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家に帰る途中、サービスエリアで四郎と明石はドカ食いをする…そして四郎とルージュリリーの関係が。

「あ~やっぱり悪鬼の血ってヤバいんだよ。

 あたしが言った通りでしょ?」


助手席に座った真鈴が手を頭に組んでぼやいた。

そう言えば真鈴は四郎からダマスカス鋼の子猫ナイフを貰った時に結構念入りに消毒していたなと思いだした。


「四郎の棺の中の武器は全部徹底的に消毒しないとヤバいよ。」

「その調子で自分の部屋も奇麗にしてくれれば…」

「彩斗なんか言った?」

「いや別に、何も問題無いよ。」

「ならば結構、あ!そうそう!

 四郎!あのスコルピオの女戦士はいったい誰なのよ!

 すっごい気になるんだけど!」

「え!それあたしも聞きたい!」

「俺も聞きたいものだな。」

「俺もさ、あんなに激しいキスシーンを見せられたらな!」


後ろを走っているハイエースの明石達からの声がインカムで聞こえて来た。


「わらわも眠いけど気になるの!」


はなちゃんまで手を上げて叫んだ。

そう、今の俺達の最大の関心事はあの親玉悪鬼を巨大な象撃ち用の600ニトロエクスプレス弾の連射で始末した、第3騎兵スコルピオの副長の女。

四郎がルージュリリーと呼んで固く抱き合ったあの女の事だ。


「四郎、ひょっとして俺達にくれたルージュの槍ってあの女の人から命名したんじゃないの?」

「あ~やれやれ、やっぱり君らは気になるのかな?

 われは少し草臥れたし、腹もかなり空いているんだが…」


俺はランドクルーザーを運転しながら時計を見た。

午前6時20分。


「よし、高速に乗ってサービスエリアで朝飯食べながら聞くと言うのはどうだい?

 そして簡単な反省会と言うか、ミーティングみたいのやろうよ。」

「賛成!

 あたしも少しお腹が空いたよ。」


真鈴が同意の声を出し、インカムから明石達の賛成と叫ぶ声が聞こえた。

俺達は車を走らせて韮崎で高速に乗り双葉サービスエリアにすきっ腹を抱えて乗り込んだ。


幸い午前7時を過ぎてレストランは営業を始めていた。

四郎はあまりこういう所で食事をしたことが無く熱心に食券の自動販売機のメニューを見ていたが、やがて甲州ほうとう、うな重、そして甲州カツカレーを頼んだ。

さすがに大食らいの四郎だと感心したが、明石も甲州ほうとう、エビフライ定食、うな重を頼んでからしばらく四郎と相談して食事が来るのが待ちきれないのでそばおやきの粒あんを2つづつ頼んだ。

さすがに悪鬼は大食らいとは知っていたが、喜朗おじが甲州カツカレーと海鮮焼きそばを頼んだのが控えめに感じる程の食欲だった。

俺達もそれぞれ食券を買って注文を済ませてテーブルについた。


「それにしても四郎達は食べるね~。」


四郎と明石はおやきを頬張りながら頷いた。


「彩斗、当たり前だ、あの戦いでわれらが無傷だったとでも思っているのか?

 われは腕と助骨と鎖骨を骨折したし、背中はあの親玉悪鬼のでかい太刀で深く切り裂かれたんだぞ。

 すぐに再生するはするんだが痛みと苦痛は半端じゃないんだぞ。」

「そうそう、俺も左腕が千切れそうなほど噛み裂かれたし、あの親玉が放り投げてきた取り巻きの下敷きになって足首が骨が出るほど骨折したし、細かい傷など数えきれないほどだ。

