12、謹慎+けんか=地獄
うっとしい長雨から解放されて一週間が経ったある日、久々の青空を見ることが出来た。その日も強い日差しの中、私とクレアは土砂採石場で囚人の監視を行なっていた。
「仮面の上からヘルメットとフェイスシールドはきつすぎるよ」
クレアが私に不満をぶつけてきた。
「我慢しなさい。この仮面のおかげで紫外線をカット出来ているんだから」
「そりゃあ、そうだけど……」
私の意見に納得していなかった。
「よし、休憩だ。お前たち水分補給しろ!」
私は用意された水を囚人たちに渡した。
「看守、この水ぬるくなっていますよ」
「文句があるなら飲むな!」
クレアは不満をぶつけた426号の男性囚人の水を取り上げて、地面に捨ててしまった。
「看守、いくらなんでもやりすぎですよ」
「お前も何か不満があるのか?」
「いえ、別に……」
「なら、さっさと水を飲んで作業しろ!」
クレアは鞭で威嚇して、作業をやらせた。
「なあ看守、少しだけ時間もらっていいか?」
「なんだ、言ってみろ」
「不満があるからと言って水を取り上げるのは、やりすぎではないですか?」
「少しは自分の立場をわきまえたらどうだ? なんで、ここに来たのか」
「……」
「早く答えろ!」
「罪を犯して、ここにやってきました……」
「わかっているではないか」
「426号、お前は何の容疑で来たのか、わかっているのか?」
「はい、業務妨害と器物損壊です……」
「なぜ、こんな事をした?」
「店の態度の悪さに問題があって……」
「それでカッとなってやったんだな?」
「はい……」
「お前のさっきの態度を見れば一目瞭然だ。鈴鬼、426号を懲罰にしろ」
「わかりました」
地下の懲罰房は比較的涼しかった。
「ほら、中に入れ!」
「看守、お水を」
「悪いが、お前に与える水は一滴もない。悪く思わないでくれ」
私は鉄の扉を強く閉めたあと、外に戻った。
「総員、異常なし!」
「ご苦労!」
クレアが異常がないことを報告してくれた。その日は気温が高いのか、囚人たちの動きが悪かった。その時、1人の囚人が手を休めてしまった。
「お前、早く手を動かせ!」
クレアが手を休めた囚人に厳しい一言をぶつけた直後だった。
「看守、無茶言わないでください。我々は道具ではありません。1人の人間として扱ってください」
424号の男性囚人がクレアに意見を言ってきた。
「お前、私に口答えをする気か?」
「口答えではありません。意見を言っただけです。確かに自分たちは外で多くの罪を犯しました。自分は禁止場所廃棄物不法投棄と注意妨害の罪でここにやってきました。だからと言って、道具のように扱うのは辞めてもらいたいです。この人はかなりの高齢だし、これ以上は限界が来ています。これで懲罰になるというのではあれば、自分が代わりに受けます」
424号のしっかりした口調にクレアは何も言えなくなってしまった。
私が424号に手錠をかけようとした瞬間だった。
「鈴鬼、待って」
「どうしたの?」
「424号の懲罰送りは保留にして」
「どうして?」
私はクレアの意見に今一つ納得できなかった。
「彼の意見も一理あるから……」
「クレアがそう言うなら……」
私は手錠をしまい込んだあと、424号を作業に戻した。
「それと、このおじいさん、熱中症の疑いがあるから、救護担当を手配して」
「わかりました……」
私が無線で救護担当を呼んだあと、おじいさんは担架で運ばれたが、医務室では手当てが出来ないため、そのあと医療収容所へ運ばれることになった。
さらに事態は悪化していた。私が事務所で書類の整理をしていた時だった。地下の懲罰房から緊急のサイレンが聞こえたので駆けつけてみると、食事を運んだ女性看守が426号が倒れていたことに驚いた。
「状況を聞かせてくれないか?」
私は近くの女性看守から状況を聞き出すことにした。
「私が食事を運んだら、ぐったりと倒れていました」
私は426号に近寄って脈を確認をしたら、まだ意識があったので、無線ですぐに救護担当を呼んだ。
「一日に2人も……。両方とも呼んだのは君じゃないか。どういうことか説明してくれないか?」
救護担当の男性は、少しいらだった感じで私に問い詰めてきた。
「昼間、水分補給のために水を与えたら、『ぬるくて飲めない』と不満をこぼしてきたので、男性囚人426号の水をその場で捨てて、そのあと懲罰送りにしました」
「あの、水を捨てたのは私です……」
私が救護担当に説明したら、クレアが口を挟んできた。
「君たちは人の命をなんだと思っているんだ!」
「申し訳ございません……」
「謝って済む問題じゃないだろ」
私が頭を下げて謝ったとたん、救護担当の怒りは頂点に達していた。
「君たちの看守長の名前は?」
「ユイさんです」
「わかった。あとで報告させてもらうよ」
救護担当は護送用の馬車で426号の男性囚人を、そのまま医療収容所へと運んで行った。
事務所へ戻り、私はユイさんに426号のことをすべて話すことにした。
