゃあ、ここに置いておくから、いらなかったら誰かに渡してもいいよ」
シンディは私たちのテーブルにチケットを置いて、いなくなってしまった。テーマパークの次はスイーツ食べ放題。私たちの手元にはチケットだらけ。
「このチケット私が持っておくよ」
私はそう言って、チケットを持って部屋に戻ることにした。
翌朝、私がいつもの時間に目を覚ましたら、クレアは案の定気持ちよさそうに寝ていた。
「クレア、起きてよ。もう時間よ」
しかし、起きる気配がなかった。
「クレア、時間よ。早く起きないと遅刻するよ」
私はクレアの体を何度も揺り起こしてみた。時計は8時前、私は自分がまだパジャマだということに気づき、急いで制服に着替えて、仮面とウィッグを着けて、再び起こし始めたが、まったく起きる気配がなかった。仕方なく隣の部屋に行って、ルイーゼとユナに応援を頼むことにした。
「クレア、急がないと遊園地に行けなくなるよ」
「遊園地!?」
ルイーゼの一言にクレアは起き上がって着替えようとした時だった。
「なんで、みんな制服姿なの?」
クレアは私たちの制服姿を見て驚いていた。
「だって、今日は仕事だよ」
「マジ!?」
私の一言にクレアは再び驚いていた。
「マジだよ」
「だって、今日は休みのはずじゃ……」
「休みは明日。早く制服に着替えて」
私はクレアの着替えを手伝うことにした。
「よし、これで完璧!」
「クレア、仮面とウィッグ、手袋を忘れているわよ」
「あ、いけない!」
私に突っ込まれて、クレアは急ぐように仮面とウィッグを着けて、手袋を嵌めた。
「遅刻するから、急いだほうがいいわよ」
ユナに急かされて、私たちは急ぎ足で収容所の事務所へと向かった。
「おはようございます」
私たちが事務所の中へ入ったらユイさんがいなかったことに気づき、おかしいと思って、私はシンディに聞いてみたら「朝から所長の部屋に呼ばれていた」と話してくれた。
朝礼が始まったのは、あれから10分遅れたあとのことだった。ユイさんは、私たちの前で言い訳を並べていた。
朝礼を終えた私たちは、自分のスケジュールを確認したあと、すぐに囚人の部屋に行って点呼を取らせた。
「おい、255号は?」
「255号は昨日の夕方から懲罰です」
「了解した」
私とクレアはすぐに木工部屋へと向かった。今日の私たちのスケジュールは午前中に木工部屋、午後は金属加工部屋になっていた。
中へ入ると、すでに技術者が椅子に座って待機していた。
「今日もよろしくお願いします!」
私は技術者に敬礼をして挨拶をしたら、技術者は私に軽く会釈をした。
「よし、みんな持ち場についたら、すぐ作業にかかれ!」
クレアは囚人にたちに作業するよう、命令をした。
作業始まってから10分、囚人同士で何か相談しているのが見えたので、私は状況を確認をした。
「おい、何事だ! 囚人同士の相談は懲罰の対象だ!」
「実は、こののこぎり、うまく切れなくて……」
1人の男性囚人が私に相談を持ち掛けてきた。
「わかった、代わりの物を用意する。クレア、予備ののこぎりを用意してくれ」
「了解!」
クレアはすぐに私の所へ予備ののこぎりを持ってきた。
「よし、これを使え!」
「ありがとうございます」
男性囚人は一言お礼を言ってから、再び作業にかかった。私は作業場の中をゆっくり歩きながら、囚人たちの作業を監視していた。特に大きな問題もなく、午前中は終わってしまった。
休憩に入って、囚人たちは支給された固いパンと味の薄いスープで食事に入った。当然、その間も私とクレアは囚人たちが脱走しないよう、監視を続けていた。
「交代の時間だ」
やってきたのは、私たちの知らない女性看守たちだった。
「総員異常なし!」
「ご苦労!」
私が敬礼して報告したら、女性看守たちも敬礼して応答してくれた。
「今から交代に入る」
「了解! よろしく頼む」
私とクレアはそのまま宿舎の食堂へ向かい、食事に入った。
「お疲れ」
後ろからルイーゼたちがやってきた。
「お疲れ。ルイーゼたちは午前中、どこを担当だったの?」
「私とユナは、貨物の操車場で荷物の積み下ろしだったよ」
私の質問に疲れ切った顔をして答えていた。
「あそこって、収容所から離れているじゃん」
私は驚いた反応して答えた。
「うん。だから、護送用の馬車で移動することになったの。私たちが休憩になった時、交代要員を乗せた馬車がやってきたから、私とユナはその馬車に乗って戻ってきたの」
「そうだったんだね」
私は納得しながら返事をした。
