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迷宮学園  作者: 大神純太
地下迷宮の謎
4/20

1-4

「迷宮に、入るしかない」

 俺はみんなに、そして自分に言い聞かせるように言った。逃げ道はそこしかない。

「で、でもあそこには罠があるじゃない!」

「ここにいたら死ぬだけだ」

「……そうね、行きましょう。ここにいたら潰されちゃうわ」

「い、イヤよ! ウチは行きたくない!」

 アカネがなおも叫ぶが、

「死にたいのか!?」

 俺の一喝で、ふらつきながらも歩き始めた。

「ったくよ……どうなってんだ!?」

 ヒロが怒号をあげる。

「なんだってこんなことしやがるんだよ!?」

「たぶん、広場で待つって選択肢を潰すためだ……俺たちをここに閉じ込めた誰かさんは、何が何でも俺たちをこの迷宮に入れたいらしい」

「この罠だらけの迷宮にか!?」

 悪態をつきながら、全力で走る。天井が頭のてっぺんに触れるか触れないかというところで、俺たちは広場を抜け、迷宮の中に飛び込んだ。なんとか間に合ったようだ。


 メキャッ。


 すると、広場の方から何かが潰れる音が聞こえてきた。

「あ……テレビが」

 そう、テレビが吊り天井に押し潰されたのだ。これで、俺たちが今ある以上の情報を得られることはなくなった。

「迷宮に逃げ込んでなかったら、俺たちもああやって潰されてたんだ……ゾッとするぜ」

 ヒロが呟く。確かに、危ないところだった。吊り天井は完全に下がりきり、迷宮の入口を塞いでしまった。迷宮の入口で、俺たちはただ立ち尽くす。

「で、どうするよ。シュウ」

「どうするも何も、道は一つしかないだろ」

「……この迷宮を、進むってことか?」

「たとえ助けが来たとしても、この吊り天井が下がったままじゃ俺らを救助できない。迷宮内の出口を見つけて脱出するしか、方法はない」

「でもそれは危険だわ、シュウくん」

 レイさんが俺とヒロの会話に口を挟んできた。

「この迷宮には、罠がある。それも人を殺せる罠よ。それがこの迷宮中に仕掛けられているらしい……それをどうやって回避するつもり?」

 レイさんの言うことももっともだ。でも、進まなきゃならないのも確か。なら、俺ができることは一つしかない。

「俺が先頭に立ちます」

「シュウ!? 何言ってんだお前!」

「大丈夫だよヒロ。あの罠は自動で作動した。ってことはたぶん、床にスイッチか何かがあるんだ。身体より先に足を出すようにして歩けば大丈夫さ」

「んなこと言い切れるか、バカ! 危険すぎる!」

「……わかってる。でも、誰かがやらなきゃいけないんだ」

「じ、じゃあそれでいいじゃない! 本人がそれでいいって言ってるんだから!」

「アカネさんまで……!」

「その子に任せましょうよ!」

「でも……でも!」

 ヒロが顔を歪めながら俺を見つめる。もしヒロが先頭に立つといったら、俺も同じような顔をしたかもしれない。

「……本当にいいの? シュウくん」

 レイさんが俺の顔を覗き込む。こんな美人に心配されるなら、本望ってもんだ。

「ええ。迷宮に入れって言い出したのも、僕ですしね」

「……はあ。わかったよシュウ。ったく、言い出したら聞かないんだから……じゃあ俺がしんがりを務めよう」

 ヒロがため息交じりにつぶやく。どうやらわかってくれたみたいだ。

「い、一番後ろはウチよ!」

「一番後ろが一番安全とは限らないんですよアカネさん。後ろから何か来たら、真っ先に死ぬのはしんがりだ」

「あ……じゃあいいわ」

「よし、じゃあ俺とヒロ以外の三人の順番は……え?」

 進む順番を決める段階になって、ようやく俺は気づいた。いや、むしろなぜ今まで気づかなかったのか。



 あの目立つ金髪美少女がいないことに、どうして気づけなかったのか。



 この場には……『五人』しかいない。



「……ねえ、ジェニーは? ジェニーは、どこ?」

 レイさんも異変に気づいたようだ。そう、ここにはジェニーがいない。最初に広間にいたのはキョウジを含めて七人。そこからキョウジが欠けたから、残っているのは六人のはず。