「え、426号も倒れたの!?」
ユイさんは大きな声を出して驚いていた。
「すべて私の責任なんです……。どんな罰でも受けます……」
クレアは頭を下げて覚悟を決める体制に入っていた。
「それでしたら、私にも責任があります」
「まて、2人とも。まずは事情を聞かせてちょうだい」
私が口を挟んだ直後、ユイさんは426号が倒れたいきさつを聞き出すことにした。
土砂採石場で水を与えなかったこと、地下の懲罰房で426号が倒れたことなどを全部話した。
「こんな事があったんだね。わかった、ではこの件に関しては所長に報告しなければならないから、一緒についてきてくれないか」
「所長の部屋に行くのですか!?」
クレアは少し驚いた反応をしてしまった。
「君たちが原因で囚人が2人も倒れんたんだから、一緒に行くのは当然でしょ?」
「おっしゃる通りです……」
事実を言われ、クレアは何も言い返せなくなった。
「とにかく行くわよ」
ユイさんの一声で私とクレアは所長の部屋に行くことにした。部屋に近づくと、だんだん足どりが重くなってしまい、途中で逃げ出したい気持ちになってしまった。
部屋のドアに着いた瞬間、ユイさんが何のためらいもなしにノックしたので、思わず逃げ出そうとした。それを見たクレアは「逃げても無駄。覚悟を決めるわよ」と言って私の手首をつかんで、所長の部屋に入った。
「失礼しまーす」
「中へ入れ」
ユイさんが蚊の鳴くような小さい声で入ろうとしたら、所長のドスのきいた低い声が聞こえてきた。
「何の用で来た?」
「実は所長にご報告があって参りました」
「よし、言え」
その時だった。「失礼します。所長、お時間をちょうだいしてよろしいでしょうか」と救護担当の男性が中へ入ってきた。
「救護担当の君が何の用で来たんだ?」
所長は目を点にして聞き出した。
「あの……、この件でしたら、私が……」
「それでしたら、自分がすべてお話をします」
ユイさんが、口を出そうとした瞬間、救護担当の男性が口を挟んできた。
「どっちでもいいから、早く話せ!」
イライラが募った所長はユイさんと救護担当の男性に文句をぶつけたので、救護担当の男性がすべて話すことになった。
「話の内容はすべて把握した。救護担当、ご苦労であった。お前は自分の持ち場へ戻れ」
「それでは、失礼します」
話を聞いて納得した所長は彼を現場に戻したあと、目線をユイさんに向けた。
「こうなってしまったのは、ユイ、君の監督不行届ではないのかね?」
「おっしゃる通りです……」
ユイさんは頭を下げたまま、何も言えない状態でいた。
「君は、この2人にどんな指導をしてきた?」
「囚人に厳しくするようにと……」
「だからと言って、死刑じゃないんだから、死に追い詰める必用はあるのか?」
「いえ、そんなことは……」
「最初の1人目は作業中に熱中症で倒れ、次の2人目は懲罰房でグッタリとしていた。これが動かぬ証拠だ」
「あの、この件でしたら私にも責任があります。囚人426号が支給された水に不満をぶつけてきたので、私が取り上げて地面に流しました」
今度は今まで黙っていたクレアが口を挟んできた。
「なぜ、そこまでやった?」
「つい、感情が高まってしまって……」
「そういう場合、口頭で叱るだけでいい」
「申し訳ございません……」
「ユイ、部下の失態は上司にもあるんだぞ」
「おっしゃる通りです……」
「なら、明後日までに始末書を書いて俺の所まで持ってこい。鈴鬼とクレアに関しては今日と明日、宿舎で謹慎だ」
「私もユイさんのように始末書を書く必要は……」
「書きたいのか?」
私が最後まで言い終わらないうちに所長が聞き返してきた。
「いえ……」
「お前たちは新人だ。宿舎で反省していればいい。あとで寮母さんも伝えておくから」
「わかりました……」
「話は終わりだ。お前ら下がれ」
「失礼します」
ユイさんが短く断ったあと、私とクレアを連れて事務所へ連れて戻った。
「あなたたちは今から謹慎だから、このあと帰ってくれないか?」
「でも、業務が……」
「他の人に振るから」
私が業務のことを言おうとしたら、ユイさんは宿舎へ戻るように指示を出した。
宿舎へ戻って仮面とウィッグを外した私は、思わずため息を漏らしてしまった。
「ため息ついてどうしたの?」
「謹慎食らったの始めて……」
「あれだけ盛大にやればね」
クレアは苦笑いをしながら、私に答えていた。
「このあと、どうする?」
「はずは着替えたら?」
「あ、そうだった」
クレアに突っ込まれた私は部屋着姿になった。
「このあとどうする?」
ベッドに横になっていたクレアは私に聞いてきた。
「どうするって言われても……」
「外に出る?」
「寮母さんの許可が必用だよ。所長、寮母さんに私たちが謹慎食らったことを報告しているはずだから、交渉しても無駄だと思うよ。それとも寮母さんに黙って外に出る?」
「遠慮しておくよ」
