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月の蘇る-5-  作者: 蜻蛉
第二十五話 父親
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6

 桧釐と宗温が揃って後宮に来たのは、その夜の事だ。

 王はこの時間に自然に目が覚めて僅かながらも粥を食べたと、そういう報告が二人に届いたのだろう。

 桧釐はすぐさま詰め寄った。

「さて、説明して貰いましょうか。灌王が滞在しているうちに覆せるものは覆さないと」

 龍晶は(とこ)の中で、祥朗の煎じた薬の入る椀を手の中で弄んでいる。

 面倒臭そうにゆっくりと従兄を見上げて一言、詰った。

「一番近くで仕事をしていた癖に、お前が一番理解してないな」

「何ですと?」

「この戔では王の立場は骨抜きになり、戦の折にだけその責を負う立場だと、そう灌王には言った」

 見上げ、見据える目が怖い。

「そういう国に俺達二人で作り替えている所だろ。自覚無いのか」

「そういう立場に鵬岷王子を据えて良いのかと、そういう事なのですね?」

 横から宗温が問い、龍晶は頷いた。

「明日にでも王子と話してみようと思う。王子にも逃げ道は作ってやりたい。このまま我々の思惑だけで人生を決めてしまうのは酷だろう」

「確かにそうですね。本当なら自国の王となる方でしたのに」

「逃げ道を作るったって、逃げられんでしょう。誰かさんみたいに」

「そうかもな。でもどうやら、彼は俺とは違うようだ」

「へえ?」

「自分で道を切り開ける人だよ。俺は灌でそれを見た。だから信用はしている」

「分かりませんな。その信用に意味があるのか無いのか。戦の時盾になって死ぬだけが仕事だって言ってるのに」

「桧釐殿、口が過ぎますぞ」

「だってそうでしょう、陛下。あなたは一体あの子供に何を期待しているんですか」

 龍晶は口を湿らすように薬を一口飲んだ。

 そして言った。どこか唇に自嘲さえ浮かべて。

「彼を通じて皓照(コウショウ)が力を持つ事だ」

「は…!?」

 桧釐は呆然と声を漏らしたその一瞬後、王の胸倉を掴んだ。

「自分が何を言ってるか分かってるのか!?」

「桧釐殿!」

 宗温に引き剥がされる。抵抗は無く、数歩後ろによろけて。

 そして尚も怒鳴った。

「それはあなたが一番危惧していた事でしょう!?何だよその掌返しは!?俺達があの男に失脚させられても良いって言ってんのか!自分が死んだら関係無いって!?」

「桧釐殿、後宮から出しますよ!」

 宗温の意を受けた警護の兵が動いた。が、龍晶は軽く手を上げてそれを止めた。

「問題無い、宗温。言わせてやれ。俺のせいだ」

「しかし、陛下…」

「説明はせねばならんだろ」

 桧釐に目を向ける。その目は悲しく、温かい。

「数少ない肉親でもあり、ここまで一緒に戦ってきてくれた戦友だ。俺はお前に後を託そうと思っている。だから全て話すよ」

 桧釐は自ら殆ど出口へ向かおうとしていた体を王の元へ戻した。

 憤然と、鼻から息を吐いて。

「どういう事ですか」

 龍晶は中身の溢れた器を祥朗に返し、女官に乱れた襟元を直される。そのたっぷりとした間の後に。

「次の戦を避けるにはそれしかない」

 目は焦点を失い、何かに言わされるような口ぶりだった。

「この首を差し出したとしても、敵は次の機会を窺うだけだ。これでは埒が開かない。確かに時が経てば宗温は軍を強くしてくれるだろう。攻められても勝てるくらいに。だがそれだけでは戦ばかりの国になる。根本的に、何かを変えねばならない」

