誰にも死んで欲しくない
本編[世代の勇者]に関係するキャラクターの連載小説です。
[回復の勇者]ヒーリェ。
命を救う彼女は、何を経験し、何を失ったのか…
過去。一度だけ見た昼の流星。
空を見渡す様な青い流星に心を奪われた。
時間があれば空を見上げる。
…やっぱり。今日もまた流れない。
教会の鐘が鳴り、私は施設でみんなを癒す。
みんなの笑顔が、感謝が、耳に焼き付いて…私まで嬉しくなる。
「今日もありがとな!ヒーリェちゃん!!」
「いつも助かります…」
老若男女問わず、動物も魔人族も、怪我をしたなら私は治す。
「また来てね?私で良ければ…助けてあげる。小さな事でも…大きな事でも。私を思い出して?」
「ヒーリェ」
当時14歳の私は、[テラス]のシスターだった。
私のモットーはこう…
「命あれば生きていられる」
どんなに小さな傷でも、心に空いた穴も、私で良ければ穴を埋める。でも…私じゃ埋まらない穴もあった。
「…え」
「貴方が私の旦那を奪ったんだ!!」
「いや…カナミさんですよね?私はお話を聞いただけで…」
「じゃあなんで毎日毎日狂った様に教会に行く様になったの?!」
「あの…傷を癒してるだけで…」
こんなやり取りは…この日が初めてだった。15歳になる時…私はみんなの"目"を見る様になった。
「…」
(まただ…私はただ…生きて欲しいから…)
明らかに他者とは違う目を持つ人達。彼らの行動や喋り方。目の動きが…次第に怖くなった。
そんなある日。私は夜道で襲われた。
激しい息遣い。普段見せない…荒々しい動き。"目"を見て私は話しかけた。
…どんなに足掻いても…どんなに拒絶しても…彼の"目"は私の身体を見た。
涙を流しながら、破れた服を羽織り空を見上げる。震える腕が、倒れそうな脚が…私の心臓を締め付ける。
「…こんなはずじゃ…なかったのになぁ……」
震える声で…私は呟いた。その日から…私は教会に行かなくなった。
思い出すだけで…深い暗闇に呑まれる。布団に包まり、震えながら涙を流す。そんな日々。
村は次第に荒れて行き、傷を負った人達は、狂った様に私を探した。
見つかった時もあった…
懇願する人…涙を流す人……身体を見る者。どうすればみんなを…助ければ良いんだろう…
身体を揺さぶられながら…私はただただ考えた。…私が存在しなければ、みんなは変わらなかったのだろうか?…と。
その思考は…私のモットーを批判する事になる。
「なら…どうしたらいいの?」
心臓が締め付けられ、呼吸が出来なくなるほど嗚咽する。きっとこれが…私じゃ治せない病気だ。
唯一治せなかった心の穴。玩具の様にたらい回しに使う彼らもきっと…心に穴がある人達で、私が治せなかったから…変わってしまったのだと…。
「…いやだ……」
瞬間…私は気付いた。流れる涙を拭き、口に出た言葉に震えた。
「やめ…てください…」
意図していない言葉が出るたび、私は自身の傲慢さに嫌気が刺した。
人の傷より…自分の傷を優先した。私の傲慢さに…
…
17歳の頃。旅人と名乗る男性五人にスカウトされた。優しい声で話す彼らは、私の"目"をまっすぐ見てくれた。
「…やっと一人目だ!!宜しくね?ヒーリェ!」
「…はい。」
「いきなり呼び捨てはどうなんだ?」
「お堅いねぇ?」
「あの…なんと呼べば…」
「ん?俺はノア!!みんなを助ける旅人だ!」
「俺はゼウスだ。…お前らも名乗れ?」
「…はぁ。アキラだ。」
「…ジン。」
「イリスだ… 」
「…はぁ。愛想がない奴等だが、信頼は出来る。これから宜しく頼む。」
「…はい…」
初めて出会った彼らはみんな、傷を持たない未知の存在だった。
その後も、多くの仲間を引き入れた。泣き虫の[ゼノ]。ピンク髪の少女[ナタエル]と赤髪の男の子[ジョーカー]。傷だらけの青年[ラペン]。魔人族の混血[カイト]と友人の[ライト]。研究施設のクローン[アイリス]。同じく研究対象だった[シャネス]。
