ヴァッハフォイアの日々(ル)
ちょっと久しぶりの主人公視点です。
あの主人公がヴァッハフォイアで日々何に幸せを感じているのかという話です。
ヴァッハフォイアとアルトディシアは大陸の端と端だけあって、文化が全く違う。
街並みは中華系、王府と宰相府、それに嫁ぎ先であるシュトースツァーン家は紫禁城かと思った。多種族国家だけあってたくさんの種族がいるし。そういえば最初に見たルナールの正装は中華系だなあ、と思ったよね。
アルトディシアの実家はシャンボール城のように高く広かったが、シュトースツァーン家は低く広い。これは配置を覚えるのが大変だ、散々歩き回らなければならないし。
本家の者は皆個人で本邸と繋がる離宮を与えられているそうで、私の住むところは当然ルナールの離宮だ。彼は居住空間に特にこだわりはないようで、私の好きなようにしていいと言ってくれた。私も女にしては珍しく居住空間にはさほど拘りのある方ではないので、研究室さえ整えればあとは側仕え任せである。
本邸には大きな図書館もあったしね、図書室ではない、ちゃんと図書館が離宮として存在しているのだ、シュトースツァーン家素晴らしい。
厨房もそれぞれの離宮にちゃんとあるので、オスカーに予算の上限はないので好きなように改装するように言った。彼は私の料理する時の癖や物の配置をきちんとわかっているから、任せておけば安心だ。
乳母のクラリスはさすがに子供や孫と引き離して他国に連れてくるのは気が引けたので、本人は一緒に来ると言ったがアルトディシアに残らせた。だってセレスティスへの留学と違って、おそらく今生の別れになるだろうしね、余生は家族と生まれ故郷で過ごした方がいいよ、別に仲が悪いわけじゃないんだし。
そしてイリスはしっかりと付いてきた。自他共に認める面食いの彼女は、ルナールとロテールの顔を見て、狐獣人族には美形が多い?!となんか夢を見たらしく、実家から勧められた相手がかなり好みでないお顔だったので、私は一生お嬢様にお仕えするんです!と言って付いてきてしまった。まあ、彼女の実家には、娘の嫁入りに側仕えとして他国へ同行させるということでシルヴァーク家からそれなりの額が支払われたけれども。あとはイリスのように面食いだから、という理由ではないが、経済的な理由であまり望ましくない相手との縁談を家族に押し付けられそうになっていたティアナとメリッサという側仕えが2人一緒に付いてきてくれた。
護衛騎士はアークという脳筋騎士が大陸最強の武力を誇るヴァッハフォイアに行きたい!と熱烈に希望し、セレスティスに一緒に来てくれていた護衛騎士のカイルとエリドはもともと恋仲だったため、結婚して一緒に付いてきてくれた。
ステファーニア様にはもっとたくさんの側仕えと護衛騎士が付いてきているが、もともと私は生活するのにさほど他人の手を必要としていないし、家族と今生の別れをさせてまでこれまで国交のなかった遠方の国へ一緒に付いてきてほしいとも思わなかったので、7人もいれば十分だ。
7人中4人はセレスティスにも一緒に行ってくれていたから、ルナールとも親交があったしね。まあ4人共、まさか冒険者が大国の次期宰相だとは思ってなかったみたいで、物凄く吃驚してたけど。
「お嬢様、この温泉というのは素晴らしいですね!」
イリス、ティアナ、メリッサの3人の側仕え達が感動しているが、そう、ヴァッハフォイアには温泉があったのだ、この事実だけでもこの国に嫁いできた甲斐があったというものである。
もともと私は側仕え達にも呆れられる潔癖症で、私が唯一言う我儘が朝晩風呂に入りたい、ということだったのだから。いや、前世日本人としては別に潔癖症ではなく普通だと思うのだが、アルトディシアではお湯を沸かしてバスタブに入れて、と手間をかけさせていたからね。
このシュトースツァーン家には源泉があるようで、それぞれの離宮にもちゃんと温泉がある、高級旅館の温泉付き特別室に住んでいるようなものだ、素晴らしい。
