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少年の旅立ち その1

 土間に飾られた鎧と折れた一振りの剣。


 それはかつて村を守るために戦い命を落とした一人の戦士――父さんのものだ。


 その前で俺は手を合わせる。


「父さん……俺、絶対父さんみたいな勇敢な戦士になるよ。それから――」


 そして一通り将来の夢や目標、決意なんかを語ったあと、俺は土間を出て玄関に向かった。


「お父さんへの挨拶は終わった?」


「うん」


 玄関で待っていた母さんは俺の背中に手を回すと、強く抱きしめながら言う。


「アーム……。必ず……必ず元気で帰ってくるのよ」


「うん」


 家を出ると母さんは玄関先で手を振っていた。


 俺は振り向きたい気持ちをおさえながら前だけを見て進む。


 次に母さんに会うのは勇敢な戦士になってからだ。


 そう、自分に言い聞かせて。




 村外れに行くと三台の馬車が出発準備していた。


 俺が乗せてもらう事になっている小都市ラムールに行く馬車だ。


 このエラン村は巨大なエラン森林に隣接する小さな村。


 街道から外れてるから行商人なんかも滅多に来ない。


 だけど小さい村だから当然、生産できるものに偏りがあったりして、この村だけでは手に入らないものがたくさんある。


 例えば生活必需品で、火をつけたり、明かりを灯したり、水を出したりといった事ができる魔法道具。


 ラムールには普通に売ってるけど、専門の技術が必要なそれをこの村で作るなんて無理だ。


 それに魔法道具を使うための燃料、魔石だってこの村じゃ手に入らないから買ってくる必要がある。


 だから村の代表として数人がラムールに買い物に行く。


 もちろんものを買うにはお金が必要だ。


 だから村で作った農産物や加工品を積んで行き、それを売った金で買い物をして帰ってくる。


 この馬車はそういったこの村の生産品を売ったり村では手に入らないものを買うために、数ヶ月に一回、定期的にラムールに行く馬車だ。


 馬車の周りには作業をしている人の他に見送りに来ている人もいる。


 いつもなら数人の子供が親兄弟を見送りつつお土産をねだっている程度だが、今日はそこそこの人数がいた。


「遅いぞアーム」


 一人が俺を見て声をかけると、それを皮切りに他の人からも次々に声をかけられる。


「がんばれよ」


「元気でね」


「無理するなよ」


 どうやら俺を見送りにきてくれた人たちらしい。


「ありがとう」


 友人、知人、あんまり良く知らない人、色々な人が声をかけてくる。


 そんな中、俺は一人の少女を探した。


 やっぱり見送りには来てくれないか……。


 母さんですら最後に『あの人の子だからね』と言って認めてくれたハンターになる事を、最後まで反対していた四つ年上の従姉。


 昨日も泣きながら怒ってたし、やっぱりまだ怒ってるのかな……。


「そろそろ出発するぞ」


 そう言われ仕方なく馬車に乗り込もうとすると――


「アーム!」


 俺を呼ぶ声が聞こえてくる。


 振り向くと、そこには叔父さんとその娘、四つ年上の従姉――ハイムが居た。


「ハイム! ……と叔父さん」


「おいおい、俺はおまけか?」


 そういうと叔父さんは俺の頭をくしゃくしゃなでる。


「別にそういうわけじゃ……」


「絶対に無理はするな。常に余裕を持って行動しろ。それがハンターとして生き残り、強くなる秘訣だ」


「わかった。ありがとう叔父さん」


「ほら、言う事あるだろ」


「……うん」


 叔父さんにうながされてハイムは俺の目の前に立つ。


 少しうつむいた顔は紅潮し、目は真っ赤にはれている。


「絶対……」


「うん」


「絶対無事に帰ってきて」


 そういうと彼女はやさしく包み込むように俺の背中に手を回す。


「うん、約束する」


 俺も彼女の背中に手を回し、そっと抱きしめた。





「それじゃ」


「ああ、元気でな」


 数日の旅を経てラムールに到着した俺は、ここまで送ってくれた村人たちと別れの挨拶を済ませると、ハンターギルドを目指し歩いた。


 手伝いやら道中の用心棒やらでここには何度か来た事があり、そのときいずれ来るこの日のために一度だけハンターギルドの場所まで行った事がある。


 だから迷わずいけるはずだったんだけど……結構前の事なせいか俺は道に迷っていた。


 意外と覚えていないもんだなぁ。


 それに乗り心地の良いとは言えない馬車に数日揺られたせいで腰が痛い。


 そんな事を考えながらしばらく街の中をさまよっていると、かすかに見覚えのある通りに出る。


 そして――


「確かこの通りに!」


 そこにはそこそこ大きな建物、ハンターギルドがあった。

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