みんな…私の"目"を見て話しかけてくれた。でもやっぱり…埋まらない穴を持っていた。
夜空を見上げ、流星を探す。どうすれば心の穴は塞がるのだろう。そんな事を考えていると、ピンク髪の女性[シャネス]が、話しかけて来た。
「…」
「ヒーリェ?お時間良いですか?」
「…うん。」
「ヒーリェの傷は…誰もが治せる物では無い…その為に…背負い過ぎるのは、辞めませんか?」
「!」
彼女も…私と同じ様に悩んでいた。誰にも話した事の無い心の傷。シャネスは私を…助けようとしてくれた。
打ち明けられない悩みを、相談するだけで、言い表せない程に…救われた気がした。
「…ごめんなさい…」
「…辛かったですね。大丈夫ですよ…一人じゃ無いです。」
この日私は、初めて[嬉し涙]を流した。
シャネスは私の母親の様な人で、回復魔法や魔法を使わない医療方法などを、沢山教えて貰った。
そんなある日、アイリスの"心の穴"が塞がった。
「…」
「ノア!また勝負してよ!!私が負けたらお嫁さんになってあげる!」
「ば〜か。勝負事は対等に…だ!罰ゲームはな〜し!!」
「え〜!!」
アイリスの…満面の笑顔。初めて見て、心が揺れた。塞がらない穴を埋めた治療薬はきっと、ノアだったのだと。
「良い顔で笑うね。アイリスは…」
「…ジョーカー?」
「…優しさは、抱き過ぎると足枷にしかならないよ。ヒーリェ?いつか僕は…君の本当の…心の底からの笑顔を見てみたい物だ。」
「…練習しとくよ。」
「うん。練習した笑顔も…きっと美しいだろうね。」
「…ジョーカー……ヒーリェちゃんが好きなの?」
「?!」
ピンク髪の少女[ナタエル]は、ジョーカーの袖を引っ張りながら呟いた。
「…好きだよ。"みんな"ね?。でも一番好きなのは…」
勢いよくナタエルを捕まえて抱き締めるジョーカーは、満面の笑顔で呟いた。
「笑顔の君だ!!」
「…ん///ばか…//近い!!離れろ!!」
アイリスやナタエルを見ていると…心がポカポカするのを感じる。それでもジョーカーは、まだ傷を負っていた。
笑顔の下に…隠された傷。でも大丈夫。その傷はきっと…ナタエルが癒してくれるから。
5年が経ち、私は当時22歳。新たに加わった仲間は計五人。
二刀流の剣士[ファス]。死ねない少女[アミ]。呪刀を従える[ゼロ]。男気溢れる女の子[シール]。記憶喪失の[エデン]。ファス以外…傷を持ってた。
でも…
「ゼロ!アミ!!今日も特訓するぞ!!!」
「ファス?!馬鹿!!近い〜〜〜!!」
「はぁ…ん。良いよ。付き合う。」
「エデン!!俺達も頑張るぞ!!」
「はい!!。ノアさん!!。」
「シール?今度俺とパーティー組もっか?そしたら辛く無いだろ?」
「ありがとな?ラペン。でも…私の役割はこれだから…」
きっと…私以外のみんなが、傷を癒してくれる。
流星を探しながら、気付く。…いや…きっと昔から…この答えは出ていたのだろう。
「背負い過ぎるのは…良くない。」
みんなに頼れば、きっと…もっと楽で、楽しくて、幸せで。だったら。
「過去じゃなく。今から変わろう!」
ほっぺを叩いて気合いを入れる。その音に驚いたみんなは、心配して話しかけてくれる。
「ありがとう…なんでもないよ!」
仲間…なんて温かいんだろう。心がポカポカして、不思議と笑顔になって、嬉しい涙が溢れてくる。
そんな日々も…そう長くは続かなかった。
次回「エンド」
ご覧頂きありがとうございます。ヒーリェは、本編[世代の勇者]にて、ヴァート達の目標である[勇者]の一人です。話数は短いですが、[ヒーリェ]を知って貰えると幸いです。
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