11話 白龍の娘
精霊の森。
通称迷いの森、または帰らずの森とも呼ばれているこの森は、かつて龍の国があった土地だ。
魔力濃度が非常に濃い地域で、強力な魔物が多数生息し、豊富な資源があるともされている。
しかし、ここは人が立ち入ってはいけない不可侵領域として認知されているのだ。
過去に幾度となくここを訪れた冒険者達は帰ってくる事はなかった。
ただ、立ち入りが禁止されているわけではない。
推奨されていないだけだ。
その為、命知らずの冒険者達はこの森に足を踏み入れ、その命を落とす事になる。
現在は監視者であるロディーナにより、この森は監視されている。
表向きは森の監視、しかしその裏はロディーナとサーヴァリルの約束にある。
「森に近づこうとする愚かな人間共を監視せよ」
ロディーナの監視により、今は森に立ち入る冒険者は圧倒的に少なくなった。
元S級冒険者であるロディーナが警告するのだ。
当然である。
森の木々達はそのほんとどがトレントであり、サーヴァリルの管理下にある。
数多くの妖精が住み着くこの森は、人からの印象とは裏腹に、ある意味楽園とも言えるだろう。
精霊の森に入るとすぐにサーヴァリルが姿を現した。
初見ではないのに、その美しさにドキドキしてしまう。
長い金髪にエメラルドグリーンの瞳。
白い絹のような布を体に巻きつけたその姿。
そして、おっぱい。
アリアもボインだがサーヴァリルはもっとバインだ。
「お久しぶりです、トーワ様。そして・・・」
ルシェを見た瞬間、サーヴァリルは言葉に詰まり、みるみるとその表情が崩れていった。
「あ・・・あぁ・・・」
一体どうしたというのだろうか。
瞳からは大粒の涙が流れ始め、言葉にならない声を上げ始めた。
「え!?サ、サーヴァリルさん!?」
膝から崩れ落ち、口に手を当てて嗚咽を漏らすサーヴァリルにルシェも若干戸惑っている。
「うぅ・・・あぁ・・・・・・ルアシェイア様・・・・・・私は・・・・・・・・・」
静かに、堪えるように、涙を流すサーヴァリル。
悲嘆とは違う、喜悦とも違う、それは複雑な感情が入り乱れたような表情だった。
「も、申し訳ありません・・・・・・。私は・・・私は・・・・・・・」
口を抑えた手の上から涙が伝い、地面にポタポタと零れ落ちる。
突然泣き崩れるサーヴァリルに、俺は何も声を掛けられなかった。
ルシェを目に入れた瞬間、突然の出来事だった。
するとルシェは天狐の背中から降り、サーヴァリルの元へ駆け寄った。
ルシェは優しい子だ。
天真爛漫で大食いで、わがままで頑固な一面もあるけれど、人一倍思いやりがある。
泣いてるサーヴァリルを見てほっとけなかったんだろう。
「もう大丈夫だよ。ほら」
ルシェは優しく微笑みながらサーヴァリルの頭を撫でた。
「お菓子も持ってきたんだから。一緒に食べよう」
そんなルシェの言葉にサーヴァリルの感情は決壊した。
-うあぁぁぁぁぁぁぁ-
サーヴァリルの泣き声は森中に響き渡った。
それは一万年の時を超え流された涙だった。
---
「申し訳ありませんでした。お見苦しい所を・・・」
ルシェに宥められ、やっと落ち着きを取り戻したサーヴァリルは少し恥ずかしそうに頭を下げた。
かなり盛大に泣いていた為、少し目が赤くなっている。
精霊も泣くと目が赤くなるんですね・・・とは聞けない。
「いえ、美人の涙は絵になるのでお気になさらず」
なんて返していいか分からないので、とりあえず褒めておいた。
「お上手ですね」
「美人は本当ですよ」
「涙はご迷惑でしたか?」
「あはは・・・そういうわけでは」
迷惑というよりどうしていいか分からなかった。
童貞を舐めないで欲しい。
経験豊富なナイスガイなら、涙の1つでも拭いた後「泣かないでおくれよ子猫ちゃん」くらい言うのだろうけど、俺には無理だ。
「それより紹介します。ルシェリィです。多分、俺と同じ龍族だと思います」
サーヴァリルはルシェに向き直り、膝を着き頭を下げた。
「ルシェリィ様、お初にお目にかかります。四天龍が1人、白龍姫ルアシェイア様の家臣を務めておりました、精霊サーヴァリルと申します。先ほどはお見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ありません。私の事はどうか『リル』とお呼び下さい」
あれぇ・・・。
なにこれぇ・・・。
サーヴァリルさん、俺の時と全然違くない?