クレアの外出計画はあっけなく終わってしまった。
「宿舎で謹慎ってことは、部屋から出るのは許されるんだよね?」
クレアは何か意味深なことを言い出してきた。
「何が言いたいの?」
「外出が無理なら、宿舎の中を探検するのは問題ないよね?」
「それって、雨の日でもやらなかった? 確か私がけがして休んだ時」
「そうだっけ? でも、もう一度やったっていいじゃん」
「それは構わないけどさ、私ら謹慎食らって宿舎にいるってことを忘れないでよね」
「わかっているって」
クレアの緊張感の無さに私は何も言えなくなってしまった。
「じゃあ、行こうか」
私は渋々とクレアに付き合うことにした。ドアを開けて廊下に出ようとした瞬間だった。
「2人とも今日は大変でしたね」
目の前に寮母さんがいた。
「寮母さん、巡回お疲れ様です」
私はとっさに寮母さんに挨拶をした。
「これから、どちらへお出かけですか?」
「実はちょっと……」
「ちょっと?」
「小腹がすいたので、食堂へ行ってみようかなと思いました」
「そう。わかっているとは思うけど、宿舎の外に出るのは禁じられているのはご存知ですよね?」
「はい」
「お食事も構いませんが、あなたたちは謹慎中の身であることを忘れずに」
「わかりました……」
寮母さんの厳しい言葉に私はトーンを下げて返事をした。去っていく寮母さんを見送ったあと、宿舎の中を歩き回ることにした。
「あれ、美鈴とクレアじゃない。どうしたの?」
「アリエス、久しぶり。今日は仕事どうしたの?」
私は正面からやってきたアリエスに思わず驚いた反応をしてしまった。
「私はルームメイトが体調を崩したから看病しているの。今、売店でパンやジュース、栄養剤を買ってきたところ」
「そうなんだ。病院には行ってきたの?」
「うん。一応薬をもらってきた。ところで、なんで2人がここにいるの?」
「実は私たち謹慎食らって……」
「何かやったの?」
「うん、囚人2人を医療収容所へ送ってしまったので……」
「マジ!? もしかしてケガを負わせた?」
「違う、熱中症にさせた……。それで、所長から明日まで謹慎食らったの……」
「マジかあ」
アリエスは私の話を聞くなり、驚いてばかりだった。
「それで、退屈しのぎに宿舎の中を探検していたの」
「そうなんだね。でも、部屋にいないと反省していないって思われるよ」
「そうだね。なるべく早めに戻るから」
「そうしな。じゃあ、私部屋へ戻るから」
「わかった。お大事に」
まさか、アリエスまで厳しいことを言ってくるなんて思わなかった。
食堂へ入ってみると、さすがに誰もいなかった。まるで自分たちだけの貸し切りみたいな感じになっていた。シーンとした食堂の中で私はケーキを食べることにしたが、静かすぎて何だか落ち着かなかった。
「なんか、落ち着かないね」
ケーキを食べ終えて、ジュースを飲んでいたクレアが一言呟き始めた。
「ジュースを飲んだら、部屋に戻ろうか」
ジュースを飲み終えて食器を片付けようとした瞬間だった。誰かが私の肩をポンっと叩いてきたので、後ろを振り向いたら、シンディたちが立っていた。
「シンディ先輩、お疲れ様です」
「あなたたち2人でサボリ?」
シンディは笑いながら私に言ってきた。
「違います。実は……」
「わかっている、謹慎になったんでしょ?」
「どうしてそれを?」
「もう噂になっているわよ」
シンディは笑いながら答えていた。
「なんで、謹慎食らったの?」
今度はレイラが口を挟んできた。
「実は囚人2人を熱中症にさせてしまって……」
「マジで!?」
クレアが重たい口をゆっくり開いて返事をしたら、シンディは大げさなリアクションをした。
「救護担当に叱られ、ユイさんにも叱られた……」
「そうなるよね。それで、とどめとして所長に謹慎食らったわけなんだね」
「はい……」
「そもそもなんで、2人も熱中症にさせたの?」
シンディの質問にクレアは今までの出来事を全部話した。
「なるほどね。でも、水を捨てるのはやりすぎだと思うよ」
「それなら、ユイさんにも同じことを言われました……」
「それで、何も飲ませないまま、地下の懲罰房に入れたら、ぐったりしていて、その囚人は医療収容所へ運ばれたってわけなんだね」
「はい……」
「もう過ぎたことなんだし、気にするな」
横から口を挟んだレイラにフォローされて、クレアは少しだけ明るくなった。
「じゃあ、私らはそろそろ仕事に戻るから」
「お疲れ様です」
私とクレアは仮面を着けたシンディとレイラを見送って、部屋へ戻ることにした。
「なんだか疲れた」
部屋に戻って、ベッドで横になりながら愚痴をこぼすような感じで呟いた。
「私もまさか一日で、いろんな人から文句をぶつけられるなんて思わなかった」
クレアも私に愚痴をこぼしてきた。
「私たち、文句を言われても当然だと思うの。一つ間違えていたら、あの囚人たちを死なせたかもしれないんだよ」
「そうだよね……」
私の言ったことにクレアは短く返事をした。
