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姉弟

事件は解決して、捜査本部は解散し、来栖の身柄は警視庁に移されていた。

テレビ・新聞は大々的に報道し、ワイドショーのレポーターは狂気乱舞している。

それほど、この異様な事件は世間の関心をあつめていた・・・。




「院長、来栖はこの先どうなるのですか?!」

榊原心療病院の応接室で、枡園と榊原院長が向かい合ってお茶を飲んでいる。

「分かりません・・。ただ、永くは生きれないと思われます。」

榊原は湯呑を手で弄びながら、「警察は健二で起訴するのですね!?」と続けた。

「・・・そう、なると思います・・。」

枡園は渋いお茶を一気に飲み干し、顔を歪めて榊原院長を見るのであった。



その頃一人の男が警視庁で、来栖に面会を求めていた。

「大学の先生が、来栖に何の用ですか?」

対応した春日主任婦警が、渡された名刺を見ながら聞いた。

「私は探偵事務所も経営してまして、来栖健二に依頼を受けていたのです。」

「どうした春日君?!」

捜査一課長中村は、通りすがりに声をかけた。

「この方が・・来栖に面会したいと・・・。」 と春日は眼で合図した。

「白羽先生・・・その節はお世話になりました。今回も来栖の件で色々と世話になったと、枡園が言ってました。」

中村は思わず大声を出した。

「お久し振りです、中村さん。」そう言って白羽は頭を下げた。



面会室で白羽と来栖健二は向かい合った。来栖は後ろ手に手錠を掛けられていて、三人の警官が後ろに控えている。

「私を覚えているかい?」 

白羽は優しく聞いた。来栖は無言で頷くと、真正面から白羽を見た。

「警察の発表と私の考えが、一寸違う所があってね、そのあたりを少し君に聞きたくて、ここの刑事さんに無理を言ったのだよ。」

白羽はそう言って、自分の後ろに腰かけている小林刑事を見て、また話し始めた。

「今は健二君だね?!・・君は、向坂かすみさんを今でも愛しているね。」

無言で健二は頷いた。

白羽は指を鳴らして言った。

「かすみさんが、秋葉と岸田によって犯されるDVDを君は観たんだね・・。」

健二の頬を涙が流れていた。

「岸田を殺したのは、健二君・・・きみだね!。」

白羽の言葉は優しかった。

来栖健二の、頬を濡らし続ける涙がすべてを物語っていた・・・・。

「そして、君は岸田の首を切り落とし、復讐の意味で口の中に天罰と書いた紙を入れて、メゾン・ド・ソレイユから見える公園のすべり台の上に放置したんだね・・・すべては、向坂かすみへの罪滅ぼしの為だね。」

白羽の口調は最後まで優しかった。

来栖健二は大声で泣いた・・そして、自供を次のように翻した。

「私のせいで自殺したかすみが、哀れで成りませんでした。そんな折、あのDVDを観たのです。私はかすみの為に、いや自分自身のかすみへの後ろめたさの為に、秋葉と岸田を殺す事を考えたのです。」

そこで、一度健二は言葉を切り涙をぬぐった。

「しかし、秋葉はかすみと一緒のビルから飛び降りた。」 

白羽が口を挟んだ。

「あの時は神様は居るのだと思いました・・・そして、ある日の事ふと気付くと目の前に岸田が居ました。事もあろうに、私の手には包丁が握られていたのです。躊躇することなく私は、後ろから岸田の心臓を貫きました・・・私は、多重人格だと自覚してましたから、女の人格の事も薄々感じてましたので、女装して岸田の死体をかすみの住んで居たマンションの見える場所に放置したのです・・・。」