「ルシェリィです!8才です!」
元気良く手を上げて自己紹介をするルシェ。
俺にもしてくれたルシェの得意技だ。
そういえばルシェは8歳になったんだったな。
俺も今は16歳だ。
この世界は誕生日を祝うという方針はないようなので、ルシェが8歳になった時も特に祝い事などはしなかった。
その代わり区切りのよい10歳と、成人として認められる15歳になると盛大にお祝いをするらしい。
俺がいた世界では毎年イベントのように誕生日をしていたもんだから、なんだかちょっと寂しい気がする。
「ルシェリィ様、私に敬語は必要ありません。どうぞ、ぞんざいに扱い下さい」
「ぞんざい?」
「ルシェ、ダメだよ。ぞんざいっていうの・・・」
「トーワ様は口を挟まないで下さい」
「あ、はい・・・」
ビシッと言われてしまった。
あぁん?何あたしとルシェリィ様の間に口挟もうとしてんの?やっちまうよ?的な目で見られた。
怖い・・・。
「ルシェリィ様、私はルシェリィ様のお母様に仕えていたのです」
「え?」
「へ?」
思わず俺まで気の抜けた声を上げてしまった。
ルシェのお母さん?
ちょっと待って・・・。
えーっと、サーヴァリルは白龍の姫に仕えていて、ルシェのお母さんに仕えていた・・・って事はルシェのお母さんは白龍のお姫様?
ロディーナの話によるとルシェは人間の夫婦から産まれたって話だけど・・・。
一体どういう事だ・・・。
「ルシェリィ様はルアシェイア様の御子で間違いありません」
「えっと・・・ルアシェイア様っていうのは白龍のお姫様ですよね?その話、詳しく聞いてもいいですか?」
「ええ、ですが・・・」
サーヴァリルは言葉を濁し、少し悲しげな表情でルシェに視線を移した。
そうか、白龍の姫は自ら命を散らしたと言っていた。
詳しく話をするにはその部分も話す事になるのだろう。
辛い話になるのかもしれないという事か。
果たして1から10までルシェに話していいものか、と迷っているのかもしれない。
「ルシェ、お母さんの話聞きたい?俺も前に少しだけ聞いた事があるんだけど、ルシェにとって辛い話になるかもしれないんだけど、それでも聞く?」
「う~ん、よく分からないけど聞く。大丈夫」
「サーヴァリルさん、話してくれますか?」
ルシェも聞くと言っている。
恐らく、本人もまだ何がなんだか分かっていない状況だろう。
それでも、もし本当に白龍の姫がルシェの母親ならば、ルシェには知る権利がある。
自分の母親の事だ。
「分かりました。お話しましょう」
サーヴァリルは以前のように自分の髪の毛を1本地面に落とした。
木の根が盛り上がり、あっという間に椅子とテーブルが出来上がる。
「さぁ、どうぞ」
「うわぁ!すごいね!それ魔法?」
「ふふ、魔法とは少々違います」
「いいなぁ、あたしにもできるかなぁ」
こんなのルシェに覚えさせたら結果は目に見えてる。
きっと面白がって頭がつるっパゲになるまでやるに違いない。
なんせ1回やるたびに髪の毛1本を消費するのだ。
ひゃくぱーハゲるに決まってる。
「これはサーヴァリルさんにしかできないみたいだよ」
「そうなんだ。いいなぁ」
「それにしても、エルナが嬉しそうですね。ずっと会いたがってましたら」
エルナはずっと俺が抱っこしたままだ。
というか離れようとしない。
やっぱり俺の血から生まれたから親だと思ってるんだろうか。
精霊にも親子の概念ってあるのかな?
