エリシエルの秘密(共)
本日コミックアーススターでコミカライズ更新です。
今話はエリシエルの裏設定の話です。
私の名前はエリシエル。
訳あって成人してすぐに故郷の村を飛び出して冒険者になったエルフ族よ。
何にも縛られない自由な生活って最高よね、その代わりその辺で野垂れ死にしても自分のせいだけど。でもあのまま村にいたら、好きでもない村長の息子と結婚させられてたし、逃げ出して正解。貴族の血なんて一滴も混ざってないはずなのに、何故か洗礼式で名前を3つも授けられたから、強制的に村長の息子の嫁に決められてたのよね。
でも冒険者になってからは、名前が3つもあるのは珍しい素材でも採集しやすくて助かってるの。割と簡単に金カードまで上がれたのは、希少素材をみつけやすかったからだし。
「エリシエルさん、天龍草を納品していただけますか?できれば50本以上お願いしたいのですが」
最近専属契約をした人間族のセイランさんにちょっと面倒な依頼をされる。
天龍草って高山にしか生えてなくて、かといって採集しにくいわけでもないから単価はあまり高くなくて、採集メインの冒険者にとってはハズレ依頼なのよね。でも専属契約している相手からの依頼だと、よっぽどほかの依頼と重なってるとかでない限り断れないし、セイランさんからの依頼ならむしろ他の依頼の方を後回しにさせてもらう。
お茶菓子に出されたグレープフルーツのシフォンケーキというお菓子にフォークを入れるとふわっふわ!なにこれ?!
グレープフルーツの爽やかな香りのするシャリシャリした白いのが上から垂れ下がるみたいにかかってて、ケーキはすっごく大きいのにふわっふわで軽くてまるで雲を食べてるみたい。この上にかかってるシャリシャリをスープ皿一杯分くらい食べたい、なにこれ、めちゃくちゃ美味しい!いつも思うけど、何か違法薬物でも入ってたりしないよね?!
依頼の度にこんな美味しいお菓子出してくれる依頼人、絶対に最優先よ!断ったり後回しにしたりして心象悪くして専属切られたりしたら自殺したくなっちゃうわ!
「50本以上かあ。セイランさん、急ぐ?」
「なるべく早い方が嬉しいですね」
同じエルフ族冒険者のリリアナとサーシャの顔を思い浮かべる。
うん、よし!
「採集メインの冒険者の友達2人にも手伝ってもらうから、今回はお弁当の替わりにお菓子多めにしてもらってもいい?」
セイランさんからの依頼は、いつもお弁当とお菓子を準備してもらって、その代わりに銀カードへの依頼料金で受けている。お菓子ならアストリット商会で買ってきたと言えるけど、お弁当はちょっとごまかせないしね。
「構いませんよ、何かお菓子の希望はおありですか?」
「アストリット商会で買えるのがいいな、どんなに美味しくてもどこにも売ってなくて二度と食べられないと絶望するでしょ?」
私はセイランさんからもらえるけど、専属をそんなに増やすこともないだろうし、あの2人はまだ銀と銅だしね。
「わかりました、新作を提供いたしますよ。いつ採集に行かれますか?」
「んー、3日後くらいかな?朝にもらいにきてもいい?」
「いいですよ、オスカーに頼んでおきます」
冒険者ギルドに行くと、ちょうど採集から帰ってきたところらしいリリアナとサーシャをみつけた。
「リリアナ、サーシャ、ちょっと採集を手伝ってほしいんだけど、3日後空いてる?」
「何の採集?報酬は?」
「天龍草」
2人が顔を顰める。わかるよ、天龍草は面倒くさい。山登りだしね。
「天龍草なら報酬もあんまり高くないでしょ、銅でも受けられるのになんで金のエリシエルが受けたの?」
「専属契約してる依頼人からなんだよね」
「「ああ・・・」」
2人が同時にため息をつく。
採集専門の専属契約ってこういう依頼のためにあるとも言われてるのよね、面倒であんまりうまみのない依頼は、普通にギルドに出してもなかなか受けてくれる冒険者がいないから、専属に半強制的に依頼するの。実際学院の研究者や教師と専属契約するとこういう依頼が多い。でも専属に依頼すると報酬も一般の依頼より多いからその辺は仕方ないのよ。
「手伝ってもいいけど、報酬は?」
2人を手招きして小声で囁く。
「アストリット商会の新作のお菓子」
2人の長い耳がピクリと動く。
「「やるわ」」
当然よね。
ぜーはー言いながら荒れた山を登る。
天龍草が生えているのは一定以上の高度の山。それだけだから、どこの山にしか生えていないとか、強い魔獣がいて採集しにくい、とかの縛りはない。だから特に危険のない山さえ選べば戦闘能力がそんなになくても採集できる。ただし、群生とかはしてないから、1本ずつ探さないとならない。ひたすら面倒くさいだけ。
