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第65話「頭を使っておくとしよう」

「ねえウル? この絵は何の意味があるの? 人間の国の紋章らしいけど」

「いや? 別に意味などないぞ?」


 保護したエルフ兵の首輪を全て外し、ひとまずの安全を確保したウル、エルフ軍は、いつの間にか現れた魔王ウルを招いて再び会議を開いていた。

 ウル軍からの参加者は、魔王ウルを筆頭としてコルトとケンキ、それにグリン。

 エルフ軍からの参加者は、現族長のミーファーと戦闘隊長のシークー、そしてご意見番として前族長のウィームーである。


 今までよりも随分数が少ないのはウルの意向であり、話を早く進めるためにも余計な人員は外せということであった。


「意味が無い……なら、何故このようなことをしたのですか?」


 最初に議題に上がったのは、コルトの魔道により遮断していた遠隔ペンを使って敵の国の紋章を描いたことからだった。


「ま、攪乱と時間稼ぎだな。ちょっとした仕掛けをした程度でほとんど効果は期待できんが。文章で伝えられればもっと有効な偽情報を送ることもできたのだがな……」


 ウルは自分の行動の意図を説明する。

 ウル達は、現状人間の文字を知らない。一応参考文献となる人間の本は幾つかあるし、処刑された猿亜人(マシシラ)が保有していた道具と合わせて研究はしているが、とても違和感なく文字を綴れるレベルには達してはいないのだ。

 だから、仕方が無く『何とでも解釈できるような意味深長な図形を送った』というのが素直なところであった。その意味を考えるために一秒でも無駄にしてくれれば儲けもの……というところだ。


「私、人間に通じる文字なら書けますが……」


 そんな話なったとき、手を挙げたのはミーファーであった。

 彼女は――というより、エルフ族は元々人間と肩を並べていた過去がある。そのため文字文化など共通してるところも多く、文章を書くだけならば可能であった。

 しかし、そんな彼女にウルは首を振るのであった。


「その知識は後ほど全部聞かせてもらうが、普通に文字を書いてというのはほぼ無駄だ。敵がよほどの馬鹿じゃない限りは偽物を判別するような暗号の類いを用意しているだろうし、そもそも筆跡でバレる」

「そうですか……」

「敵兵が生きていれば話は別だが、生かしておいて情報を送られるリスクを残すのは問題だしな。ま、現状はアレで限界だ。それより、今後の作戦についてだが……まず、敵は洗脳の魔道具を使っている。そして、ここまで得られている情報から、既にこの森の領域支配者(ルーラー)……精霊は敵の手に落ちていると思っていい」

「でしょうな……人間共め……!」


 自分たちの信仰対象を穢すも同然の蛮行を行った人間たちに怒りを露にするシークーであったが、対照的にウルは冷ややかなものであった。


「ま、洗脳の魔具を用意したんなら当然の策だろう。俺も敵の立場なら同じことをする。……もっとも、その後の用兵は問題外だが」

「まあウルならそのくらいはやるよね」


 怒りに同調するどころか敵に賛同する魔王に唖然となるエルフたちであったが、魔物組は特に驚きもしていなかった。そのくらいは想定の範囲内だ。


「ではここからの作戦だが、取られたのならば取り返すだけだ。エルフ共を纏めて俺の森に避難させるというのも一つの手だが、守りに入るのは趣味じゃない」

「つまり、この森の領域支配者(ルーラー)を救出するということですか?」

「あぁ。ここで引いても拠点を一つ失うだけ。後々のことを考えればここは欲張るところだ」

「賛成です! 精霊様の救出には我々エルフも全力で――」


 ウルの方針は、聖なる森を取り戻すこと。

 現時点での森の支配者は人間。領域支配者(ルーラー)の支配権を握っている以上はそういうことになるだろう。魔石もなければ精霊でもない人間では領域支配者(ルーラー)になることはできないが、これはいくつかある抜け道の一つである。

 その状況を放置して逃げ出しても有利には働かない。ならば攻めると発言したところでシークーが気炎を吐いたが、ウルはやはり冷静すぎるくらい冷静に首を横に振るのだった。


「却下だ。この作戦は俺の手勢だけで行う」

「なっ!?」

「……何故でしょう? この森のことは私たちの方がよく知っています。共に行動した方が有利だと思いますが」


 熱くなっているシークーに代わって、珍しくミーファーの方が冷静にウルに問いかけた。

 彼女は今、ホルボットエルフの代表としてここに座っている。その自負が思考を支えているのだろう。


「理由は既に説明されているだろう? せっかく俺とエルフとの契約関係が知られないように立ち回ったのに、ここで宣伝してどうする。この協力関係を秘密にしているのはエルフの捕虜を助けるための布石であって……精霊救出のためではないのだぞ?」

