15話 夢
あれから1週間、俺は凹みに凹んでいた。
なぜかって?
1つはルシェの成長スピードが段違いに伸びているからだ。
あの1件から龍魔の使い方にコツを得たのか、身体強化の能力がグンと上がった。
踏み込みはより鋭く、より速く、より重く、あの物理法則を無視したような木の葉の動きも洗練されていっている。
正直、身体強化での格闘戦では全く歯が立たない。
風圧で上空からのプレッシャーをかけて、氷弾でけん制、そして雷撃麻痺で足を止めてと、色々絡め手を混ぜてやっと勝負になるくらいだ。
それでもまだまだ手加減をされてる感が否めない。
約2年間修業をして、とうとうルシェを追い抜くことは出来なかった。
そりゃ、ルシェは師匠に育てられた師匠の1番弟子だし、なんてたって白龍だ。
本気で勝てるとは思ってない。
姉弟子だしね。
でもさ、なんつーかこう・・・年上のプライドっていうのもあるじゃん?
ルシェなんて見た目可愛い年下の女の子ですよ。
一応俺も男だし?龍族だし?
日本にいた時は戦う事なんて丸で考えてなかったから、戦闘に関して自分にこんなプライドがあったなんて驚きだけど、いざ当事者になってみれば悔しい。
そして、俺が凹んでいるもう1つの理由は・・・。
師匠とルシェは一言も口を聞いていない。
いや、本当に勘弁してほしい。
1つ屋根の下で暮らしてるんだから、そんなに気まずい空気を流されてもこっちは本当に困るわけで・・・。
あんなに仲の良かった二人が一切口もきかず、目すら合わせない・・・。全く会話がない・・・。しようともしない・・・。
そんな二人に板挟み状態!
こんな地獄ってありますか!?
こっちは気を使って「ほらほら、いい加減仲直りしましょうよ?ね?」とか・・・。
「テンだって気まずそうに・・・いや・・・してないか。寝てるな・・・。でもテンだって二人には仲良くして欲しいと思ってるよね!?」とか、そうテンに問いかけても「知らんがな」とばかりにあくびをするだけ。
ですよね~。
天狐ですもんね~。
達観してそうですもんね~。
いやもう一体どうせいっちゅうねん!
この気まずい空気は本当に勘弁して欲しい!
そう思いながら、寝る前に物思いでも耽って窓の外の月でも眺めようかと寝室の窓際に行くと、また1匹のトカゲがガラス窓に張り付いていた。
またっていうのは、最近俺とルシェの寝室の窓辺に、1匹のトカゲがよく張り付いているからだ。
なんともまぁ可愛くて、ガラス越しによく話しかけてる。
「や、また会ったね。聞いてくれよ・・・。ルシェと師匠ったらさ・・・」
そんな愚痴をこの小さなトカゲに語りかけてる。
ちょっと前の俺なら、トカゲに相談!なんて考えもしなかっただろうけど、それほどまでに俺の精神は疲労しきってる。
「どうすれば仲直りしてくれるかなぁ・・・」
そんな愚痴を溢すと、トカゲはピクピクと尻尾を震わせて、まるで「知らねぇよ」と言わんばかりにどこかへ消えてしまった。
トカゲさん、もうちょっと俺の話を聞いてくれてもいいんじゃないか?
今の俺の癒しは君だけなんだから。
うぅ・・・。
世知辛いぜ・・・。
そう心の中でごちりながら、俺はベットに潜り込み、明日はどうやって二人の仲を改善させようかと作戦を考え眠りに落ちた。
◇
気が付くと俺は白い空間にいた。
何もない白い空間。
この感覚は良く覚えてる。
この世界に転移してきて、最初に味わった感覚。
夢の中とでもいうべきか。
体の中の魔力がうねり、巡り、吐き気と頭痛で気を失った後に見た光景。
今回は吐き気も頭痛もない。
「よう、少年」
まるで、地の底から響き、天を貫いて、天が落ちてきた来たかのような声色。
ふり返ると、常闇より暗い漆黒の影がそこにはあった。
それは徐々に姿を変えていき、黒いドラゴンのような形を成していく。
「初めましてだな」
そう挨拶?をされた俺は、言葉を失い、ただ茫然と目の前の巨大な龍にあっけを取られていた。
「はは、そう緊張をするな、これから俺とお前は一心同体なんだからな」
「い、一心同体・・?」
やっとの思いで絞り出せた言葉はオウム返しのように虚しく響く。
「まぁ楽にしてくれ。窓辺で話かけてくれたお前はどこへ行った?」
「窓辺って・・・!あのトカゲ!?」
いやなに!?あのトカゲが夢の中に!?