「それで、皓照の力を借りるというのですか。朔夜の力が抑止力となったように」

「ああ。だがそれは半分当たりで半分外れだ。戔の為だけにその力を借りるのではない。そもそもこの世に戦が起きぬようにする為だ」

「そんな事が出来るとは思えませんが。いくらあの男でも、各国を操れる訳じゃあるまいし」

 龍晶は桧釐をじっと見返した。

「は?いや、そんな」

「思い返してみろ。この戦のきっかけを。朔夜を苴に渡せと言ってきたのはあの男だろう」

「まあ、確かに」

「更に言えば、苴と哥を結び付けたのは、あの男が苴王に書状を書かせ、俺が届けた事だ」

「そうですが、偶然でしょう。あの時はまだこの国がどうなるかさえ分からなかったのに」

「皓照には分かっていた事だ。俺が頼ったその瞬間に、戔の未来は決まっていた。否…もしかしたら、もっと前から決めていたのかも知れないが」

「もっと前って…いつですか」

「俺が産まれた直後、あの男は父に進言している。世継ぎは兄ではなく俺にすべきだと。そしてその通りになった…」

 一つ一つは小さなきっかけを与えただけ。

 だが振り返って見ると、それが大きな流れを作っている。

 それこそが皓照の力だ。

「あの男は権力者がそれと気付かぬうちに意思を吹き込み、未来を己の思うように変える事が出来る。そして今や、その意に従わぬ王は俺だけだ」

 灌、苴、間接的に哥の大臣も操られている。

「皓照は俺を殺して戔を手に入れたいんだ。本当なら俺を操り人形にする筈だったのに、存外に俺が生意気だったからしそびれた。だから俺だけを排除したい。それは分かる。はっきりと」

「お言葉ですが陛下、皓照様はそのような方ではありません」

「宗温、お前は自分が操られていないと言えるか?あいつの意のままに動いているのはお前の意思だろうが、皓照という男が本当に見えているか?」

 宗温は口を閉ざした。

 長年信じてきたものを崩すのは難しいだろう。

「お前の場合、小奈を亡くした心の隙にあいつが付け入ったと言えるだろう。勿論悪い事とは言わない。結果的にそれで俺も救われたんだから。だが全てがそうなんだ。人間の心の隙に奴は入り込んで操る。あの強大な力があるから、俺自身もあいつに頼りたいと思った」

 項垂れて頷いた宗温に代わり、桧釐が目を吊り上げて問うた。

「それでも戔を皓照に委ねると言うのですか。その話だと、この戦を起こし陛下を亡き者にしようとしているのは全てあいつの意思だという事になりますが。それでもですか」

「だからこそだよ。戔をあいつのものにしてやれば、これ以上の戦は起きない」

 桧釐は己の頭を鷲掴みにして掻き毟り、そのまま抱えて黙った。

 宗温が頭を上げて、表情を明るくして言った。

「ならば陛下、今すぐにでも皓照様に協力をお願いしましょう。陛下がそのおつもりならば、この戦を避けて誰の犠牲も出さずに終わらせる事が出来るのではありませんか」

「ああ。それが正解なんだろうな。だけどな宗温、俺は奴に頭を下げる気は無い」

「何故ですか。戦を避けられるならそれに越した事は無いでしょう」

「なんだろう…意地かな。間接的にとは言え、自分の家族全員を死に追いやった男へ、そうと分かった以上は頭を下げる訳にはいかないんだよ。だから俺もあいつに殺される。それを選びたいんだ」

 分からないという顔をして宗温が見詰めてくる。

 理解はされないと知っている。だけどもう、そういう視線には慣れ過ぎてしまった。

「宗温、いつか俺の言葉を思い出してくれればそれで良い。これは頼みだ。皓照は世のありようを変える時、いつも人に兵を挙げさせる。お前が兵を率いる時、それが誰の意思なのか疑ってくれ。逆らう事は出来ないと思う。だから密かに疑って見て欲しい。その上で戦い方を考えて欲しい。兵を…人を、ただの駒とさせない為に」