「さて、ではお話しましょう。これは今から約1万年前、人と龍族が戦争をしていた時まで遡ります」
---
人と龍族の戦争。
それは数百年にも及ぶ長い戦争だった。
龍神がこの地に舞い降り、瞬く間に繁栄した龍の国を人は善しと思わなかったのだ。
人は神と冠する龍神を邪神とし、龍の国を滅ぼそうとしたのだ。
冷戦と熱戦を繰り返し人と龍は争い続けた。
龍族は非常に力の強い種族だ。
人族とは比べ物にならないほど強大な力を持っている。
だが、龍族はその力を大きく振るうことなく、人族から国を守る為にのみ使った。
龍族は平和を願っていたのだ。
そして、最もその平和を願っていたのが白龍姫ルアシェイア。
ルアシェイアは癒しの龍として龍神から生み出された四天龍の一人だ。
彼女は龍神をも超える膨大な魔力を持ち、龍歌と呼ばれる癒しの魔法で傷付いた龍族を癒し続けた。
そんな平和を願っていたルアシェイアはある日を境に、人目を憚り戦地へと赴くようになった。
彼女は傷付いた人族も癒したのだ。
そこで彼女は知った。
平和を願っていたのは龍族だけではないと。
人の兵達にも家族や友人がいて、平和を願っている者がいる事を知ったのだ。
そしてルアシェイアは、とある人間の騎士と出会う事になる。
騎士もまた、平和を願う1人だった。
ルアシェイアと騎士は恋に落ち、幾度かの蜜月を過ごした。
そうして彼女は騎士との子を宿す事となる。
だが、彼女は子を宿した事を隠した。
龍神もサーヴァリルも、誰も彼女が子を宿した事に気付けなかった。
彼女の膨大な魔力がそれを隠したのだ。
ある日、側近であるサーヴァリルにルアシェイアから打ち明けられる。
お腹に人との子を宿していると。
そして、この子はきっと人と龍の平和の架け橋になってくれるに違いないと。
ルアシェイアの平和への願いはとても純粋なものだった。
故に、サーヴァリルは見て見ぬ振りをした。
聞かなかったことにしたのだ。
当時、人と龍族の争いは熾烈を極めていた為、龍の国の姫であるルアシェイアが人との子を宿していると知られれば、どうなるか分からなかったからだ。
もしそれが知れ渡れば、国が混乱に陥るかもしれない、最悪子を産むのを善しとされないかもしれない。
サーヴァリルはそう懸念したのだ。
ルアシェイアと騎士は、生まれる子が必ず平和への架け橋になると信じていた。
だがある日、ルアシェイアが騎士の元へ行くと、そこには傷付いた騎士の亡骸があった。
騎士は度重なる熾烈な戦により死んだのだ。
彼女は騎士を救おうと癒しの龍歌を歌い続けた。
どれだけ歌い続けたが分からない。
しかし、いくら白龍姫の龍歌といえど、死者を蘇えらせる事はできなかった。
それでも彼女は歌い続けた。
その歌はやがて悲しみの歌へと変わっていった。
そしてルアシェイアは、龍神をも超える膨大な魔力を使い、子の魂を一万年後の未来へと送った。
未来が平和になっている事を願って。
最後に彼女は騎士の亡骸から剣を抜き、自らの龍玉を砕きその命を散らせたのだ。
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「ルアシェイア様は誰よりも平和を願っておられました。ルシェリィ様が平和な時代に生まれるようにとその魂を送ったのです」
あまりにも救われない話で言葉がでなかった。
きっと白龍の姫と騎士は誰よりも平和を願っていたんだろう。
そんな2人が命を落とすなんて。
戦争は残酷すぎる。
元いた世界でも戦争はあったが日本は平和な世の中だった。
テレビや動画で戦争の映像を見たことはあるが、当事者だったわけじゃない。
当事者が身近にいたわけでもない。
この残酷だと思う気持ちも所詮は他人事だ。
それでも、こうして話を聞くと心にくるものがある。
「私があの時・・・・・・聞かなかったふりなどしなければ何か変わっていたかもしれません・・・」
