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迷宮学園  作者: 大神純太
地下迷宮の謎
3/20

1-3

『こんにちは、諸君。君たちは今、自分がおかれている状況を認識できてはいないだろう。そのため、私から説明をさせていただく』

「あんた誰だよ! なんで俺たちをこんなところへ!?」

 即座にヒロが声をあげた。

『気づいている者も少なくないだろう。ここは地下迷宮と呼ばれている場所だ』

 声の主は、はっきりと認めた。ここが噂の地下迷宮である、と。

「そんなことわかってるよ! いいから、俺の質問に答えろ! あんた何者なんだ!」

『ここに君たちを招待した理由は、他でもない。宝を探してもらいたいのだ。宝は、この地下迷宮のどこかに隠されている』

 ヒロの質問に、テレビは一切答えようとしない。いや……そもそも質問が聞こえていないのか? この音声、全部録音されたものなのかもしれない。それなら質問に答えないのも、こっちの様子を気にせず話し続けてるのも当然だ。

「宝? 宝だと?」

「マジで? じゃあお宝は実在すんの!?」

 急にキョウジとアカネが元気になった。

『送った招待状にも書いたように、君たちには宝を授けよう。ただし』


『宝を授けるのは、それを最初に見つけた者のみだ。他の者には一切与えない』


「なっ……」

「なんですって!?」

 真っ先に反応したのはキョウジとアカネだった。

「行こうよキョウジ! お宝はウチらのもんだよ!」

「ああ! もしかして埋蔵金とかかもな!」

 キョウジとアカネは急に走り出した。二人の進んでいく方向を見ると、そこには洞窟のような穴がぽっかりとあいていた。

「あれが迷宮への入口……!?」

 あの二人、いつの間にあんなとこ見つけてたんだ!

「ちょ、ちょっと待ちなさいあなたたち!」

 レイさんが慌てて二人を止めようとした。が、

「ンだよ! お宝は早い者勝ちだろ!」

「ほっとこーよキョウジ、早くお宝見つけよ!」

 二人は聞く耳を持たない。

「そういう問題じゃない! 危険よ! 全員でまとまって行動するべきだわ!」

「バッカじゃないの? そんなことしたらお宝の取り分が減っちゃうじゃない」

「なっ……」

「そんなわけでお先にー。じゃーなノロマども!」

 そして二人は洞窟に入っていってしまった。

「俺、止めてきます!」

 ヒロも飛び出し、洞窟の中に続く。

「お、おいヒロ!」


『……以上が地下迷宮で注意すべきことだ。それでは健闘を祈る』


 プツッ。

 テレビの音声が途絶えた。

「あ……やべえ全部聞き逃した」

 キョウジたちの騒ぎの間も、このテレビからは音声が流れ続けていた。何を話していたんだろう。『注意すべきこと』って、いったい……?


「きゃあああああああああああああ!!」

「うわあああああああああああああ!!」


「「「……っっ!?」」」


 今の声は……アカネとヒロだ!


「ヒロ!」

 俺はたまらず洞窟に飛び込んだ。懐中電灯はヒロが持っているため、手探りで進むしかない。しかし、急がねばならない。今の叫び声は……尋常じゃない。何かあったんだ。尋常じゃない『何か』が。

「シュウくん、待って! 一人では……!」

 後ろから複数人の足音。レイさんたちだ。でも今は、立ち止まってはいられない。アカネとヒロはまだ叫び続けている。まだ二人の叫び声が聞こえる。……ヒロたちが心配だ。



 胸騒ぎがする。



 嫌な予感がする。



 俺の直感が、何かが異常だと叫んでいる……!



「……そこか!」

 明かりが見えた。ヒロの懐中電灯だ。



 胸騒ぎは収まらない。



 嫌な予感は余計に強まる。



 俺の直感が、気づきたくもない異常の正体を訴えかけてくる。



 なぜだ。なぜ、叫び声はアカネとヒロの二人分だけだったんだ。



 そこにいるはずの、『もう一人』の叫び声が、どうして聞こえてこないっ……!?



