表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮学園  作者: 大神純太
地下迷宮の謎
1/20

1-1

「シュウ!おいシュウ!しっかりしろ!」

「う……ぐ」

「シュウ!」

「ヒロ……? ここは……」

「『穴』の中だ。落ちてきちまったんだ、俺たち……あの『穴』から」

 辺りは真っ暗で、ジメジメした嫌な匂いがする。ちょっとしたホールくらいの広さはある。

「ここが『穴』の中……なら、もしかして」

 俺は隣にいるヒロに問いかける。

「ああ。間違いないぜシュウ」


「ここが例の、地下迷宮だ」


 俺とヒロは、ついに目的の地下迷宮にたどり着いた。そもそも俺たちは、なんでこんなとこに来る羽目になったのか。それは……




 ある昼休みのことだった。

 俺、霧島 修介はいつも通り、購買で昼食のパンを調達するために、教室を出ようとしていたところだった。そこにあいつが現れたのだ。

「よおシュウ。お前、放課後ヒマか?」

 ヒロ。本名、鈴宮 宏樹。俺と同じ高校二年生で、今まで小学校も中学校も一緒だった。腐れ縁というかなんと言うか、まあいわゆる幼馴染ってヤツだ。

「……別にヒマだけど。何か用か?」

「ちょっと面白いもん見つけたんだ。放課後それを調べようと思ってさ」

「面白いもん?」

「ああ。シュウも一緒にどうだ?」

「一緒にどうだ? って言われても……なんだよ、その面白いもんって」

「シュウも知ってるだろ? この学園の七不思議」

「ああ……そんなんあったな」

 俺たちの通う、この明久学園には七不思議がある。七不思議の噂は有名で、学園の生徒なら誰でも知っている。

「へえ、なんだ知ってたのかシュウ。知らないと思って聞いたのに」

「お前な……俺のことなんだと思ってんだ」

「友達いないコミュ障」

「ぐっ」

 否定できない。にしても、そこまではっきり言うかね普通。

「誰から聞いたんだよ? 俺以外にお前に話しかけるやつとかいる?」

「るっせーな……別に誰からも聞いてねえよ」

 誰かが話してたのがたまたま聞こえただけだ、と俺が答えると、ヒロは納得したようだった。ヒロは根は悪いやつじゃないんだけど、少し口が悪いところがある。

「まあいいや。話を戻すぜ」

「話を逸らしたのはお前だろうが」

「じゃあ、シュウ。お前でも知ってる超有名な七不思議だが、その中で一番有名な不思議って何か知ってるか?」

「……ふむ」

 一番有名……と来たか。となると、やはりあれだろう。

「『地下迷宮』……だな?」

「ご名答。さすがだなシュウ」

 ヒロは満足したように大きく頷いた。

「『地下迷宮』……この学園の地下には、巨大な迷宮がある。そしてその地下迷宮には、とある宝が隠されているって話は、お前も知ってたみたいだな」

「で、その地下迷宮がどうした?」

「実はな、シュウ……俺、地下迷宮への入口を見つけたんだ」

「なに?」

「誰にも言うなよ。宝の分け前が減る」

「おいおい。まさかお前……」

「ああ。放課後、地下迷宮に入るぜ。宝を見つけて、俺のものにしてやるんだ。そこでだ、シュウ」

 ヒロは一度言葉を切り、深呼吸してから言った。

「放課後、付き合えよ。一緒に宝を見つけようぜ」

 なるほど……そう来たか。正直、宝とかはどうでもいいんだが……。

「なあ、一緒に行こうぜシュウ。お前が面倒事が嫌いだってのは知ってるよ。けどさ、こんな面白そうなことを見逃すのは惜しいだろ?」

「うーん……」

 正直、本当に地下迷宮なんてものがあるなら、先生に報告するべきだ。俺たちだけで入るのは危ない。だが、それを言ったところで行くのをやめるヒロではない。

「……一人で行かせる方が危ないか」

「お?」

「わかった。付き合うよ」