サーヴァリルの表情はまさに悲痛といった面持ちだった。
きっと後悔しているのだろう。
「リル、そんな顔しないでよ。リルはお腹にいるあたしを守ってくれたんでしょ?だからあたしはここにいるんでしょ?」
そうだ。
サーヴァリルは見て見ぬ振りと言ったが、きっと白龍の姫とお腹の子を守る為だったんだろう。
白龍の姫に対するサーヴァリルの忠誠はひしひしと伝わってくる。
何が正解だったかなんて、そんなものは結果論だ。
熾烈な戦争の中、全て最適解で事を進めるなどできるはずもない。
それが種族間での戦争なら尚更の事だ。
「俺もそう思います。部外者の俺が口を出す事ではないと思いますけど、この時代で同じ龍族のルシェと出会えて、少なくとも俺は救われてます。1人じゃないって」
「トーワもこう言ってるよ?だからね、ありがとう、リル」
ルシェの言葉にサーヴァリルの瞳から涙が流れた。
「わ、私は・・・」
それからまた暫く、サーヴァリルは泣き続けた。
悲痛とは違う涙だ。
ルシェの『ありがとう』という言葉に救われたのかもしれない。
「ちなみにルシェが白龍の子っていうのは間違いないんですか?」
「ええ、間違いありません。膨大な魔力と濃い龍魔、何よりルアシェイア様にそっくりです。それに、ルシェリィ様の体内には龍玉があります」
「龍玉ってなに?あたしの中にあるの?」
「龍玉というのは龍の魂。龍神様が生み出した四天龍のみが持つ力の根源です」
それを聞いたルシェは自分の体をキョロキョロと見回した。
探しているのだろうか・・・龍玉を・・・。
まさか飴玉か何かと勘違いしてるわけじゃないよね?
ルシェは食いしん坊だからな。
しかし俺も龍族だけど、その龍玉っていうのは持ってないんだろうな。
だからルシェはあんなにチートなのか・・・。
ようやく合点がいった気がする。
「そこにいる天狐もルアシェイア様に仕えていた魔獣です。ルアシェイア様は天狐を大変可愛がっておられました。天狐もルシェリィ様がルアシェイア様の御子だというのを分かっているようですね」
「随分と高貴な雰囲気を持ってる魔獣ですよね」
「もちろんです。ルアシェイア様に仕えていた魔獣ですから」
「いいなぁ。あたしも飼いたいなぁ、モフモフ」
そんなルシェの言葉にサーヴァリルは嬉しそうに笑った。
まるで何かを懐かしむように。
「モフモフですか。ルアシェイア様と同じ事を仰るんですね」
あまりサーヴァリルの思い出を刺激するとまた泣き出してしまいそうなので、ここらで話題を変えるとする。
お土産にお菓子を持って来てるのだ。
一先ずこれで喜んで貰おう。
さっきからエルナの視線がずっとお菓子が入ってる鞄にいってるし。
恐らく気付いてそうな雰囲気だ。
「そうそう、お土産を持ってきたんですよ。なんでもプロスペリアという国にある有名な菓子店の物らしいです」
エルナの目つきが変わった。
カッ!!って感じで。
ついにきたか!!ってな感じで。
待ってましたと言わんばかりに。
そして鞄から焼き菓子が入ってる箱を取り出し、サーヴァリルへと渡した。
「まぁ!ありがとうございます」
鞄から出した瞬間エルナが箱に手を伸ばしたが、残念ながらエルナの手に渡ることはなかった。
なん・・・だと・・・。って表情をしている。
可愛い。
「ほら、エルナの分はこっちだよ」
俺は鞄から焼き菓子と飴の入った箱を3つ取り出し、テーブルの上に置いた。
その瞬間、今度はサーヴァリルの表情が絶望に染まった。
私は1箱だけなのにエルナは3箱だと・・・ってな感じだ。
「ト、トーワ様!エルナだけ3つもなんてズルいですズルいです!差別です!」
ガタッ!と椅子から立ち上がり、必死に抗議をするサーヴァリル。
対してエルナはホクホク顔だ。
さっそく箱を開けて食べようとしている。
「じょ、冗談ですよ。サーヴァリルさんにも3つあります」