 宗温は暫し黙って考えていた。

 出会ったばかりの頃、珍しく言葉の通じる将だと感謝した。善悪の価値観が似ている、とも。

 だから伝わると思っている。信じるものは違えども、それを超えた共通の願いがある筈だ。

 小奈が、自分達を結びつけてくれた。その絆は強い。そうでなくてはならない。

「よく…分かりました、陛下。仰せの通りにします」

 目を伏せたまま、呟くように宗温は言った。

 今は全て納得できなくても良い。いつか解る。その時思い出してくれれば。

 あとはもう一人、納得いってない男が居る。

「抗うと言ったではないですか」

「一人ではどうにもならないからな。それにもう、疲れた」

 朔夜が居てくれたら。

 否、あいつにも皓照に逆らう意思は無い。その力が歴然としているのも知っている。

 巻き込めば、本当に消されてしまう。

「悔しいが、最初から負け戦だったんだよ。それに皓照は戦の無い世を実際に作ろうとしている。それに逆らう俺は大悪人だ」

 何か言いたげだが言葉にならない桧釐の気持ちは解る。

 母の遺言をこのような形で実現させてしまう、なんて皮肉だ。

「それはともかく…お前の気掛かりは、あの子だろう」

 投げられた視線を追っていけば、春音を抱いた華耶が入ってくるところだった。

「義父上様にもお会い出来ました。一応、お孫さんですから」

 腕の中の春音は機嫌良く「あーあー」と喋っている。

「桧釐さん、この子は賢い子ですよ。初めて会うお祖父様に抱かれても、ちっとも泣かないんですから」

「ちゃんと相手を見ているんですな」

 華耶が笑って桧釐に抱かせると、急に顔をくしゃっと顰めて泣き出した。

「ほらやっぱり」

 一同が笑う。難しい顔をしていた大人達を笑顔にした赤子は母を求めて泣いている。

「参った参った。頼むから若様、大人になっても俺の顔を見て泣くなんて事はよして下さいよ」

 華耶に息子を返しながら桧釐は戯ける。

「そんなのお前次第だろ」

「じゃあどうすれば良いんですか、陛下」

「俺のように政を使って虐めなきゃいい」

「はあ!?虐めてませんよ!別に!」

「やる方は自覚が無いからな。こういう事は」

 えーっ、と不服の声を上げる従兄を鼻で笑って、龍晶は言ってやった。

「春音は政と無関係の所で育てて貰おうと思うんだ。勿論、将来自分で選ぶならそれで良いんだが。それまでは一庶民として暮らした方が幸せだろう。鵬岷王子が来てくれるならそれも可能だ」

