04.協力者
20xx/06/11 09:00
翌朝、俺は寝すぎた体を起こした。もう痛みは無いようだ。
周りを見渡すと、部屋の椅子には見慣れない女の人が頭をゆらしながら眠っていた。
「あの・・・」
「んがっ!」
一瞬の光景に笑いをこらえる。声に反応して体をビクッとしたかと思ったら結構な奇声が聞こえたのだから。
「ああ、すみませんね。少し休憩しようと座ったら・・・年には勝てませんで」
「いえ、というかずっとここにいたんですか?」
その女性はこちらを少しの時間、ボーと見ていた。
「ああ、そうでしたね。初めまして将司さん。私は高田といいます。よろしくお願いしますね」
「これはどうも、ご丁寧に」
思わず会社員のように畏まってしまった俺は、その高田春江さんというおばあちゃんの話を聞いた。
【治癒】という回復力を高めるスキルを持ち、昨晩も定期的に俺を回復してくれていたようだ。今では背中の傷すら何も残っていない。いわば命の恩人であった。
この施設には孫もいるようで「実はもう将司さんはもう会ってますよ」といたずらな笑顔を向けてくるが、あの女は宮城と名乗っていたので、最初に戦ったうちのどちらかであろうことは想像できた。孫というのだからあの小さな女の子の方だろう。
噂をすればというやつかは分からないが、あの三人が部屋に入ってきた。
「もうすっかり治ったようね。改めて、この黒瑪瑙 をまとめている宮城由香里よ。そして昨日あなたが叩きのめしたのが、佐伯良子と高田真澄よ」
その言葉を聞いて、横にいた春江さんの目が光ったような気がした。ちょっと怖い。
「おい!人聞きの悪いことを言うな!その二人には特に何もしていないだろ!」
「あら、知らない間に私だけに将司くんに色々とされちゃったみたーい?怖いわー?」
「おい何いってんだ!はー、今のでお前の性格がなんとなくわかった気がするよ!・・・で、これから俺はどうなるんだ?」
「ふふふ。将司くんはせっかちね。何もしないわ。しいて言えば、これ、見といてね。そして気が向いたら協力して。後で武器庫も案内するから、何かあったら持っていくといいわ」
そう言うと宮城由香里はノートPCを俺に渡すと良子と部屋を出ようとして立ち止まり、
「それと・・・この子はもう18。成人してるわ。ついでに私は、あなたと同じ年よ・・・覚えておいてね将司くん」
「はいはい」
シッシと追い払うようにして見送ると、目の前に移されていた画面を確認した。
「これだけ見れば大丈夫。あとこっちは色々な研究データのファイルだから、そっちは開かない方がいいよ。由香里ねーちゃんは全部わかるみたいだけど、何書いているのかさっぱり分からなかった。あっ兄ちゃんはそっち系の人?」
残された真澄は、椅子の上で胡坐を書いて画面を指さし教えてくれた。
「俺も難しいもんはわからんよ。すまんな・・・」
「そっか」
目の前の画面に集中する。
そこには、宮城由香里の母、和子が残した不安や確信に満ちた実情がつづられていた。
一通り読み終わった俺は、真澄に「協力する」そう告げると、武器庫に案内された。
今現在の俺が手持ちは、武器は魔道石、後は国防省から支給された防衛隊の制服のみ。心許ない。
「ここにはみんなで集めて持て余したダンジョン産の武器とかがあるから。気に入ったのがあったら持って行っていいってさ。それとこれ!」
真澄から手渡されたのは、今さっきこの部屋の入り口に置いてあった袋であった。
中を見ると真澄たちここにいる面々が来ているのと同じ服であった。
「これはダンジョン産じゃないぜ!この研究所で作った特別性の戦闘服だよ。サイズは兄ちゃんが寝てる間にばーちゃんが図ってたよ」
「手際のいいことで」
俺はちょっとだけ自分の体を触り異変がないかを確認していた。なんの異変だ。と自分で自分を笑ってしまう。
1時間ほどその武器庫を物色した結果、強化ワイヤーのような武具と、腕と脛を守るプロテクターのような防具を頂いた。特にそのワイヤーについては、魔道石より使い勝手が良さそうだ。近距離攻撃においてではあるが・・・
そして、元の部屋に戻った俺は、真澄にネットニュースを見せられ自分が黒瑪瑙という国家反逆を企てる組織に迎合し、仲間の隊員を殺害した殺人犯として写真と経歴付きで個人情報が公開され、指名手配されているという現状を知った。
ネットのまとめサイトやSNSでは、屑だの何だのと罵る言葉と共に『赤い悪魔』というワードが飛び交った。写真に使われていたのが俺がスキルを強く発動している時の赤く光る眼が映った写真だったからだろう。
こういった恐怖をあおった写真の方が恐怖を煽れる・・・きっとそんなところであろう意思が透けて見えた。
やりようのない怒りを抱えながら、俺はまた与えられた部屋のベットに寝ころび目を閉じた・・・
次回更新 06/11 18:00
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