そう言って、来栖健二は溢れる涙を拭おうともせず机にひれ伏すのであった。

「よく言ってくれました、これで、私もスッキリしました。」

白羽は立ち上がると、泣き伏している来栖と小林刑事に一礼して面会室を後にした。


「ホッホッホッ・・・だから私は無実と言ったじゃない・・・。」

白羽の背中に、一枝に変わった来栖の勝ち誇った笑い声が響いて来たのだった・・・。


小林は白羽を見送り、中村課長と話していた。

「そうか・・・つまり榊原院長の話と白羽さんの推理を合わせて考えると、岸田殺害に関しては一枝ではなく、来栖が一枝のフリをして証言していたというわけか!」

「そのようですね・・・本来二重人格は片方が活動すると片方は寝ている状態になって互いの行動は覚えていないのが普通らしいですけど、来栖の場合は・・・しかしややこしい事件ですね。」」と、小林は中村の顔を見た。

中村は手のひらで自分の後頭部をトントンとたたきながら言った。

「私もいろんな事件を見てきたが、これほど異様な事件ははじめてだ・・・。」

「健二で起訴するということですけど、榊原院長の話では一枝でいる時間のほうが長くなってるらしいですが、来栖はいったいどうなるんでしょうか?」と、小林が力なく言う。

「小林君、君の気持ちはわかるよ・・私だって同じだ。いったい誰が悪で誰を罰したらいいのか・・・・・あとは検察官に任せるしかないな」

中村の言葉に小林は軽くお辞儀をすると部屋を後にした・・・。



白羽は心理学の講義を終えて、東関大学のキャンバスを出た。

もう季節は秋から初冬に移り変わっていた。

公園の中を白羽はコートの襟を立てて、足早に歩いていた。

公園のベンチに、どこかで見た事がある、初老の男がうつむいて座っている。

「枡園さんでは・・・?こんな所で、何をしているんですか?!」 白羽は近寄って声をかけた。

枡園は白羽に目を向け、「ああ・・・」と、言って話し始めた。

「向井と言う刑事が私の下にいましてね。あの教会で先月の終りに結婚式を挙げるはずだったのです。」

枡園は公園の遥か向こうに、屋根だけが見える教会を指差した。

白羽は黙って枡園の指先を見た。

「この頃歳を取ったせいか、刑事の仕事が辛いのです。」

「・・・・・・・・・。」

「来栖にしても、可哀そうな奴です。云わば来栖健二は被害者と言っても、過言では無いのですよ。」

枡園はそう言って、白羽の顔を見つめた。白羽は優しく微笑みながら、「あなたは、疲れているのですよ。この事件が解決したらゆっくり温泉でも・・・・。」

「あなたは私の事なんか、何も分かっていない!」突然枡園は大声を出した。

「・・・あなたは確かに名探偵かも知れない。一寸した事から全てを推理して、真実を引き出し犯人を追いつめる。」

枡園はベンチから立ち、足もとに落ちていた煙草の吸殻を拾ってまじまじと見つめた。

「あなたの真似をしてみましょうか!?」

そう言って枡園は白羽の方に向き皮肉めいた笑顔を見せた。

「この煙草を捨てた人物は・・、男で多分メガネをかけている。年の頃は五十歳前後で頼り無さそうな感じを受ける。」

そこで、枡園は一度白羽を見た。

「・・・・・・ますぞの・・さん・・?!」 

白羽はうろたえていた・・・なおも枡園は続けた。

「失業中で、今は職探しをしているがなかなかみつからない・・・。」

そう言って、枡園は吸殻を捨てた。

茫然としている白羽をもう一度見て、枡園は話しだした。

「・・あなたが来る数分前、私の横で、今私が話した男が煙草を吸っていたんだよ・・・そして、私に自分の事を話して、また職探しに何処へともなく行った・・・・・・・・刑事の仕事と云うのは、理屈や理論では無いんだ。足で歩き、目で見た一つ一つの事実の積み重ねなんだよ。」

そう言って、枡園はもみ上げを触りながら警察署へ帰るべく歩いて行った。

白羽は力無く歩く枡園の後姿をいつまでも、見送っているのであった・・・。




時が経つにつれ、来栖の中の一枝は人格も安定し、鋭く輝やいていた眼光も穏やかな優しい色へと変わり、その容姿もまた妖しさから美しさへと変わって行った。

そして、来栖健二が検察庁へ移送される日がやってきた!