 目を瞬いて桧釐は龍晶の言葉を咀嚼した。

「この子の幸せの為、ですか」

 龍晶は悲しく微笑んで頷いた。

 自分に降りかかった苦難が、この赤子には火の粉一つ降り落ちないように。

「ああ、でも父親が居ないのは辛いものなのかな。俺には分からないけど。でもお前が居るから別に良いよな」

「良くは…ないでしょう。この子の父親は…」

「いいよ、もう。俺には無理だ」

 泣かれるどころか、まだまともに抱いた事もない。

 自分もそうだったと思う。だからだろうか、父が死んでも悲しみは襲って来なかった。

 それで良いと思う。

 最初から居なければ、傷にはならない。


「龍晶陛下、お久しぶりです」

 変わらぬ無邪気な声で迎えられた。

 騒動以来初めて後宮を出た。自分の足で立つ事すら久しぶりで、いつかのように他人に支えられながら進んだ。

 その従者達をも退がらせて、室内には二人きり。彼の実父さえ立ち会う事を拒んだ。

 周囲のどの雑音も遮断して向き合いたかった。

「お辛ければどうぞ横になって下さい。私に気遣いはされませぬよう」

 そういう自分は気遣いが出来る程に大人になっていると言いたいのか。龍晶は胸の中で笑った。

「ありがとうございます。ならば、遠慮なく」

 王子自らの手に支えられて長椅子に凭れる。だが流石に横たわる訳にはいかなかった。

 鵬岷は向かい合う形で床に膝を着いた。それを小さく首を振って、己の横を指す。

「良ければ、ここに」

 初めて二人は並んだ。

 立場の上下無く、同じ椅子に。

「以前お会いしたのは苴でしたね。大雨の日に。あの時は楽しかったなあ」

 鵬岷は時が戻ったように子供の物言いになる。

「あれから、如何でしたか」

 問うと、考える間も置かず答えが返ってきた。

「陛下のご無事とご活躍を聞くのが何よりの楽しみでした。本当は戴冠式も行きたかったんです。姉上の婚儀にも。でも城から出して貰えなくて、悔しい思いをしました」

 どちらの儀式にも彼の半弟が来国していたと記憶している。皇后の子。つまり、そういう事だ。

「灌を継ぐのは弟君だと決定したのですね」

「そうみたいです。私には誰も何も教えてくれないけど」

「あの取り巻き…失礼、周囲に居た者達は?」

 その物言いを理解出来るくらいには成長した彼は、少し笑って答えた。

「今は弟の方にくっついてます。でもお陰で身軽になりました」

「成程。世の中には己の利になる方へ流れる者は多く居ますから、お気になさりますな」

「陛下もそういう者にご苦労されたのでしょう?」

「それを誰に聞きました?」

「皓照様です。龍晶陛下の事が知りたいと言ったら、いろいろ教えてくれました」

「…どうやら要らぬ事まで喋ったようですね、彼は」

「お許し下さい。近ごろは唯一、私の相手をしてくれる人なんです。だから時を忘れて聞き入ってしまって、何でもお尋ねしてしまって」

 それはそうでしょう、彼はあなたを利用したいのだから。

 喉元まで出かけた言葉を飲み込んで、龍晶は本題を切り出した。

「お父上から話は聞かれましたか?本当にこの国に来られる事をお望みでしょうか」

 この国に迎えられる厳しい条件は、既に灌王から教えられている筈だ。

 それとも隠しただろうか。なんとしてもこの王子を他国へやる為に。

「聞きました。それで幾つかお尋ねしたい事があるのですが、良いですか?」

「何なりと」

 やっぱりこの親子は俺とは違うんだと、羨望を込めて見返す。

 人として扱って貰える。多分それは、そのやり方を知らない俺には出来ないだろう。それで彼を失望させるのかも知れないけど。

「陛下の養子になったら戔を継ぐのは私で良いのでしょうか。それとも春音様ですか?はたまた、王位そのものを無くすと陛下は仰せなのですか?」

「無論、それは年長の鵬岷様に王位を譲ろうと考えています。しかしそれは王に全権と特権が与えられる従来の立場ではなく、政は家臣が分担して行い、王は民や他国の王、或いは神へその報告を行う為の立場です。お分かり頂けますか?」