そして私がこの国に来て良かったと思うのは、目の前で揺れる色とりどりの狐尻尾である。
私はケモ耳に萌える属性ではないのだが、尻尾は好きだ、とにかく好きだ。
ルナールとの初対面でも、私は彼の黒い狐尻尾をもふりたいと思いながら眺めていたのだし。
数ある尻尾の中でも狐尻尾は特に魅力が詰まっていると思う。
前世なら100人に訊いて108人くらいは、最高ですね!もふりたい!と笑顔で両手をわきわきしてくれるに違いない。
犬カフェ猫カフェウサギカフェ、その他フクロウとかチンチラとかフェレットとかカワウソとか色々なカフェがあったが、狐カフェはなかった。
それがこのシュトースツァーン家にはいっぱいいるのだ。狐獣人族のトップの家だけあって、使用人もほとんどが狐獣人だ。
さすがにルナールは私が色とりどりの尻尾をうっとりと眺めているのに気付いたようで、夫である自分以外の尻尾はお触り禁止!と言われたが、それくらいは私だって弁えている。早速一緒についてきてくれたアストリット商会に豚毛のブラシを特注した。ルナールの尻尾をブラッシングさせてもらうのだ。
ルナールはなんだか複雑な顔をしていたが、もともとが大らかで気のいい男なので毎晩ブラッシングさせてくれるようになった。
ルナールは、そんなにいいもんかね、と呟きながら、私がセレスティスから一緒に連れてきたウサギのポポちゃんのウサケツを撫でていたが。ウサケツもいいよ?あのへら状の尻尾をぴこぴこ振って走り回ってるところを見ると、それだけで癒されるし。
そして私が特注した豚毛ブラシは、ルナールの艶々ふさふさになった尻尾を見たお義母様と義妹のライラちゃんが物凄い勢いで詰め寄ってきて、2人にプレゼントすることになり、アストリット商会はヴァッハフォイアに来て早速豚毛ブラシの販売でウハウハになったらしい。この国には魅惑のもふもふ尻尾をお持ちの種族がいっぱいいるのだ。女性の美にかける意識は種族が違っても変わらないよね。
虎獣人の王様のぶっとい虎尻尾も思わず掴みたい衝動に駆られたのだが、流石に自制した。ルナールが毎晩好きなように触らせてくれるせいで、自制心が緩んでいたようだ、どんな痴女だよ、私。
「奥様は日々どんどんお美しくなられて・・・」
「シュトースツァーン家の殿方は皆様愛妻家で情熱的ですから・・・」
毎日イリス達と一緒に世話をしてくれるシュトースツァーン家の側仕え達にそんなことを言われるが、ルナールが愛妻家で情熱的なのを否定する気は全くないが、私がキラキラツヤツヤになっているのは、温泉効果と、毎晩思う存分ふぁっさふぁっさの素晴らしい手触りの狐尻尾をもふっていて、幸せでアドレナリンが分泌されているからだと思う。
ルナールはなんせ体力の有り余っている男なので、どちらかというと毎朝、普段使わないような場所が筋肉痛になっていたり、腰がだるくなったりで美容効果は薄いと思うのだが。人間族の貴族令嬢としてはかなり体力も筋力もある私でこれなのだから、普通に王女様していたステファーニア様はもっと体力的にきついらしい。何か良い鍛錬はないでしょうか、と聞かれたし。
「奉納舞の練習でもいたしましょうか。この国では奉納舞は剣舞が主のようですし」
シュトースツァーン家本家の妻として、神事にも参加していかなければならないしね。私達はアルトディシアの神事には慣れているけれど、勇猛な火の神ヴァッハフォイアと慈愛の風の女神アルトディシアでは神事の内容も違うだろう。
「そうですわね、奉納曲も違うでしょうから練習しませんと」
神事を執り行うのは王族の役目だったから、私達は神事自体には慣れている。
曲は楽譜を見て練習すればどうにかなるが、剣舞はなかなかね、特にステファーニア様は剣なんか持ったこともないだろうし。
「別に剣でなくても得意な武器で良いのですよ」
「いえ、お義母様、お恥ずかしながら私はこれまで一切武器を手にしたことがありませんので、本当に基礎から教えていただかなくてはならないのです」
「・・・人間族は武器を持たずに育つこともあるのですか」
