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少年の旅立ち その4

 スタウトに連れられ、ロイと呼ばれた男やその他の野次馬とともに移動したのはギルドの裏にあるちょっとした広場。


 おそらく普段はハンターたちが鍛錬に使っている場所なのだろう。


「よし、それじゃあ始めるぞ」


 スタウトの声にあわせて俺とロイは剣を構える。


 俺のショートソードと腕にはめ込むタイプのスモールシールドという装備に対し、ロイはロングソードのみ。


 互いに軽装で鎧らしい防具は装備していない。


 俺たちはオーラを張り、武器にフォースを通す。


 闘気とも呼ばれるオーラ。


 これにはその力の続く限り直接のダメージを大幅に軽減する効果と、そのオーラに見合った防具の重さをほとんど感じさせなくする効果がある。


 そして気力とも呼ばれるフォース。


 これには身体能力の強化や攻撃技の他に、力量に合った武器に通す事で強化とその重さをほとんど感じさせなくする効果がある。


 どちらも戦士系ハンターには必須の能力だが、使っている間は気力も体力も削られていくため、普段から常に使い続けるといったような事はできない。


 俺とロイの体と武器から、うっすらと湯気のような薄いぼんやりとした光のようなものが立ち上る。


「ほう、初心者にしてはなかなかのオーラだ」


 俺のオーラを見て野次馬の一人が感心したように声を上げる。


 しかしそれはあくまで『初心者にしては』であり、誰の目にもロイのオーラの方が濃く見えるだろう。


「はじめっ!」


 スタウトの掛け声に反応し、俺は一気に間合いをつめて斬りかかる。


 対するロイほとんど動かず、ロングソードで俺の攻撃を器用にはじく。


「なるほど、いい動きだ。ならば……」


 攻守交替。今度はロイの剣が俺に迫ってきた。


 すばやい連撃ではないが一撃一撃が重く、受ける剣がはじかれて反撃の隙がない。


 俺は攻撃を受けるたびに後退を余儀なくされる。


「くっ」


 このままではジリ貧だ。こうなったら――


 俺は両手と剣にフォースを集中させる。


「これは……」


 それを見たロイは右手だけで振っていたロングソードに左手をそえた。


「パワースラッシュ」


 激しい金属音とともに火花が散り、技の衝撃はロイの体を二メートルくらい滑らす。


 俺はすかさず追撃のために距離をつめようとしたが――


「やるな。ならばっ!」


 ロイの剣、両手、両足にフォースが集中する。


 まずい!


 そう思ったときにはかなり距離が詰まっていた。


「ハイパワースラッシュ」


 ロイのスキルが向かってくる。


「ストロングシールド」


 俺はすかさずスモールシールドをはめ込んである左腕を前に両腕で十字を作り、盾にフォースを集中させた。


 ロイの剣は盾を直撃し、その衝撃で俺は数メートル吹っ飛ばされる。


「そこまで」


 スタウトの声を聞き、追撃を防ごうと立ち上がりかけた俺はその場にへたり込んだ。


「盾を使ったのはいい判断だ。なかなかやるじゃねえか」


 剣を鞘に収めたロイが俺に右手を差し出す。


 確かにあの衝撃だ。両刃のショートソードで受けていたら無傷では済まなかったかもしれない。


「どうも」


 ロイの手をつかんで起き上がる。


 次の瞬間ロイの頭上にスタウトの拳が振り下ろされゴツッと鈍い音を立てた。


「バカヤロウ! やりすぎだ」


「いってー」


 ロイは頭をさすりながら言う。


「マスター。詫びというわけじゃないが、こいつは俺のパーティで面倒を見るぜ」


「ん? いいのか?」


 ニヤリとしながらスタウトが言う。


「最初からそのつもりだったくせに」


 そう言ってロイは苦笑した。


「改めて自己紹介するが、俺はロインラクス。ロイと呼んでくれ」


 そしてロイは再び俺に右手を差し出す。


「よろしくお願いします、ロイさん」


 差し出された手を握りながらそう言うと、ロイは言った。


「ハンター同士で敬語はやめろ。相手にナメられる」


 それがハンターの流儀なのだろう。


「わかった。ありがとうロイ」


 そんな会話をしていると、さっき酒場スペースで話しかけてきた長身の槍使いが近づいてきた。


「俺もロイのパーティメンバーでレウミスコスだ。レウと呼んでくれ」


 そう言って右手を差し出す。


「よろしく、レウ」


 俺は差し出された手を握る。


「もう一人メンバーがいるんだが――今は居ないから後日紹介しよう」


「ああ、よろしく」


 新人ハンターにとって、最初の難関はパーティに入る事だと聞いた事がある。


 ろくな戦力にならない新人を入れる事に大抵のパーティは二の足を踏むからだ。


 それがこんなとんとん拍子にうまく行ったのは、ギルドマスターであるスタウトのおかげだろう。


「ありがとう、スタウト。おかげでパーティに――」


 礼を言いかけたところでスタウトの拳が俺の頭に振り下ろされ、ゴツッと鈍い音が響く。


「いってー」


 わけがわからず頭をさすりながらスタウトを見ると、憮然とした表情で俺をにらんでいた。


「バカヤロウ! 俺はハンターじゃなくてギルドマスターだ。俺の事はマスターもしくはスタウトさんと呼べ」


 言われてみればそうである。


「し、失礼しました、マスター」


 俺が直立不動でそう言うと、周りからどっと笑いが起きた。



 最初はどうなる事かと不安だったけど、師匠やマスター、ロイのおかげでどうやら問題なくハンターをやっていけそうだ。


 こうして安堵と多少の不安、そして期待に満ちた俺のハンター人生が始まった。

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