「そ、それは……そう、ですが」

「ほぼ間違いなく、洗脳された精霊の近くに人間の兵士がいることだろう。人間どもからしても、この森での活動において捕えた精霊は要であると言っていい。魔具の誤作動や故障などの不測の事態に対応する手勢は絶対に残している。そいつらに情報を持ち帰られては同胞とやらを見捨てる必要が出てくるやもしれんぞ?」

「今回のように、情報を持ち帰られないように立ち回ることは?」

「リスクが高すぎる。元々、今回の一戦で上手くいったこと自体半分奇跡みたいなもんだぞ? もう少し敵兵の練度が高ければ確実に情報を抜かれていた……いや、本当に情報の遮断に成功したのかも半信半疑であるとさえいえるな」


 一応魔道結界を張り、通信系の魔道は遮断していた。また、確認できた限りの監視はすべて排除した。

 しかしそれらの対策が完全に成功していたのかは結局不明だ。気づかなかった何かがあったかなど、ウルたちの立場でわかるはずがない。


「今回の攻撃にはそれを探る意味もある」

「あ、もし僕らだけで攻め込んだときにエルフを探したりエルフを人質に使ったりするかの確認ってこと?」

「そういうことだ。エルフと俺たち魔物軍が協力関係にあることを知られていた場合はまた何か策を考えねばならんからな。ということで、今回エルフ族に同行を許すことはできん」


 話を終えたウルは、この件に関してそれ以上言うことはないと椅子に深く腰掛けた。

 明らかに話を続ける気がないと態度で示しているウルに、それでもミーファーは食らいつく。

 崇め守ってきた精霊様を自分の手で助け出したい……そう思っているシークーのためにも。


「それでも、この森を私たち森の住民の案内なしで抜けるのは危険です。この集落までは我々と契約したウル殿ならば問題なかったでしょうが、精霊様の領域となれば私たちの権限を越えています」

「……だが、それではお前らがついてきてもさほど変わらんのではないのか?」

「確かに正当なルートを使うことはできません。ですが、産まれてからずっとこの森で暮らしていた土地鑑は決して無駄にはなりません」

「ふむ……一考の余地があるな」


 ウルは腕組みをして思考を巡らす。

 ここでエルフたちを連れていくリスクと連れていかないリスクを天秤にかけ、どちらを取るべきかと。

 数秒ほど考えた後、ウルはまっすぐミーファーを見据えるのだった。


「よし、許可しよう」

「本当ですか!」

「ああ。ただし案内役として一人だけだ。もちろん人間どもに知られないよう、変装をしてもらう。まだ不満か?」

「いえ、十分です。聞き入れてくれてありがとうございます」


 ウルは頭を下げるミーファーに無言で頷き、話を続けた。


「さて、では具体的な編成だが……」

「その前に、よろしいでしょうか?」

「許す。……どうした? ケンキよ」

「はい。王と共にいくらか兵を連れてきたと思いますが、誰を連れてきたのでしょう? また、拠点の守りは?」

「今回連れてきたのは無役の兵を300体ほどだ。悪いがこっちの戦いよりも俺の領域の方が重要度は高いからな」

「いえ、王自らが足を運んでくださったのです。これ以上のことはありますまい」


 最強の軍勢を引き連れているわけではない……という言葉に、間髪を入れずに反応したのはこの場で肉体年齢では最年長である元族長ウィームーであった。

 王自らが出陣しているというのにその兵力に不満を持つなど不敬の極み。先ほどはミーファーの要望を聞き入れた度量の大きさを示したが、ここで魔王に甘えていれば容赦はなかっただろう。

 その辺りの機微は、やはり年の功というやつだ。


「ま、無役とは言っても武装魔軍だ。並の相手には十分だろう」

「武装魔軍?」

「我らウル軍の中でも、上質な武具を与えられた兵士の一団をそう呼んでいる。我らのような班長格には及ばなくとも、精鋭ぞろいと思えばよい。……して、手勢がそれということは、守りは……」