獣人族ではありえないらしく、お義母様にものすごく驚かれてしまって、ステファーニア様が恐縮している。
「セイラン、貴女もですか?」
「いえ、私は一応護身用に剣と弓は覚えましたが、騎士を志す女性以外はアルトディシアの貴族女性は戦えないのが普通です。それに私はせっかくですので新しい剣を準備しようと思いまして」
私が使っている片手剣は、実家にあった長さと重さが丁度良いというだけで選んだものである。せっかくドワーフ族もたくさん住んでいるヴァッハフォイアに来たのだから、太刀と懐刀を打ってもらいたいのだ。一応前世で剣舞の経験もあるし。
ステファーニア様は剣の持ち方から習うことになり、私はルナールにシュトースツァーン家御用達の鍛冶屋に連れて行ってもらうことにした。
「お前がわざわざ剣を欲しがるなんてな。今使ってる片手剣もそれなりの業物だろう?」
「実家の蔵にあった中で、1番重さと長さが丁度良かっただけですよ」
「実にお前らしい理由だな」
ルナールに笑われてしまった。最近、ルナールの笑い声を聞くと、なんだかどきどきすることがある。何か疚しいことでもあっただろうか。
「おう、シュトースツァーン家の長男坊、よく帰ったな。今日は何の注文だ?」
鍛冶屋に着くと、ドワーフ族のお爺さんが親し気にルナールを叩く。
「元気そうだなジント。今日は俺でなく、俺の妻の注文を受けて欲しいんだ」
「そういや結婚したんだってな、一族の女でなく人間族の女を連れてきたって聞いたが・・・」
ルナールの後ろから出た私を、ジントというドワーフ族は口を開けて上から下まで眺めまわした。
「・・・ルナール坊、お前、どこの神殿の女神像に生命を吹き込んで連れてきた?どっかの遺跡で禁術でもみつけたか」
「神像じゃねえよ!生身の人間族の嫁だよ!そんなこと真顔で言うんじゃねえ!」
「お前、面食いだったんか?」
「違う!」
なんだか埒が明かない。私が声を掛けてもいいものだろうか。
「あのう・・・」
「おお、女神像がしゃべったぞい!」
「ジント、お前な・・・」
カラカラと笑うドワーフにどうやら揶揄われたらしい。
「まあいい、妻のセイランだ。セイラン、鍛冶師のジントだ。ヴィンターヴェルトでは知らんがヴァッハフォイアの鍛冶師では1番の腕だ」
「よろしくお願いいたします」
「おう、よろしくの、ルナール坊の美人の嫁さん。何が欲しいんかの?」
「片刃の曲剣を。一応仕様は書いてまいりました」
日本刀は好きで博物館に見に行ったりもしたけど、鍛冶となるとあんまり知識はないんだよね、玉鋼を伸ばして割って火に入れて折り返して伸ばして成型し焼き入れする。綺麗な波紋を出して欲しいが、知ってる限りだ。
「セイランと言ったか?シャムシールとも違う、どこでこんな剣を知った?」
さっきまでルナールを揶揄っていたのとうって変わって真面目な顔だ。
「セレスティスの大図書館で。鍛冶のことはよくわかりませんので、あまり詳しくは書けなかったのですが」
前世で、とはまさか言えないので、この大陸一の蔵書量を誇るセレスティスの大図書館の名を借りる。
「詳しくない?詳しすぎるじゃろ。魔法陣はどうするんじゃ?切れ味増加や錆止めを入れることが多いんじゃが」
「魔法陣は自分で刻みます。これでも一応魔術具師ですので」
自分で使う太刀と懐刀だし、主に神殿での奉納舞で使うのがメインになるだろうから、全大神の魔法陣を刻むつもりなのだが。
「・・・まあいいじゃろ。この国はヴァッハフォイアの加護が厚いから、炉の火力は十分なんじゃが、この何度も折り返す、というのはちと難儀するかもしれんが」
「もしよろしければ、炉にヴィンターヴェルトの魔法陣でも刻みますが?」
「お前さん、大神の魔法陣なんてそんな簡単に刻めるもんじゃない、軽々しく言うもんじゃないぞい。ヴィンターヴェルトの神殿から特に魔力の多い神官を何人も連れてきて祝詞を唱えてもらいながら、相当に腕の良い魔術具師が魔力回復薬を何本も飲みながらやっても、成功するかどうかはわからんような大儀式じゃ」
