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この国の名は、ルサンドリア王国という。

大陸にある、8つの国家の一つだ。

王国だから、国王がいて、貴族や、国教の聖職者が幅を利かせている。

他国も、トップの名称は変われど、政治形態については似たり寄ったりだ。

国教の指導者イコール国の指導者だとか、国王ならぬ皇帝を名乗っていたりとか。

カイの判定では、中世から近世への過渡期あたりだろう。


国家の他に、力を蓄えてきた商人たちによる自治が行われている都市も複数ある。

国家の枠を超えた通商連合や、有力貴族により独立自治されている領地もあったりと、産業革命へ向かう道筋が作り出されているものの、この世界には、魔法がある。

カイの知る世界にも魔法はあったか、ここのように、産業構造に深くかかわるほど、一般的ではなかった。


殆どの国民は、多かれ少なかれ魔法が使える。ただし、その力はピンキリだ。

一部の王侯貴族は、戦力としてカウント可能なほど強大な魔法を操り、更に一握りは、核兵器相当の破壊力を操る。

ただ、強大な力は制御も難しい。

実際、過去には、魔力の暴走で滅んだ都市が複数あったという。


「まだ廃墟のままのところもあるんだ。魔力残渣はケガレと呼ばれて、100年以上も残るからな。短時間なら大丈夫だか、」

放射能みたいなものだろうか。


「今日行くとこは、そんな場所だ。」

黒猫と魔法使いは、草地の真ん中を走る街道にいた。探し物の仕事とかで、朝食後すぐに出発して2時間。

朝ごはん、材料は素朴だが、とにかく美味かった。カイは気をよくして、二つ返事で同行を承諾したのだ。

ひたすら歩き続けてきたが、目的地はまだ見えない。

魔法の世界なのに、手っ取り早い移動手段はないそうだ。但し。

「公式にはそうなってるが、実際は、金と権力がある連中が、独占してやがる。そのせいで、姉さんは死んだ。」

苦い表情だった。何があったんだろう?


「俺には、歳の離れた姉がいてさ。彼女は、俺と違って優秀だったんだ。魔力が強かったから、魔力メイドとして領主の屋敷で働いていた。で、過労死だったよ。

領主一族は、首都へ遊びに行くために移動魔法陣を使う。深夜早朝お構いなしだ。」


過労死。他人事じゃないと、カイは思う。

ウチのご主人たら、人使いの荒さがハンパないし、手抜きは100%バレる。

時々、心を読まれてんじゃないか、と、不安になるレベルで。


黒猫は、ダリウスの前に回り込み、座って、深くお辞儀した。

「お姉様は、本当にお気の毒でした。で、魔力メイドってなに?」

「使い魔のくせに知らないのか。変わってんなー、おまえ。魔法陣は、それだけじゃ役に立たないだろ。だから、魔力の強い使用人を雇うのさ。当たり前だろう?」

ダリウスは呆れ顔だ。

使用の都度、魔力が必要らしい。


「それなんだけど、どうやらボクのいたところは、こことは違う世界なんだと思う。そこじゃ、魔法はこんなにありふれてなかったし、魔法使いは凄く数が少なかった。力も、戦争に使えるレベルじゃない。」


ただの空間転移でなく、異世界間移動。

それがカイの結論だった。

時間軸もズレているかもしれないが、そこはカイにとってどうでもよかった。

しかし、異世界間の移動となると・・・


ダリウスは首を傾げた。

「魔法使いが珍しい世界から来たって?

異世界から来たなら、お前に魔法がかからないのは納得だ。

しかし、ここでも、自分から喋る使い魔なんて、珍しいそ?伝言が出来る程度のなら、いくらもいるが、お前みたいなのを従えてるのは、王族クラスでも稀だろう。

人前では喋るなよ?はぐれ使い魔は高く売れるからなあ。まして、知能が高くて喋る、魔法耐性完璧となりゃ、売り飛ばそうとする奴らがわんさといる。

一体、お前のご主人って、何者だ?」


「変わった人ではあるかな。僕らのいた所では、鉄の機械が、空やもっと高い場所を高速で飛び、地面を走り、水上や海中を行き交っているけど、これらは魔法と全く関わりがないんだな。

武器や兵器もね。大陸ごと吹き飛ばすような、強力なものもある。でも、ボクのご主人(?)は、剣を使う。ホント、時代おくれでさ。変わってるよね。」


「剣?杖ですらなく?それは確かに変人だな。まあ、ここにもソードマスターとか呼ばれてるヤツはいるが。」

カイは、ちょっと首をかしげた。

気のせいかもしれないけど、今の表情は?


「ダリウスは、ソードマスターが嫌いなの?」

魔法使いが答えるまでに、間があった。

「好き嫌いじゃないが。・・ここの剣士は、魔力耐性が強く、更に剣に魔力を付与する。だから、威力は普通の剣より高くなるし、戦争で活躍もしている。行くぞ。」

ダリウスは、歩き出した。

何となく話を逸らされた感がある。

話したくないなら、仕方ないか。


更に30分も歩くと、地平線に街らしきものが見えてきた。カイたちが歩いてきた道は、まっすぐそこへ向かっている。

だが、道の整備はされていないようで、形が崩れ、雑草に飲み込まれかけている場所も多かった。両側からじわじわと森が迫ってもいる。やがて、この街道は、すっかり植物に飲み込まれてしまうのだろう。

ダリウスは立ち止まって、廃墟を指差す。


「あれが目的地だ。滅んでから6年か。

ああなった町は、地図から消え、その名は、声に出して呼んではいけなくなる。呪われるからな。」

「ふーん。で、なんで街?」

「おまっ!ひとの話きいてたか?」

カイはしれっと、しっぽを揺らした。

潤んだ無邪気な目に、猫的カワイイの全てを込めて、魔法使いを見上げる。

我ながら、あざといスキルを身につけたものだ、と、カイは内心自画自賛した。

「だって、あんた呪いなんて、信じてないじゃん。」

と、ダメ出し。

よし、落とした!


「メルカだ。ここは、メルカの町だった。今は、ただの廃墟だ。」

ざらついた、苦しげな声音。

何かを必死に堪えるような。

ダリウスと、何か因縁がありそうな廃墟の町。

だが、カイは、そこに、気になる状況を見つけていた。一見すると、人気はないが。

カイは、あざとかわいいお芝居をやめた。


「廃墟、って言ったよね?なら、なんで、20人以上の人がいるの?」

「なっ?!」

ダリウスはかなり驚いた様子だ。

「落ち着いて。あのさ、ボクには特殊能力があるんだ。意識を外に広げて、生き物の気配を調べることが出来る。

問題は、廃墟の連中は、隠れてこの街道を見張ってるってこと。まるで、誰かを待ち構えるように、ね。

ああ、あっちをみないで、ダリウス。

それから、5キロばかり後ろから、騎馬が数騎来る。

・・・武装してるっぽいな。

ダリウス、誰かに狙われる覚えある?」

ダリウスは、首を横に振った。

「俺目当てなら、家を襲うだろ。」

カイは頷いた。ならば。

「巻き添えはごめんだな。街道を外れた方がいい。あの森だ。ボクについてきて。」

言うなり駆け出す。

ダリウスが、走る。

脚の故障はあるが、案外素早い。

逃げたペットを追いかける飼い主の図。


「その調子。あんたいい飼い主になれるよ。」

「飼い主は、もう居るんだろ。俺は、お前の相棒だ。臨時だが。」

「相棒、か。なんかいい響き。よろしくね、相棒!」

「ああ、宜しくな、相棒!」


黒猫と魔法使いは、一緒に森に飛び込んだ。


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