表には所狭しと、朝から報道陣が待ち構えている。

中村課長に榊原院長から、最後の報告がなされた。

「現在来栖は移送には何の問題もないと思われます!・・・中村さん!先程の来栖を見て何か気が付きませんでしたか?」

「いやいや・・・私ども素人目にはどちらが現れているのか皆目見当すらつきません。」

中村は首を傾げ頭を掻いた。

榊原院長は、自分の口元に手をあて顎をさすった。

「ヒゲですよ・・・来栖のヒゲが目立たなくなっています。もうほとんど、一枝の脳が主導権を握ってるあかしです。」

「なるほど、言われてみれば・・・。しかし、考えてみれば一枝は可哀想な女ですねぇ。身体を持たぬ脳だけとはいえ、一人の人間・・いや女としての感情を持ちながら、やっと生まれ変わったと思えば余命はわずか・・・」

中村はやり切れぬといった様子でつぶやいたのであった。



静かに目を閉じ、壁にもたれ掛かっていた一枝の前に2人の警官がやって来た。

“ガチャガチャ”と鍵を開ける音が冷たいコンクリートに響き渡る・・・・。

「さあ、行こうか・・・。」警官の1人が一枝に声をかける。

腰にロープをかけられ、両脇を2人の警官に支えられながら、一枝は護送車の待つ表通りに姿を現した。

数名の警官が行く手を阻む報道陣達をかき分け通路を確保したそのとたん、ストロボの閃光が3人を包んだ!

一枝の両脇にいた警官が眩しさのあまり片手を目の上にかざした・・・その一瞬を待っていたかのように、一枝は2人の警官を突飛ばし駆け出した。

一枝はざわめく報道陣の隙間をかき分け表通りに出る。

“一枝が逃走したぞ!”  

警官の叫び声はカメラのフラッシュと早口でまくし立てるレボーターの声にかき消されていた。

中村課長は、無線のハンドマイクを握りしめ、近くにいるパトカーに緊急指令を出した。

「一枝が逃走した!表通りを駅方面に向かっていると思われる・・・何としてでも取り押さえろ!!」

大きな音を立ててマイクを置いた中村に、そばで聞いていた白羽が思いついたように指を鳴らした。 「中村さん・・・一枝の行き先はあそこしかありません。」

中村は驚いたように振り返った。

「あそこ・・?あそことは・・!?」

「先回りしましょう。」

白羽はそれに答えず、中村を促し部屋を飛び出したのであった。


方々から響いて来るパトカーのサイレンを聞きながら、一枝は必死に走った・・自分に死期が近づきつつあることを身体の不調から感じ取りながら・・。

息を切らしてよろめきながら、ただひたすら走る一枝のほほを、一筋の涙が伝う。


白羽と共に、車に乗り込もうとしていた中村を呼び止める声がした。

そこには枡園警部補が真剣な面持ちで立っていた・・・。

「課長!私に行かせてください。」

軽く頭を下げ、車に乗り込んだ枡園の目が、何かを語りかけていることに気づいた中村は、無言で大きく頷いたのだった。

走り去る車を見送った中村は心の中で呟いた 。

“まっさん・・・あんたも私も、刑事としては失格だな!”