「アストリット商会の新作のお菓子と思えば天龍草の10本や20本・・・」
リリアナが据わった眼で岩場から天龍草を引き抜く。
「エリシエルはさ、なんでアストリット商会のお菓子をいつも買えるの?クッキーとパウンドケーキは全種類開店と同時に売り切れちゃうし、セレスティス限定のお菓子だっていうロシアケーキなんて、予約分でいつも売り切れだから本当は存在しないんじゃないかとまで言われてるのに。予約なんて常にいっぱいです、て言われて全然できないし」
「予約なしで買えるクッキーとパウンドケーキも全種類食べてみたいけど、お値段以上にすぐ売り切れちゃうからなかなか買えないしね」
「うーん、この天龍草の依頼人がアストリット商会に伝手のある人で、専属契約する時にアストリット商会のお菓子の予約優先権をもらったんだよね、だからちょっと面倒な依頼でも断るという選択肢がない」
「なにそれ、羨ましい!」
「それは確かに断れないわ」
ずっと屈んで天龍草を探していたから腰が痛いわ。うーん、と伸びをして採集した天龍草を数える。
「私は32本、2人はどう?」
「私は25本」
「私は22本」
「よし!50本以上って言われてるから、依頼達成!どうする?ここで食べる?それとも街に戻ってから食べる?」
「「人目のあるところで食べて物欲しげに見られたら嫌だからここで食べる!」」
適当な岩場に座ってそれぞれ自分の水筒で水分補給を済ませてから、今朝渡された包を開ける。この前食べさせてもらったグレープフルーツのシフォンケーキと似た風味のケーキだと聞いてきたんだけど。
「わあ!もしかしてこれパウンドケーキの新作?!見たことない!」
「うん。ウィークエンドシトロンていうレモンのケーキらしいよ」
正確には来週から売り出される新作らしいけど。この前のグレープフルーツのシフォンケーキにかかってたのと同じような白いシャリシャリが、細長いケーキに垂れ下がるようにかかってる。グラサージュとかセイランさんは言ってたっけ。
「いつも一切れずつカットされてるのを買って大事に食べてるのに、カットしてない1本丸ごとなんて贅沢―!」
リリアナとサーシャが頬をピンクに染めて、きゃあきゃあ騒ぎながらうっとりと細長いケーキをみつめる。私も初めて食べるのよね。
「切るわよー!」
1本のウィークエンドシトロンを厚めにカットして、1人3切れずつね。
「しっとりして、ふんわりして、とにかくおいしー!」
「この表面のシャリっとしたレモンの香りの白いの何?このシャリシャリだけでも食べ続けたい!」
「レモンだから酸っぱいのかと思ったら、爽やかで甘酸っぱくて、本当にこのシャリシャリが美味しい!」
やっぱり皆同じこと考えるよね、このグラサージュとかいうシャリシャリ本当に美味しい!
「アストリット商会のお菓子ってどれも甘いだけじゃないのよね、今までお菓子ってとにかく甘いものだと思ってて、それが美味しいと思ってたけど違うのよ!甘いだけなら砂糖やハチミツをそのまま舐めればいいだけの話だもの!」
「なんか違法薬物でも使ってるんじゃないかと思うくらい癖になるよね!」
やっぱり違法薬物使ってるんじゃないかと考えるよね、良かった、私だけでなくて。
あー、それにしても、周囲に可愛い女の子しかいない環境ってサイコー!
リリアナはピンクの髪に水色の眼の可愛い系で、サーシャは緑の髪にオレンジの眼の綺麗系。私の好みはどっちかといえば可愛い系だけど、可愛い女の子2人と一緒に他に誰もいない山に採集に来てるというだけで幸せだわ。
本当にセイランさんには感謝しかないわ、アストリット商会のお菓子をいつでも買えるから、エルフ族の女の子をいつでも誘えるし。
生まれ故郷の村長の息子は幼馴染で、別に嫌な奴ではなかったのよ、ただ、男と結婚するというのが耐えられなかったというだけでね。
本編ではほとんどわからなかったかと思いますが、実はエリシエルは百合です。最初から決まっていた裏設定です。普通の可愛い系が好みなので、セイランのことはハイエルフ並みに整った顔した人間族としか思っていません。ただし、普通の可愛い系とはいってもエルフ基準ですけど。ルナールは割と最初から男そのものに興味がなさそうだな、と気付いています。ルナールルートでベヒモスを狩りに行く閑話をエリシエル視点にすると、可愛い女の子たちと一緒の採集中に不慮の事故で死ぬなら諦めもつくけど、こんなむさくるしい男たちに囲まれて、ベヒモスなんて間違ってもお目にかかりたくない伝説の魔獣に殺されたりしたら死んでも死にきれないじゃないの、絶対嫌ー!となります。