 だから、傷を治すのに消耗した体力を取り戻さないとな。」

「そうそう、景行の言う通りだ。

 非常に体力を消耗しているのだ。

 食って食って体力を取り返さねば。」


なるほど、四郎と明石が全身返り血まみれになっていて判らなかったが、実は相当な傷を負っていたんだなと、あの修羅場を思い返しながら俺は思った。


「そうか、俺達は大した傷を負わなくて助かったんだな。」

「その通りよ彩斗、真鈴、私達は一度傷を負うと四郎達みたいにすぐに治る訳ないからね。

 だから、悪鬼に掴まらないように俊敏さが大事なのよ。

 戦い方も変わるんだよ。」


ちゃっかりと明石のおやきを一つ取ってかぶりついている加奈が言った。

確かにその通りだ。

人間と悪鬼では傷の再生能力などを考えたら自ずと戦い方も変わるものだ。

俺や真鈴や加奈が敵が繰り出すナイフの刃を手で受け止めて反撃するなんて芸当はとても無理な相談だ。


「加奈が言う通りだな。

 君らが傷を追ったら俺がいくら治療してもすぐに戦闘に復帰するなんて事は不可能だからな。

 俺達のような戦い方をしていたら命がいくらあっても足りないぞ、君らは人間の戦い方を極める必要があるんだよ。」


喜朗が早めに来た海鮮焼きそばを食べながら言った。

喜朗おじのハイエースにちょっとした手術が出来る程の道具がある事を今更ながらに感心したし、いざと言う時の為に喜朗おじは俺達に必要不可欠なメンバーだと思った。


「なるほど、確かにそうね。

 今回の戦いではかすり傷程度で済んだ私達は運が良かったと言っても良いかしら。」


深く頷いた真鈴におやきを食べ終えて生姜焼き定食にとりかかった加奈が言った。


「真鈴、そうだと思うよ、

 今回私は傷を縫わなきゃならない羽目にならなかったもん。

 あれだけの数、いくら『若い奴ら』と言えどもねあれだけの奴らと戦ったのは初めてだけど、凄く運が良かったと思わよ。」


つけそば付き煮かつ丼セットを食べながら頷く真鈴を見ながら、俺はチャーハンセットを食べながら加奈の背中に走る凄まじい傷跡を思い出した。


「そうか…スコルピオの中にも人間のメンバーが居たみたいだけど、やっぱり…」

「そりゃあ多分傷跡だらけだと思うよ~!

 悪鬼と違って人間は傷が残るからね。」

「だけど、今日、結構な金額のお金をもらったけれど…お金で、給料が高いからと言ってとてもあの仕事は出来ないわね。」

「そうだな真鈴、きっとスコルピオの人間のメンバー達にも悪鬼との戦いに身を投じる事になる様々なドラマがあると思うな。

 家族や大事な人を殺されたとか、自分自身が非常に危ない目に遭ったとか、様々な深刻な理由があると思うよ。

 処理班の人間達にも様々なドラマがあるんだろう。

 とても普通の求人で雇うような仕事では無いからな。

 しかし、このうな重は旨いな!

 サービスエリアだから対して期待しなかったが中々の仕事だ。

 四郎、この山椒の粉を掛けるともっとうまいぞ!」


明石がうな重を頬張りながら言った。

俺達はしばし会話を中断して食事にとりかかった。

テーブルに並びきれずに隣のテーブルにまではみ出した料理の皿が次々と片付けられていった。


「ああ~食べた食べた!

 さて、いよいよメインイベントよ!

 四郎、あのスコルピオの副長の女の事を白状しなさいよ!」

「うむ、話してよいが、コーヒーを頼まないか?」

「あ~判った判った!

 コーヒーを頼んでくるわよ!