「ねえ、獄中で囚人を死なせたら、どうなるの?」
さらにクレアはベッドから起き上がって私に聞いてきた。
「事故や病気ならまだしも、私たちが死なせたらヤバイんじゃない?」
「だよね。この場合ってクビになるの?」
「さあ。私、こんなこと考えたこともなかったから……。とにかく気を付けようよ」
「うん……」
疲れが出たのか、私はそのまま寝てしまい、そして夢を見てしまった。夢の中で私は囚人になってしまった。暗くて狭い檻の中で、満足な食事も与えてくれず、ずっと怯えていた。仮面を着けた女性看守が檻の前を右往左往していたので、思い切って声をかけようとした。
「何の用だ」
女性看守は私に声をかけてきた。
「そろそろ、釈放してくれませんか?」
「だめだ、お前は2人の人間を死なせた」
「でも、他の人はすでに釈放されていますが……」
「他の人間は罪が軽いから釈放された。しかし、お前は違う。人を死なせた。悪いが、お前を死刑にすることになったよ」
「でも、私のは殺人ではなく事故で……」
「どんな理由でも人を死なせた以上、死刑にする決まりになっている。残念だが、明日お前は絞首刑になったよ」
「それだけは、勘弁してください」
その時だった。私の体が激しく揺れているのを感じた。
「美鈴、大丈夫?」
目を開けたらクレアがいて、その下にはルイーゼとユナもいた。私がゆっくり起き上がると、クレアが「酷くうなされていたけど、大丈夫だった?」と心配そうに声をかけてくれた。
「夢だったか……」
「どんな夢を見ていたの?」
「夢の中で、私が囚人になって死刑にされそうになったの……」
「それって、かなりヘビーな夢だったね」
「うん……」
「それで、さっきからうなされていたんだね」
今まで黙っていたルイーゼが口を挟んできた。
「お腹空いたことだし、食事に行こうか」
クレアはみんなを連れて、食堂へと向かった。
「ねえ、ちょっとだけ嫌な話をしてもいい?」
ルイーゼが言いづらそうに私とクレアに聞いてきた。
「どうしたの?」
私はパンをちぎりながら、ルイーゼに聞き返した。
「風の噂で聞いたけど、2人とも謹慎食らったんだって?」
「うん……」
「ごめん、嫌ならこの話題は持ち込まないから……」
私が短く返事をしたら、ルイーゼはとっさに謝った。
「気にしないで、私なら大丈夫だから……」
「私も」
クレアも便乗して口を挟んできた。
「よかったあ、もしかしたら怒られるかと思った」
「私なら大丈夫だよ」
「ありがとう」
私は今までのいきさつを全部話した。
「そんなことをしたの? 謹慎食らったとは聞いていたけど……」
ルイーゼは私の話を聞いて驚いていた。
「全部私が悪いの……」
クレアは声を低めて打ち明けた。
「でも、わざとやったわけじゃないし、囚人だって医療収容所へ運ばれたけど、死んだわけじゃないでしょ?」
ルイーゼはクレアにやさしくフォローしてあげた。
「うん……」
「だったら、元気を出しな。このスープさめたらまずくなるよ」
「2人も熱中症にさせた……」
「この話はもう終わり」
ルイーゼは無理やり話を終わらせて、スープを飲み始めた。
「そういえば、もうじき休日じゃん。2人は予定あるの?」
ユナは小さめな声で私とクレアに聞いてきた。
「私は特にない」
私はパンをちぎりながら返事をした。
「私も」
今度はそれに続くようにクレアも返事をした。
「予定表を見たら、私たちの部屋と美鈴たちの部屋、同じ日に休日が来るようになっているの。それで4人で一緒にどこかへ行かない?」
ルイーゼのテンションは上昇気味だった。
「いいよ。どうせなら遊園地や水族館、映画なんてどう?」
「さんせー!」
私が提案したら、今度はクレアのテンションが上がっていった。
「休みが二日あるし、一日目は街で買い物、二日目はどこかへ行くのはどう?」
今度はルイーゼが提案してきた。
「私はそれで賛成」
私が賛成したら、他の人も賛成した。
「今から楽しみ。仕事にも力が入りそう」
ルイーゼの頭の中はすでに休日になっていた。
「私とクレアは明日宿舎で謹慎で、明後日は謹慎解除の手続きがある」
「あ、そうか。それを忘れていたよ」
私が謹慎中のことを口にしたら、空気が一気に重たくなってしまった。
「じゃあ、休日の話は謹慎が解除されてからにしよ。じゃあ、私たちは明日も早いし、先に部屋へ戻るね」
「お前たち、囚人を大事にしろよ」
ルイーゼが部屋に戻ろうとした時、ユナも便乗して私たちに言ってきた。
「ユナって、あんな言い方をしなくてもいいのに」
部屋に戻る途中、クレアはブツブツと私に不満をこぼしていた。
「気にしなくていいから」
翌朝、私とクレアが少し遅めの朝食を済ませたあと、部屋に戻る前に宿舎の中を探検しようとしたら、正面から寮母さんがやってきた。
「寮母さん、お疲れ様です」
私はとっさに寮母さんに挨拶をした。
「お疲れ。随分と暇そうだね」
寮母さんは私にイヤミをぶつけてきた。
