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運命


 魔術師は不穏な台詞に続けて、また口を開く。


「もともとの体質だとおっしゃっていたでしょう? どうやらあなたには身体に魔力を吸い寄せる力がかなり強く働くようですね。今まではそれで問題なかったようですが、どうもその力が強すぎるせいで、壊れてしまったのだと思います。実は、魔獣との戦闘で、ここが破壊された人というのは何人もいまして。症状が同じなんです。ただその場合――」


 彼は何かを言いかけて、結局やめてしまった。


 代わりに、まったく別の話を切り出す。


「あのときお話したことを覚えていますか?」


 ミーシュはうなずいた。何しろ、いきなりの求婚だ。


「こうなってしまったからには、きちんと責任を取らせてください」


 彼はそのままズボンが汚れるのも構わず、膝をついた。ミーシュは驚きのあまり、大きく目を見張る。


「私があなたの手となり足となって償います」


 騎士・貴族の最敬礼など、庶民のミーシュは初めて見る。なんとなく浮世離れしている人だとは思っていたが、こんな道ばたでの大仰な挨拶は、さすがに想定外だった。


(えっ、どうしよう)


 じわじわと頬が熱くなっていく。お姫様みたいだなんて浮かれたことを思ってしまい、思考がふわふわとまとまらない。うれしいのか恥ずかしいのか、緊張しているのか溶けているのか、自分でも自分の感情に説明がつけられないくらい混乱していた。


「どうするの、ミーシュ。手を取ってあげるの?」


 メラが冷やかすように言うので、さすがのミーシュも少し目が覚めた。


 一時の感情に流されず、ここは冷静に話し合うべきところだろう。


「あの、ここでは何ですから、少しお話をしませんか」


 なんとかミーシュは、フィデルを自宅に引っ張り込むことに成功した。


 興味津々で覗きたがるメラとケレンを追い出し、フィデルとテーブルを挟んで対面する。先程は少し舞い上がってしまったが、現実的に考えれば求婚を受けるには少々問題が山積しすぎていた。まずはそこを確認しようと、ミーシュは口を開く。


「まず、私は結婚を望んでいません」


 ミーシュがそう切り出すと、フィデルは複雑な顔をした。後悔と同情がないまぜになったような、痛ましいものを見る目――……


(にしては、ちょっと必死すぎる、ような)


 なぜだろう、どうにも彼が苦しそうだと思ってしまうのは。


「でも、その身体ではもう、日常生活は難しいでしょう」

「別に大丈夫ですよ。今までとあまり変わらないですから。飲み水はあらかじめ汲んでおけば大丈夫ですし、火をつけるのも、誰かに頼んだらいいだけです」

「魔法学園に入学する予定だったと聞きました。あなたの未来を台無しにしてしまったんです」


 さすがにその点は擁護しきれない。ミーシュにも、ちょっともったいなかったなぁ、という気持ちがないでもなかった。


 しかし、だからといって後に引きずっているわけでもないのだ。残念ではあるが、元から無謀だと思っていたところへの挑戦だった。だから当然のように、別の進路も考えてあった。


「学園のことなんですが、私、本当は迷っていたんです」


 そう言って、ミーシュはちらりとドアの方を見た。


「メラとケレン――さっき出ていったあのふたり、実は義理の姉と兄なんですよ。私はずっとおうちにご厄介になっていて――本当の家族みたいに、よくしてもらってます。私をとてもお金のかかる魔法学園にまで入れてくれようとしてるんですが、さすがにそれは甘えすぎかなって、自分でも思っちゃってたところでした」


 すごく素敵な人たちなのだと、彼にも自慢したいくらいだった。


「魔力が弱い私に、少しでも専門的な訓練を受けさせてあげたいって言ってくれたんです。それで、皆が真剣に応援してくれるから、言い出せなかったんですが、本当は私、働いた方がいいんじゃないかなって思ってました。別に、魔法が使えなくても働けるところはたくさんありますからね」


 贅沢はできなくても、日々の暮らしは何とかやっていける。ミーシュにはそれで十分だった。


「だから、かえって吹っ切れました。魔法学園とは縁がなかったんだと思います。神様が道を間違えないようにって、フィデルさんに出会う運命をくれたんじゃないかなって」


 ミーシュは微笑んでみせたが、フィデルは硬い顔のままだった。


 気になりはしたが、とにかく自分の意見を言ってしまうことだと思い、ミーシュはあえて話を切り上げようとした。


「――そういうわけで、私は大丈夫です。ご親切にありがとうございました」


 これで終わりだ。魔術師はしばらくミーシュのことで後悔するだろうが、そのうちに責任を取らされなくてよかったと思い直して、忘れていくだろう。


「待ってください」


 強い調子で言われ、ミーシュはビクリとした。その表情は、神妙になっている――というのを通り越し、恐ろしいほどに険しくなっている。


「こんなのが運命だなんて、俺は納得できない。絶対に認めない」


(……怒ってる?)


 ミーシュは彼の言葉にあからさまな動揺を見て取り、眉をひそめた。怒られる謂れはない。彼は何か、ミーシュの理解が及ばぬところで、奇妙に感情を波立たせている。


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