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サバイバル・イン・ダンジョン  作者: 古賀エイ
第1.5章 エクストラステージ(1st)
39/83

39.帰還

お待たせしました。闇の――じゃなかった

第1.5章 全8話 投稿開始です。

 俺がダンジョンから出てきた後。


 周囲から明らかに浮いているズタボロな格好を見て、探索者協会の人が俺を保護してくれた。俺が巻き込まれたダンジョンを管理するために設置されたプレハブの中に連れて行かれた。両腕を初めとした全身の応急処置をしながら、俺は協会の人の質問に答えていた。本当は俺の怪我の具合だったら病院に連れて行かなければならないみたいだが、「申し訳ないけどそんな暇はない、一刻を争うんだ」と言われた。応急処置だけでも非常に有り難かったから、申し訳なく思う必要も無いんだけど。


 質問内容はというと。


「君の名前は?」

「じ、神宮龍介、です……」


「怪我は?」

「ひ、左腕、に、岩の破片が、刺さって、ます……。あ、あと、右腕が、爛れて、ます……」


「一ヶ月以上も探していたのに見つからなかったんだけど、どこから出てきたの?」

「え、えっと、だ、ダンジョン、を、進んで、ブラックホールを、いくつか潜って、来ました……。……え?一ヶ月?」


「ダンジョンの中で誰かに会った?」

「一ヶ月……。あ、え、ええと、はい、じゃなくて、いいえ。誰にも会ってない、です……」


「今起きている、ダンジョンから探索者が吐き出される状況って初めてなんだけど、何か知らない?」

「し、知りません……」


「探索者が吐き出されてきたとき、ブラックホールが一瞬膨張したんだけど、それってスタンピードの時と同じなんだよね。もう暫く起きていなかったから、結構な探索者が頭の片隅にも入れてないせいで今回は初動が遅れたんだけど。それについても知らない?」

「は、はい、知りません……」


「うん。ありがとうね。それじゃあ後は――」


 基本的に今の状況の解明に繋がる何かがないかどうかを探るのが質問の趣旨っぽかった。俺がダンジョンの中でどう過ごしてきたとかはたぶん後日聞かれるのだろう。


 治療が終わった左腕を血圧を測る機械みたいなものに入れて壊れたチューブの状態を見て貰いながら、俺は今後の事を考えた。


 まぁ、それはいいとして。


 ……………………話って、どうやってするんだっけ?


 人間との話し方をまるっきり忘れてる……っ!?話の中で一ヶ月も俺が遭難していた、なんて衝撃の事実が発覚したわけだけど、そんなに長い期間誰とも話さないなんてことは今までなかったから、会話というものを初めてしました、みたいな人になってる。もうヤダ!恥ずかしい!おうち帰りたい!


 ……あ、そっか。もう、家に帰れるのか。まだ実感湧かないや。


 急にダンジョンから出てきて、急に緊急事態になって、急に質問攻めに遭って。


 まだ質問されている途中だけど、ここまで来て漸くその事実を認識できた。ここで涙の一つでも流れるかと思ったけど、疲れすぎて無く気力も無いわ。


 この後起きると予測されるスタンピードに備えて俺がダンジョン内のモンスター共の特徴を伝えていると、質問している人とは別の職員さんが電話の子機を片手に俺が治療と質問を受けている部屋に入ってきた。


