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悪鬼討伐は後片付けが大変です…そして俺達は当たり前のように報酬を貰った…まぁ、当たり前か。

「さて、もう少しメディカルチェックとやら迄時間があるらしいから少しサーベルの汚れでも落とすか。」


四郎が咥え煙草で血に汚れたサーベルを抜いて明石のハイエースの中にあった消毒用のスプレーや布などで掃除を始めた。

加奈や喜朗おじも自分達が使った武器をテーブルに置いて念入りに掃除と消毒を始めた。

明石も江雪左文字を取り上げてテーブルに置いた。

はなちゃんは白目を剥いて仰向けに大の字になっている。

恐らく寝ているのだろう、気楽な物だな。


「俺も左文字の手入れをしておくかな。

 君らも使った道具は手入れした方が良いよ。

 『若い奴』を始末するとその体液が非常に厄介なんだ。

 臭いもきついし得体の知れない菌がうじゃうじゃしてるからな。」

「…得体が知れない菌…ですか?」

「そうだよ。

 悪鬼についた菌が突然変異を起こすのかその辺りは判らんが時々変な疫病が流行る時があったり皮膚についた体液をほったらかしにして気持ち悪い出来物が出来たりするんだ。

 気を付けた方が良いな。」


俺も真鈴も慌ててルージュの槍や子猫、小雀のダマスカス鋼ナイフ等を取り出して念入りに掃除と消毒を始めた。


武器の手入れをしながら俺達はスコルピオや処理班の者達が忙しく証拠を消して回っているのを見た。

そして殺されて腐乱死体となった悪鬼の体を防護服を着た処理班がポケットの中を漁り財布やスマホや指輪やネックレスチェーンまでなどを抜き取り、一か所に積み上げていた。

そして悪鬼の死体は見た目が冷凍車の様なトラックに次々と放り込まれていった。

積み上がった財布は別の処理班の人間が中身を抜き取り現金とカード身分証明書などの区分けしていた。


やれやれ、色々な事で色々な人間や悪鬼が動いているんだなと今更ながらに俺は思った。

ルージュの槍についた細かい汚れをブラシで落としながら、アルゼンチンの四郎の棺を購入して四郎を復活させるまで、現代の日本でこんな非現実的な騒ぎが起きてそれを人知れず処理する人間達がこんな大掛かりな組織でこんなに大勢が関わっているなんて欠片も思わなかった。

あの子供殺しの外道の時とは違い、今回の俺達にとっての大騒ぎは新聞やテレビマスコミやネットにさえも全然出て来ないで闇に葬られるのだろう。


処理班は徹底的に証拠を隠滅している。


その後、俺達は白衣を着た女性に順番に呼ばれた。

まず、血や内臓で汚れた戦闘服やブーツなどを脱いで、服や靴のサイズを訊かれた後で新品の服と靴を一式渡されてシャワーを浴びる様に言われた。

トラックの中のシャワーを浴びて新品の下着やアロハシャツやチノパンやスニーカーなど着てさっぱりすると別室で体に外傷や骨折捻挫などをしていないかチェックされた。

そして、着ていた戦闘服とブーツ等はクリーニングして送ってくれるとの事で送り先の住所を訊かれた。

至れり尽くせりだな、と思ったがさっき明石が言った得体の知れない菌がうじゃうじゃと言う言葉を思い出してぞっとした。

かなり念入りに体を洗ったが、もう少し徹底的に頭とか洗えば良かったと後悔した。


後悔してもしょうがないので俺は先ほど武器の手入れをしていた大型の天幕に戻り、武器の手入れを念入りに続けた。

やがて、四郎や明石、真鈴、加奈、喜朗おじがさっぱりとした軽装、どこかのリゾートにでも行くような姿になって戻って来た。


「うう~このまま海にでも行きたいな~!

 仮眠取らないでも良いから一度戻ってすぐRX7に乗り換えて海に行きたいよ~!

 サングラスかけてアイス舐めながら海沿いを走りたいよ~!」


ククリナイフの柄の部分に消毒スプレーを吹いて布でこすりながら5月の爽やかな朝風を顔に受けた加奈が非常に破壊力がある言葉を放った。


俺の目の前に、穏やかに晴れた5月の午後に海岸沿いの道路をオープンカーを運転している俺の横にはキュートな柄のアロハシャツを着てサングラスを掛けて髪を風になびかせて笑顔の加奈が横に座って…うわぁ~!行きたい!俺も行きたいよ~!

俺も加奈とRX7のオープンカーで海にドライブに行きたいよ~!


「きゃ~!加奈!それ良いね!行こう!

 私も行きたい!行こう!行こう!

 一所に行こう!」

「真鈴!良いね~!

 2人で海に行こうよ~!」


空気を全く読めないクソ女子大生のリア充で中2病の真鈴の野郎が神聖で犯すべからずな俺の妄想世界にずかずかと土足で入り込み、天空からRX7の上に姿を現して俺の顔を踏みつけて俺を運転席から引きずり出して道路に放り投げて加奈と笑いながら海岸沿いの道路をRX7のオープンカーで走り去った。

道路に投げ出されて転がった俺の体にカモメが寄って来て少し頭をつつかれたが不味かったらしく直ぐに飛び立って行き、代わりに野良犬が来て俺の体の匂いを嗅いだ後で片足を高々と上げて小便を掛けた。


「やれやれ、これは加奈に休みをやらないと俺の命が危ない感じだな~。」


喜朗が苦笑いを浮かべて顔を振った。


「え?えええ~!

 喜朗おじ、良いの~?