「ヒロ! いったい何が……!」


 そこにあったものは、俺の想像を遥かに超えていた。


「あ……ぁあ……」


 そこにいたのは、アカネとヒロ。そして……


「う、ぁ……え……?」


 さっきまでキョウジ『だったもの』。


「うう……うわああああああああ!!」


 壁から突き出た何本もの槍に貫かれ、大量の血を垂れ流して……絶命したキョウジだった。






「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 あれから俺たちは、洞窟の中から元いた広間まで戻ってきた。しばらくの間、誰も何も言わなかった。いや、言えなかった。

 俺がアカネとヒロに追いついた後に、すぐユミとレイさんも追いついてきた。そして、キョウジの死体を見ることになった。レイさんは悲鳴を無理やり押し殺したようだったが、対照的にユミは他の誰よりも大きな悲鳴をあげた。ほぼ半狂乱になり、この広間まで連れ戻すのにも一苦労だった。……無理もない。それほどまでにキョウジの死は、凄惨で、唐突だった。

「……なんだよ、これ」

 ヒロが声を絞り出すように呟く。

「なんなんだよ、いったい」

 ヒロの問いには誰も答えられなかった。答えられる可能性があるとすれば、それは……。

「ちくしょう! なんとか言えよ、おい!」

 ヒロがテレビをぶん殴った。しかしテレビは沈黙を貫いたままだ。

「ヒロ、やめろ。そのテレビの音声は多分録音されてたものだ。何を聞いても答えないよ」

「……くそっ」

 ヒロは諦めて座り込んだ。ヒロ自身もわかっていたんだろう。自分のやってることが無駄な行いだってことは。でも、それでも殴らずにはいられなかったんだ。


 人が一人、死んだ。


 そしてその元凶は、このテレビだったのだから。


「このテレビがお宝の話なんかしなければ、あんなことには……!」

 ヒロの言葉が静まり返った広間に響き渡る。誰も、一言も発しない。特にアカネは、終始俯いたままで、顔を上げようともしない。

「テレビ……そうだ、テレビだ!」

 ヒロが突然立ち上がり、俺の方を見た。

「シュウ。テレビの音声は、なんて言ってたんだ? ほら、お宝の話の後もなんか言ってただろ」

 ヒロの言う通り、あの後もテレビは何かを話していた。しかし、その内容を告げることはできない。

「……聞き逃した。その、キョウジ達の方に気を取られちまって」

 そう、俺はテレビの話を聞いていなかったのだ。今思えば、あまりにも愚かな行いだった。大事な情報源を無視するなんて……明らかな失敗だった。

「……そう、か」

 ヒロが落胆を隠そうともせず、また座り込んだ。

「ぁ……あの……」

 ユミがおずおずと手を挙げた。

「あたし……最後まで聞いてました。テレビ……」

「な……本当か!?」

「頼む、教えてくれ!」

 俺とヒロが同時にユミに反応した。

「は……はい」

 ユミはそれに驚きながらも、自分の聞いたありったけの情報を俺たちに教えてくれた。それをまとめると、

・この地下迷宮は入り組んでおり、その名の通り迷路のようになっていること。

・位置は学園のちょうど真下にあるということ。

・この迷路のどこかに宝があるということ。

・出口も迷路の中のどこかに存在しているということ。

 そして……


・迷路のところどころに、『罠』が仕掛けられているということ。


「罠、だと……?」

「……あんた」

 今までずっと俯いていたアカネが顔を上げ、血走った目でユミを睨みつける。

「なんでそれをもっと早く言わないのよぉ! あんたのせいでキョウジは死んだのよ! あんたがキョウジを殺したんだわ!」

「ひっ……」

「アカネさん、やめろ! あんたら俺らの話も聞かずに飛び出しただろ!」

「何よ! 自業自得だとでも言いたいの!?」

「いや……それは……」

 再び広間を沈黙が支配した。それを破ったのは、今まで傍観を貫いていたレイさんだった。

「とにかく、これからどうするのかを考えましょう」

