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飛島君は正義の味方  作者: 古月湖
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七話 仲間割れはやっぱり見たくない

 研究所の一員となった翌日、俺はアジトの三階に来ていた。

 昨日荒れ放題だった室内はもうすっかり元通りで、占拠された後はほとんど残っていない。一部の壁に『バカ』だの『アホ』だの罵詈雑言がスプレーされているが、まあもともといくつかあったので一個や二個増えた程度じゃ気にならない。

 それよりも重大な問題がいま目の前にある。

 俺は正面でふんぞり返っている面々をみてから、出来るだけ威圧感を与えるように言葉んで選び口を切った。


「それで昨日は何してたんだ、杉山」

「ゲーセンだよ、さっきから何回も――」

「――とぼけんな」


 杉山の胸ぐらをつかみ上げ、どすを聞かせて睨みつけた。

 けれど、杉山は口元をニイと皮肉っぽく歪ませる。


「またご自慢の暴力ですか?」

「……わかった、質問を変える。第一工業の連中をけしかけたのはお前か?」


 手を離してからそう問い直すと、杉山は不愉快そうに俺のを一瞥して、


「知らねえよ。それともなんだ、メンバーが信用できないのか?」

「そういうわけじゃない」

「なら信じてくれればいい。俺はイチコーの連中とは関係ない。わかったらもう行ってもいいすか? ダチ待たせてんで」


 これ以上時間をかけても無駄だろう。このまま続ければ意地になられる可能性もある。そうなればもう話し合う意味がない。


「最後に、もうひとつ聞かせてくれ」

「なんだよ」


 ほとんど階段を向きかけていた杉山に声をかけると、不愉快そうに足を止めて振り返った。目が早くしろと訴えかけて来ている。

 けど……昨日ここで俺とやり合ったやつのことってどう言えばいいんだ?

 伝え方を迷っていると、杉山がせっかちそうに足を鳴らしだしたので、とりあえず質問を飛ばしてみる。


「お前は、この前単身で乗り込んできたやつ覚えてるか?」

「いや、知らないな」

「えーと、そうだな……。じゃあ、お前の知り合いに俺とほぼ同じ身長で、目つきが悪いやつっているか? 髪型はツンツンで、俺と同じくらい喧嘩が強いヤツなんだけど」

「…………お前と同レベルのやつなんか見たことねえよ」

「え?」

「……なんでもねえよ。そんなやつは知らない、もういいだろ」


 きまりが悪そうに表情をゆがめながら吐き捨てるようにそう言った。

 まあ、たとえ知り合いでも言わない可能性のほうが高かったが、この反応的に旺史郎とは本当にかかわりがないとみてもよさそうだ。そうなると本格的にあいつへの手掛かりがなくなってしまったが、ここでいくら考えても仕方ない。


「そうか……悪かったな、もう行って大丈夫だ」

「んじゃ、おつかれ」


 杉山は若干かぶせるようにそう言うと、不機嫌を隠さず大きな足音を立てながら階段を下りていった。

 やはり俺と杉山との溝は開いたまま。状況を変える一手を打っていないからというのは当然だが、これは時間による解決はしなさそうだな。

 と、さきほどまでの様子を見ていた堀田が近寄ってきた。


「どう見ますか、先輩?」

「そうだな……」


 旺史郎のことは置いておくとして、杉山が第一工業の襲撃に何かしら関与している可能性はなら。


「百パーセント黒……と言いたいところだが、微妙なところだな」

「そうですか? 僕からしたらもうやってるようにしか見えないんですけど。あおるような口調といい態度といい、完全に喧嘩売ってますってっ!」


 興奮する堀田をいさめる。

 ただ、堀田の言うことも確かにそうだ。

 だが、学年で考えれば杉山は高校三年で俺は高校二年。いくらグループ内で俺の立場が上だとしても、年上なことを考えるとああいう態度になるのはある意味当然だ。


「いや、俺もまずそうだとは思うんだけどさ……」

「けど、なんですかっ?」


 堀田はまださっきの興奮が残っているみたいだった。

 ただ正直、俺もこの件に関しては杉山が関わっているのは感じている。杉山の動機は単純だ。俺に少しでも打撃を加えて、願わくは番長の座への返り咲きを狙っているのだろう。

 ……だが、そうだと分かりつつも、そうであってほしくないと思う自分もいる。

 兄貴が番長だったころ、うちのグループはみんな仲良しで、俺が番長になった時もそんな未来を望んでいた。しかし、実際はむしろその逆。グループ内の空気はぎすぎすして、もはやこの廃墟にたむろするためだけに俺の下についているような状況。

 それでも、いつかは昔みたいに戻ると信じている。

 だから、俺は杉山を信じる。逆に言えば、信じることしかできない。


「もう少し様子を見てからでも、判断は遅くない」

「……先輩がそう言うなら、従いますけど」

「悪いな、いつも」

「僕は構わないですよ。あっ、お茶飲みます?」


 提案にうなずくと、堀田はスキップで電子ケトルのほうへ向かっていく。

 と、そこで言っておかなくてはならないことを思い出して、その背中に声をかけた。


「そうだ、これからここに来る回数が減るかもしれない」

「あれ、なにかあるんですか?」

「……あー、いや、用事ってほどのことじゃないんだけど」


 研究所のことって、どう説明すればいいんだ? そのまま説明するのはアウトだ。一応あのあと幸之助からそのあたりについては気を付けるよう言われている。となるとなんとか嘘でごまかす必要があるけど……。

 答えあぐねていると、不意に堀田がピンと人差し指を立てた。


「あっ……でもこれはあんま言わないほうが良いですもんね。大丈夫です。僕、口の堅さには自信あるので」

「? 何のことだ?」


 尋ねると『とぼけちゃって』とあしらわれた。ちょっとイラっと来たゾ。


「安心してください! 他の人にはうまく言っておきますね!」


 そう言う堀田の口元はニンマリと歪んでいる。

 ……これ絶対変な誤解されてるな。

 堀田が一度周りを確認してから耳打ちしてくる。


「……今度僕にも紹介してくださいねっ」

「あー、うん。機会があったらな」


 どうやら恋人ができたと思ったみたいだ。しかしまあ高校が違うのでそこら辺の確認ができないことを考えると、良い誤解のされ方なのかもしれない。

 とりあえずそう言うことにしておいて、俺は堀田から渡されたお茶に口をつけるのだった。


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