一枝は線路脇にある車のスクラップ置場へとたどり着いていた。

積み上げられた廃車の間を掻い潜り、マイクロバスの中に身を潜めると、腰に巻かれたロープを外した。

埃だらけのシートに身体を投げ出し、目を閉じ息を整える。

一枝は、足下に転がっていたバックミラーを拾い上げた。

透き通るほどに血の気が失せた自分の顔が映っている。

じっと見つめる一枝・・・両手でそっとほほを撫でてみる。

“生きてる・・・わたし・・生きてるんだ!!” 一枝は思わず呟いていた。


警官の運転するパトカーの後部座席に、枡園と白羽は並んで座っていた。

白羽は枡園の顔を覗き込んだ。

「枡園さん、大丈夫ですか・・?」 

白羽の言った”大丈夫ですか?”には二通りの意味があった。

一つは、この前公園で会った時に感じた、思い詰めた表情が今も感じられるのである。

もう一つは、枡園の身体を心配しての言葉である。枡園は無意識のうちに、胃の辺りをいつもさすっているのを、白羽は見逃していなかった。

「白羽さん、今、来栖が健二であれ一枝であれ、脳は一つになりつつある・・・ということは、健二の記憶は一枝の記憶に変わっていくはずだ・・・かすみさんを失った悲しみもね。すなわち、どちらの人格が主導権を握っていても、来栖は必ずあの場所に向かうはずです・・・違いますか?」

白羽の心配には答えず、枡園はもみ上げをつまみながら、別の事を聞いてきた。

白羽は肯定も否定もせずジッと枡園を見ていた。 

「そこで止まってください!」

車は左に寄り停止した・・・そこは白羽探偵事務所であった。

枡園はもみ上げをつまみながら、白羽を見た。

「白羽さん、ありがとうございます。・・・あとは私が・・・。」

白羽は黙って頷いた。



一枝は、そっと目を閉じ耳をすませた。

遠くから聞こえていたバトカーのサイレンの音がいつの間にか聞こえ無くなっている。

一枝はそのまま眠っていた・・・。

一枝は夢を見ていた・・・10才くらいの子供が集まり、鬼ごっこをしている。ほほを真っ赤にした女の子が顔をクシャクシャにして笑いながら「あははっ・・こんどは一枝ちゃんが鬼だよ。」と言うと、一枝は右手を大きく上げて大声で叫んだ。

「みんな~・・・境内から出たら、出た人は負けだからね~!」

「い~ち・に~い・さ~ん・し~い・・・」

一枝が、松の木の陰で、目をふさぎ数え始めると、子供達は思い思いに身を隠す!  

「・・きゅ~う・じゅ~う。・・・も~ういいかい!」  

一枝が目を開け叫ぶと・・・。

「も~ういいよ!」  

あちらこちらから答える声が響く ・・・・。

一枝は寺の境内を探して歩いた・・・縁の下を覗き、物置小屋を開けて見る・・・一人見つける度に楽しげな笑い声が響く・・日が暮れるまで遊んだ・・・・。

「かずえ~!帰っておいで~。 」 

母の呼ぶ声が聞こえてくる!

眠っている一枝の顔に笑みがこぼれた。

健二の体験した様々な出来事が、まるで一枝自身の体験の如く置き換えられ、次から次へと浮かんでは消えて行った。

どのくらい眠っただろう・・・目を覚ますと辺りは暗く、割れたフロントガラスを通して明かりがまばらに灯ったマンションが見えた。

一枝は考えた挙句、自分の中に眠っている健二に語りかけた。“健二・・・健二・・起きなさい! ”

健二が目を覚ます・・・“ その声は一枝?どうしたんだ・・・? お ・ 俺は・・? “

一枝は“ 健二・・・この身体、あんたに返すわ・・・私はあんたとともに生きてきたんだもの、たくさんの思い出があるんだもの・・・身体なんていらない・・・・・” 

そういうと二度と一枝の声は聞こえなくなった。


中村課長は、自分のデスクに座り唇を噛み締めていた・・・その手には、“辞職願い” と書かれた封筒が握られている。

「まっさん・・・!?」  

中村は立ち上がり、窓から外を見る・・・そこにはクリスマスのネオンに彩られた大都会の夜が広がっていた。

大都会にまた夜がやって来た・・・。

・・・来栖は高層ビルの下にある献花台に手を合わせた。

「かすみ・・・今でも愛しているよ。」

一輪の花を手に取って、来栖は高層ビルの屋上へと続く階段を登って行った。

警備員に邪魔をされるかと思ったが、警備員の姿は見えなかった。

来栖は屋上に立って夜空を見上げた。

満月と満天の星が来栖に降り注いでいる。

”かすみ・・・お前が飛び降りた時も、確か満月だったな・・・。”

