13.スルーする絶望あれば、スルーできない絶望あり
周囲を、特に通路の奥を念入りに確認する。
「おかわりはない、と」
追加の軍勢はなかった。よかった。本当によかった。これでまた追加なんてされたら……【収納庫】展開しておけば何とかなるか?まあ、来ないに越したことはない。
それにしても喉が渇いた。大量に出来た擦り傷に付いているゴミも洗い流したいので、バッグの中から水筒を取り出す。
「……バッグもボロボロだな」
今朝まで新品だったバッグは、度重なる岩壁との激突、それに先程の岩の弾丸が掠ったことにより、擦り切れたり、解れたりしている。買ったばかりなのにもうボロボロになってしまったと残念に思う気持ちと、あれだけの戦闘(逃走を含む)を経てもなおバッグとして使えるレベルの状態を保っていることを驚く気持ちが併存している。流石、学生鞄。丈夫である。
手に出来てしまった擦り傷や血豆に麦茶を掛け、砂埃を落とす。その後に喉を潤した。
今回は擦り傷だけで済んだが、もっと大きな怪我をしたら物語みたいに服を切り裂いて包帯代わりにすれば良いのか?そもそも服をどうやって千切るのか。服を破いた事なんて無いからわからないが、結構勢いを付けないと千切るのは難しい気が……その辺りも地上に戻ったら調べよう。
さて、傷の手当てや考え事はここまでとして、リザルト確に――
壁から、ヌッと頭が出てきた
そのまま、スッと向かい側の壁へと吸い込まれていった
跡には、大きな穴がぽっかりと
………………。
「――っ!!!」
あ、あっぶねぇー!? 今目の前をドラゴンが通り過ぎて行きやがった!? 壁から出ていたのは一瞬だったから俺には気が付かなかったみたいだが、少しズレていたら気が付かれずに轢かれるところだった!
思わず声が出てしまいそうになった。慌てて口を押さえたから漏れ出ていてもくぐもった音だけだろう。
冷や汗と脂汗が酷い。今日は本当に汗と円がある日だな……。嫌になる。
今、ハッキリとしたことがある。この階層で、チューブは役立たずである。
地図機能がポンコツと化した事は記憶に新しい。そのせいで周囲を五感どころかあるかどうかもわからない第六感まで総動員して警戒していないと、さっきみたいに轢き逃げ事件の被害者にされそうになる。
だから、チューブでステータスを確認している暇などないのだ。
「もうヤダ。疲れた。家に帰りたい」
いや、今帰宅途中か。
***
先程までいたような細い道だと壁から出てきたヤツに対処出来ずに轢き殺される恐れがある。だから大きめの道の中央を歩くことにした。俺の速さであれば壁から何かが出てきても見てから対処できる、はず。種族だけで無く身体能力も人外と化してきている気が……テレビとかネットで見る探索者はどいつもこいつも人外だったような。だから俺だけがおかしいなんてことはない、はず。
すぐに動ける様に体から力を抜きながら、ゆっくりと歩く。上下左右をしっかりと確認。曲がり角や脇道があれば近づかずに暗闇に何か潜んでいないか確認。耳で物音がしないか確認。確認確認忙しい。
ゆっくりと歩いているのは確認をしっかりと行うためでもあるが、もう一つ理由がある。
体力の温存だ。
正直、空腹が限界値を越えた気がする。空腹過ぎて段々と腹が減ってこなくなってくる。
最後にチューブを確認したときに時間が十六時を過ぎていた事を確認している。最後に食事を取ったのは今朝七時頃。それから食事をしていないので……八時間も食事を取っていない。
これで何もしないで過ごしていたのなら別にこれくらい食事を取らなくても大丈夫だろう。一日や二日程度断食したところで人間が死ぬなんて聞いたことがない。しかし、普段しない程の急激な運動、常に死と隣り合わせであるという緊張が、体力をどんどん削っていった、気がする。気が付いた時には体力的にキツいと感じていたから、正確な原因が何かなんてわかりっこないが。
というか、この状況になってから現代社会に感謝した。お金さえ持っていればいつでも何処でもご飯が食べられる。コンビニとはユートピアであったか。
体力が削られていくと同時に疲労も溜まってきている。慣れない地面、慣れない戦闘。それらがいくつも重なって、足を中心に肉体的にも精神的にも疲れが溜まってきている。
精神的な疲労の原因はそれだけが理由ではない。
次の階層へと行けるブラックホールを見つけ出すことが出来たとしよう。
Q.階層ガチャが外れたら?
A.寝られない。
安全な寝床――そもそもダンジョン内に安全な場所があるのかどうかも知らないが――を見つけ出せなければ、俺は徹夜しながら周囲を警戒しなければならなくなる。
軽く見積もっても、絶望しかない。
寝ていてモンスターに見つかって殺されました、じゃあ間抜けにも程がある。生き残る為に行動を起こすと決めたんだ。その結末がそんなのでは笑い話にもならない。死んだら話す相手もいないし。
何はともあれ、疲れた頭に鞭打って、緊張感を持ったまま探索を進めなければ。