 鋭い質問に言葉を和らげず返す。もう理解されるだろう、と。

「つまり、王に何かを決める権利は無いという事ですか?」

「無論、家臣と共に議論をして国を作る事は出来ます。しかしそれは共に国を作る者として家臣らと同列に論じ、決定するものです」

「成程、分かりました。私は年少だし、戔の事は分からないから、まずはその議論を聞いて勉強すれば良いですね」

「流石、(わきま)えておられる。生意気に知った口を叩いていた俺などとは大違いですね」

「だって陛下は何が戔の為かよく知っておられますから。勿論、その議論には陛下もおられますよね?」

「いいえ」

 え、と少年の目が丸くなる。

「俺は王子が来て下さったら、王位を譲って都から去ります。もう身が持たぬのですよ。お許し下さい」

 戦の顛末について灌王は語らなかったらしい。それはそうだ。子供に教える事ではない。

 だからという訳でもないが、龍晶もぼかして伝えた。

 多分、恐れたのだ。この王子が自分と同じようになる事を。

 幼い時に父の死を見て、誰かに殺されるのは王族として当然の事なのだと捉えてしまった。そして兄の死に、己の死を重ねた。こうして憎まれて惨殺されるのだと。

 そう知ってしまうと、それ以上精神が持たなかった。壊れた。あの時から、決定的に。

 目の前のまだ無邪気な人に、そうなって欲しくはない。

 己の死を常に横に置いて悪夢を見、狂っていくなど。

 彼の知らない所で自分は死のうと決めた。

 それが選べたら良いのだが。

「せっかく一緒に政が出来ると思ったのに」

 残念そうに鵬岷は呟いた。

「ならば…帰りますか?」

 このまま灌に戻って欲しいのだろうか。自分でも分からないが、その方が彼にとって幸せだと思う。

「いいえ。灌に私の居場所はありませんから」

 きっぱりと、王子は言い切った。

「お願いします。戔に置いて下さい。どんな立場でも良いんです。頑張って何でも出来るようになりますから、戔に居させて下さい」

 堪らず龍晶は重い溜息を吐き出した。

 前屈みになり、その口を両手で塞ぐ。

「大丈夫ですか?ご気分が…」

「違います。大丈夫です。ただ…」

 あの台詞を言わせたのは皓照だ。間違いない。

 一人の子供の居場所を失くさせた。誰もに、それが最善だと信じ込ませて。

 簡単な事だ。鵬岷王子がこのまま灌に居れば、将来の騒乱に繋がりますよと言うだけだ。

 今だってその萌芽は存在する。だから皆、鵜呑みにする。それが都合が良いから。

「灌に残してきたものは無いのですか」

 何かに縋るように尋ねる。

「ありません。誰も僕のこと、忘れてしまってるから」

 どうしてこんなにも孤独なのだろう。

 それが異常なのだと、彼は知っているのだろうか。

 五歳までは母と過ごしたというのだから、自分とほぼ一緒だ。だから知っている筈だ。

 だとすれば、残酷だ。

 ここに来た所で、誰も彼に寄り添う者は居ない。

 だからこうして孤独な者同士、並び寄り添う事になるのだろう。

「もう一つだけお尋ねしても良いですか」

 少年の声に、頷く。

「陛下は僕を養子にしても良いとお考えですか?」

 兄に伸ばした自分の手が見えた。

 それは即座に叩き落とされた。その後も散々に殴られたけれど、最初に手を拒まれたその痛みが何より痛く悲しかった。

 今、己に伸ばされた手を、俺はどうするだろう。

「勿論です。鵬岷王子」

 目を瞑って手を取るようだ。

 その先に何処へ連れて行くか、知っているのに知らない振りで。

 狡いと思った。

「では…父上とお呼びしても、良いですか?」

 出来れば耳を塞いでしまいたかった。

 どうしてこんなに、怖い。

 喉元に刃を突きつけられているようだ。こう言わねば、掻っ切られる。

 誰に?あの男だろう。

「ええ。歓迎します…王子、否、鵬岷陛下」


 後宮に帰ってきた夫を見て、華耶は驚いて声を掛けた。

「どうしたの…顔色が…」

 従者の支えから離れて、ふらふらと妻の元へ近付き。

 力無く抱き寄せ、肩の上に顔を伏せた。

 華耶は崩れないように咄嗟に抱き止めながら、見えない顔を窺う。

「…終わったんだね」

 問うと、小さく頷く。

「お疲れ様…」

 泣いているのは誰の為にだろう。

 居場所を失くした不遇の王子は、誰なのだろう。

 己の血を呪いながら、俺達は何処へ向かうのか。

 今は何も考えたくない。

 この温もりで己を騙している。


挿絵(By みてみん)

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