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遠雷と暗雲

まだ開いていた食料品店で食べ物を買い、魔法使いと黒猫は家に戻った。

ざっと身体を拭いて、調理して。

待ちきれないカイが、ひたすらダリウスの手元に注目する中で。


「ごっはっんっ♡ ご飯だーっ!」

記憶は戻ったが、やっぱりカイはカイなわけで。

「おいおい、慌てるなよ。」

「うふ。うふふふ。だって、美味しいよーっ。」

「全く。やっぱりお前はお前だな。」

どんだけ小さな家中なんだろう、と、ダリウスは微笑ましく思う。

カイが近衛騎士?軍を動かす?

ありえない。

 だが、カイは嘘は言ってないだろう。

そこは確信していた。ならば。

「お前ンとこさー、こう、ホント家族的っつーか、こぢんまりした宮廷なんだろうな。」

カイは食べつつ、上目遣いにダリウスを見た。

「まあ、そうかもね。ウチのご主人て、派手派手しいのは嫌いな人だし。」

 必要なら、金と権力を存分に駆使する人でもあるが、決して自分自身のためにそうすることはない。

目的を果たして退位することだけが、彼の真の願いだから、宮廷生活には全く意味を感じていないだろう。

「そうか・・。小国故の利点とも言うんだろうが、ここいらの君主どもに聞かせてやりだいぜ。」

 

 ん?小国?

ウチのご主人の統治規模って、たしか人類史上最大なんだけど。ま、いいか。

細かいことは。


 ご主人だのあの人だのという、カイの物言いが誤解の主因であることには、双方とも気づいていなかった。


「ご主人の執務室は本宮内陣にあってね。宮廷貴族のエリアとは隔絶されてる。

内陣ていうのは、二重の結界空間に包まれてて、許可なしで入ると、まあ良くて死ぬ、かな。結界内はいろいろヤバいのが棲みついてるからさ。」

「何だ?穏やかじゃないな。」

ダリウスは意外に思った。

そんな物騒なセキュリティは、見たことも聞いたこともない。

「お家騒動みたいのがお前ンとこでもあるのか?」

「ニンゲンて、確かにムダなこと考えるよねえ。妃殿下の暗殺未遂は日常茶飯事だし。あ、ボク、妃殿下付きなの。」

「はああっ?!」

ダリウスは、思わず素っ頓狂な声をあげ、

カイが、背中としっぽの毛を逆立てる。

「やだなぁ、ダリウス、おっきな声出さないで。猫の耳は繊細なんだよ?」

カイは、肉球で耳の付け根あたりをそっと撫でた。

「だ、だって、お前、それって・・」

「別に問題ないもん。」

「問題大アリだろ?そうか、お前のご主人に側室はいないって言ったな。たからなんだな、唯一の妃を排除すれば、家門の娘を送り込めるってことか。何処も同じだ。


まてよ、そういや、最近、お家騒動で、妙な話を聞いたな。」

「妙な話?」

カイはサラダと格闘しながら、耳だけダリウスに注目する。

ダリウスは、腕組みして記憶を辿った。


「ウロ覚えだが。グラツフェルド大公絡みだ。

そう、リーンの雇い主さ。大公って言うのは、元々は北の帝国の出だが、その後大公領を独立国として、今はグラツフェルド大公国の主人てわけだ。

 大公国という控えめな呼び名だが、その実、国力は、非常に強い。

 ソードマスターを、出身の王国と養成機関からもぎ取れるほどに、な。

 現大公は、50歳になったばかりで、正妻には2人の息子がいた。側室には、娘がひとり。

その息子の1人が死に、もう1人が行方不明になったんだ。」


死んだのは、第一公子、大公家の跡取り。

表向き第二公子が兄を殺して逃亡した、

そういうことになっている。

が、世間では、第二公子も既に死んでいると囁かれていた。

2人とも、子は、女児しかいない。


「それだけじゃない。彼らの妹が、突然、病に倒れた。公女は今まで、至って健康だったらしい。彼女に婿を取らせる案が出ていた矢先のことだ。そして、病の原因は、呪詛によるものだと、公式に発表された。」


 呪詛か。

なんとも時代錯誤だが、嫌な響きだなあと、カイな思う。

ここは、呪詛がまだ人々の生活に息づく時代なんだ。

 人の悪意は、容易く呪詛という呪いに変換されて、人に害をなす。

 呪詛そのものは、カイにとっては脅威でないが、変換された悪意は気持ちが悪い。

ご主人が、前に言ってたっけ?

「人は弱いからな。だから、呪う。お前たちには分からないかもしれないが、それもまた人間だよ。」

 そんなこと言われてもねー。

 ボク、人間じゃないんですけど?


「つまり、大公家の後継候補が短期間に次々消されたんだが、時を同じくして、大公妃が毒殺されたんだ。」


「なにそれ?繰り上げ当選狙い?」

「さあ、妙なのはそこだな。よくあるお家騒動なら、側室の誰か、あるいは、後釜を狙う、権門の差し金となるんだろうが、容疑者が浮かばない。

 一連の事件で、側室たちは逃げ出そうとしているし、いま娘を送り込んでも目的を果たす前に排除されかねないということで、貴族たちもなりをひそめている。」


「ふーん。」

 カイは、食事を終えて、考える。

これだけの情報が他国にまで漏れて来る頃には、内部では既にパニック状態であることが多いだろう。


そのとき、カイの耳がピクリと動いた。

「ダリウス、さっき言ったよね。ボク、商会の会話が聞けるようにしたって。」

「支店長の、クレモンの部屋だな。どうした?」

「お客さんが来たよ。かなりえらい人みたい。えっと、マディハンさま、って?」

「マディハンなら、たしか、キストン商会のNo.2がそんな名前だな。」


カイは、聞き耳を立てた。

彼らは挨拶もそこそこに


会話の内容は、穏やかでない。

  

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