来栖は、金網に近づいて行った。

「来栖、待っていたよ・・・。」 後ろで、枡園の声が聞こえて来た。

来栖は、びっくりして振り向いた。

「く、来るな~!・・・飛び降りるぞ~っ!!」

枡園は、自分の息子を見るような優しい顔で来栖を見ていた。

「・・・飛び降りる気でここに来たんだろう!?」

枡園の声は、全て分かっていると云った口調だった。


高層ビルの屋上で、老刑事と逃走犯は一定の距離を保ったまま、動こうとはしなかった。

二人の遥か前方を光の線となって、電車が通過していた・・・。

枡園はもみあげをつまみ優しげな口調で語りかけた。

「私はもう刑事ではない!・・・君を捕まえるつもりもない。ただひとつ確認したかったんだ・・・君のかすみさんへの愛を・・・」  

枡園はくるりと向きを変えると、階段に向かって歩きだした。  

「来栖・・・月が・・月が綺麗だな・・・。」  

健二には階段を降りる枡園の背中が、わずかに震えて見えた!


“かすみ・・かすみ・・” 

何度もうわ言のように繰り返しながら、健二はフェンスの向こう側に立っていた。

・・・もう健二を阻むものは何もない!!


枡園は、向井の献花台の前に座っていた・・・屋上に、月に照らされた来栖の姿が、シルエットとなって見える。

もみあげをつまみながら、心の中で語りかける・・・“向井、俺は間違ってるか?!”


健二は、足下に広がった空間に背を向け目を閉じた、その時・・・“ 健二・・ごめんね!・・”  

頭の中で一枝の声が聞こえた気がした・・。  

健二はつかまっていたフェンスから手を離した・・・・大粒の涙が水玉となって宙を舞う・・・!

後ろ向きに落ちながら、持ってきた一輪の花を夜空に放り上げると、最後の言葉が来栖の口から発せられた。  

「ありがとう・・・お姉さん・・・・・・。」

クリスマスのムードに浮かれた大都会の夜を、満月がやさしく照らしていた。





・・・テレビレポーターは、興奮した口調で喋っている・・・。

「昨夜遅くに、逃亡していた来栖健二は一連した高層ビルから、身を投げ自殺しました。」

「どうして、来栖容疑者はそのビルから身を投げたのですか・・?」

ワイドショーの司会者は、視聴者の当たり前の疑問を口にした。

「はい、どうやら一番最初にここから飛び降りた、向坂かすみさんの彼は恋人だったらしいのです。」

「ああ、それで追い詰められて後を追ったのですか?!」

司会者は納得して首を二・三回縦に振った。

「いや、それがちょっと違うみたいなんですよ・・・。」

「違うと言いますと・・・?!」

司会者はわざとらしく怪訝な顔をした。

「このビルからは数人が飛び降りており、最近は警備員が屋上に行けないようにしていたのですが・・・・・」

レポーターは興奮している。

「なぜ、来栖容疑者は簡単に行けたのですか・・?」

「それがですね、ちょっとお聞きください。・・・以下は独占インタビューに成功した警備員の話です。」

”私がいつものように警備してますと、刑事だと云って初老の男が話しかけて来たのです。その刑事が言うには、今を騒がす逃亡犯がこのビルに逃げて来るので屋上に上がる邪魔はしないように・・。”

「そう言われたようです。しかし、”おかしい ”と思った警備員は、来栖が屋上に上がって来て、飛び降りるまでの一部始終を見ていたそうです。」

そこで、レポーターは言葉を切り衝撃的な言葉を続けた。

「なんと、その老刑事は来栖の飛び降りようとするのを止めるどころか、飛び降りを進めるような言葉を言ったらしいのです・・・・・。」

「・・・どう言う意味ですか・・?」

「つまりですね、躊躇している来栖容疑者に早く飛び降りて楽になれと・・・。」



白羽は、テレビのスイッチを切った。

枡園の人の良い、優しい顔が脳裏を駆け巡って、白羽は苦々しくコーヒーを飲み干した。




               姉弟


                (完)























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