地味な仕事 その1
闇夜の中、牧場を走る三つの影。
一定の間隔を保ちながら二つの白い光がそれを追う。
「プロテクションウォール」
光の一つが手を前にかざすと声と共に三つの影の間に淡く光る壁ができ、影の一つがそれに激突、先を行っていた影は振り向きあとについていた影はその場に止まった。
「いまだ、アーム」
「スラッシュ!」
待ち構えていた俺は、指示通り背を向けた影にフォースを込めた剣を振り下ろす。
そして間を空けず、もう一つの光が持つロングソードが淡い光の壁にぶつかり顔を押さえていた影を刺し貫く。
その勢いで光の壁は霧散し立ち止まっていた最後の影はその先へ逃れようと駆け出すが――そこにいた俺にあえなく切り伏せられた。
「これで全部か?」
転がったコボルトの死体軽く足で小突き死んでいるのを確認しつつ、俺は薄汚れた布で剣についた血をぬぐう。
「ああ、残りの一匹はレウが追っているから大丈夫だろう」
二つの光の一つ、左腕に光る布を巻いた大柄の戦士――ロイが答える。
そしてもう一つの光、あとから来たローブを纏う少年が手に持った光る棒でコボルトの死体を照らした。
「ジグ、そのままで頼む」
「おっけー」
懐から折りたたみナイフを取り出すと、俺はその光を頼りに二体のコボルトの死体から右耳を切り取る。
「こいつも頼む」
そういいながら、ロイはさっき突き刺したコボルトの死体を光の下に投げた。
「終わったらコボルトの死体はこのままでいいか?」
ロイの置いたコボルトの死体から右耳を切り取りながら聞く。
「ずっとってわけには行かないだろうが、処理の仕方は牧場の人と相談してからになるだろうし、とりあえず今はここにおいて見張り小屋に戻ろう」
「わかった」
軽く頷き合うと、俺たち三人は死体をそのままに見張り小屋に向かって歩いた。
「お、待ってたぜ」
ランタンを片手に出迎えたレウにうながされ、俺たちは小屋の中に入る。
レウは持っていたランタンを中央に吊り下げ、俺たちはその真下にあるテーブルを囲んでイスに座った。
「どうだった? って聞くまでもないか」
イスに逆向きに座りながら背もたれに体を預けていたレウは、そう言いながらテーブルの上にコボルトの右耳を3つ並べる。
俺も小袋を逆さにして、落ちてきた3つのコボルトの右耳をそこに並べた。
「1、2、3……全部で6匹か」
「まあ、こんなもんでしょ」
不満そうにつぶやくロイにジグが苦笑しながら言う。
今回の依頼は最近牧場に出没するようになったコボルトの退治。
数週間前から数匹のコボルトが夜間、不定期に羊を襲うようになり、牧場が都市に駆除要請を出したらしい。
こういう場合、害獣の数が多ければ都市の警備兵が動く場合もあるが、数が少なければ大体ハンターギルドに依頼が回ってくる。
今回の依頼は倒した数に応じてボーナスがもらえるので、倒した数はかなり重要だ。
しかし今日まで5日も張り込みをして、やっと出たのが6匹だけとなると効率が良い依頼だったとはいえない。
「今回は出てくれただけ良かったと思っておこうぜ」
「だねぇ」
「だな」
「まあ……そうだな」
みんなが苦笑する中、腕を組みながらロイも頷く。
今回のような依頼の場合、まれにだが、結局1匹も出現しないなんて事もある。
そういう可能性が十分考えられる依頼だと拘束期間に応じた補償金が出る事が多いんだけど、その金額は微々たるものだ。
今回は7日間を予定してたし、レウの言う通り出てくれただけでも良かったと考えるべきなのだろう。
しかし……最近こんな仕事ばっかだなぁ。
その後、日が昇ってから牧場の管理者に報告し、依頼達成確認のサインを依頼書にもらってから俺たちは帰路についた。