 しかし、ここには五人しかいない。



 ジェニーの姿が、どこにも見えない。



「くそっ……ジェニーを最後に見たのはいつだ!? 誰か、覚えてないか!?」

 誰一人として、何も言わなかった。なんてこった。いつの間に、誰にも気づかれないうちに、ジェニーが、消えた……?


まさか。


あの、吊り天井の、下敷きに……?


「レイさん! ユミ! 広間に戻ってから、ジェニーの姿を見ましたか!?」

「……言われてみると、あの時には既に姿を消していた気がするわね」

「あたしも、見た覚えはないです……」

「じゃあ……その前は? 俺がアカネさんとヒロを追っかけて迷宮に入った時、ジェニーは来てましたか?」

「追いかけては……来てなかったわ、確か」

「なら、その前にはどこにいました?」

「そこまでは……ごめんなさい、覚えてないわ」

「ぁ……あたしも、覚えてないです……」

 あまりはっきりとした情報は出てこない。いつからジェニーはいなくなっていたんだ……? くそっ、わからない……。

「とにかく、先に進むしかありません。もしかしたら、迷宮の中で合流できるかもしれない」

 自分でもその可能性は低いと思いながら、俺はみんなを促した。ジェニーのことはわからないが、とにかく今は前に進むしかない。




 話し合いの結果、前から

 俺、レイさん、アカネ、ユミ、ヒロ

 の順番で進むことになった。

 しばらくの間は気軽に進むことができた。キョウジが死んだところまでは、罠が無いという確信がある。もしそこまでに罠があったとしたら、キョウジが死ぬのはその場所になっていたはずだからだ。キョウジを突き刺した槍……あれが、この迷宮の最初の罠に違いない。

「……いよいよか」

 最初の曲がり角が近づいてきた。ここを曲がると、そこにはキョウジを突き殺した槍の罠があるはずだ。

「シュウ、これ持っとけ」

「ん?」

 ヒロが渡してきたのは、懐中電灯と毛糸の玉だった。

「なんだよこれ。懐中電灯はわかるけど、この毛糸は何に使えっていうんだ?」

「そいつを垂らしながら歩くんだよ。そうすれば一度来た道がわかるようになるから、迷宮の中でも迷いにくいはずだ」

「なるほど。ほんっとに準備いいなお前」

「な? 時間かけてこの迷宮探検セットを用意してきて良かったろ?」

「はいはい、すごいすごい。じゃあ……行くぜ」

 俺は毛糸をしっかりと持ち、意を決して曲がり角を曲がった。

「……う」

 キョウジの死体は、いまだに槍に貫かれたままその場にあった。槍が壁から突き出たままのところを見ると、一度作動した罠はもう二度と作動しないらしい。

「……よし」

 込み上げる吐き気を押さえつけて、槍の合間をくぐり抜けるようにして向こう側に行く。

「え……ここ通るの!?」

「他に道は……よいしょ……ないですからね」

「そうよアカネ。ここは行くしかないわ」

「う、うう……」

 さあ、ここからだ。ここからが本当の勝負。

「シュウくん、気をつけてね」

 後ろからレイさんが声をかけてくれた。

「……はぃ」

 それに答える俺の声が震える。くそっ、しっかりしろよ俺。

「……ふう」

 大きく息を吸い、呼吸を整える。後ろを振り返ると、みんなが俺が進むのを待っている。こんなところで立ち止まってはいられない。

「……じゃあ、行きましょう」

「ええ。慎重にね、シュウくん」

「ウチは生きるわ……なんとしてでも生き延びてやる」

「……」

「シュウ……死ぬなよ」

 各々が決意を固めた。そして俺たちはついに……この死の迷宮へと、足を踏み入れたのだった。



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