「いえ、そんなことは……」
「では、なんでこんな場所をうろついているの?」
「ちょっと暇だったので……」
「この先は、先輩たちのお部屋になります。用がないのでしたら、部屋に戻ってちょうだい」
「わかりました……」
「それと退屈なら、私の部屋に来てちょうだい。渡したいものがありますので……」
私とクレアは寮母さんの部屋に入るなり、大きめの封筒を差し出された。
「寮母さん、この封筒は?」
私は気になって寮母さんに質問をした。
「所長からで、あなたたちへの課題だそうです」
「わかりました……」
「他に聞きたいことは?」
「いえ、もうありません」
「なら、下がってちょいうだい」
「わかりました、失礼します」
部屋に戻って封筒から中身を取り出してみると、ホッチキスで抑えられている原稿用紙が二つあって、私とクレアの分、それぞれ1部ずつ用意されていた。さらにメモ用紙も入っていて、<謹慎中暇でしょうから、今回の反省文を書いて、俺の所まで提出するように 所長:ベアナード>と書かれていた。
「所長の嘘つき!」
突然、クレアが大声で怒鳴りだした。
「どうしたの?」
「所長、『何も出さない、謹慎中は宿舎でじっとしていろ』と言っていておきながら、しっかり課題を出しやがった」
「ユイさんの始末書よりマシだと思ったほうがいいよ。それに、今回の件も誰かが所長に言ったんじゃない?」
「誰かって誰のこと?」
クレアはイライラしながら私に聞いてきた。
「わからない、たぶん寮母さんじゃない?」
「あのクソババア、絶対に許さない」
「今さら興奮して怒っても仕方がないから、早く終わらせよう。さすがに宿舎にいて何もやらないとヤバいと思うよ」
「それもそうだね」
今まで興奮していたクレアは、あっさりと素直になって私と一緒に机で反省文を書き始めた。いざ書こうと思ったら、なかなか思いつかない。書き始めてから5分もしないうちにクレアは立ち上がって、廊下へ出てしまった。
「クレア、どこへ行くの?」
「ちょっと売店に行ってくる」
「反省文は?」
「戻ってから書く」
私の注意も聞かずに、クレアは廊下に出て、そのまま歩いて行ってしまった。
「なんて書けばいいんだ?」
私は独り言を呟きながら、ずっと考えていた。とりあえず、適当に書こうっと。そう思った瞬間だった。
「クレア早かったじゃない」
私は戻ってきたクレアを見た瞬間、驚いて一声かけてしまった。
「売店に行こうとしたら、寮母さんが廊下をうろついていたから、部屋に戻ってきた」
「そのほうがいいと思うよ」
「うん……」
「寮母さん、今日はずっとこんな感じだと思うよ」
「そうだね……」
クレアもついに諦めて、課題に取り掛かることにした。
反省文って小学校以来だった。当時、掃除をサボって先生に叱られて反省文を書かされてしまったことがあった。
そう思っていたら、かれこれ40分以上も経ってしまった。
「ねえ、こういうのって適当に書けばいいんじゃない?」
私が一生懸命考えていたら、クレアが突然、いい加減なことを口に出してきた。
「適当って何を書けばいいの?」
「熱中症になったのは、『囚人の体調管理が悪かったから』とか……」
「じゃあ、クレアが水を捨てたことは、どのように説明するの?」
「あ、そうか……」
話は再び振り出しに戻った。
「とにかく今回の件は私たちが悪いんだし、きちんと書いて明日ユイさんと一緒に提出しよう」
「所長に直接提出したらダメなの?」
「また面倒なことになるし、提出はユイさんを通してからの方がいいんじゃない?」
「ちょっと待って。この反省文って所長が寮母さんを通して渡してきたから、ユイさんじゃなくて、寮母さんに提出したほうがいいんじゃない?」
「それもそうか」
私は短く返事をしたあと、黙々と書き始めた。なかなか思いつかない。心の中でブツブツと呟きながら書き続けた。
反省文を書き終えたのは午後1時過ぎだった。
「終わったー!」
私はそう言って、寮母さんの部屋に行こうとした時だった。
「ちょっと待って」
「クレア、まだ終わってないの?」
「あともう少し」
クレアは最後のほうになって苦戦していた。
「もう少しなんだから、頑張ってよ」
「わかっているけど、最後が思いつかないんだよ」
「だったら最後は『今後はこのような失態を起こさぬよう、細心の注意を払って指導に努めていきます』と書いて終わらせればいいんじゃない?」
「なるほど、ありがとう」
私とクレアは書き終えた原稿用紙を封筒の中に入れて寮母さんの部屋へと向かった。
ドアの前に立つと、やはり緊張する。私はドアを数回ノックして部屋に入ることにした。
「失礼します。反省文を提出しに来ました」
「それだったら、私ではなく看守長を通して所長に提出してくれる?」
「わかりました……」
私とクレアは一度部屋に戻ることにした。
「やっぱ、ユイさんに提出するんだね」
クレアは不満をこぼしながら、私に言ってきた。
「そうだね……」
