表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

誰にも死んで欲しくない

本編[世代の勇者]に関係するキャラクターの連載小説です。


[回復の勇者]ヒーリェ。

命を救う彼女は、何を経験し、何を失ったのか…

過去。一度だけ見た昼の流星。

空を見渡す様な青い流星に心を奪われた。

時間があれば空を見上げる。


…やっぱり。今日もまた流れない。


教会の鐘が鳴り、私は施設でみんなを癒す。

みんなの笑顔が、感謝が、耳に焼き付いて…私まで嬉しくなる。


「今日もありがとな!ヒーリェちゃん!!」

「いつも助かります…」

老若男女問わず、動物も魔人族も、怪我をしたなら私は治す。


「また来てね?私で良ければ…助けてあげる。小さな事でも…大きな事でも。私を思い出して?」



         「ヒーリェ」



当時14歳の私は、[テラス]のシスターだった。

私のモットーはこう…

     「命あれば生きていられる」


どんなに小さな傷でも、心に空いた穴も、私で良ければ穴を埋める。でも…私じゃ埋まらない穴もあった。


「…え」

「貴方が私の旦那を奪ったんだ!!」

「いや…カナミさんですよね?私はお話を聞いただけで…」

「じゃあなんで毎日毎日狂った様に教会に行く様になったの?!」

「あの…傷を癒してるだけで…」

こんなやり取りは…この日が初めてだった。15歳になる時…私はみんなの"目"を見る様になった。


「…」

(まただ…私はただ…生きて欲しいから…)

明らかに他者とは違う目を持つ人達。彼らの行動や喋り方。目の動きが…次第に怖くなった。


そんなある日。私は夜道で襲われた。


激しい息遣い。普段見せない…荒々しい動き。"目"を見て私は話しかけた。


…どんなに足掻いても…どんなに拒絶しても…彼の"目"は私の身体を見た。


涙を流しながら、破れた服を羽織り空を見上げる。震える腕が、倒れそうな脚が…私の心臓を締め付ける。


「…こんなはずじゃ…なかったのになぁ……」

震える声で…私は呟いた。その日から…私は教会に行かなくなった。


思い出すだけで…深い暗闇に呑まれる。布団に包まり、震えながら涙を流す。そんな日々。


村は次第に荒れて行き、傷を負った人達は、狂った様に私を探した。


見つかった時もあった…


懇願する人…涙を流す人……身体を見る者。どうすればみんなを…助ければ良いんだろう…


身体を揺さぶられながら…私はただただ考えた。…私が存在しなければ、みんなは変わらなかったのだろうか?…と。


その思考は…私のモットーを批判する事になる。


「なら…どうしたらいいの?」

心臓が締め付けられ、呼吸が出来なくなるほど嗚咽する。きっとこれが…私じゃ治せない病気だ。


唯一治せなかった心の穴。玩具の様にたらい回しに使う彼らもきっと…心に穴がある人達で、私が治せなかったから…変わってしまったのだと…。


「…いやだ……」

瞬間…私は気付いた。流れる涙を拭き、口に出た言葉に震えた。


「やめ…てください…」

意図していない言葉が出るたび、私は自身の傲慢さに嫌気が刺した。


人の傷より…自分の傷を優先した。私の傲慢さに…



17歳の頃。旅人と名乗る男性五人にスカウトされた。優しい声で話す彼らは、私の"目"をまっすぐ見てくれた。


「…やっと一人目だ!!宜しくね?ヒーリェ!」

「…はい。」

「いきなり呼び捨てはどうなんだ?」

「お堅いねぇ?」

「あの…なんと呼べば…」

「ん?俺はノア!!みんなを助ける旅人だ!」

「俺はゼウスだ。…お前らも名乗れ?」

「…はぁ。アキラだ。」

「…ジン。」

「イリスだ… 」

「…はぁ。愛想がない奴等だが、信頼は出来る。これから宜しく頼む。」

「…はい…」


初めて出会った彼らはみんな、傷を持たない未知の存在だった。


その後も、多くの仲間を引き入れた。泣き虫の[ゼノ]。ピンク髪の少女[ナタエル]と赤髪の男の子[ジョーカー]。傷だらけの青年[ラペン]。魔人族の混血[カイト]と友人の[ライト]。研究施設のクローン[アイリス]。同じく研究対象だった[シャネス]。