「ルイーゼたちは午後はどこを担当するの?」
今度はクレアが質問してきた。
「午後は洋裁。今日はトートバッグを作ることになっているの」
「いいなあ。私たちは金属加工だよ。ねえ、私たちの作業場と変えてよ」
「だーめ。っていうかユイさんにばれたら、明日の休みがパーになるよ」
「それもそうだね。ねえ、出来上がったトートバッグ、私に一つ分けてもらっていい?」
「まあ、一応考えておくよ」
「やったー!」
クレアは子供のように喜んでいた。
「あんまり期待しないでよね」
ルイーゼも苦笑いしながら答えていた。
「そろそろ時間だよ」
「そうだね」
私が急ぐように言ったら、クレアも椅子から立ち上がって、食器を片付けたあと、急いで次の現場へと向かった。
金属加工部屋に入ると、男性看守が「総員異常なし!」と言って、私とクレアに敬礼してくれた。
「ご苦労、交代の時間だ」
「了解した。ありがとうございます」
私が敬礼して挨拶したあと、男性看守はいなくなってしまった。さらに椅子に座っている技術者にも「よろしくお願いします」と言って敬礼した。
その日は街の金物屋さんに出すための鍋を作ることになっていた。ほとんどの囚人は手先が器用なのか、慣れた手つきで作業を進めていたが、中にはうまくできなくて苦戦してしている人もいた。それを見ていた98号の女性囚人はクスクスと笑っていた。
「98号、何かおかしいことでもあったのか?」
「いえ、特に何も……」
私に声をかけられ、98号の女性囚人は返事につまってしまった。
「おかしいことがあったから、笑っていたんだろ?」
「本当に何もありません」
「なら、黙って手を動かせ!」
「わかりました……」
私は手先が不器用な女性囚人を技術者の所へ行くよう促した。女性囚人は技術者から的確なアドバイスを受けて、何とか仕上げることに成功したが、形がなんだか不格好になっていた。
「ちょっとこれは売り物にならないなあ」
「すみません……」
「気にするな、明日は別の現場へ就かせるよ」
「すみません……」
女性囚人は何度も私に謝っていた。
「よし、今日はここまでにする。全員片付けに入れ!」
私の一声で、囚人たちはいっせいに片付けに入ったあと、私とクレアは囚人たちを部屋に戻して、事務所へ向かった。
事務所で書類の整理と業務日報を書いて、ユイさんに挨拶したあと、宿舎へ直行した。
「やっと休みだー!」
宿舎の部屋に戻ったクレアの最初の一言だった。
「休むのはいいけど、最初に着替えてね。いつまでも制服の姿でいるのは変でしょ?」
「わかったよ。っていうか美鈴の突っ込みキツイ」
「ごめん……」
部屋着姿になってから30分、私とクレアはベッドでしばらく横になっていた。
「なんか、疲れたね……」
「うん……」
クレアは疲れきった声で一言呟いたので、私も短く返事をした。
「ねえ、美鈴……」
「どうしたの?」
「私たちも操車場の担当になるのかな」
「いずれはそうなるでしょ?」
「だよね……」
「どうしたの? 操車場っていやなの?」
「そうじゃないけど、あそこってほこりが凄いから……」
「仮面を着けているだけでも、ありがたいと思えばいいじゃん。囚人たちは何も身に着けていないんだよ」
「確かに……。私、思うんだけど、囚人たちからクレームが来そうなんだけど……」
「どんなクレーム?」
「マスクの要望とか」
「それもあるかもしれないね。じゃあ、私たちが操車場を担当する時は、ユイさんに頼んで、マスクを支給してもらう?」
「そうだね」
私の提案にクレアは短く返事をした。長い会話が思わったのと同時にドアをノックする音が聞こえてきた。明けてみると、案の定ルイーゼたちだったので、一緒に食堂へ向かうことにした。
テーブルに着くなり、クレアはルイーゼに操車場のことを聞き出そうとした。
「その前に料理を持って来ようか。お腹空いたし」
ルイーゼの一言に私たちは料理を持ってきて、改めて操車場のことを聞き出すことにした。
「ルイーゼ、操車場ってどんな雰囲気だった?」
パンをかじりながら、クレアは遠慮なしにルイーゼに質問してきた。
「どうって言われても……。普通かな」
「普通ってどんな感じ? ほこりとか凄い?」
「ん、まあ。貨物の操車場だからね。コンテナからセメントを降ろしているから、ほこり凄いよ」
「目とか大丈夫?」
「私とユナは仮面着けているから平気よ。ただ、囚人たちはどうか知らないけどね」
「クレア、ルイーゼ疲れているんだから、この辺にしてあげて」
