第一話 ある雪の日
飛島昴はブラコンである。
もっと細かく言うと、弟ではなく兄が好きなブラコンである。
俺の五つ上の兄貴、飛島大道は俺のあこがれの存在だ。
地元のヤンキーを中学三年生にして力で従え、シマのなかで起こるいざこざを拳一つで解決してしまう。そして一癖も二癖もあるヤンキーたちをまとめ上げ、立派に統率して見せた。
いつだってみんなの笑顔の中心に兄はいた。
そんな姿を見て、俺は幼心なりに兄のことを本物の『正義のヒーロー』だと思っていた。
それは俺が十七歳となった今でも変わることなはい。
誰よりも正しく、格好よく、そしてなにより、強い。
そんな兄が俺のなによりも自慢で、誇りで、憧れ――だった。
「――あに、き……?」
それは今から五年前のこと。
あんなに強かった俺の兄は、この辺りにしては珍しい大雪の日に、交通事故で亡くなった。
今でも網膜に焼き付いてる。純白の雪を染める、ドラマなんかで見るよりずっと鮮やかで、どす黒い血の色が。
今でも鼓膜に染みついている。生命を破壊しつくすような、内臓を破裂させる衝撃音が。
あの日以来、俺にはとある力が芽生えた。
それはまさしく超能力で、だがしかし、それで兄を生き返えらせることは出来ない。
――一瞬だけ時間を飛ばす能力。
それが俺に芽生えた超能力。特殊能力。
そいつは日常生活にはなんら役しないが、喧嘩のような一瞬の隙が命取りになる場面では効果的だった。
そして俺はその能力を使い、地元のヤンキーの番長へと登り詰めた。
兄みたいな『正義のヒーロー』になりたいから。
飛島昴はブラコンである。
そして同時に、超能力者で番長でもある。