みんな…私の"目"を見て話しかけてくれた。でもやっぱり…埋まらない穴を持っていた。


夜空を見上げ、流星を探す。どうすれば心の穴は塞がるのだろう。そんな事を考えていると、ピンク髪の女性[シャネス]が、話しかけて来た。


「…」

「ヒーリェ?お時間良いですか?」

「…うん。」

「ヒーリェの傷は…誰もが治せる物では無い…その為に…背負い過ぎるのは、辞めませんか?」

「!」

彼女も…私と同じ様に悩んでいた。誰にも話した事の無い心の傷。シャネスは私を…助けようとしてくれた。


打ち明けられない悩みを、相談するだけで、言い表せない程に…救われた気がした。


「…ごめんなさい…」

「…辛かったですね。大丈夫ですよ…一人じゃ無いです。」

この日私は、初めて[嬉し涙]を流した。


シャネスは私の母親の様な人で、回復魔法や魔法を使わない医療方法などを、沢山教えて貰った。


そんなある日、アイリスの"心の穴"が塞がった。


「…」

「ノア!また勝負してよ!!私が負けたらお嫁さんになってあげる!」

「ば〜か。勝負事は対等に…だ!罰ゲームはな〜し!!」

「え〜!!」

アイリスの…満面の笑顔。初めて見て、心が揺れた。塞がらない穴を埋めた治療薬はきっと、ノアだったのだと。


「良い顔で笑うね。アイリスは…」

「…ジョーカー?」

「…優しさは、抱き過ぎると足枷にしかならないよ。ヒーリェ?いつか僕は…君の本当の…心の底からの笑顔を見てみたい物だ。」

「…練習しとくよ。」

「うん。練習した笑顔も…きっと美しいだろうね。」

「…ジョーカー……ヒーリェちゃんが好きなの?」

「?!」

ピンク髪の少女[ナタエル]は、ジョーカーの袖を引っ張りながら呟いた。


「…好きだよ。"みんな"ね?。でも一番好きなのは…」

勢いよくナタエルを捕まえて抱き締めるジョーカーは、満面の笑顔で呟いた。


「笑顔の君だ!!」

「…ん///ばか…//近い!!離れろ!!」

アイリスやナタエルを見ていると…心がポカポカするのを感じる。それでもジョーカーは、まだ傷を負っていた。


笑顔の下に…隠された傷。でも大丈夫。その傷はきっと…ナタエルが癒してくれるから。


5年が経ち、私は当時22歳。新たに加わった仲間は計五人。


二刀流の剣士[ファス]。死ねない少女[アミ]。呪刀を従える[ゼロ]。男気溢れる女の子[シール]。記憶喪失の[エデン]。ファス以外…傷を持ってた。


でも…


「ゼロ!アミ!!今日も特訓するぞ!!!」

「ファス?!馬鹿!!近い〜〜〜!!」

「はぁ…ん。良いよ。付き合う。」


「エデン!!俺達も頑張るぞ!!」

「はい!!。ノアさん!!。」


「シール?今度俺とパーティー組もっか?そしたら辛く無いだろ?」

「ありがとな?ラペン。でも…私の役割はこれだから…」


きっと…私以外のみんなが、傷を癒してくれる。


流星を探しながら、気付く。…いや…きっと昔から…この答えは出ていたのだろう。


「背負い過ぎるのは…良くない。」

みんなに頼れば、きっと…もっと楽で、楽しくて、幸せで。だったら。


「過去じゃなく。今から変わろう!」

ほっぺを叩いて気合いを入れる。その音に驚いたみんなは、心配して話しかけてくれる。


「ありがとう…なんでもないよ!」


仲間…なんて温かいんだろう。心がポカポカして、不思議と笑顔になって、嬉しい涙が溢れてくる。







そんな日々も…そう長くは続かなかった。








次回「エンド」

ご覧頂きありがとうございます。ヒーリェは、本編[世代の勇者]にて、ヴァート達の目標である[勇者]の一人です。話数は短いですが、[ヒーリェ]を知って貰えると幸いです。


良いねと感想。ブックマーク登録も是非是非。それでは!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