いやいや、ははは。そんなわけないでしょ。
だって、トカゲに相談してて、夢に出てきたそのトカゲ、実はドラゴンでしたとか・・・。
え、何?鶴の恩返しならぬ、ドラゴンの恩返し?
いや逆だな。俺が相談をしてたんだから、恩を返せってか?
一方的に話しかけてただけだけどね・・・。
代価は命です、とかないよね?
「命など取らん。そこらのドラゴンと龍を一緒にしてもらっては困るな。まぁなんにせよ、そんなんじゃ白いお姫様に笑われちまうぜ?」
あ、心・・・読めるんですね・・・。
「白いお姫様って・・・ル、ルシェの事でしょうか?」
「あぁ。ルアシェイアの娘の事だ」
そういうと、目の前の巨大な漆黒の龍は目を細めた。
「少年よ、いや、辰巳統和。いや、これも違うか。××と呼んだ方がいいか」
「・・・!な、なんでその名前を・・・?」
その名前はこちらの世界の名前だ。
日本にいる頃は辰巳統和として生きていたけど、それはあくまでも日本名。
なんでこいつが俺の真名を知ってる?
俺と一心同体だとも言ってたし、一体なんだんだこいつは・・・。
「・・・その名前はやめてくれ・・・。俺は日本で育った辰巳統和だ。両親がつけてくれた大切な真名ではあるけど・・・今更その名前を名乗るつもりはない」
「そうか。それはすまなかったな。まぁそう警戒しないでくれ。敵同士ではないのだからな。むしろ、これから運命を共にする相棒といったところか。なんにせよ、面白い世界になってきているじゃないか。調停者が色々とやり残したこの世界、どうやら龍は神達には嫌われているようだが・・・。なぁに、龍を天から堕とそうなど、片腹痛い。いざとなったら、俺とお前と白い姫さんで天を堕としてやればいい。ただし、お前自身も強くならなければ、大切なものを失うぞ。龍を滅ぼすために異界の勇者とやらも召喚されてるようだ。今のままでは勝てないぞ?」
調停者?
龍が神に嫌われてる?
異界の勇者?
何が何だかさっぱり分からない。
何を言ってるんだ・・・こいつは・・・。
「もう一つ、言っておこう。天ケ瀬ユキはこの世界に来ている。早いとこ見つけて守ってやれ。まぁ、信じるも信じないもお前次第だ、いずれ、全てが分かる日がこよう。じゃあ、またな」
「お、おい!ちょっと待ってくれ!ユキがこの世界に来てるって!!どういう事だよ!!おい!待てって!!」
必死に手を伸ばすも、漆黒の龍は姿を消し、伸ばした手の先にはいつも見慣れた天井が映っていた。
「はぁはぁはぁ・・・!?なんだよ・・・今の・・・。夢・・・?」
夢にしてはあまりにもリアル過ぎる。
一体なんだんだ、今のは。
全身にびっしょりと汗が流れ、力が抜けるような気怠い感覚が体を襲った。
これは、魔力が枯渇した時の状態によく似ている。
「う~ん・・・トーワ、どうしたの?」
眠そうな声で、隣のベッドに寝ているルシェが声をかけてきた。
「い、いや、ごめん。なんでもないよ。ちょっと変な夢を見てさ」
そう返事を返すと、ルシェはまたスヤスヤと眠りについた。
調停者、神が龍を嫌っている、異界の勇者、そしてユキがこの世界に来ている?
一体どういう事だ?
ユキが、ユキが来ているって・・・。
信じるも信じないもお前次第とかなんとか言ってたけど、本当なのか?
夢に現れた黒い龍・・・。
なんなんだ、あれは・・・。
その日の俺は眠れずに、一晩中モヤモヤとした時間を過ごした。