 ひひ~ん!ありがと~!」


加奈が声を上げて喜朗おじの首に抱き着き、頬にチュッとした。


「おいおい、よしなさい、子供じゃないんだから。」

「えへへ!ごめんねごめんね~!

 真鈴!一緒に行こうね!

 どっちか眠くなったら交代で運転すればよいよね!」


その時はなちゃんが手を上げた。


「なんじゃ、ドライブか?わらわも行きたいの~!

 わらわも連れて行け~!」

「あら、はなちゃん起きてたの?

 あの車は二人乗りだけど、はなちゃんなら大丈夫ね!

 じゃあ、女3人で海にドライブ行こうよ!」

「うん!そうしよう!

 うひー!楽しみ!

 彩斗!誰か責任者を探して私達いつ帰れるのか訊いて来てよ!」

「かしこまりました…」


俺は立ち上がると(心の中で)血の涙を流しながらスコルピオの佐久間か俺達に事情聴取をした教授風の男を探そうと天幕を出た。

夜明けは過ぎて日の出を迎えた辺りの景色からすっかり悪鬼の死体が姿を消し、昨夜の騒ぎの面影も無くなりつつあった。

俺が朝の空気を深く吸い込んだ時に佐久間とあの教授風の男が並んでやって来た。


「あ、吉岡君、丁度良かった。

 こちらから伺おうと思ってたんだよ。」

「僕も佐久間さん達を探そうと思ってたんですけど…いつ頃帰れるかとか…」

「ん?ああそうか。

 この書類にサインして報酬受け取ったらすぐに帰れるよ。」

「え?報酬…ですか?」

「そうそう、説明するからテントに戻ろう。

 すぐに済むからね。」


俺は佐久間たちとテントに戻った。

教授風の男が書類と封筒をテーブルに置いた。


「ワイバーンの皆さんはここに全部いるのかな?

 よろしい、申し遅れて済まない。

 私は遠藤鳥海えんどうちょうかいと申します。

 ジョスホールの処理班の統括をしています。

 今回のワイバーンに対する報酬を持って来ました。

 秘密保持の為に現金で手渡しになるけど宜しいかな?

 この書類にリーダーの受け取りのサインだけ欲しいんだがね。

 これが終わったら君達は解放されるよ後の作業は我々で行う。」


遠藤と名乗った教授風の男は俺に封筒と受け取りのサインを頼んだ書類を差し出した。


現金で143万7700円だった。


「え?これ貰えるんですか?」


俺の質問を聞いて佐久間が苦笑いを浮かべた。


「当たり前だよ彩斗君、危険な事に命を懸けて無給なんて鬼みたいなことは私達はしないからね。

 これは君達が言う所の悪鬼の資産などを処分した際に出る利益から私達の活動費の補助などもろもろ振り分けた金額だ。

 今回始末した悪鬼が沢山いたから集計に時間が掛かってしまって済まない。

 このお金の分配はワイバーン内部でしてくれ。

 公平にメンバーから不平が出ないように注意してくれよ。

 もっともこれがリーダーが一番頭を悩ます事だけどな。」


俺がサインした書類を持って遠藤と佐久間はお疲れ様!と言って引き揚げた。


「お金…貰えるんだね…」


俺が呆然として呟くと明石は苦笑いを浮かべた。


「彩斗、至極妥当な事だと思うぞ。

 俺達だって悪鬼を始末した時は財布を頂いたよ。

 財布目当てで殺した訳じゃないが色々物入りだからな。

 食って家族を養うにも質の悪い悪鬼殺しを続けるにも必要なんだ。」


明石の言葉に、喜朗おじも、加奈も当たり前の事だというように頷いた。

確かに言われてみれば始末した悪鬼の財布を頂いたとしても俺は特に卑しい行為とは思わなかった。

お国から税金で報酬を貰える訳でも無いし、命懸けで戦い、その存在が明るみに出ないように場合によっては死体の処理にさえ時間と手間がかかるのだからしょうがない事だと思う。

まぁ、なるほどこんな危ない事を全く無給でやって行けるはずなど無いし個人でもそうなら組織なら尚更だろう。

今ここでも多数の人間と悪鬼が忙しく働いている。

当然彼ら彼女らに給料は必要なのだ。

岩井テレサの組織は長年資金運用を行い大規模な資金を持っていたとしても、大儲けの黒字と言わないまでも赤字にならないように行動した費用はどこからか捻出しなければ質の悪い悪鬼の討伐なんて事を続けることは不可能だ。

正義の味方の思わぬ側面を見た思いで俺は現金が入った封筒を受け取った。


あとはこの143万7700円の分配の事だが、俺と四郎と明石で相談してまず、それぞれが負担した必要経費を補填した後で可能な限り平等と思える割合で分配した。

その結果、はなちゃんも入れて一人当たり最低でも15万円は渡った計算だ。

一晩15万円。

時給にしたら5万円近くにもなる金額だ。

が、しかしこれを職業として悪鬼ハンターをすると考えてみるとどうだろうか?

死に物狂いで悪鬼と戦った時間を思い返して、俺はこれが高い賃金とは言えないと思った。

真鈴達も同じようで大して感激したり金額に驚いたりした感じは無くて、さも当り前な感じでお金を受け取って金額を数えてそそくさと財布に入れた。


俺達はスコルピオの者達はほとんど姿を消したが、まだ処理班が忙しく動き回るボーリング場の廃墟を出ると帰宅した。

車の中に殺した悪鬼の腐乱臭が残っている感じがして気持ちが悪く真鈴が除菌消臭スプレーをやたらにスプレーをして窓を全開にして車を走らせた。













続く

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