ルイーゼに質問攻めをしているクレアに我慢が出来なくなり、私は横から注意をしてしまった。私に注意をされたクレアは少し元気をなくして、ゆっくりとスープを飲んでいた。
「ねえ、明日なんだけど、何時ごろ行く?」
「9時ごろでいいんじゃない? あんまり早く行っても待つだけだし……」
私の質問にルイーゼは淡々と答えていた。やはり疲れているのか、私たちの前では笑顔すら見せていなかった。
「じゃあ、9時ごろ私の部屋の前で集合で」
「それでいいんじゃない」
「あと、スイーツバイキングはどうする?」
「それも時間が余ったらにするよ。休みは2日あるんだし、無理して1日で行かなくてもいいと思うよ」
「それもそうね」
「じゃあ、明日美鈴とクレアの部屋の前で9時ね」
「了解」
食事を終えて部屋に戻った私はクローゼットから明日何を着ていくか選んでいた。
「美鈴、気持ちはわかるけど、明日にしたら?」
クレアはあくびをしながら、私に言ってきた。
「そうしたいけどさ、明日になって選んだら遅いと思うの。しかも9時には私の部屋の前で集合だし、結構忙しくなると思うよ」
「確かにそうだけど、それで寝坊したら意味がないよ」
「それは言えてるけど……」
クレアの言い分にも一理あった。しかし、途中で辞めて寝たら気になって眠れなくなると思ったので、そのまま続けることにした。
クローゼットの奥からライトグリーンのチュニックとライトブルーのミドルパンツがあった。私が看守になって、最初の給料で買った服だったので、正直思い出深い服でもあった。明日これにしようっと。あと、靴はどれにしようかな。あ、オレンジのスニーカーがあったから、これにしようっと。これで準備万全。チケットもショルダーバッグに入れたので、部屋の灯りを消して寝ることにした。
翌朝になって、私はいつもより1時間早く目を覚ましてしまった。当然、クレアはもちろんのこと、ルイーゼやユナも寝ているに違いない。食堂行くにしても、まだ早すぎる。仕方がないので、私は廊下を出ることにした。
廊下に出てみると、言うまでもなく誰もいなかった。このシーンっと静まり返った環境に今一つ馴染めなかった。ドアを静かに閉めて、なるべく足音を立てないようにゆっくりと歩くことにした。なんだか落ち着かない。誰かにすれ違ったらどうしよう。私はドキドキしながら、廊下を歩くことにした。そういえば、談話室ってなかなか行く機会がなかったので、私は談話室へ行こうと思った。特に鍵もかかっていなかったので、みんなが起きる時間まで、ここで静かに時間を過ごすことにした。
中に入ってみると、テーブルが4つ、それ以外にポットや本棚が置いてあった。時間まで少し本を読もうっと。そう思って時計を気にしながら、ページ数の少ない本を読むことにした。文字も大きく、比較的読みやすかったので、夢中になって読んでいたら、いつの間にかみんなが起きる時間になっていた。私は部屋に戻って、今日着ていく服に着替えることにした。
着替えたあと、私は鏡の前で何度もチェックした。よし、悪くない。そう自分に言い聞かせたあと、まだ眠っているクレアを起こすことにした。
「何?」
クレアは眠い目をこすりながら、私に言ってきた。
「そろそろ起きる時間だよ」
「まだ7時過ぎじゃん」
「モタモタしていると、遅くなるから早く着替えてちょうだい」
「はーい」
クレアは牛のようにノッソリと起き上がって、クローゼットから今日着ていく服を、眠そうな目で選んでいた。
「これにしようかな」
クローゼットから選んだのは、水色のワンピースだった。
「可愛い服じゃん」
「美鈴、今日やけにテンション高いね」
私が一言褒めたら、眠そうに返事をしてきた。
「靴は白いパンプスが似合うと思うよ」
「そう?」
私に言われて、クレアはクローゼットから白いパンプを選んだ。
「そろそろ食事に行こうか」
「もう食事?」
「だって、待ち合わせは9時でしょ? 食堂だってそろそろ混む時間になると思うよ」
「確かにそうだけど……。ルイーゼたち、まだ寝ているんじゃない?」
「もしかしたら、起きているかもしれないよ」
私はそう言って、309号室のドアをノックしたが、応答がなかった。まだ寝ているのかな。そう思って再びノックしようとしたら、ルイーゼがドアを開けて出てきた。
「おはよう、もしかして寝ていた?」
「うん……」
ルイーゼは眠そうな顔をして返事をした。
「9時に待ち合わせという約束だったから……」
私は少し控えめな声でルイーゼに言ってみた。
