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サバイバル・イン・ダンジョン  作者: 古賀エイ
第1章 ファーストダンジョン
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5.対(製作に失敗した)スライム戦

 さて、見つけた水源はスライムだった。たぶん、恐らく、きっとそうだ。


「……だよな?」


 ご本人に聞いてみたが返事はなかった。


 何故スライムなのかどうかを疑っているのかというと、なんて言うか、ベチャッとしているのだ。イメージしていた饅頭とか雫のような形ではなく、餡かけのような感じというか……化学の実験でスライム(無機物)を作るときに水分を多めに入れてしまってドロドロになってしまったみたいな感じである。


 そんな何とも言えない姿をしているスライム(仮)は、ベッチャンベッチャン飛び跳ねている。臼と杵で餅つきをしているみたいな音だ。全く美味しそうに見えないけど。


 念のためにチューブで確認する。ステータスを確認し終わった後に気が付いたのだが、『地図作成&索敵アプリ』『ステータス確認アプリ』以外にもいくつかアプリが生えていた。その内の一つがモンスターの種類を識別できるアプリである。目の前にいるモンスターの特徴を勝手にスキャンして、ダウンロードしているモンスター図鑑から自動で該当モンスターを探し出してくれる、とても便利なアプリだ。少しだが解説も書いてあるらしい。このアプリで該当モンスターがいませんって出てきたら、目の前にいるのは新種のモンスターということになるのだろう。


 画面を表示、アプリをタップ、スキャンデータ表示。……うん、目の前にいるのはやはりスライムだ。ただ、ただのスライムではないらしい。『リキッドバレットスライム』という名称だそうだ。液体(リキッド)弾丸(バレット)のスライム? 飛び道具を使うスライムか?


 画面を凝視していると、俺の目の前にいる失敗したスライム、ではなくリキッドバレットスライムが、そのドロッとした体をより激しく動かして跳ね始めた。それに伴い、少し不快な音が音量を上げていく。


 音に眉をひそめながら、よくもまあそんな体で跳ねられるなーと思ってのんびりと観察していたが、急に動きが止まった。


 どうしたのだろうか、なんて疑問を浮かべながら顔を近づけ――


 急に、スライムが跳びかかってきた。


「のぅわっ!?」


 急に襲いかかったスライムに対し、お化け屋敷の中で急にお化けが出てきてそれに驚いて一歩足を引いて体を仰け反らせるという行動に近い動きをしたのだが、俊敏が高いおかげで偶然回避行動になった。全くもって華麗ではないが、回避は回避だ。


「っとと」


 転びかけたのを何とか踏みとどまり、素早く後ろを振り向く。俺の背後へと跳んでいったスライムは、天井からデロォ~と地面に落ちていくところだった。その動きは生理的に受け付けない何かがあったが、問題はそこでは無い。


 スライムが張り付いている箇所に、穴が空いていた。


 ……え? 嘘でしょ? スライムと言えば、あの序盤のレベル上げに大量虐殺される、少し愛嬌のある丸っこいモンスター……。


 ……あれ、もしかして、「弱いと思っていたスライムがめちゃくちゃ強くて超苦戦する物語」のパターン?!


 もしそうなら、ミノタウロスよりもヤバい! 逃げも隠れもできない!


 折角少し前に拭った額にまたもや脂汗と冷や汗が溢れ出てきた。背筋なんて業務用冷蔵庫の中にいるんじゃないかと思うほど凍っているぞ。凍るんだったら冷蔵庫じゃなくてどちらかというと冷凍庫か。


 そんなことは今はどうでも良い。とにかく、対処をしないと。


 でも、どうする? さっきの攻撃の飛距離を見た限りじゃ、俺の足で逃げ切れるものじゃ無いと思う。速さも、多分俺よりも上だ。幸い跳ぶのは直線状だから横に思い切り避ければ直撃はしない。でもそれじゃあ俺の体力がジリ貧だ。いつかは避けきれなくなる。一対一のはずなのに、ドッジボールで敵の内野と外野に挟まれた上にたった一人で狙われ続ける終盤戦と同じ状況になっている。当たったら外野じゃなくてあの世行きだ。割に合わん。


 結局対処が思い付いていない。なのに、ヤツはまた屈伸運動みたいな上下運動を始めた。あの運動で力を溜めて、自分を弾丸にして一気に跳びかかってくると。準備運動中に攻撃できればいいが、近づいて攻撃を加えようとした直前に跳んできたら即死する未来しか見えない。


 仕方が無い。とりあえず避けよう。肩に担いでいる斧は重いので地面に降ろしておこう。……こんなに重い物を担いでいたのに、さっきはよくあんなに早く動けたものだ。


 自分の足の上に落とさないように、慎重に全速力で斧を地面に降ろす。その先端が地面に付いた途端、ヤツの動きが動きを止めた。俺は次にヤツが動くまでじっと待った。早く動きすぎて移動先に狙いを絞られたら堪ったもんじゃない。


 一秒もなかっただろうが、体感で十秒ほどじっとしていた気分だった。


 ヤツが飛び跳ねた。一瞬遅れて俺が動き出す。


 斧の柄から手を離し、全力で駆け出す。走行距離、約二メートル。


 ……勢いを付けすぎた。


「うぐっ」


 壁に左肩から激突する。先程壁に思い切りぶつけた右肩の痛みは引いてきていたが、これで両肩を痛めたことになる。ゴツゴツとした岩の壁だから、平面にぶつけるよりも遙かに痛い。


 痛みを堪えて顔を上げる。ヤツの次の動きは――


 「……っ!?」


 ……マズい。痛む肩に意識を持っていってしまったせいでスライムを見失った。


 何処に行った!? と周囲を見渡してみる。地面、壁、天井、通路の奥。何処を見ても見当たらない。


 緊張と恐怖で息が荒い、呼吸が浅い、目眩がしてきた。とりあえず、何か支えになるもの……そうだ、さっき手放した斧を杖代わりにすれば……。


 斧は地面に倒れていた。相当な重量のあるものが倒れたのだ、相応の音量の激突音がしたはずだが、そんなものは聞こえなかった。余りの緊張に聞き逃したか。


 周囲を警戒しながら斧を拾う。


 斧の下に、水溜まりと、大きなビー玉みたいな球が、落ちていた。


 これ、どっかのテレビ番組で見たモンスターの核に似ているような、そのもののような……。


 ……。


 潰れたのかよっ!?

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