私もベッドで横になりながら短く返事をした。
「ねえ、お腹がすいたし、食堂へ行かない?」
クレアが私と一緒に食堂へ行くように促してきた。
「そうだね。反省文を書いたら、お腹がすいたよ」
食堂へ行ってみると、昼休みが終わったのか、空席が目立っていた。
「2人とも、お疲れ」
正面から食事を終えた、シンディたちがやってきた。
「お疲れ様です」
「謹慎ライフ楽しんでいる?」
シンディは冗談まじりで私に言ってきた。
「どうって、今まで反省文を書かされていました」
「マジ!? 誰に?」
「所長から……」
「所長はそんなことする人間じゃないけどな……」
「でも、寮母さんが『所長からの課題』と言って、私たちに原稿用紙を渡してきたのです」
「だとすると、考えられるのは寮母さんが所長に頼んだ可能性が高いと思うよ。あなたたち、宿舎の中をうろついていたでしょ? だから、寮母さんが暇つぶしに課題を頼んだはずだと思うよ」
「私もそう思いました」
「それで、反省文は出来上がったの?」
「はい。さっき寮母さんの部屋に提出しようとしたら、『看守長を通して所長に提出しなさい』って言われました」
「そうなったんだね」
シンディは苦笑いをして返事をした。
「じゃあ、私たちはこのあと仕事だから、残り少ない謹慎ライフを楽しんでよ」
シンディが仮面を着けて食堂を出たら、それに続くようにレイラも出て行った。
「謹慎ライフって何よ」
クレアは独り言のようにブツブツと呟いていた。
「先輩のジョークなんだから気にしない」
「確かにそうだけど……」
クレアは今一つ納得していなかった。
さらに食事をしようとした時だった。「よかったら同席していい?」と聞き覚えのある女の子の声が聞こえたので、私が後ろを振り向くと、ルイーゼとユナがやってきた。
「これから、食事?」
ルイーゼは私に声をかけるなり、4人席に座った。
「うん、ルイーゼはこれから昼休みなの?」
私は意外そうな顔をして声をかけた。
「まあね。1人、横柄な態度をとった囚人がいたから懲罰送りにしたんだよ」
「そうなんだね」
「仮面をはがそうとした囚人っていた?」
「私の時はそういう囚人はいなかったよ」
「そうなんだね」
「それより、課題終わったの?」
「うん、なんとかね。今日寮母さんに提出しようとしたら、ユイさんに提出するように言われた」
「一つ聞くけど、なんで寮母さんに提出しようとしたの?」
「課題を持ってきたのが寮母さんだったから……」
「だからと言って、寮母さんに提出はヤバいんじゃないの?」
「なんでヤバいの?」
「課題を渡したのは確かに寮母さんかもしれないけど、それを用意したのは所長なんでしょ?」
「うん……」
「だったら、ユイさん経由で所長に提出したほうが良かったんじゃない?」
「確かに……」
私はルイーゼの意見にこれ以上、何も言えなくなってしまった。
「寮母さんは、あくまで所長に頼まれて、課題を持ってきたんでしょ?」
「うん……」
「だったら、寮母さんは関係ないと思うよ」
「わかった……」
「ルイーゼ、さっきから同じこと言っている……っていうかウザイ」
今まで黙っていたユナが口を挟んできた。
「別にそこまで言ったつもりは……」
「あったんでしょ?」
「そんなことないわよ」
「ならいいけど……」
4人で食事を終えて、私が休日の予定を立てようとしたら、「ごめん、これから仕事だから、終わったらゆっくり話そう」と言って、ルイーゼはユナを連れていなくなってしまった。
「慌ただしい感じだったね」
私が独り言のように呟くと、クレアが「あの2人、ちょっと様子が変じゃなかった?」と、疑いをかけたような感じで言ってきた。
「変というと?」
私は今一つ理解していなかった。
「あの2人、おそらくだけど、けんかしているはずだと思うよ」
「なんで?」
「ユナがルイーゼの言ったことにけんか腰だったから」
「なるほど、確かに」
「夕方、あの2人機嫌が悪いはずだから、食事は私らだけにしない?」
「そうだね……」
私とクレアはそのまま部屋に戻って、夕方まで時間をつぶすことにした。
その日の夕方、食堂が混まないうちに2人で行こうとした時だった。廊下を歩いていたら、正面から仮面とウィッグを着けたルイーゼとユナの姿が見えた。
「お疲れ、今終わったの?」
「うん」
「相当疲れているみたいだね」
「……」
「ルイーゼ? どうしたの?」
私はルイーゼの反応が気にって仕方がなかった。
「もしかして、機嫌が悪い?」
「別に美鈴が気にすることないから」
ルイーゼは不貞腐れた態度で部屋に戻ってしまった。
その日の私はクレアと2人きりの食事だった。なんだか寂しい。
「どうしたの?」
心配したクレアは私に声をかけてきた。
「ううん、大丈夫だよ」
「そうには見えないわよ。もしかして、ルイーゼの態度が気になった?」
「ちょっとだけね」
「気にすることないよ。私らに関係ないことだし」