「本当は9時に一緒に食事するという意味だったの」
「ごめん、私の早とちりだった」
「気にしないで、私もちゃんと連絡をしなかったのがいけなかったから。今着替えてくるね」
「じゃあ、私部屋で待っているね」
私は一度部屋に戻って、ルイーゼが着替え終わるのを待つことにした。
「ルイーゼ、まだ寝ていた……」
「でしょ? だから言ったのに」
私の言ったことにクレアは呆れた顔で返事をした。
「やっぱ私の早とちりだった。9時に待ち合わせて、そのあとみんなで食事だって」
「なんとなくそう思っていたよ」
クレアは再び呆れた顔で返事をした。
「少し待つようになったね。本当にごめん……」
「気にしないで」
「あ、そうそう。談話室へ行ってみない?」
「談話室?」
「この宿舎にあるの」
「でも、ルイーゼたちはどうするの?」
「一言断ればいいんじゃない?」
「着替え終わったらどうするの?」
「それもそうか」
その時だった、ドアをノックする音が聞こえて、普段着姿のルイーゼとユナがやってきた。
「お待たせ、行こうか」
「ルイーゼの普段着って、ちょっとパンクぽくてかっこいい」
「そう? ありがとう」
ルイーゼは少し恥ずかしそうに答えていた。
「ユナのは、白いブラウスに黒いロングパンツで、大人ぽいね」
「ありがとう」
ユナは少し顔を赤くして、返事をした。
「じゃあ、ちょっと早いけど食堂へ行こうか」
私は、みんなと一緒に食堂へ行ってみると空席が目立っていたので、ハムエッグとトースト、オレンジジュースで朝食を済ませることにした。
食事を済ませて、部屋に戻っても時間が余っていたので、私たちは談話室で時間を過ごすことにした。
「宿舎の中にこんな部屋があったなんて、知らなかった」
ルイーゼは中に入るなり、驚いた表情であたりを見渡した。
「ねえ、こっちに本が並んでいるよ」
ユナは本棚に行って、一冊取り出して読み始めた。
「ねえ、本を読むのもいいけど、遊園地に行くんでしょ? 本を読んだら間に合わなくなるよ」
「大丈夫、まだ一時間はあるんだから」
私の心配などお構いなしに、ルイーゼはマイペースに返事をして、本を読み続けた。
時間が経つに連れて、私の不安は募るばかり。本当に今日は遊園地に行けるのか不安になってきた。
「ねえ、続きは戻ってからにしようよ」
私が不安そうに言っても、みんなはずっと本に夢中。仕方がないから、私はみんなの本を取り上げて、本棚に戻した。
「何すんのよ!」
クレアは少しご立腹ぎみで私に言ってきた。
「『何すんのよ!』じゃないでしょ? モタモタしていたら遊園地が終わるよ」
「わかったわよ」
クレアは私に言われ、ふてくされた態度で正面玄関へ向かった。
宿舎を出てから5分、私たちは街の中を歩いてみた。
「ねえ、あそこでゴミ拾いしているのって……」
クレアは禁止場所廃棄物不法投棄罪で捕まった囚人たちを見て指さした。
「そうよ。ポイ捨てをすると、こうなるの。さ、行きましょ」
「私も、あっちを担当したい」
「じゃあ、遊園地行くのやめて仕事する?」
「えー!」
「じゃあ、早く行きましょ」
私が意地悪そうに言ったら、クレアは子供みたいな声を上げてしまった。
「ねえ、先輩たちが言っていたスイーツの店って、ここのこと?」
今度はルイーゼが口を出してきた。
「そう、この店だよ。今日の帰りに寄ってみる?」
「たぶん、遊び疲れて無理っぽいから、明日にするよ」
私の意見にルイーゼは穏やかな表情で返事をした。
「今からしんみりとしていたら、楽しみが半減するよ」
ユナに注意されて、私たちは遊園地へと向かった。遊園地までは、坂を上らないといけない。こんな時、リフトがあればと思っていたが、こんな便利な乗り物は存在しなかった。
遊園地に着いて、私は入口で係員にチケットを見せて、みんなと一緒に中へ入った。
いろんなアトラクションがある中、最初に乗るのは言うまでもなく絶叫マシンだった。
「けっこう並んでいるね」
「人気があるからね……」
私が一言呟いたら、クレアも私に続くように呟いてきた。マシンから聞こえてくる叫び声に、私は少し緊張してしまった。その横でクレアも少し震えだしてきた。
「どうしたの?」
「少し緊張してきた」
「私も。ねえ、どうする? リタイヤする?」
「ううん、ここまで来たんだから乗るよ」
クレアは少し震えた声で私に言ってきた。