あまりの必死さにちょっと引いた。
そんなにムキにならないで欲しい。
ちょっとしたドラゴンジョークだというのに。
龍族だけに。
そんなものあるか知らんけど。
「あら?これは以前頂いた飴ですか?この飴は随分と色が濁っていますね」
「これはこの世界で作られた飴なので、前のとは少し違いますけど美味しいですよ」
俺も食べたがそれなりに美味しかった。
見た目は日本の老舗店などで見かける昔ながらの飴に近い感じだ。
「トーワ、あたしのは?」
「いや、これはお土産だからルシェの分は・・・」
「あたしのないの?」
エルナがお菓子の箱をルシェから遠ざけた。
ススス・・・といった感じで。
本能で取られると察知したのだろうか。
その判断は間違っていない。
英断だ。
「ルシェリィ様、一緒に食べましょう」
サーヴァリルはルシェに一緒に食べようと言った。
それはもう嬉しそうな顔で。
だがその判断は間違っている。
早計、いや愚断だ。
「いいの!?」
さて、ここがポイントだ。
このルシェの「いいの!?」だが、実は隠れた意味が存在する。
「いいの!?(全部食べても)」なのだ。
これは罠だ。
粉バナナだ。
さて、サーヴァリルよ、どう出る?
「もちろんです、ルシェリィ様」
笑。
「ありがとう!」
そしてあっという間に1箱目の焼き菓子がやられた。
サーヴァリルの顔が凍りつく。
自分から一緒に食べようなんて言った手前、もうやめてくれなんて言えないだろう。
だがこのままじゃ3箱ともやられるぞ?サーヴァリルよ。
まぁ、仕方ないので助け舟を出してやることにした。
「ルシェ、せっかく持ってきたお土産なんだから全部食べちゃダメだよ?」
「そっか。じゃあ飴にしよう」
どうやら食べないという選択肢はないらしい。
焼き菓子がダメなら、飴を食べればいいじゃない。
さすが白龍の姫の娘だ。
この姫様の辞書に遠慮という文字は存在しない。
「サーヴァリルさん、気を付けて下さい。下手したら全滅してました」
「ま、まさかこんなところまで似てるとは・・・」
「あ、似てるんですね・・・」
血って怖いね。
それからは龍魔の事について聞いた。
龍魔というのは龍神や四天龍、龍族が持つ独特な魔力で間違いないらしい。
「龍魔は通常の魔力とは違い、その者によって特色が違ってくるのです。ルアシェイア様は癒しと風でした。ルシェリィ様も似たような色を持っているに違いありません」
たしかにルシェは大気を味方に付けてありえないような動きをする。
たまに物理法則を無視したような動きも。
それが龍魔の特色って事か。
「ルシェリィ様、空は飛べませんか?」
「え?飛べないよ」
「ふむ・・・そうですか。ルアシェイア様は龍魔で翼を作り出し、空を飛ぶ事ができました」
「飛んでるところは見たことないですけど、空中で軌道を変えたりしますね。多分本人は無意識っぽいですけど。あとルシェは身体強化が得意ですよ」
「あぁ、ではやはり癒しと風ですね。身体強化も体の活性化ですから、根源は癒しの力にあるのです」
「あれ?ルシェって治癒魔法使えたっけ?」
「んーん、使えない」
身体強化って癒しの力が根源になってるのか。
活性化と言われるとなんとなく納得できる気がする。
細胞の活性化とかそんな感じの事なんだろうか。
確かにロディーナも治癒魔術の研究者で、身体強化が得意な魔術師だもんな。
「龍魔は通常の魔力とは違い、非常にコントロールが難しいのです。故に数年足らずで使いこなせるようなものではありません。ルシェリィ様ほどの龍魔と魔力をお持ちなら、その反発も大きいでしょう」
「あぁ、やっぱり魔力と龍魔って反発するんですか?」
「ええ、ただ私も龍魔を持っているわけではありませんので、感覚的にどうと説明するのが難しいのです」
サーヴァリルでも表面的な部分でしか分からないのか。
そりゃ自分が使えないならそうだよな。