「アラフとカームに任せている。それ以外にも元領域支配者(ルーラー)がいるし、向こうはよほどのことがない限りは簡単には落ちん」


 アラクネのアラフと嵐風狼(シウルフ)のカーム。防衛班の長と遊撃班の長が守る拠点は頑強の一言だ。

 アラフは今更いうまでもなく防衛戦では屈指の実力を誇り、カームは集団戦のスペシャリスト。ウルが不在の軍を指揮できるのはカームをおいて他にはいない。

 ウル不在を条件に考えるならば、これは最適の布陣と言えるだろう。


「なるほど……ではこちらに集中してもよいということですね」

「ああ。守りといえば、このエルフの集落の守りも考えねばならんな。精霊奪還組に入るエルフは貴様でいいのか?」

「許されるのならば、私が行きたいと思います」


 指名されたシークーは、一瞬の迷いも見せずに頷いた。

 エルフ族最強の戦士であるシークーならば足手まといにはならず、エルフ族としても新たな王にアピールするには相応しい人材といえる。反対意見が出るはずもない。


「よし。だが、となるとここの拠点に不安があるな?」

「はい。私見では、三度同じ規模の襲撃があった場合、エルフたちだけではとても守り切れないでしょう。シークー殿抜きとなれば絶望的です」

「となるとこっちの手勢をいくらか置いていくしかないか……ケンキを残すのが一番確実ではあるが、どうしたい?」

「……私は王命に従います。ですが、希望を述べるならば御身をお守りしたく思います」

「フッ……! 俺の守りは不要だ。我こそが最強である」

「と、いうことは集落の守りはケンキに任せるってこと?」

「そういうことになるな。そして、当然例の洗脳の魔具を解除できる俺は出陣する。コルト、お前も当然俺と共に来い。解呪を見て学べ」

「……りょーかい。要するにそっちの方が危ないのね……」


 ウルは基本的に、コルトに危険な道を歩ませたがる。

 それは成長を期待してのことであるはずだが、何度やってもいいリアクションで叫ぶコルトをイジメるのが楽しいという個人的な趣味があるような気もしているというのはウル軍の暗黙の共通認識なのだった。


「後は、敵陣には相応の数の兵がいることが想定される。故に、こちらも数を率いるのが定石だな」

「私の配下をお連れになりますか?」

「……いや、鬼軍はお前の直属だ。ここの守りを万全にするためにも、お前はお前のチームを最大限に活かすことを考えろ」


 ケンキ率いる直接戦闘班……鬼軍団は、ウル軍の中でも希少な進化種を多く擁する最強部隊だ。役割は敵陣に切り込む攻撃の要であり、少数精鋭をモットーにしている。

 班長の指揮能力に期待し、戦闘系の班としては最大の数を揃えるカーム率いる遊撃班とは対照的な構成だ。

 そのため、ケンキ直属の進化種を一体でも借りればかなりの戦力になるのだが、逆に言えばたった一名の欠員でも班としての戦闘力が大きく落ちるのは欠点と言える。

 普段からの稽古を活かすためにも、ウルはケンキ班を万全の状態で警備に回すことにするのだった。


「代わりというわけではないが、グリン率いる工作班はほとんど連れていく。奇襲や奇策対策に念のため何名かはここの守りに置いておくが、奴らはこういった作戦でこそ本領を発揮するだろう」

「そうだね。グリンがいるだけで視界の悪いこの場所での危険性が大きく下がるし、僕も賛成」

「後は無役の兵士団だが……ケンキよ。この集落を隙無く守る陣形を作れと言えば、どの程度手駒が必要だ?」

「そうですな……集落の規模から考えて、100もいれば十分かと」

「では120お前に預ける。余りの20はいざというときの予備選力として待機させておけ」

「御意」

「後は具体的な作戦を詰めるか。地図はあるか?」

「集落周辺のものならば……」

「よし、出せ。敵の行動予測を含め、この場でちと頭を使っておくとしよう」


 エルフ族が普段狩りに使っている地図をベースに、次々と人間軍の作戦として考えられる策略をウルは述べていく。

 今まで本格的な戦争の経験など無く、今回のように突然攻められたから反撃した……というのが精々のエルフ達にとって、その戦術眼は目から鱗が落ちるものばかりであった。

 そのウルから戦のいろはを教わってきたコルトやケンキからすればただの確認作業であるが、その頼もしい姿も含め、エルフの代表者達は恐ろしい魔物達に頼りがいを感じていくのであった……。
























(よし、目に尊敬の念が宿り始めたな。やはり人心掌握はこういったさりげないところでやるのが有効だ)


 などと、真剣な目で策を語りながら考えている魔王がいることなどには、もちろん誰も気づいてはいないのであった。

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他力本願英雄
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