「神宮くん、お母様よ」

「……じゃあ、僕はこれで。いろいろと話してくれてありがとう」

「い、いえ」


 子機をこちらに差し出しながら、職員さんはそう告げた。さっき家族には連絡しておくって言ってくれてたけど、そっか。母さんと話せるのか。


 話自体はほぼ終わり、モンスターの対処も知っている事を全て話した。そのため用事は終わっていたので、質問していた職員さんはそう言って部屋を去って行った。


 彼とすれ違う様にして近づいてきた職員さんから、俺は応急処置は終えたもののまだ痛む右手で子機を受け取って耳に当てた。


「……母さん、おひさ」

『っ……!おひさ、じゃないっ!心配したのよ!?今まで何処ほっつき歩いていたの!?』

「いや、ダンジョンの中だけど。それに不可抗力だから、怒られても……」

『そう言う事じゃないっ!!』

「……ごめん。心配掛けました」

『ふぅー……、無事、なのよね?今どこにいるの?』

「怪我はしたけど、一応無事。今は家前の協会のプレハブの中だけど」

「あっ……」

『わかったわ。今行くからそこで待ってなさい』

「いや、今こっち危な――切れた」


 電話が切られたので受話器を返そうと思い職員さんの方を振り返ったんだけど。……何で目元を手で覆って天井を見上げているんだ?天井の電球は全部付いているから、電球が切れたのを確認する為に見上げているという線はないか。


 このタイミングでこの格好……。あれ?俺なんかやらかした?


「あのー……、俺、何かやらかしました?」


 何をやらかしたか分からないので正直に聞いてみる。すると職員さんは手を振りながら「神宮くんのせいじゃないわ」と言った。いや「せい」って、それ完全にやらかした時に使う言葉じゃないですか?


「実は、お母様に神宮くんの居場所を敢えて伝えていなかったのよ。ここはご自宅の目と鼻の先だけど、スタンピードが起きる可能性がある以上、戦場の最前線と同じ扱いよ。こんな場所に一般人を通すわけにはいかないわ。だったら神宮くんを安全な場所に避難させるって手もあるんだけど……」

「ダンジョン内の知識を持っている俺がいた方が、仮に未知のモンスターが出てきた時に対処出来る可能性がある。それに緊急時だから腕と服以外は目だった傷のない俺も予備戦力としてカウントしている。そんな所ですか?」

「……その通りよ。けが人の貴方を酷使するようで非常に心苦しいんだけどね」

「いや、寧ろ参戦を許してくれた方が有り難いです。自宅(じぶんち)をモンスター共に壊されたくないので」

「ありがとうね」


 さて、参戦するなら武器が必要だ。職員さんに受話器を渡して、ついでに木刀くらいの長さの剣、短剣、大きさ不問の大剣をそれぞれ二本ずつ借りられないか聞いたところ、緊急事態につき貸し出し許可を得られた。後で持ってきてくれるらしい。……今頃気が付いたけど、そういえば高校生って探索者になれないんだっけ。それすなわち剣を持ったら銃刀法違反になるわけで。……緊急時じゃなければ、聞いた時点でオハナシ、貰った時点でオナワになるってか。危ねぇ。


 武器を取ってきて貰っている間に、俺はいつの間にか築かれていた簡易バリケードに近づいて行った。母さんを待つためだ。家からここまで二分もあれば確実に着く。念のため俺にいろいろと質問してきた人が付いてきてくれた。その間に行った会話なども含めて、さっきまでのコミュ障を酷く拗らせたボッチみたいな反応はしなくなった。母さんと電話で話してから漸く“会話”というものを思い出した感じになった。家族と話せたことで少し余裕が出来たのかも知れない。多分もう大体問題無い。ありがとう、母さん!……今から会うんだから心の中で叫ぶ必要も無かったか。


 そんな下らない思考をしながら待つこと五分ほど。


「龍介っ!!!」


 全力疾走、と言えるような見事なフォームで母さんがマンションから出てきた。その必死な表情を見て。


「母さん、ただいま」


 口から只一言、こぼれ落ちた。


 帰れるんだ、じゃない。帰ってきたんだ。


 不意にそう思って、思わず気を緩めかけて――





「「「「「アォオオオオンーーーッッ!!!」」」」」





 スタンピードが始まった。





「ッ」


 目からこぼれ落ちそうになった感情を拭う。まだ安堵なんて出来ない。ここは最前線、まだダンジョンの中。最後の階層(エクストラ・ステージ)と思え。


 俺が最初にやることはモンスター共への対処ではない。一瞬だけブラックホールの方向に向けた視線を元に戻し、初めてモンスターの声を聞いて体を縮ませている母さんに声を掛けた。