私たちの順番がやってきて乗ることになったが、よりにもよって一番先頭になってしまった。さすがの私も思わず驚いてしまった。安全バーを降ろして、前を見た瞬間、恐怖が高まってきた。ゴンドラはゆっくりと上がって、最上階に着いた瞬間、滝を降りるかのように、急スピードで降りていった。それと同時に私たちの絶叫も高まってきた。あまりの怖さで私は目をつむってしまった。ゴンドラは猛スピードで暗いトンネルに入った。天井に頭がぶつかりそう。私はとっさに頭を下げてしまった。急カーブ、猛スピード。私の頭の中までグルグルと回ってしまった。
トンネルの出口付近でスピードを緩め、ゴンドラはゆっくりと止まってしまった。私が降りようとした瞬間、クレアは半分気絶していた状態になっていた。
「クレア、起きて」
しかし起きる気配がなかった。
「お客様、もう終わりですよ」
今度は係員が起こしにやってきた。薄い目を開けた瞬間、目の前に係員がいたので、クレアはあわてて起き上がり、出口へと向かった。
「次、どこへ行く?」
ルイーゼがガイドマップを見ながらみんなに聞き出したら、「その前に少し休ませて」とクレアが顔色を悪くして言ってきた。
「もしかして、さっきので酔っぱらった?」
私は少しビックリして、クレアに聞き出した。
「どこかで休もうか」
ルイーゼはベンチで休める場所を探していた。
「あそこにベンチがあるわよ」
ユナが指をさそうとした時だった。
「あの……よかったら、救護室へご案内しましょうか」
女性スタッフに案内され、私たちは救護室へ向かうことにした。
「具合の悪いお客様をお連れしました」
「よし、ご苦労。下がっていいぞ」
目の前には、髪の長い女医が椅子に座って、私たちのほうに目を向けた。
「どうしたんだ?」
「実は……」
「何も言わなくてもいい。この症状からすると、絶叫マシンだろ」
「はい……。でもどうして?」
「実は、あなたたちの前にも絶叫マシンで酔った患者さんが来たんだよ」
女医さんはベッドのほうに指をさして、教えてくれた。
「あの、よかったらベッドで休ませてもらえませんか?」
「そうさせてあげたいのは山々なんだが、あいにくベッドが埋まっているんだよ」
私のお願いに女医さんは言いづらそうに断ってきた。ベッドは三人分、そのうち1人が9歳の女の子が横になっていた。
「では、私たちはそろそろ、失礼させていただきます」
私がそう言い出した瞬間だった。
「待ちな」
女医さんが私たちを引き留めた。
「奥に休憩用の長いソファがある。そこをベッド代わりに出来るから使ってくれ」
「ありがとうございます」
女医さんに案内され、私はクレアを奥にある黒いソファに休ませた。
「あと、これは酔い止め薬だ。気持ち悪くなった時に服用してくれ」
「ありがとうございます。それで代金は?」
「全部タダだ」
「ありがとうございます」
私は少し離れた給湯室にあるコップに水を入れたあと、クレアの所に持って、水と一緒に薬を飲ませた。
「どう、楽になった?」
「うん、さっきよりは」
「もう少し休んだ方がいいわ」
「えー、私もう平気だよ」
「また気持ち悪くなったら、どうするの?」
私に言われ、クレアは渋々と休むことにした。
あれから30分、クレアは深い眠りに入ってしまい、起きる気配がなくなってしまった。
「このあと、どうする?」
ルイーゼは少し曇った表情で私に聞いてきた。
「どうするって言われても……」
私は返事につまってしまった。
「子供でも楽しめそうなアトラクションってどう?」
今度はユナが提案してきた。
「それも視野に入れておくか」
私が返事をした直後だった。クレアがゆっくりと起き上がって、ボーっとしていた。
「体の具合はどう?」
「……」
しかし、クレアは無反応だった。
「今日は帰る?」
「せっかく来たんだし、もう少し遊びたい……」
「本当に大丈夫?」
「うん……」
「本人が大丈夫って言っているんだし、もう少しだけ遊ぼうか」
ルイーゼの一言で、もう少しだけ遊ぶことにした。
私たちは女医さんに一言お礼を言ってから、救護室をあとにした。
「私のせいで、楽しい休日を台無しにしてごめんね」
クレアは申し訳なさそうな顔をして、みんなに謝った。
「気にしないで。ただ、絶叫マシンが苦手なら次からそう言ってね」
私が表情を曇らせながら言ったら、「普段は大丈夫なのに……」と言い訳をぶつけてきた。
「私は気にしてないから大丈夫よ」
ルイーゼもフォローするように言ってきた。
「次はお化け屋敷に行こうか」
ユナの一言でお化け屋敷へ行くことにした。そこは廃病院をイメージしたものになっていて、入口には<〇〇病院>と書かれた血で染められた看板があった。
