地味な仕事 その2
さわやかな朝の光を浴びながら、始業の準備を始める店や職場に向かう人々を横目に俺は街の中を駆け抜ける。
そしてギルドのそばまで来ると速度を緩め、呼吸を整えながらゆっくりと歩いた。
はぁ……はぁ……。
最後にギルドの前で止まり、ゆっくりと深呼吸。
すー、はぁ――
こうして今日も、日課にしている朝のジョギングが終わる。
体力の強化はハンターの基本だ。
オーラの量は体力に比例するといわれているし、オーラやフォースの維持や回復には体力を使う。
だから仕事のない日は朝にジョギング、昼には鍛錬で体力、技術、フォースを鍛える。
そして腹が減ってはなんとやら。ジョギングのあとは朝食を食べて体力回復だ。
今日は何を食べようか? そんな事を考えながらギルドに入ると、出るときにはまだいなかった受付の人が出勤していた。
「アームさん、おはようございます」
「あ、どうも。おはようございます」
挨拶を交わすと、受付のお姉さんがカウンターの下から二通の手紙を取り出す。
「村の方から手紙を預かっていますよ」
「あ、ありがとうございます」
手紙を受け取った俺は食堂スペースに向う。
そして食堂のカウンターに並ぶ食事の載った盆を取り代金を払うと、適当な席に着いて食事を取った。
食事を終えた俺は片付けもせず、手紙の封を切ってそれを読み始める。
手紙は母さんと従姉のハイムからだ。
村の人は定期的に売買のためにラムールに来るが、そのついでにギルドに手紙を届けてくれる。
俺は受付の人に、その村の人に二通の封筒を渡すようにお願いしていた。
一つは俺から二人への返信。
もう一つは一言のお礼と2~3人で一食くらい食べられる程度の金。
以前は村の人に会う事もないので礼も言わず、ただ返信だけを渡してもらっていたのだが、ロイの提案でそうするようにした。
あまり礼儀を知らなかった俺は何でそんな事を? と思ったが、自分が逆の立場だったらどう思うか考えてみろといわれて納得した。
あんな見た目でも気が利くのはさすがに大人といった感じだ。
そうだ、あとで受付の人にもお礼のお菓子か果物でも買って渡しておかないと。
これはレウの提案で、直接会って渡せる人には現金だといやらしいし、特に気がある相手でもない限り、女性に渡すなら残らない食べ物なんかが良いとの事。
これをするようになってから、元々悪くはなかったけど受付の人の愛想が更に良くなった気がするのは気のせいではないかもしれない。
ロイは金で良いんじゃないかと言っていたが、さすがレウ。見た目通り女性の扱いはロイより上らしい。
しかし……あまり代わり映えのしない内容の手紙だなぁ。
母さんの手紙には農作物や草木の成長やら、村の誰に子供が生まれたやらの季節や村の出来事が書いてある。
まあ、みんな元気でやっているらしい事がわかるから良いんだけど。
『心配』だとか『大丈夫?』だとか『いつ帰ってくるの?』といった言葉が書かれていないのは、俺がハンターの仕事に集中できるようにという母さんなりの気遣いなのだろう。
逆にハイムの手紙には『心配』だとか『大丈夫?』だとか『いつ帰ってくるの?』といった言葉が並んでいる。
ハイムの中では俺はまだまだ小さい子供のときと同じ感じのままなんだろうなぁ。
思わず苦笑していると、不意に声をかけられる。
「おあようアーム」
振り向くと、そこには食事の載った盆を持ちながら大きなあくびをしている少年がいた。