プロローグ
ただ大陸とだけ呼ばれる世界。
そこには『災害』と恐れられるドラゴンが棲み、主にドラゴン討伐で名を馳せた英雄たちの伝説がある。
そして、大陸には三つの巨大な勢力が存在していた。
一つはかつて多数のドラゴンを討伐し英雄と呼ばれた『竜狩りの魔導師』が興した魔導帝国。
もう一つは魔導帝国に反旗を翻し分離独立した大国リベランド。
最後の一つは魔導帝国に対抗するため、聖王教という宗教で繋がった国家群、聖王連合。
その聖王連合に属するランダルト王国。そこにエラン村と呼ばれる村がある。
広大なエラン森林の程近くにあるその村を、ある日突然、なんの前触れもなく『災害』が襲った。
突如現れたドラゴンに逃げ惑う人々。
悲鳴と怒号が飛び交う中、元ハンターの戦士ガイウスは妻に言う。
「俺がドラゴンを足止めする。お前はアームを連れて逃げろ!」
「でも……」
戸惑う女の傍らには、まだ年端もいかぬ少年。
彼は何かが壊れる激しい音に耳をふさぎながら震えていた。
「アームを……俺たちの子を守ってくれ」
「……わかったわ」
そして女はガイウスと口付けを交わすと、アームと呼ばれた少年の手を引き駆け出す。
それから10年――
良く晴れた空の下、広場に対峙する少年と青年がいた。
両者の手には練習用の木剣が握られ、討ち合うたびにカンッという音を響かせている。
そして何合かの打ち合いのあと、少年の鋭い切り上げに青年の手から木剣が離れ宙を舞った。
「それまで」
その様子を見ていたちょっといかつい感じの中年男性の号令が響くと、二人は少し離れてからお互いに礼をする。
『ありがとうございました』
そして、挨拶が終わると少年は号令を掛けた男のもとに駆け寄った。
「師匠っ!」
男は厳しい顔で考えるそぶりを見せていたが頷いて言う。
「いいだろう」
「それじゃあ……」
「ああ。約束通り小都市ラムールのハンターギルドへ紹介状を書いてやる」
「よっしゃー」
「やったなアーム」
ガッツポーズで飛び上がるアームと呼ばれた少年に、周りで見ていた数人の男たちが駆け寄り小突いたり頭をくしゃくしゃになでて祝福する。
そんな中、少し離れた場所から見ていた少女は、その様子を悲しそうな顔で見つめていた。