中へ入ってみると、薄明かりになっていて、体中包帯グルグル巻きになったお化けが出迎えてくれた。絶叫マシンとは違う怖さだったので、私は楽しかったのだが、またしてもクレアが私にしがみついてくる始末。
「あんた、仮にも看守なんだから、この程度で怖がってどうするのよ」
「だって、怖いものは怖いんだよ」
私はクレアの怯えた態度に呆れて何もいなくなってしまった。手術室に入ると、真っ黒いお化けが出迎えてくれた。それを見た私たちはいっせいに「キャー!!」と叫んでしまった。
「ほら、ご覧なさい。美鈴だって怖いくせに」
クレアは少し不満そうに私に言ってきた。極めつけは霊安室。謎の鎮魂歌が流れて、棺桶からお化けが出てきたので、さすがの私もこれを見た瞬間、言葉を失ってしまった。
「あれは強烈だったね」
お化け屋敷を出た最初の私の一言だった。
「でしょ?」
クレアも「ほらごらんなさい」と言わんばかりの顔で私に返事をした。
「しかし手術室といい、霊安室といい、かなり強烈だったよ」
ルイーゼも「してやられた」という顔をして呟いていた。
「最後の霊安室は圧巻だったよ。鎮魂歌が流れた瞬間、棺桶からお化けが出て来た時、目に焼き付いてしまったよ」
ユナも少し怯えた状態で話していた。
その後、メリーゴーランド、ティーカップなどを楽しんだあと、最後は観覧車でしめることにした。上から景色を眺めた瞬間、一日が終わるという寂しさが出てきた。それは「もっと遊びたい」という私の強い思いがこみ上げてきたからである。
「美鈴、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
「そうには見えないよ」
クレアは妙な所に勘が鋭かった。
「実は、観覧車に乗った瞬間、もう『一日が終わるんだな』という寂しい気持ちがこみ上げてきたの」
「そんなことなんだね。遊園地はまた来ればいいし、明日はみんなでスイーツ食べ放題なんだし、それなりに楽しもうよ」
「そうだね」
クレアの一言で私は少しだけ元気になれた気がした。
観覧車を降りて、数分経った時だった。
「ねえ、誰かカメラ持っている?」
私はみんなにカメラを持っていないか確認をした。
「カメラなら私持っているよ」
「4人で写らない?」
私はカメラを持ってきたルイーゼに記念撮影を提案した。
「それ、いいね」
ルイーゼは掃除係のスタッフにカメラを預けて、4人で写る態勢に入った。
「はい、撮りますよ。はい、チーズ!」
掃除係はその後何枚か写真を撮って、ルイーゼに返した。
「あとで、写真をみんなに配るから」
「それより、ソフトクリームを食べない?」
今度はユナが売店の方に指をさして言ってきた。
「でも、もう少ししたら夕食だけど……」
「甘いものは別腹」
ユナは私の意見などお構いなしに言ってきたので、みんなでソフトクリームを食べることにした。遊園地のソフトクリームは他と違って、特別に美味しく感じた。気がついたら私は夢中になってコーンまで食べてしまった。
「もう、食べたの!? はやっ!」
すでに食べ終わった私を見て、クレアはビックリしていた。
宿舎に戻って、部屋着姿で食堂へ行くと、なんだか美味しそうな匂いが漂ってきた。トレーを持って並んでみたら、その日のメニューはトマトソースのかかったハンバーグだった。こんなことならソフトクリームを食べるんじゃなかった。しかし、こうなっては後の祭り。ハンバーグとパンを持ってテーブルで食べることにした。
「おかえり。遊園地、どうだった?」
シンディが私たちに声をかけてきた。
「シンディ先輩、お疲れ様です。遊園地は散々でした」
「何があったの?」
私の一言にシンディは不思議がっていたので、今日一日の出来事を全部話した。
「あのお化け屋敷なら私も行ったよ。最後の霊安室の鎮魂歌、みんなビビるんだよね」
「シンディ先輩もですか?」
「うん。あと、手術室に現れる黒いお化けもかなりグロテスクだったでしょ?」
「シンディ先輩も苦手だったのですか?」
「っていうか、あのお化け屋敷はみんな怖がると思うよ」
「そうなんですね。あと、帰りに食べたソフトクリームが効いて、食欲がありません」
「自業自得だね。じゃあ、頑張って食べなさい。あと、明日スイーツ食べ放題に行くんでしょ? 食べ過ぎに気を付けてね」
シンディの意地悪な一言で、私たちは頑張ってハンバーグとパンを食べることにした。
「何とか食べきれた」
