18話 壊れかけの少女と異世界召喚
第二章プロローグ
わたしの名前は天瀬ユキ、父は学者、母はいない。
どこにでもいる極普通の高校2年生。
の、はずだった。
小さい頃から、わたしは本に囲まれて育った。
本が大好きだった。
父が学者という影響もあるのか、幼少期からわたしの手にはいつも本があった。
学者の父は仕事で世界中を飛び回り、ほとんど家にいる事はなく、母もいないわたしに父が与えたのが本だったという理由もある。
そんなわたしは、よくとある家庭に預けられていた
辰巳家、どうやら父に大変な恩があるらしく、そんな忙しい父に代わりわたしの面倒を見てくれた家庭だ。
幼いながらにわたしは思った。
迷惑をかけてはいけない、わがままを言ってはいけない、自己主張をしてはいけない、この家庭に見放されるような事をしてはいけないと。
幼少期のわたしは、無口で手がかからず、いつも父に買い与えられた大量の本を読んでいる物わかりの良い子供だったと思う。
辰巳家にはわたし以外にもう一人子供がいた。
名前は辰巳統和。
同じ年の少年は、いつもわたしの後を付いて回ってきた。
本を読んでいれば「僕も読んでみたい」と、文字も読めないくせにわたしに要求してきたり、勉強をしていれば隣でお絵描きをしてそれを見せてきたり。
最初は煩わしいと思っていたが、お世話になっている家庭の子供だ。
無下にするわけにもいかず、いつの間にかわたし達二人は姉弟のような関係になっていき、血は繋がっていないが家族ともいえる間柄になった。
当然と言えば当然だ。
わたしの幼少期は辰巳家で育てられたようなものなのだから。
そして、わたしの中で変化があったのは小学校に入学し、しばらくしてからだった。
わたしは小学校という環境に嫌気が差していた。
節操がなく動物のように野蛮な男子、なんの生産性もない会話をキャピキャピとする女子、表面上だけ子供の味方をする授業の下手クソな教師、退屈で簡単な勉強、口には出さなかったが周りの人間は全員バカだと思っていた。
ただ、統和だけは違った。
学校の帰りにはわたしのランドセルを持ってくれたり、「車が危ないから」と車道側を歩いてくれたり。
まぁそれは、わたしが歩きながら本を読む癖があったからなんだけど・・・。
それよりなにより、統和はやかましくない。
統和といる空間は優しくゆっくりと時間が流れ、とても落ち着いた。
この頃からだったと思う。
わたしの中で、統和に対し色が芽生え始めたのは。
---統和はわたしのもの---
そう思うのに時間はかからなかった。
このままずっと続くと思ってた。
このままずっと、一生を統和と過ごしていくんだと、当たり前のように思っていた。
でも2年前の春、わたしは失った。
統和を失った 。
理由は統和のお父さんとお母さんから聞いた。
統和も、統和のお父さんもお母さんも、元々異世界の人間で、この世界の人間じゃない。
我々は魔力のないこの世界では長く生きられない、と。
統和はおじさんとおばさんの手によって、異世界へと送られてしまった。
意味が分からなかった。
魔力?異世界?こんなふざけたラノベのような、こんなふざけた事・・・。
頭が混乱し、現実を受け入れられなかった 。
あの日、統和が異世界へ転移をした日、わたしは妙な胸騒ぎがして統和の家に足を運ぶと、家の窓から奇妙な光が見えた。
バクバクと自分の心臓の音が聞こえたのをよく覚えている。
わたしは飛び込むように統和の家に入り、リビングのドアを開けた。
不思議な光に包まれていたいた統和は、驚いたような顔でこちらを見ていた。
---統和が消えてしまう---
なぜかそう思ったわたしは、今まで出したこともないような大声で統和の名前を叫びながら、必死に駆け寄り手を伸ばした。
そして統和は消えていった。
この世界から。
それから、転移とかいう魔力のせいでわたしの髪の色は水色になった。
どうやら強い魔力に当てられたのが原因で、わたしの中に魔力が定着したとの事だ。
統和の両親からは頭を下げられ、おばさんは泣いていた。
おじさんとおばさんの事は恨んでいない。
わたしに何も話さなかったのも、わたしの為を思ってだろうと理解できたからだ。
わたしは統和の両親にお願いをして、魔力の使い方を習った。
そして、異世界転移の研究を始めた。
春から高校生だったが、学校へは行かず、父のいない自宅で一人必死に研究をした。
大丈夫。
わたしならきっと出来る。
絶対に辿り着ける。
1年過ぎた。
トーワの両親が死んだ。
衰弱死だった。
あんなに若かくて活発な統和のお父さんとお母さんは、この一年でシワシワの老人になって死んでいった。
でも大丈夫。
わたしが統和を追いかけるから。
おじさん、おばさん、心配しないで。
統和はわたしに任せて。
更に一年が経過した。
異世界転移の研究は全く進んでいない。
何も手がかりがない。
いや、手がかりはある。
ただ、圧倒的にエネルギーが足りない。
絶望した。
無理だと思った。
統和がいない世界、優しかったおじさんもおばさんもいない。
「あぁぁぁぁぁぁあああぁあぁ!!!!!できない!できない!!わからない!!!ああぁぁあああぁぁ!!!!」
めちゃくちゃに部屋を荒らした。
本棚を倒し、窓ガラスを割り、 ベッドを引き裂き、椅子を振り回し、壁を破壊した。
こんなに感情を表に出したのは初めてかもしれない。
自暴自棄になったわたしは、雨の中、町を彷徨った。
当てもなく、希望もなく、薄着のまま。
「おいおい、こんな薄着でどうしたん?雨の中風邪ひくぜ」
「お?髪の毛水色~?可愛いじゃん!ごはん奢るよ~!」
「それともカラオケでも行く?ホテルでもいいぜ~」
いかにも頭の悪そうな3人組が声をかけてきた。
耳ざわり、不快、嫌悪、あらゆる憎悪が湧き出てきた。
---お前たちみたいなゴミがこの世界にいて、なんで統和がこの世界にいない---
そんな事を思った瞬間、肩を抱かれた。
それは一瞬だった。
---あ、殺そう---
わたしは、肩をつかまれた腕を握り、振り回し、肩を抱いてきた男をビルの壁に叩きつけた。
顔は半分潰れ、ビルの壁には血痕が残り、ピクピクと死にかけのカエルのように力なく地面に崩れ落ちた。
爽快だった。
「ヒッ・・・!」
一人の男がそう小さく声を上げた。
残った二人も、殴り蹴り、地面に叩き伏せた。
冷たい雨がとても温かく感じられた、と思ったら返り血だった。
汚い血だ。
このまま頭を踏みつぶして殺す。
今のわたしにはそれができる。
魔力だって使える。
口元が自然と吊り上がった。
頭を潰そうと、足を上げた瞬間、上空で何かが光った。
それは黒い光だった。
黒い光はまるで魔法陣のように広がり、降り注ぎわたしを包んだ。
そうして、わたしはこの世界から姿を消した。
目を開けるとそこは白い空間だった。
目の前には絢爛な白いローブのようなものを着ている長い髭をたずさえた老人と、まるでゲームに出てくる僧侶達のような恰好をした人々が並んでいた。
「おぉ・・・勇者様方よ・・・。世界を破滅させる邪龍を滅ぼし、どうか我らの世界を救ってくだされ!」
二章から物語が大きく動き始めます。