「よっしゃ、そう来なくっちゃな! じゃあ放課後、昇降口で待ち合わせな!」

 ヒロはそう言い残して、走り去った。

「やれやれ……」

 まあ、一人で行かせるのが不安というのも確かだが……実際、好奇心もないわけじゃない。宝とかはどうでもいい。そんなあるかないかもわからないものには興味はないが、地下迷宮そのものには興味がある。ヒロがあそこまで言うんだ、地下迷宮自体はあるのかもしれない。俺の中で、その好奇心が面倒嫌いを上回った。

「……あ、やべ」

 購買のパンは、とっくに売り切れていた。




「……遅いな、ヒロのやつ」

 時刻は既に放課後。しかし、ヒロはまだ昇降口に現れない。授業が長引いているのかとも思ったが、それにしても遅すぎる。

「まさか、あいつから誘っといてすっぽかしたんじゃなかろーな」

 ヒロに限ってそんなことはない……と思いたい。なんて思っているうちに、ヒロが大急ぎでやってきた。

「悪い! 待たせた!」

「遅いぞ……って」

「さ、行こうぜシュウ!」

「待て。なんだお前、その大荷物」

 ヒロはそこそこ大きなリュックサックを背負っていた。

「え? ああ、これ準備してたら遅くなっちまったんだ。名付けて迷宮探検セット」

「なんだそりゃ。何が入ってるんだよ」

「懐中電灯とか、ナイフとか、毛糸とか。あとは非常食と水だな」

「……お前なぁ」

「な、なんだその顔は! 言っとくけどな、迷宮に入るんだからこれくらいの装備は必要だぞ! 何かあったらどうすんだ!」

「そんな危ない目に遭うようなら、すぐ引き返すからな。何か起きる前に逃げる」

「はぁ!? 何言ってやがる、お宝が隠されてる迷宮だぞ? お宝にたどり着くためには、困難の一つや二つ、乗り越えなきゃだめだろ!」

 思った通りだ。やっぱりこいつ一人で行かせなくて本当に良かった。キリのいいところで俺がブレーキをかけないと、ヒロはひたすら突っ走っていくだろう。

「あのな。あるかもわからんお宝なんかに、命は張れない。危険だとわかったらすぐに引き返す。いいな」

「……ちぇっ、わかったよ。とりあえずはそれでいい。じゃあ行こうぜシュウ。地下迷宮への入口は裏山にあるんだ」

「裏山? なんだよ、ここの反対側じゃないか」

 明久学園には裏山がある。だが、それは昇降口から校舎を挟んで正反対にあるのだ。俺は裏山へ歩を進めながら、ヒロに尋ねた。

「最初から裏山集合にしてくれれば良かったのに」

「う……集合場所ミスったのは悪かったよ。俺も言った後で気付いたんだ、裏山集合にすれば良かったって」

「ふーん……そういやさ、ヒロ。お前どうやって地下迷宮への入口を見つけたんだよ。そんなもん探すほど暇だったのか?」

 しかも入口は裏山にあるらしい。そんなところまでわざわざ探しに行ったのか?

「いや、それがな。ちょっと前に、俺の靴箱にこんなものが入ってたのよ」

 そう言うと、ヒロは封筒を取り出した。

「なんだそれ」

「いやー、俺も最初はラブレターだと思ったぜ? 俺ってばモテるし」

「知らねえよ」

「でも違ったのさ。中にはこんなものが入ってた」

「……地図?」

 それは地図……それも、裏山の地図のようだった。地図の中に、一箇所だけバツ印が付けられている。

「なるほど。そのバツ印のところが……」

「そう、地下迷宮への入口だったってわけ。しっかし誰だろうなーわざわざこんなこと教えてくれたのは。お宝いらねーのかな?」

「お宝なんか興味なかったんだろ。で、興味ありそうなヒロのところに持って来たんだ」

「そうなんかなー」

「ああ……まあ、少し不自然だけどな」

 地図の主は、わざわざ自分の正体を隠して俺たちを……正確に言えばヒロを、地下迷宮に招いているわけだ。正体を隠す理由はなんだ? なんでこんな回りくどいやり方を取った?

