小説を書くのが趣味だと都合の悪いことがある
みなさまごきげんよう。
もしくは初めまして。くろつです。
今日のお題は、小説書きならではの都合の悪いことについて、です。
都合が悪いことなんてあったっけ? と首をかしげたみなさまは、きっと世渡りが上手な人です。
うらやましい。マジ見習いたい。
私の思う不都合なこととは、こう。
たとえば職場で、「休みの日ってなにしてるの?」と聞かれた時。
これ、めちゃくちゃ困るんです。
正直に打ち明けますね。
私、この話題、いまだに苦手。絶賛苦手続行中。
だって、ほんとのことは言えないから。
そして、小説を書く以上に打ち込んでいることが、昔も今もほとんどないから。
◇◇◇
コスメが趣味とかジャニーズが趣味とか、そういうのだと周囲も納得してくれる。
「あ、そういう人なのね」
って感じの空気になる。
そしてそれで終わりになる。
でも私の物心ついた時からのもうひとつの趣味、読書。──かろうじて口にできる趣味がこれなのですが──これを口にすると、周囲の人は割とけげんな顔をしてくる。
「それってなにが楽しいの?」
と面と向かって言われることすらある。ひどい。
テレビの話題をふられた時もかなり困る。
なぜって、テレビ、見ないから。
小説書きのみなさんはおわかりかと思うのですが、小説を書いていると、時間はいくらあっても足りない。
実際に書いている時間だけではなく、資料を読んだり設定を考えたり、キャラを作ったり構成を考えたりする時間も要るからです。
もちろん個人差はあると思いますが、小説を書くには、けっこうな時間量が必要になる。
「週末どこか行った? 年末年始どうしてた?」
この質問も困る。
単なる世間話の一環だとわかってはいる、いるのですが。
小説を書く以上に楽しいことがないこちとらとしては、連休にどこか出かけるとかやってらんねえぜ、とか思っているからです。
そんなことしているくらいなら、少しでも書きたい。
私の私生活に興味を失ってもらえるといっそのこと楽なのですが、あれこれ質問してきた末に、普段なにをしているのか想像がつかないと言われることもしばしば。
「え、特になにもしてませんよー」
とかなんとか流すのだが、あいにく、相手のほうが流してくれないのだ。
犬飼ってますとか、ウォーキング好きですとか言ってみるが(嘘ではない)、世間の人々はなかなかに突っ込んできます。
「時間余るでしょ」
「他になんかあるでしょ」
そう言われて思わず黙ったことが何回あるか。
え、お酒飲まないの? タバコも吸わないの?
パチスロもやらないんだよね? テレビも見ないの? いったいなにが楽しくて生きてるの?
と、露骨に変な顔をされることも珍しくない。
一度など、職場でのお昼休みに、「ミステリアスなんだよあんたぁ!」と顔に指をつきつけられたことまである。
漫画描きさんはいったいこの問題をどうされているのやら。
◇◇◇
少し話がそれますが、私にとって最も苦しいことはなにかというと、それは、物語が書けなくなること。
書きたいものはあるのに筆が進まないとか。
あらすじは決まっているのになぜか書きたいと思えないとか。
多分これは私だけでなく、小説書きさんの多くがそうだと思います。
あまりにもつらかったので、ある時、書けない理由について考えてみたところ、私の場合それは、必要な描写力が足りないから、でした。
私が苦手だった描写はいくつもあります。
建物の描写、ドレスの描写、かっこいい戦闘シーンの書き方に強い悪役。
だが、苦手だからといって避けていては物語が映えない。なので弱点を改善しました。
いえ、正確には今も改善し続けています。
そして苦手をひとつひとつ潰していくというのは、どの分野でも地道な作業です。
そしてそこには、時間が圧倒的にかかります。
閑話休題。
話を戻すと、私がテレビをまったく見ないことも、隠してるのにすぐばれます。なんなら5分くらいでばれる。
理由は芸能人やタレントの名前を知らないから。
「エグザイルと三代目なんとかの人たちって別のことですか?」
って聞いてファンの人にいやな顔をされたこともある。
ドラマも見ないし、グルメにも興味がないし、お洒落なカフェにもほとんど行かないし。
「いったいなんの話題だったらわかるのさ!」
と逆ギレ気味に言われても、まさか本当のことは言えやしない。
「今日帰ったら、家事と雑用とお風呂をなる早で終わらせて、香りのいいお茶を淹れて、一時間は小説に集中したいからお先に失礼します!」
とか?
ないわー。
「最近仕事が終わってからでも最低500文字は書けるようになったので嬉しいんですよねー。でも書くためには、これから書く場面のことを頭の中で明確に把握してる必要があって、書きにくい部分は事前に全部潰しておかないと、書き始めてから手が止まってしまうので、チェックが必要で。だから今その部分読んで予習してるとこです。お昼に五分目を通すだけでも全然違うんで!」
とか?
いやいや、ないわー。
芸能人の話題にはまったく混ざれず、モールス信号のように「へえー」と「そうなんですねー」を繰り返す私も、本当に好きなことならいくらでも語れる。
でも、これを口にしてはいけないことくらい、私にだってわかってる。
言えない、言えない、言っちゃダメ。
「夜ってなにしてるの?」
これも困る。
夜はさっさとベッドに入って、ベッドの中で今日書いた部分を読み返し、誤字脱字がないかチェックしながら、明日書く部分の予習をするからです。
私的には最高に幸せな時間。でも。
誰にでも、話せる話題が、あまりない。
五七五調で言ってみましたが、この問題、とりあえず今年の夏は化石を掘りに行く予定なので、その話題でごまかし……いや、攻めてみるつもり。
ほら、化石ってインパクトありますから。
なんとかして、そこまで親しくもない人たちに、私生活への興味を失ってほしくて私は必死です。
「くろつさんは化石の人。なんか古いものが好きらしい人」
というレッテルを、どうか、なにとぞ、貼ってくれないものか。
この場を借りて、伏して、お願い申し上げます。