てか使える俺やルシェでもよく分かってないんだから。
「私にはありませんがエルナは龍魔を持っていますよ。まだまだ訓練が必要ですが」
「おお!すごいじゃんエルナ!」
膝の上で焼き菓子を食べているエルナの頭を撫でてやる。
龍魔を持ってるって事は、やっぱり俺の血が関係してるのだろう。
とりあえず龍魔に関しては本人の努力次第ってところになるのか。
あまり自信はないけど、とりあえず頑張ろう。
一通り話を終えた頃にはもうすっかり夜は深けていた。
無理して夜に帰る事もないので、一晩森に泊まる事にする。
俺は一晩中サーヴァリルと話をしていたが、ルシェとエルナはすぐ寝てしまった。
ちなみにルシェは天狐を枕代わりにして寝ていた。
エルナは俺の膝の上だ。
---
「トーワ様、あのハーフエルフに伝言をお願いしてもよろしいですか?」
「伝言?もちろんいいですよ」
「まずはルシェリィ様をここまで守って頂けた事への感謝を。そして『御役御免』だと。監視は必要ない、好きに生きなさいとお伝え下さい。あぁそれと、何かあればこの森へ立ち入る事も許すと」
ロディーナはサーヴァリルとの約束で監視をしていると言ってた。
それを条件に見逃してもらったようなもんだと。
御役御免って事は、もうその任に縛られることはないって事だろう。
「分かりました。そういえばサーヴァリルさん、この森に入ってきた冒険者とかって・・・やっぱりそういう事なんですか?」
「えぇ、あのハーフエルフ以外は全て殺してきました。当然です」
やっぱそうだよな。
まぁ、何も言うまい。
「じゃあまた来ます。エルナまたね。次はいつになるか分からないけど、また来るよ」
「ばいばい!リル、エルナ!」
「ルシェリィ様、トーワ様、これを」
貰ったのは細いブレスレッドのような腕輪だった。
装飾はほとんどなく赤い小さな宝石が埋め込まれている。
「なにこれ?」
「腕輪ですか?」
「転移の腕輪です。一度しか使えませんがこの森へ転移する事ができます。腕輪に魔力を流すと発動するようになってますので何かあればお使い下さい」
「おお!ありがとうございます!ルシェ、面白がって発動させちゃダメだよ?」
「ん、わかった」
このわかったはわかってるわかっただろうか。
心配だ。
何にせよ、これは非常に助かる。
ピンチの時の緊急脱出にも使えるしね。
それはそうとさっきからルシェが天狐に跨ったままだ。
連れて帰るおつもりなんだろうか・・・。
「ルシェ、天狐から降りないと」
「え?でもテンは一緒に来るって言ってるよ?」
「え?」
サーヴァリルを見ると当然という顔をしていた。
というかルシェは天狐と喋れるのか?
「えーっと・・・いいんですか?」
「もちろんです。天狐の主はルシェリィ様なのですから」
大丈夫だろうか・・・。
ペットなんか拾ってきてロディーナが怒らないだろうか・・・。
うちでは飼えません!捨ててきなさい!とか言われないだろうか。
ま、ロディーナなら大丈夫か。
エルナが乗り物として乗ってたみたいだから取り上げたみたいでちょっと可哀想だけど、天狐本人が一緒に来るって言ってるなら仕方ないか。
「そういえば天狐って名前はあるんですか?」
「名前はテンだよ!お母さんがそう呼んでたんだって!」
「ルシェ・・・天狐と話せるんだね・・・」
「ルシェリィ様と天狐は念話で会話しておられます」
念話かよ。
じゃ、俺には無理か。
きっとそれができるのは主だけなんだろうな。
「では、またお土産持ってきますね」
「ばいばい!」
サーヴァリルの話が聞けてよかった。
きっとロディーナに報告したら驚くだろうな。
ルシェが白龍だったなんて。
それでも二人の関係は変わらないだろう。
家族のような絆で繋がってる二人なら。
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