 加奈、一緒に行こう。」

「良いわよ。」


真鈴と加奈が立ち上がり食券売り場に歩いて行った。


「あの2人は姉妹みたいになったな。

 良い事だ。

 司と忍が加奈の妹だとしたら真鈴は加奈の姉さんのようだな。

 本当の加奈の姉はあの時…」

「喜朗おじ。」

「ああ、そうだったな景行。

 彩斗、加奈が話すまではその事は言うなよ。」


明石と喜朗おじが意味深に思える会話をして、俺はますます加奈の過去に興味が湧いた。

やがて真鈴と加奈がコーヒーの食券を持って帰って来た。

ちゃっかりと花ごよみというスイーツまで2つ頼んでいた。


「さて、準備が出来たよ。

 四郎、観念して話しなさい。」

「うむ、しょうがないな。」


四郎はルージュリリーと呼んだ女との事を話し始めた。

女はクレオールの父親と白人居住地の近くに住んでいたアメリカ先住民アポイエル族の母親との間に生まれたとの事だった。

クレオールの父親はルージュリリーが生まれる前に悪鬼に殺された。

母親はニューオーリンズの近くで洗濯や入植者の家事などを手伝いルージュリリーを女手一つで育てたとの事だ。

因みに本当の名前はリリー、ルージュとはあとから四郎が付けたあだ名だそうだ。

ポールのお供でニューオーリンズに来ていた四郎は日本人に風貌が似ているリリーを見て一目惚れをして口説いたらしい。


「そう言えば彼女、ハーフだけど日本人みたいな顔つきだったわね。

 ちょっと新垣結衣がしゅっとした感じで美人だったわね~!」


真鈴が納得した感じで頷き、俺はチッこのリア充めが!と心の中で舌打ちした。


四郎はリリーの母親の許しを得てリリーとの付き合いを始めた。

それ以来、四郎がニューオーリンズに行くたびにリリーとの楽しい時間を過ごしたらしい。

リリーの母親も四郎を気に入ったらしいのだが、リリーはいささか酒癖が悪く、時々四郎は持て余したが、それでもリリーの事を愛していて、その内にポールの許しを得て結婚しようと考えていたらしい。

だが、それには一つの障壁が立ちはだかった。

四郎はポールによって悪鬼になったと言う事だ。

四郎はそれをいつかリリーに打ち明けようと思いながらなかなかその機会は訪れなかった。

ポールが結婚を許す条件として四郎が悪鬼だと言う事をリリーに打ち明ける事を告げていた。

リリーも酔って酒瓶で酷く四郎を殴って怪我を負わせたのに直ぐに傷が閉じた事や四郎の人並外れた身体能力に少なからず疑惑を覚えていたが、それでも四郎の事を深く愛していたらしい。

そして、もう一つ、重大な障壁が四郎の前に立ちはだかっていた。

リリーの父親のクレオールはリリーの母の目の前で悪鬼に殺されていたのだ。

リリーが四郎が悪鬼だという事実を受け入れてくれたとしてもリリーの母親にはどう打ち明けるのか、それとも人間としての四郎を演じ続けるべきか、だが、不老不死の四郎が悪鬼だと言う事はいずれ母親に気付かれるだろう。


「ふむ、悪鬼が人間と結婚する時に誰もが悩む問題だ。」


明石が判るぞ四郎~!と言う感じで四郎の肩を叩きながら深く頷いた。


「俺のように遊び程度で済ませておけば問題は起こらないがな~。」


喜朗がコーヒーを飲みながら呟いた。


「こう見えて喜朗おじは凄い遊び人だもんね~。

 ひだまりに来ているお客さんの若い女性で喜朗おじのファンが多いしね。

 店が終わった後でよく若い女性と出掛けているしさ。」

「加奈、おじさまブームで色々と楽しい思いをしているよ。

 わははは。」


世間でおじさまブームなんてものが流行っているのか判らないが、確かに喜朗おじはそこはかとなく女性を引き付ける雰囲気がある。

どいつもこいつもリア充だらけだなと俺は苦々しい思いになった。

今ここに座っている俺以外の奴らは皆リア充か…絶対に皆2桁どころか3桁は性行為を…けっ。


四郎の話に戻ると、ある晩に四郎は意を決してリリーに自分が悪鬼であることを打ち明け、リリーがそれでも良いと言ってくれたら結婚を申し込むと決め、リリーの母親が四郎が悪鬼である事を受け入れられなければリリーと農園に移り住もうと決めて、ポールから休みをもらって一番上等な服を着てポール様から大事にしている白馬を借りてニューオーリンズに出かけたそうだ。

町で豪華な花束を買い、白馬に乗って町はずれのリリーの家に向かった四郎。

しかしそこで思いもよらない悲劇が四郎を、いや、四郎とリリーに待ち受けていた。






続く



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