はて、そんなに大変だろうか、もしかして炉に刻むというのが普通の魔術具とは勝手が違うのだろうか。
「なあジント、もし刻めたらこれからこいつの注文は最優先で受けてくれるか?こいつ色々なものを注文すると思うからさ」
ルナールが実に面白そうな顔をしている。
「なんじゃ?嫁のためにシュトースツァーン家の権力と財力を使って、ヴィンターヴェルトの神殿から神官を引っ張ってくるつもりかいの?シュトースツァーン家の男は皆嫁を大事にするが、公私混同はいかんぞ。まあ、もし本当にヴィンターヴェルトの魔法陣を刻んでくれるというなら、最優先どころか格安で受けてやるぞ、今回のこのけったいな剣2本に関しては無料で打ってやる」
おお、結構かかると思っていたのだが、太っ腹な鍛冶師さんだ。
「だ、そうだ。良かったな、セイラン」
ルナールがにやりと笑う。
「はい。では早速始めましょうか。鍛冶場に案内していただけますか?あ、よろしければ一緒にヴァッハフォイアの魔法陣も刻ませていただきますが」
「は?」
いかにも鍛冶場、という部屋に案内されると熱い。とにかく熱い。
これはとっとと済ませなければ、熱中症になってしまう。
大神の魔法陣を刻むのは、6つ名の私にとっては別に難しいことではない。
金属もね、魔術具師ならそれなりの設備さえあれば自分で成型できるのだ、イメージさえしっかりしていれば。ルナールにあげたバングルは、私がインゴットから成型したものだし。ただ武器はやっぱり本職さんに打ってもらった方が良いだろうと思ってね。
ヴァッハフォイアとヴィンターヴェルトへ捧げる祝詞を唱えながら、炉の指定された場所に魔力で魔法陣を刻む、ただそれだけのことだ、2つ刻んでも30分もあれば終わる。
「そうやって刻むんだな、初めて見た」
ルナールが感心したように眺めている横で、ドワーフのお爺さんはぽかんと口を開けている。
「これで火力も上がりますし、難しい細工もしやすくなったのではないかと思います」
あー熱い、早くこの鍛冶場から出なくては。
「なんで、大神の正式な魔法陣を、神官の補助もなしにたった1人で刻めるんじゃ・・・?」
「そりゃ、こいつが6つ名持ちだからだろ」
「普通の6つ名持ちは魔術具作成の技術なんて学ばないでしょうから、できるのは私とセレスティスの師だけではないでしょうか?」
「ああ、あのハイエルフか。セレスティスにハイエルフの6つ名持ちが隠遁しているという話は知ってはいたんだが、彼がそうだったのか。6つ名だと言われないとわからんもんだな。この先ヴァッハフォイアで6つ名が現れたら、魔術具作成の技術を学ぶようにさせようかな」
やはりルナールは根っからの権力者である、6つ名の有効な使い方を模索し始めた。まあ、どこの国でも6つ名なんて神殿に放り込まれるか、権力者と娶せられるかの二択なのだから、ヴァッハフォイアではそこに魔術具師が加わっても良いのではないか。
「・・・ルナール坊、6つ名持ちを攫ってきたのか?」
「攫ってない!どいつもこいつも同じこと言いやがって!双方合意の上できちんと家族の了承も得て結婚式も挙げてから連れてきたんだよ!」
6つ名持ちが他国に嫁に出るなんてまずないからね、あちこちで同じようなことを言われている。毎回濡れ衣を着せられているルナールは、いい加減腹に据えかねているようだ。私だって、大人しく攫われるような女ではないのだが。そもそも誘拐犯と恋に落ちるようなストックホルム症候群に私が陥るとは思えない。
「ルナールが私を誘拐していたら、国と実家からの追手がかかるでしょうし、そんなことになっていたら、私はルナールを確実に殺す方法を考えるでしょうね」
こんな戦闘力マックスの男がストーカーになったら、恐ろしくておちおち寝てもいられないではないか、逃げるよりも殺す方が後々のことを考えると安全安心だ。私は逃げ回る系のゲームは嫌いなのだ、敵は確実に仕留めなければ。
ぶわっはっはっは!