私はお腹をさすりながら呟いていた。
「部屋で少し休もうか」
クレアの一言で、私たちは部屋に戻ることにした。
「明日って何時ごろ行く?」
「ルイーゼに聞いて」
私がベッドで横になっているクレアに聞いたら、ルイーゼの部屋に行くように言われた。
部屋のドアをノックするなり、ルイーゼは完全に疲れ切った顔をしていた。
「どうしたの?」
「明日なんだけど、何時ごろにする?」
「昼過ぎでもいいんじゃない?」
「そうだね」
ルイーゼのいい加減な返事に私も同意してしまった。
再び部屋に戻ってクレアに報告したら、あっさりと了承してくれた。
「じゃあ、明かり消すよ」
「うん……」
私の一声にクレアは短く返事をした。
翌朝、またしてもみんなより早く目が覚めてしまったので、昨日と同じ服に着替えて、談話室で本を読むことにした。静かな上に誰もいない場所で本を読むのはとても最高だった。
私が本を読み始めてから20分くらい経過した時、談話室のドアが静かに開いたので、私は本を閉じてドアの方へ目を向けた。誰?私は警戒しながら、入ってくる相手を見ていた。
「おはよう……」
入ってきたのはクレアだった。
「クレア、なんでここに?」
私は驚いた表情でクレアに聞いた。
「だって、目を覚ましたら美鈴がいなかったから、もしかしたらと思って、ここに来たの」
「そうだったんだね」
「なんの本を読んでいるの?」
クレアは覗き込むような目で私の本を見た。
「これ、推理小説だよ。読み始めると止まらなくなるんだよ」
「私も読んでみようかな」
そう言ってクレアも本棚から推理小説を取り出して読み始めた。クレアはずっと黙々と読み始めていった。
さらに1時間後のことだった。今度はルイーゼとユナまでが入ってきて、いつの間にか読書に夢中になってしまった。
「ねえ、本に夢中になるのはいいけど、そろそろ食事に行った方がいいんじゃない?」
私が食事に誘ってもまったく反応がなかった。
「ねえ、食事に行こうよ」
「うるさいわね。美鈴1人で行ったら?」
「じゃあ、そうさせてもらうね」
クレアの冷たい返事を聞いた私は気分を害して、みんなを置いて食堂に行ってしまった。
私が1人で食事をしているころ、私がいないことに気がついた3人は、あわてて食堂へと向かった。
「ねえ、なんで、私たちを誘わなかったの?」
「呼んでも応答しないし、それどころか誰かさんが『1人で行ったら?』と冷たく返事をしてきたから、1人で済ませてきたのよ」
「少しくらい、待ってくれたってよかったのに」
クレアは完全にへそを曲げてしまった。
「そんなことを言うなら、本を読むのを辞めて私が『行く』と言ったときに一緒に来てくれる?」
「……」
しかし、クレアは何も言い返せなくなった。
「じゃあ、私は先に部屋へ戻って準備をするから、3人でゆっくり召し上がってきてちょうだい」
私に冷たく言われたクレアは何も言わずにルイーゼたちと一緒に食堂の中へと進んだ。
内心私も言い過ぎたと反省していた。でも、これくらいきつく言わないとまた同じことを繰り返すに違いない。私はそう思ってきつく言ってしまった。
部屋の洗面所で歯磨きと洗顔を終えたあと、ショルダーバッグにスイーツバイキングのチケットを入れて、雑誌を広げてクレアの戻りを待つことにした。
待つこと30分、戻ってくる気配がなかった。おかしいなあ。そう思って食堂へと向かったが、3人の姿は見えなかった。どこへ行ったのかな。もしかして、すれ違った可能性も高いと見て、再び部屋へ戻った。しかし、クレアはいなかった。ちょっと隣の部屋に行ってみよう。私はドアを数回ノックしてルイーゼたちの部屋に入ってみたが、誰もいなかった。もしかたらと思って談話室へと行ってみたら、案の定3人は読書に夢中だった。出発時間まで、まだ余裕があるから、しばらく部屋へ戻っていよう。
出発時間は昼過ぎだったはず。時計は10時を過ぎたところ。今頃、みんなは巡回をしたり、奴隷作業の監視をしているころ。ちょっと覗きに行ってみようかな。
私が制服に着替えようとしたその瞬間、クレアたちが戻ってきた。
「読書は終わったの?」
「うん、予定より早めるって」
「誰が言ったの?」
私は今一つ理解出来なかったので、思わず聞き返した。
「ルイーゼが」
「そうなんだ。じゃあ、そろそろ出ようか」
私とクレアが廊下に出た直後だった。ルイーゼとユナが待ち構えるかのように立っていた。
「お待たせ」
「こっちこそ、待たせてごめん」
ルイーゼは申し訳なさそうな顔をして私に謝ってきた。
