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守りたい人 その3

 空が茜色に染まりつつある夕刻。


 俺は土間にある父さんの鎧の前に座っていた。


 きちんと手入れがされているのがわかる光沢のある鎧は、窓から差し込む茜色の光を反射している。


 母さんはずっと父さんの鎧を大切にしていたんだろう。


 俺は軽く目を閉じ鎧に手を合わせて祈る。


「父さん……ハイムを……母さんを……みんなを守りたい。力を貸してくれ」


「なら、借りてみたらどうだ?」


 不意にかけられた声に振り向くと、そこには片目の中年男性――叔父のジーマがいた。


「叔父さん」


「村長から話は聞いた。本当は俺もお前が足止めをするのは反対なんだが――確かにお前の言う通り、元レベル5ハンターとはいえ現役を退いて長く、走れない村長よりは現役プロハンターのお前の方が適任だろう」


「うん」


 叔父さんの言葉に俺は頷く。


「だが、できる限りの準備はしておくべきだ。村長の現役時代の剣にフォースを通せたお前なら、ガイウスの装備にもオーラを張れるだろう。この鎧と盾は現役時代にあいつの危機を何度も救った装備。きっとお前の事も守ってくれるはずだ」


「この鎧を俺が……」


 俺は叔父さんに促され父さんの鎧を装備してみた。


 ぴったりとまでは行かないけど大きさは合っている。


 鎧を装備した俺を見て、叔父さんは父さんの若い頃に良く似てると言っていた。


 まあ、俺は父さんの若い頃なんか知らないからそんな事言われてもピンと来ないんだけど。


 母さんに見せてみたら、良く似合ってるけどもうすぐ夕食だから脱いできなさいと言われた。


 いつもの装備より重いからなるべくつけっぱなしにして慣れておきたかったんだけど……まあ、仕方ないか。


 そして俺は鎧を脱いで居間に行く。


 すると夕食の準備は整っていて、テーブルにはパンの入ったバスケットと水差し、そしてワインが入ったデカンタが置かれ、四つの席にはそれぞれコップと野菜のスープと焼いた肉が置かれていた。


 既に母さん、叔父さん、ハイムが席に着き、俺が空いている席に座ると三人は手を合わせて聖王に祈りをささげる。


 普段はあまりやらないけど、俺も聖王に祈りをささげた。


 聖王連合に属するランダルト王国。


 国教は当然聖王教であり、その国に属するこの村の住人も聖王教徒という事になる。


 とはいえこの村には教会も無く、村人は敬虔な聖王教徒というわけでもない。


 だから食事の前に聖王に祈りをささげるという事もあまりやらないんだけど――


 現在、村は危機的状況だ。いわゆる神頼みというのをしたくもなる。


 そして祈りが終わると皆で一斉に「いただきます」と言って食事が始まった。


「呑むだろ?」


 叔父さんはそう言うと、俺のグラスにワインを注ぐ。


「いや、さすがにドラゴンがいつ来るかわからない状況で酒は……」


「ん? ああ、夜は来ないから大丈夫だ」


「え? どうして?」


「それはなぁ――」


「そういう話はご飯のあとにしなさい!」


 叔父さんが語りだそうとすると、母さんが俺たちをしかる。


 そんな様子を見てハイムは楽しそうに笑っていた。




 夕食が終わると叔父さんは自分の家に戻りハイムは片付けを手伝う。


 そして片付けが終わりハイムが帰ってからしばらくすると、叔父さんが戻ってきた。


「取って置きの奴だ。呑むだろ?」


 そう言って叔父さんは蒸留酒の入ったビンを見せる。


 それから俺たちはそれを呑みながら、叔父さんにさっきの話の続き――ドラゴンの事を聞いた。


 食事のときに言っていた通り、ドラゴンが夜に来る事は基本的に無いらしい。


 夜目が利かないから暗くなるとこちらから手を出さない限り動かなくなるんだそうだ。


 それからドラゴンは基本的に逃げる人を追ったりしないらしい。


 ドラゴンの狙いは魔法を再現する道具で生活必需品でもある魔法道具の燃料、マナ(魔素)を含有する魔石や魔油といった魔法燃料で人ではないからだ。


 とはいえそれを探してなのか、人里をめちゃくちゃに壊して行くから巻き込まれ被害にあう人は少なくないんだけど。


 そしてドラゴンは自分に攻撃を仕掛けてくる者を放ってはおかないらしい。


 ある程度のダメージを与えられる者が攻撃している限り、それを排除しようとするんだそうだ。


 だから都市の防衛ではその習性を利用して戦士が注意を引き、そのすきに魔術師の火力でダメージを与え撤退させるという戦術を使う。


 このやり方は時間稼ぎにも有効で、15年前父さんと叔父さんはこの方法で村のみんなが逃げる時間を稼いだんだそうな。


 そんな感じの話を聞いたり俺のやった依頼の話やラムールでの生活の話なんかをして、母さんに「いい加減にしなさい」としかられるまで俺たちは話し込んだ。


 叔父さんが帰ったあと、俺はほろ酔い気分でベッドに横になり、叔父さんに聞いた事を思い出しつつ考えた。


 俺が少しでも多く時間を稼げば、それだけハイムや母さん、村のみんなが逃げやすくなる。


 俺がハイムを……みんなを守るんだ。

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