「そうだよね。ああいうのは気が済むまで怒らせておけばいいから」
「わかった」
食事を終えて、私とクレアが部屋に戻る時だった。またしてもルイーゼたちに会った。
「おつかれ、今から食事?」
「そうよ。謹慎を食らった誰かさんと違って、私たちはこれからなの。じゃあね」
ルイーゼはそう言って、ユナを連れていなくなった。
「あんな言い方をしなくてもいいのに」
私はつい口に出してしまった。
「気にしないで行こう」
クレアは私の腕を引いて急ぐように部屋へ戻った。
「なんなの、今の言い方」
私はベッドで横になって、ルイーゼに対する怒りを吐き続けていた。
「怒っても仕方ないよ。きっと何かあったはずだから」
「何かって何?」
「私に当たらなくてもいいじゃん」
私はついクレアに当たってしまった。
「ごめん、クレア……」
「きっと何かあったと思うんだよ。だから、それまで放っておこうよ」
「わかった……」
その日の私たちは、何もやることがなくなったから寝ることにした。
翌朝、私とクレアは制服に着替えて、仮面とウィッグを着けたあと、課題を持って鉄の扉へと向かうことにした。
廊下を歩いていたら、後ろから誰かが私の肩を数回軽く叩いてきたので、振り向いたらルイーゼたちがいた。
「鈴鬼、ちょっとだけいい?」
ルイーゼは少し遠慮がちに私に声をかけてきた。
「どうしたの?」
「実は昨日のことなんだけど……」
「昨日の事って?」
仮面越しからルイーゼの申し訳なさが伝わってくる。しかし、私は簡単に許すつもりはなかった。
「昨日私がとった態度で、まだ怒っているなら謝るよ。本当にごめん……」
ルイーゼは私に頭を下げて謝ってきた。
「私が昨日、どんな気分でいたか、わかっている?」
「ものすごく怒っていた」
「じゃあ、なんで怒っていたのか言ってちょうだい」
「それは、その……」
私の怒りに対してルイーゼは返事につまっていた。
「どうしたの? 私が怒っている理由がわかっているなら、すぐに言えるはずでしょ?」
「私が鈴鬼に冷たい言い方をしたから……」
「じゃあ、なんで、あんな言い方をしたのか、教えてちょうだい」
「実は、昨日囚人に振り回されていて、なおかつ鈴鬼とクレアが謹慎食らっていて、イライラが募っていたから……」
「それで、私に当たるような言い方をしたわけ? それと私の謹慎をなんだと思っていたの?」
「当たるつもりはなかったけど……」
「けど?」
「私の中のイライラが収まらくなって……」
「それで私に八つ当たりをしたってわけね」
「はい……」
「最低よね。もう一つ聞くけど、私とクレアの謹慎、なんだと思っていたの? それも聞かせてちょうだい」
その時だった。「鬼鈴、この辺にしてあげて」とクレアが止めに入ってきた。
「なんで?」
「寮母さんが……」
私がルイーゼを責めていたら、寮母さんがやってきた。
「朝からなんの騒ぎです?」
「寮母さん、おはようございます」
「何か揉め事があったようですが……」
「いえ、たいしたことではありません……」
「どんな内容か聞かせてくれる?」
私はもめ事の内容を寮母さんにすべて話した。
「だいたいの事情は飲みこめた。だからと言って、廊下で大声を出すのは不謹慎極まりない。少しは他の人の迷惑も考えてちょうだい」
「申し訳ございません」
私は去ってゆく寮母さんに頭を下げて謝った。
「大声出して、ごめん……」
「いいよ、もとはと言えば私が全部悪いから……。このお詫びは休日に必ずするよ」
ルイーゼと仲直りをしたあと、私は鉄の扉の向こうへと歩き出した。
事務所へ入って、私は謹慎解除の手続きを始めた。
「昨日書いた反省文です」
私は2人の反省文が入っている封筒をユイさんに渡した。
「こんな指示出してないけど……」
「実は、謹慎中に所長が寮母さんを通して出してきた課題なんです。出来上がったら、看守長に提出するようにという指示を寮母さんから頂きました……」
「そう言うことなんだね。わかった、これから所長の部屋に行って提出してこよう。私も始末書を提出する所だったし」
ユイさんは私とクレアを所長の部屋まで連れて行った。
「どうしよう、緊張してきた」
「ユイさんも緊張するのですね」
「当たり前でしょ、私だって緊張するわよ」
私が意外そうに反応したら、ユイさんはむきになって返事をした。
「確かに、あの体格で怒鳴られたら、かなりの迫力がありますよね」
今度はクレアが冗談交じりで言ってきた。
「一応、言っておく。あなたたちに後輩ができたら、私のように地獄を味わうわよ」
「地獄って言うと?」
「後輩がやったミスを自分たちが叱られるってこと」
それを聞いて私は少しぞっとしてしまった。
所長室の前で、私たちは立ち止まってしまった。ユイさんはノックしようとした時、心の準備が出来ていないらしく、ノックする手を止めてしまった。
「ユイさん、ノックをされないのですか?」
「するけど、まだ心の準備が出来ていないのよ」