「……母さん。来てくれたのは有り難いんだけど、ちょっと避難しててくれる?ここは危ないから」


 まずやるべきは母さんを避難させること。でも。


「何他人事みたいに言ってるの!ほら、あなたも行くわよ!」


 案の定俺の手を掴んでくる。そりゃそうだ。ただの高校生の息子を戦場に嬉々として向かわせる母親がどこにいる。それにボロボロだし。一応服は協会に借りたが、風呂には入れていないから全身汚れだらけ。もしかしたら臭いも凄いかも。自分では分からないけど。


 そんな俺を心配げに見つめてくる母さんの手を、俺は優しく振りほどいた。


「ごめん。俺はここに残る」

「……何寝ぼけた事を言ってるの!?いいから早く――」


 俺は再度伸ばされた手を、今度は激しく振り払った。母さんが驚いた様な表情をした気がしたけど、今はそれどころではない。


「な、何するの、りゅ――」

「ちっ、抜けてくるのが早すぎる」

「り、龍介?」


 既に視線は母さんに向けていない。何か言っている気がするが、それに意識を割くことも出来ない。


 俺がブラックホールの方角を睨み付けた次の瞬間、視界の端に動体が映り込んだ。


 人間、では無いと思う。二足歩行ではなく四足歩行。数十メートル先の茂みに隠れたからはっきりとは捕らえられなかったけど、たぶん色合いは……緑。


「……ヤツら、か?」

「や、ヤツら?ヤツらって……?」


「神宮くん!持ってきたわよ!」


 早く母さんを含めた人々の避難を促さなければ。


 そう思った瞬間、先程の職員さんがここまで響いてくる戦闘音に負けないように声を張り上げてこちらにやって来た。


 彼女と俺との間には、先程の茂みが。


 次の瞬間、その茂みが揺れた。


「母さん、動かないで」

「え?」


 足を力ませる。前傾、重心移動、前進、加速、全力。


 彼我の距離を一瞬で埋める。腕が痛くて振れなくても、全速力が出せなくても、数十メートルであれば問題無い。


「……え?」


 一瞬で目の前に現れた俺に驚く職員さん。見開かれた目の目の前で、俺は茂みに向かって足を振り下ろした。


 その振り降ろしは空振りに終わる。手応えは全く無かった。それはそうだ。これは炙り出すための牽制なんだから。


 俺の予測通り、足を避けるように距離を離しながら三匹の緑色のオオカミが茂みから出てきた。


 間近で生きたモンスターを見ることがあるのは探索者くらいだろう。俺の真横にいる職員さんが思わず尻餅を付く。


「ひっ!?モンスター!?」

「やっぱサンドバッグ(オオカミ)だったか」

「……へ?サンド、バッグ?……って、あ、イヤ……っ」

「……武器、ありがとうございます。借ります」


 キャスター付きの荷台に乗せて持ってきてくれた武器を【収納庫(ストレージ)】に仕舞う。……地面に出来はじめていた水溜まりは見なかったことにする。


「あ、あと、それ、も」

「それ?」


 羞恥を堪えながら職員さんが指さしたのは、荷台に乗っていた段ボール箱。俺のものでは無いと思って放置しようとしたんだけど、どうやらそれも俺の為に持ってきてくれたものみたいで。蓋を空けると、中には緩衝材に包まれたビンが二本か入っていた。ラベルには「ポーション」「マナポーション」と書かれて、いて……


「ポーションっ!?」

「ぴえっ」


 え、マジで?ポーションとか、むちゃくちゃ高級品じゃないか!


 ポーションとは、ダンジョン内で希に見つかる宝箱の中に入っている、瓶に詰められた液体のことである。飲んだり掛けたりすると、体力が戻ったり、傷が癒えたりと、様々な効果を発揮する。医療従事者が最も嫌うダンジョン産の物品である。


 一応何とか解析して人の手で作れるようになったらしい。順次量産体制を整えていくとか何とか、って迷子になる前にテレビでニュースになっていた。


 そんな高級品が目の前にある。叫ぶのも仕方が無いと思う。


「え、これ使っていいんですか?」

「え、ええ。ど、どうぞ」

「ありがとうございます!」


 早速ポーションを両腕に掛けて……


 煙を出して一瞬で完治。早っ!?