「そうですね。座り込んでるだけっていうのもアレですし」

 俺もそれに同意する。このまま何もしないってわけにもいかない。

「とりあえず、外部と連絡が取れませんかね。携帯とかで」

「それはもう試したわ、シュウくん。残念ながらここは圏外よ」

 圏外……ってことは、ここは地下の結構深いところなんだろうか。電波も届かないなら、声だって届かないだろう。

「じゃあ、外に助けを求めるってのは難しそうですね……」

「そうなるわね」

「ううん……そうだヒロ。俺たちが落ちてきた『穴』から、なんとか脱出できないかな?」

「あの『穴』をよじ登るってことか?」

 この中で一番体力がありそうなのはヒロだ。ヒロならあの『穴』をよじ登って外に出られるかもしれない。

「ようし、いっちょやってみるか」

 ヒロは腕まくりをして、俺らが出てきた『穴』に手をかけた。

「ふっ……よし。お、意外といけるかも……?」

 ヒロはそんなことを呟きながら登っていった。しかし、しばらくすると。

「ぅぅううわああああああ!」

 ごろごろと、『穴』から転がり落ちてきた。

「ダメだシュウ、途中ですっごく傾斜がキツいところがある。あれはさすがに登れねーよ」

「そうか……」

 となると、完全に手詰まりだ。広間からの脱出は不可能。しかし助けを呼ぶこともできない。完全に、閉じ込められた。

「……なあ、ユミ。テレビは、『出口は迷路の中にある』って言ったんだよな?」

「は、はい。確かに言ってました」

「……なるほど。俺たちをここに閉じ込めたやつは、どうしてもあの地下迷宮に入ってほしいみたいだな」

 出口は、迷宮の先にしかない。ここから出たければ、迷宮に入るしかない。そういうことだろう。

「ウチはイヤよ。ここから動かない」

 俺の独り言をどういう意味に取ったのか、アカネは俺を睨みつけながら自分の主張を述べた。

「ここで待ってればいつか助けは来てくれるわ。命を捨ててまでお宝なんか欲しくないし、ここにいれば安全でしょ」

「……あたしもアカネに賛成ね」

 それに続いて、レイさんが意見を言う。

「わざわざ危険に晒されなくたってここからはきっと出られるわ。あたしたちがいなくなったことはいずれ地上も気づくだろうし、捜索はされるはずよ」

「でももし助けが来なかったら?」

 俺がそれに言葉を挟む。

「ここが誰にも気づかれなかったらどうするんです?」

「どっちにしろ、少しここで様子を見ましょう。まだ誰か来るかもしれないし」

「……わかりました」

 確かに、レイさんの言う通りだ。ここは大人しく助けを待つべきなのだろう。そういえば、ヒロが水と非常食を持ってきてたな。あれがあればしばらくはここにいられるだろう。

 ……そうだ、ヒロは? ヒロの方を見ると、ヒロは難しい顔をしてユミと一緒に座り込んでいた。何かを話しているようだ。ヒロはキョウジの死の瞬間を目の前で見てしまったんだ、あいつのショックだってバカにならない。今はそっとしておいてやろう。



 ゴゴゴ……



「……ん?」

 なんだ? 今、何か聞こえたような……気のせいかな。



 ゴゴゴゴゴゴ……



「な、なにこの音?」

「何よ! なんだってのよ!」

 みんなが急に騒ぎ出す。みんなにも聞こえているようだ。

「気のせいなんかじゃない……! 何の音だ!?」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……



「……天井だッ!」

 ヒロの声を受け、みんなが上を見上げる。すると、広間の天井がどんどん近づいてくるのが見えた。

「こ、これ……吊り天井か!?」

「つ、潰されるぅ!」

「ひいい!」

「そんな、いったいどうしたら……」

 みんなが口々に絶望の声をあげる。まずい、このままでは全員潰される。迷っている暇はない。これしかない。生き延びるには、こうするしかない……!


「……迷宮に、入るしかない」




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