「……ん。そういやヒロ、お前なんでこのバツ印が地下迷宮への入口を示してるってわかったんだよ」

「いや自分で確かめに行ったんだよ。そのバツ印のとこに」

「一人でか?」

「ああ。んで行ってみたら、そこに『穴』があったんだ」

「『穴』?」

「ああ。でっかい穴でさ、地下深くまで繋がってるみたいだった。俺にはすぐにピンと来たね。こいつは地下迷宮への入口だって」

「……その『穴』に入ったわけじゃあないんだな?」

「ああ。まだ一度も入ってないぜ」

 なんだ。じゃあまだその『穴』とやらが地下迷宮への入口だと決まったわけでもなんでもないのか。案外ただの洞穴とかいうオチで終わりそうだな。

 そんなことを考えている間に、俺たちは裏山に到着していた。

「よし、行くぜ。結構奥にあるんだ、しっかりついて来いよ」

 ヒロはそう言って、木々をかきわけながら裏山に入っていく。俺もそれに続く。そしてしばらくすると……。

「お、あったあった」

 ようやく『穴』は見つかった。確かに裏山の奥……というより、ほとんど端っこだ。学園の敷地ギリギリのところに、その『穴』はあった。『穴』は思ったよりも遥かに大きく、人間一人くらいなら軽々呑み込めるくらいの大きさだ。うっかり転んだりしたら、『穴』の中に真っ逆さまに落ちてしまうだろう。

「な!? あったろ、入口!」

「そうだな……」

 どうするべきか。ここで探検をやめ、先生に報告すべきかどうか。『穴』は意外と危険な位置にある。学園の敷地ギリギリということで、すぐそばはもう公道だったりする。目につきにくい、それでいて人が通るか通らないかギリギリの位置だ。それにこの『穴』、かなりの深さがあるように見える。『穴』を覗いて見ても、そこには暗闇しか見えない。その奥の様子を伺うことはできない。

「どうしたんだよシュウ! 早く入ろうぜ!」

 ヒロは『穴』を覗き込みながら、呑気にそんなことを言っているが……ここはやはり、先生に報告すべきだろう。この『穴』は危険だ。

「ヒロ、やっぱり戻ろ……」


 俺が言葉を紡ぎかけたその時。


「あっ」


 ヒロはつるんと足を滑らせ、体制を崩した。


 ヒロはその直前、『穴』を覗き込んだりしてたわけで。


 当然、傾いたヒロの身体が行く先、それは……『穴』しかない。


「ヒロ!」


 俺はとっさに手を伸ばす。


 ヒロは俺の手を掴み、そして、


 ぐいっ、と引っ張った。


「なっ」


 引っ張られた俺の身体も、当然、『穴』に向かって傾く。


「ばっ……」


『穴』に落ちながら、俺は叫んだ。


「ばっかやろーーーー!! なんで俺まで引きずり込むんだよーーーー!!」

「ごめーーーーん!! つい引っ張っちゃったーーーー!!」


「「うわあああああああああああああ!!」」




『穴』は相当深かったが、その中は平坦な坂道……スロープのようになっていた。そのスロープを俺とヒロはごろごろ転がり落ち、そして最後にこの広間のような場所にたどり着いた……らしい。

「ここが地下迷宮……? 迷宮というよりは広間だぞ、ここ」

 ようやく目が慣れてきた。辺りの様子をゆっくりと伺う。……そして気付いた。

「……ヒロ」

「ああ、シュウ。どうやら……先客がいるみたいだな」

 うっすらとだが人影が見える。ここにいるのは、俺たちだけじゃないらしい。そして、その先客が、おもむろに口を開いた。


「……あなたたちも、落ちてきたの?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