 と、驚いている場合ではないか。まだ向こうも警戒している段階だから問題ないが、目の前にはオオカミ共がいるんだから。


 マナポーションは……ま、必要ないか。多分、MP消費するタイプのスキル持っていないだろうし。ダンジョンの中でいくらスキルを使ってもMPが切れることはなかったから。


「それじゃ、っと」


 両腕に剣を装着、オオカミの背後に誰もいないことを確認、準備完了。フレンドリーファイアは洒落にならないだろうし。


 左手を一匹に向け、照準を合わせて。


 初手。


「【武器狙撃スタート・アーマリー・スナイプ】!」


 木の上で生活しながら何匹のオオカミの額を打ち抜いてきたと思っている。今更外すなんてことは無い。


 俺の左手から放たれた短剣は、ピンと張られた糸のようにまっすぐに飛んでいき……左端のオオカミの額に深く刺さった。


「まず、一匹」


 地面に倒れる。急激に仲間が倒れた事で他二匹の意識が逸れる。


 その瞬間を狙っていたわけではないけれど、その時には既に全力で右端の個体に近づいていた。そいつが気が付いた時には、俺は目の前にはいない。とっくに後方へと抜けている。左腕に取り付けている剣先から血を滴らせながら。


「二匹」


 体から血を吹き出しながら、二匹目のオオカミが倒れる。別に俺の剣術がいきなり上達して高速戦闘が出来るようになったわけでは無い。左腕を突き出した格好のまま突撃しただけ。結構腕に負荷が掛かったけど、問題無く口から尾の方までを切り裂けた。


 最後に残ったヤツは目の前から俺がいなくなり、仲間の二匹が殺されたことで混乱しているようで、慌てたように首を左右に振って俺の事を探している。だが残念。百八十度じゃ俺を見つけるには狭すぎる。


 再び加速、最後の個体に接近、右足を振り上げ、全体重を乗せて振り下ろす。ヤツの首に。


「――――」


三匹(ラスト)


 以上終了。フィニッシュである。


 邪魔になるから死体を【収納庫(ストレージ)】で回収して。


「えっと、立てます?」

「え、あ、はい」


 職員さんは何とか足腰に力を入れて立ち上がる。これなら問題無く避難できるだろう。


 あとは。


「母さん」

「龍介、あなた……」


 驚いた表情で俺の事を見ている母さんに近づく。職員さんは職務に戻っていった。たぶん。


 さあ、母さんの説得だ。


「見ての通り、俺、このダンジョンのモンスター相手だったらある程度戦えるから。ポーションもらえて腕も治ったしね。家壊されたくないし、ここに残って戦うよ」

「……分かったわ」

「だから、母さんと一緒に逃げられ――え?いいの?」


 あれ?一瞬で許可されたんだけど。


「あなたの強さは今見せてもらったわ。そういえば、帰ってきたってことは、ダンジョンの中で生き残るだけの力があるってことよね……。いいわ、ここに残っても」


 残って戦う事は許してもらえた。だが、ただし、と条件を付け加えられた。その条件も破格だったけど。


「必ず生きて戻ること。まだ帰ってきてから全然話せていないんだから。怪我もしないこと。いいわね?」

「怪我は保証できないけど……。うん、わかった。それじゃ、いってきます!」

「ええ。いってらっしゃい」


 許可はもらえた。さてと、そんじゃ。


「皆殺しにしますか」

「口が悪くなってない?そんな言葉使わないで。あ、これも条件に入れるから」


 気合いを入れたら条件が増えた。解せぬ。

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[良い点] 出てきてすぐは喋れなくなったりしてるところ [一言] そりゃあんな生活すれば口くらい悪くなるよね
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