数分が経って、ユイさんはやっと覚悟を決めて、数回ノックして中に入った。
「失礼します。看守長のユイです」
「わかっている。こんな場所でつっ立っていないで、早く中へ入れ」
所長に言われ、私たちは奥へと進んで行った。
「所長、今回の始末書と部下たちが書いた反省文です」
所長は無言で両方受け取って、中身をチェックした。
「お前、今回の件、本当に反省しているのか?」
「と、言いますと?」
ユイさんは今一つ納得していなかった。
「中身読ませてもらったけど、明らかに責任逃れじゃないか」
「申し訳ございません……」
「『把握していなかったから、事故が発生した』こんなもん当たり前だ!」
「おっしゃる通りです……」
「俺が言いたいのは、今後どのような対策が必用なのか知りたいんだ!」
「はい……」
「とにかく、明日まで書き直してこい。それと鈴鬼とクレア、反省文を読ませてもらったよ。小学校の作文じゃないんだから、もっと具体的なことを書け。まあ、今回は俺のとっさの思いつきでやらせた事だから、半分は俺にも責任がある。社会人なんだし、もう少し誰にでもわかる内容で書け」
「申し訳不ございません……」
私はその場で所長に頭を下げて謝った。
「それで、今回の反省文は書き直しとなるのですか?」
「もう一度書きたいのか?」
クレアが言い出したら、所長は少し意地悪そうに聞き返した。
「いえ……」
「だったら、こんな質問するな」
「わかりました」
「次、同じような内容だったら容赦なく書き直しをさせるから、そのつもりでいるように」
「はい」
所長の厳しい言葉にクレアは短く返事をした。
「クレアに質問するが、なんで囚人の水を捨てた?」
所長は突然なんの前触れもなく、クレアに質問してきた。
「426号の囚人が支給された水に不満をぶつけたからです……」
「なるほどねえ。例えば自分が426号の囚人だったら?」
「と、言いますと?」
「看守に水を取り上げれた上に地面に捨てられたら、どんな気分を味わうかと聞いているんだ」
「看守でも許せない気持ちになります……」
「その許せないことを君はやったんだよ。しかも、地下の懲罰房へ入れるなんて、理不尽にもほどがあるよ」
「申し訳ございません……」
「ま、済んだことを責めていても始まらない。今後はやりすぎないよう、気を着けたまえ」
「はい……」
そのあと、所長は無線を使ってルイーゼを呼んだ。待つこと数分、ルイーゼはユナと一緒にやってきた。
「なぜ、ユナまでやってきた。呼んだのはルイーゼだけのはずだ」
「申し訳ございません……」
ルイーゼはその場で所長に頭を下げて謝った。
「ユナまで来たら、囚人は誰が監視しているんだ?」
「男性看守が代わりに入ってくれました」
「わかった、いいだろう。それで、なんで呼ばれたか知っているか?」
「いえ、知りません……」
「寮母さんから話を聞いたけど、宿舎の廊下で鈴鬼といざこざになったんだって?」
「それは、宿舎の中での話で……」
「宿舎も収容所も似たようなもんだろ」
「はい、おっしゃる通りです……」
「それで、いざこざの原因はなんだ?」
ルイーゼは昨日の夕方からの出来事をすべて所長に細かく話し続けた。
「なるほどね……。そもそも原因は君じゃないか」
「はい……」
「君がやっていることは完全に八つ当たりだよ。逆の立場になったら、どんな気分を味わうか考えたことがあるか?」
「不愉快な思いになります」
「自分が不愉快な思いになることを君はやってしまったんだよ。それはわかるかね?」
「はい……」
「本当に?」
「はい……」
ルイーゼが下を向いてしまったので、所長はイラだっていた。
「私が取った態度で鈴鬼さんに不愉快な思いをさせたのは確かです……」
「そう思っているなら、本人にきちんと謝ったら?」
所長に言われ、ルイーゼは私に「私の態度で不愉快な思いにさせて、ごめんなさい……」と謝ってきた。私も「今朝は言い過ぎて、ごめんなさい」と謝った。
「じゃあ、この件は終わりでいいよな?」
所長は少し疲れた顔をして、話を終わらせようとした。
「ご迷惑をおかけして、すみませんでした」
ルイーゼは再び頭を下げて謝った。
「俺は迷惑をしていない。これは君たちの問題だろ。だったら、あとは自分たちでどうにかしてくれ。俺はこのあと予定があるんだ。早く部屋から出てくれないか」
所長の部屋を出てから数分後のことだった。
「鈴鬼、ごめんね……」
ルイーゼは再び謝ってきた。
「私はもう気にしてないから……」
「ありがとう」
「じゃあ、これで仲直りだね。2人とも握手をして」
ユイさんが横から口を挟んできて、私とルイーゼは握手して終わりになった。
「仕事が終わったら、休日の打ち合わせでもしようか」
ルイーゼはすっかり元気になって、休日の話を持ち掛けようとした。
「仕事が終わってからね」
私も念を押すようにルイーゼに言った。そして、このあと私たちに楽しい休日が始まろうとしていた。
13話へ続く




