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守りたい人 その5

 夕食後、風呂から出ると母さんと叔父さんが待っていた。


「アーム。私はジーマと話があるからジーマの家に行くわ」


「ん? ああ、わかった」


「今日は泊まってくるから朝まで帰らないわよ」


「じゃあ、またな……」


「おやすみ、アーム」


「うん。おやすみ」


 母さんはなんだか微妙な感じの顔をしている叔父さんを押して家を出て行く。


 そして去り際に「しっかりね」と言った。


 何がしっかりなんだろう? そんな事を考えつつワインを少し呑んでいると、俺と入れ替わりに入ったハイムが風呂から出てくる。


 体にバスタオルを巻いただけの状態で……。


「わっ、ごめっ」


「アーム……」


 なぜか謝りつつ俺があわてて席を立つと、ハイムゆっくりと近づきながら俺の名を呼び――


「あっ、わっ」


「おっと」


 躓きそうになったハイムの肩を支えると、するりとその体にかまれていたバスタオル落ちる。


 そしてそのまま彼女は俺の背に腕を回し抱きしめてきた。


 なんだこの状況は……俺は一瞬混乱しそうになったけど、母さんや叔父さんのさっきの態度を思い出し納得する。


 これはたぶん母さんにそそのかされての行動だ。


 という事は、微妙な顔をしてた叔父さんも協力者。


 だから二人ともこの家から出て行ったのだろう。


 つまり「しっかりね」とは……やはり。


 そんな事を考えていると、ハイムがぼそりと小さい声で言った。


「アーム、私ね……」


「うん?」


「こんなときなのに……アームが帰ってきてくれて、また会えて凄く嬉しいの」


「……うん」


 村を出てから約5年。


 ハイムからの手紙には『会いたい』と何度も書いてあったけど、俺はずっと村に帰ってなかった。


 往復で6~8日くらいという距離は、気軽に帰れるとまでは言えないけど無理というほどじゃない。


 それでも俺はハンターレベルを少しでも早く上げたくて、帰る事より依頼や鍛錬を優先してた。


「15年前のあのとき……おじいちゃんもおばあちゃんも……お母さんもおじさんも……みんな……みんないなくなっちゃって……」


「うん」


「でも、お父さんも伯母さんも……何よりアームがいたから……私の方がお姉さんだからがんばらなくちゃって……」


「ああ……」


 5歳のときの事だからそれより前の事はよく覚えてないけど、ハイムがやたらと俺の世話を焼いたり怒ったりしてお姉さん風を吹かせてたのはそういう理由だったのか。


「でも、アームは村を出ちゃって……もう私がいなくても、なんでも一人でできるようになっちゃって……もぅ」


 ハイムは涙声で続ける。


「もう、村には帰って来ないんじゃないかって……」


「そんな事──」


 ――本当にそんな事なかったか? 


 ――ドラゴンの事がなくても、ドラゴンスレイヤーの試験を受ける前に帰ってきたか?


 ――ドラゴンスレイヤーになれたら、一期の4年だけで辞めて帰ってきたか?


 明確な目標があって、盲目的にそれに突き進んで……。


 ハイムは俺の顔を見上げながら言う。


「私ね、この村が好き。ここで生まれて、ここでアームと一緒に育って、お父さんがいて、伯母さんがいて……いっぱい悲しい事もあったけど、楽しい事もいっぱいあった」


「うん」


「それに……この村にいれば帰ってきた大好きなアームをいつでも……笑顔で抱きしめられるから」


 ハイムは俺の胸に顔をうずめ、背中に回した手に力を込める。


 俺はなんでドラゴンスレイヤーになりたかったんだろう。


 あのとき、父さんは俺や母さんを助けるためにドラゴンと戦って死んだって聞いた。


 父さんが死んだと知って泣きじゃくる俺をハイムはやさしく抱きしめてくれた。


 あのとき俺は……俺を抱きしめてくれるこの人を……ハイムを守れるようになりたいと思った。


 ドラゴンスレイヤーの存在を知ってからは、ハイムだけじゃなくたくさんの人をドラゴンから救う手助けをしたいと思うようになったけど……それはハイムを悲しませてまでしたい事じゃない。


「俺、今回の事が終わったら村に帰ってくるよ」


「ほんと?」


 ハイムは涙にぬれた顔を上げ、俺をじっと見つめる。


「うん。大好きなハイムとずっと一緒にいたい」


「うん。私も……大好きなアームと一緒にいたい」


 俺はゆっくりと目を閉じたハイムの唇に、そっと唇を重ねた。

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