「気にしないで」
私はルイーゼを必死になだめた。
「行こうか」
ユナが短く言い出したので、みんなで行くことにした。
この時間の街の中は人が少ないせいなのか、とても静かだった。
「ねえ、せっかくだし、いろんな場所を見に行かない?」
ルイーゼがそう言って、最初に向かったのは、コスメショップだった。
「このルージュ、綺麗だよね」
ルイーゼは店の中に置いてあるピンクのルージュを取り出して眺めていた。
「どれどれ」
クレアもルイーゼに釣られて、同じピンクのルージュを眺めていた。
その頃、私はユナと一緒にマスカラやファンデーション、チークなどを見ていた。
「このチーク、可愛いから次の休日の時につけてみようかな」
「おー!」
私がチークを手に取って眺めていたら、ユナが意外そうな顔をしていた。
「私、買ってくるね」
「え、マジ!? 私も買ってくる」
私とユナがチークを買って戻ると、ルイーゼとクレアはルージュを眺めていた。
「お客様、何かお探しですか?」
私が意地悪そうに言ったら、クレアはビックリして後ろを振り向いた。
「うわっ、ビックリした。店員かと思った」
「ピンクのルージュ買うの?」
「迷っているんだけどね……」
「どうするの?」
「買っちゃおうかな……」
「そうしたら?」
私に言われ、クレアはピンクのルージュを買ってきた。
「ルイーゼはどうするの? みんな買ってきたんだけど……」
ユナは少しイラだった感じでルイーゼに言ってきた。
「じゃあ、買ってくる」
ルイーゼがレジで会計を済ませたあと、ブティックやアクセサリーショップなど、はしごしていたら調度いい時間帯になっていた。
洋菓子店に入ってみると、すでにテーブルが埋まっている状態になっていて、少し待つことになった。待っている間、買ってきたものを眺めてみたり、世間話に夢中になっていら順番が来たので、テーブルに着くことにした。店員から注意事項を聞かされ、ケーキやプリンをなどを食べ始めた。
「どれも美味しい!」
クレアは後先のことを考えず、調子に乗って食べ続けた。
「ちょっと苦しくなったかも」
「ほら、こらんなさい」
私は呆れて何も言えなくなってしまった。
「これって、残すと反則金を払わされるみたいだよ」
ルイーゼも青ざめた感じで言ってきた。
「しょうがないから、私たちも少し手伝う?」
「そうだね」
私が助け舟を出そうとしたら、ルイーゼも少し呆れた表情をして、私に同意してきた。
「私が、ショートケーキ、ルイーゼがババロア、ユナがプリン、クレアがみかんゼリーでいいよね?」
そう言ったあと、みんなで食べて店を出ることにした。
「ふう、苦しい」
店を出たクレアの最初の一言だった。
「クレア、みんなに言うことあるんじゃないの?」
私に言われ、クレアは「ご迷惑をおかけしました」とボソっと謝った。
「今度は計画的に食べようね」
ルイーゼは苦笑いをして返事をした。
「おう、また一緒に食べような。今度は食べ過ぎないように気を付けろよ」
ユナもルイーゼに続くように言ってきた。
宿舎に戻って部屋着姿になった瞬間、私とクレアはベッドで横になった。スイーツを食べ過ぎたのか、食欲がなく、その日の夕食は抜きにした。
「休みってあっという間だったね」
私はベッドで横になりながら、一言呟いた。
「本当だね」
「明日からまた仕事となると、おっくうになる」
私の気分は完全に闇色に染められていた。
「また次の休みに備えて頑張ろうよ」
「そうだね」
クレアのもっともな言い方に私は短く返事をした。
「ねえ、人間ってなんで犯罪や迷惑行為をするんだろ」
「どうしたの? 急に」
私の突拍子のない発言にクレアは驚いていた。
「毎回思うんだけど、収容所に来て脱走するくらいなら、悪いことなんかしなければいいと思うんだよ」
「『ばれなければ平気』とか『これくらい、みんなもやっている』という甘い考えが、こういう結果になったと思うんだよ。本人は『それが普通』と思っている。しかし、された人たち、見ている人たちにとっては迷惑極まりない行為になるんだよ」
「だから保安官に捕まって、裁判にかけられてここに来るんだね」
クレアの話に私は納得しながら返事をした。
「ねえ、売店でパンでも買ってこようか」
クレアは急に起き上がって私を売店に誘ったので、一緒に売店に行くことした。
部屋に戻って、ジュースとサンドイッチを食べて少し経った時、眠気が襲ってきたので、そのままベッドで寝てしまった。
14話へ続く。