そこでドワーフのお爺さんが大笑いし始めた。
「シュトースツァーン家の長男坊を確実に殺す方法を考えるか。確かにシュトースツァーン家の男どもが目の色変えて惚れ込みそうな女じゃの!」
「そういうこった。俺はこいつに惚れたから、正式に求婚して連れてきたんだよ。疚しいことはなにもないぞ、ヴァッハフォイアからもこいつを守るように直接言われたしな」
「なんとまあ、大神から直接御言葉を賜ったのか。6つ名持ちを他国から攫ってくるなんて、シュトースツァーン家の長男坊は乱心したかと思ったわ」
それにしても、自分を確実に殺す方法を模索する女に惚れるのがらしいと納得されるなんて、シュトースツァーン家の男の女の趣味は一体どうなっているのだろうか、いや、その基準で惚れ込まれた私もどうなんだという話だけれども。
「あまり褒められた女性の趣味ではないかと思うのですが、その、私もルナールのことをちゃんと好きですので、大丈夫です」
恋愛感情というのはよくわからないままだが、私はもともと前世から自分の立場と仕事に誇りを持っている、仕事の出来る男というのが好きなのだ。その基準からいくと、シュトースツァーン家の男というのはパーフェクトである。手もかからないし、浮気もしないし、おまけに顔まで良い。夜はもう少し草食系になってくれてもいいけれども。
「・・・お前さあ、そういう滅多に言わない可愛いことを、なんでこんな爺さんのいる前で言うかね?夜に2人きりの時に言ってくれないか?」
夜に2人きりの時に言ったりしたら、翌日に起き上がれないくらいの目に合わされるではないか、私はルナールのように体力有り余っていないのだ。
「王と互角に殴り合えるシュトースツァーン家の男と、人間族の女とでは体力が違うじゃろうから、ほどほどにの」
初対面のドワーフ族のお爺さんに閨事情を察され、にやにやされながらお見送りされてしまった、なんだかいたたまれない気分である。
本当にシュトースツァーン家の男は王と殴り合うらしいからね、ガチで。
最初に聞いた時はステファーニア様と顔を見合わせたものだが、他国なら不敬罪で処刑されそうな教育方法も、この国では王になるような男は口で言っても理解できないので、直接身体に刻み込まなければならないらしい。
言葉で言って理解できるような男が王位に就いたことは過去に1度もない、と実に達観した表情で言われてしまった。
そもそもこの国の王位決定戦という制度も、冒険者ギルドも、猪突猛進で血の気の有り余っている獣人族達を統率するためにシュトースツァーン家が作り上げた制度らしいし。
大昔に火の神ヴァッハフォイアが、好き勝手している獣人族達をまとめるようにと当時のシュトースツァーン家の当主に神託を下して以来、ずっとシュトースツァーン家はこの国のために奔走しているらしい。
私もステファーニア様ももともと大国の王妃となるために教育されてきているから、何よりも国のためというシュトースツァーン家の一貫した姿勢はかなり好感度が高い。
「どうした?馬車に酔ったか?もうすぐ邸に着くからな」
馬車で隣に座るルナールの肩に頭をもたれかける。
私は前世から三半規管は割と強い方なので、乗り物酔いは滅多にしない。
「酔っていません。貴方のことが好きだと実感していただけです」
毎日毎晩好きだ、愛してると言われ続けて態度で示されれば、いくら恋愛音痴で感情制限されている私だって、それなりに自覚はするのだ。
「・・・帰ったらもう1度言えよ?」
明日は起き上がれなくなりそうだけど、まあいいか、ルナールみたいなふさふさ尻尾のある子供も欲しいしね。