真夜中のオーロラ
「見えてきたね。」
「ああ。さっさと終わらせるぞ。」
「賛成。」
黒猫と魔法使いは、更に接近する。
三人の男達が、小さな小屋の横にいる。
全員が立っていた。うちの1人が、呪文を詠唱する声が聞こえるところで、1人と一匹は立ち止まった。
「さて。どうするの?ボクは、励起されたマジックアイテムを抑えるけど、それ以外に何をすればいい?」
ダリウスは、静かに笑った。どこか獰猛さを感じさせる笑顔だ。
らしくないよね。
カイは、内心、そっとため息をつく。
アーティファクト。人間たちは、いとも簡単に魅せられてしまう。なぜ、道具に過ぎないものに強く影響を受け、時には、
命まで掛けてそれを手に入れようとするのだろう?
「それで充分だ。あとは、俺がやる。」
「わかった。」
カイは、シールドを変形、拡大した。
敵は無論、リーンたちから存在を隠蔽するためのマジックシールドを展開していた訳だが、それごと一旦取り込む。
隠蔽のシールドなので、攻撃系魔法や物理に対する耐性はない。
同時に詠唱が終わる。
直後、ダリウスが動いた。
ためらいなく3人に、特にマディハン総支配人に向けて。
彼らが招かれざる客に気付くと同時に声を掛ける。
「こんな時刻に、こんな場所で何をしているんです?商会のお歴々が?」
3人に動揺が走る。
3人目は、カウンターにいた買取り係の男だった。すぐにダリウスと、武器に気付いたようだ。
「ダ、ダリウスさん?あなたこそ、どうしたんですか?剣なんか持って?」
彼は、ダリウスと上司達を交互に見ながら、ジリジリと後ずさった。
総支配人が、一歩前に出る。
「お前は、騎士どもの仲間か?」
「だったら?」
ダリウスの答えを、マディハンは鼻先で笑った。
「誰だろうと構わない。もう手遅れだ。だが、お前たちには、ここで死んで貰う。」
「お前たちって、ボクとダリウスって意味じゃないよね。」
カイがのんびりと茶々を入れた。
「ああ。違うようだな。」
ダリウスもまた淡々と答える。
男達は、喋る黒猫に驚愕の視線を向けた。
が、それも一瞬。
マディハンが無言で動く。
詠唱なしで発動したのは、致死性の呪いだ。予め所持していた護身具だろう。
マディハンには、一刻も早くここから離れる必要があった。
口封じに手間取っている暇はないはずだ。
「!」異口同音、支店長とカウンター係が、声にならない悲鳴を飲み込む。
必殺の呪いは、だが、アッサリかき消えた。黒猫が、その場にちょこんと座って尻尾を揺らしだ。
「もう!危ないなあ。ボクらはいいけど、そっちの2人、死んじゃうよ。」
「全くだ。さて、言い残すことは?」
流れるようにマディハンに肉薄したダリウスは、喉元に切先を突きつけている。
商会の支店長とカウンター係は、後ずさるようにマディハンから離れた。
彼らとても、薄々は、総支配人の意図に気付いていたが、実際に死の呪いの発動を目にしては、最後の忠誠心も雲散霧消したことだろう。
「誰に向かって言ってる、この下郎!」
マディハンは吼えた。
「俺は、キルスヘルンの皇室に連なる者だぞ。本来なら、お前ごときが、口を聞くことすら出来ないはずだ。」
カイは欠伸した。やっぱり小物だコイツ。
「だってさ、ダリウス。」
「ああ。さて、そのお偉いさんに聞くが、リーンを知っているのか?」
マディハンの顔が憤怒に歪む。
「あの忌々しい小娘が!せっかくこの俺が愛人にしてやろうとしたのに。」
ダリウスはため息をついた。予想通りだ。
「そういうことか。あと一ついいか。お前は、何を探してたんだ?随分大掛かりな真似までして?」
「お前には、想像も出来ない物だ。」
何故かマディハンは尊大な口調になる。
カイは、いい加減ウンザリしてきたので、更に茶々を入れることにした。
「ドラゴンの鱗、だよね。あんたの敵が、手に入れようとしてたんでしょ。
それを妨害がてら、先を越そうとした。
だけど、あんた達、どっちも勘違いしてたんだよね。アレは、魔力を帯びてはいないんだ。マジックアイテムじゃなくて、アーティファクトだもんね。残念。」
「と、いうことか。反論は?ああ、その顔じゃ、図星だったな。なら、もう聞くことはない。」
黒猫と魔法使いの会話を茫然自失で聞いていたマディハンだが、あわてて口を挟む。
「ま、待てっ!お前達は、何が欲しい?私をここから無事に逃してくれたら、何でもやろう。も、もう時間が、頼む!」
必死だ。そうこうするうちにも、時間はどんどん流れていく。
「俺たちが欲しいモノを、お前は持っちゃいない。」
ダリウスは、無造作に剣を振るった。
マディハンは幾つもの防御魔法で守られていたが、ソードマスター級の剣技とアーティファクトは、あっさりとそれらを切り裂いた。
倒れた男を一瞥して、カイはやれやれと首をふる。ほんと、人間って。
「じゃ、マジックアイテムを処理するよ。少し派手にやってもいい?」
ダリウスは頷いて刀身を確認した。刃こぼれはないし、血も脂も付いてはいない。
彼は剣に落とし込んだイメージを回収して、龍鱗をポケットに入れた。
暗いため、事情を知らなければ、剣が消えたようにしか見えないだろう。
さて、と、カイは小屋に視線を転じる。
マジックアイテムは、かなりの数だ。
各種の属性が、予期しない相互作用を起こさないよう、慎重に配置されている。
これは、人の悪意そのものだ。
爆発の威力を少しでも高めようとする試みなのだから。
カイは全てのアイテムと、エネルギーの流れを精査した。中和は造作もない。
が、それじゃ面白くないだろう。
一部のエネルギーをあえて中和せず、変換する。方向は、上空へ。
収束させたエネルギービームを発射。
高空にて、展開。
「おお?!」
ダリウスと、他の2人の声が、期せずして重なった。視線は、こぞって、空を見上げている。
今、夜空には巨大な光の帯が出現していた。
カーテンのように重なり、翻り、さらに刻々と色を変えつつ波打つ光。
人間たちは、各々の今の状況を忘れ、壮大な光のショーに目を奪われていた。




