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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者の定義

作者: 兎夜 るびい

何となく書き溜めてたので投下しました。

 勇者。

 ファンタジーではお馴染みの最強の存在にして、魔王を倒すために生まれた存在。人々の希望の象徴であり、仲間とともに冒険し、時には悩み、苦しみ、それでも自らの信念を見つけ、強く生きる。

 ところが、今の時代、強くて優しくてイケメンでモテモテな勇者が魔王を討伐することも無ければ、異世界転生だの異世界転移だので召喚された勇者、それも王に勇者として認められた者が本当に世界を救うことなど滅多にない。大方闇墜ちしたり、人の死に耐え切れなかったり、あるいは他の役立たずと評された者が世界を救ったり。中には王族が戦争の道具として利用するために騙すこともある。主人公としてスポットが当たるのはいつも勇者以外だった。

 そうして数々のファンタジー小説を読む中で、気付いたことがある。勇者だから世界を救うのではなく、世界を救う程の力と意志を持ち、行動するからこそ勇者と呼ばれるのだ。

 では、勇者の定義とは、果たして何だろうか?分からない。故に私は、それを探しに行きたい。きっとこの世界の片隅に、勇者の定義だと思えるようなものがある。この世界を全て見て、その上でならきっと、結論に至れると信じている。だから。


「私、勇者はやりません。どうぞ、残りの勇者に頼んで下さい。帰還するには魔王を倒す以外の方法もあるかもしれません。私は魔王を倒すことなく元の世界に帰ります。探さないでいただければ幸いです」


 だから私は、この異世界を一人で生きていこう。




 時は僅かに遡り、召喚される十分前。


「ねーユキーまた本読んでるのー?」

「何しようと私の勝手でしょうが。あんたこそ、さっきまで『きゃー氷室(ひむろ)先輩きゃー』って言ってたけど、愛しの氷室さんに引っ付いてなくて良いの?」

「だってー、氷山(ひやま)先輩がくっついてたもん。あーあ、あんな男のどこがいいのやら」

「ぶつくさ言う暇があったら、『氷室お姉様を敬う会』の会員でも増やしてなさい。どうせ二人はラブラブで手が付けられないんだから」

「くそー、せめて時雨先生とか霧氷さんみたいなイケメンならなー」

「どっちも恋人いるし、まず霧氷さん女子じゃないの。つーか氷山先輩もイケメンでしょうに」

「あー、霜月君癒されるよねぇ。風花先生も可愛いし」

「今現実逃避したでしょ。ねえ」

「だってー、美男美女の集いである『文学部』の住人で独身なの、あの二人とユキだけじゃん」

「私は美少女じゃないがな」

「ううう嘘ツケエ!手入れしてなくてすっぴんでその顔!その上可愛い系待ったなしの体型!今の発言とすっぴんの事実聞いたらファンと女子が泣くぞ!」


 あーうるさい。美雪は本当によく喋るな。あーもう良いや、部活行こ。


「氷室先輩にあたしのことアピっといてねー!」

「はいはい」


 きっと美雪は真実を知ったら卒倒するであろう。文学部の本当の名は『中二部』であり、


「おお勇者よ、死んでしまうとは情けない!」

「申し訳ありません、次こそは必ずや!」

「誰かが、呼んでいる?」

「静まれ俺の右腕!」


 先生方、先輩方はもれなく中二病である。氷室先輩と氷山先輩ももちろん重症である。霜月君こと霜月雪成君は間違って文学部だと思い入部、捕まってしまった哀れな一般人である。本当に可哀想なことに癒し系のイケメンだったからね……。


「あー、ユキナリ君大丈夫?」

「ユキさん、ソウさんもう手が付けられないんだ!設定だけ聞くともはや人には思えなくて!」

「あーはいはい」


 ソウさんとは氷山先輩のことである。この部で先輩呼びは禁止だ。というか、まず先輩と呼べる要素が見当たらない。中二病をどう敬えと?


「……おい、(ソウ)


 たった一言で空気が凍る。氷山先輩、否、霜がこちらを向いて冷や汗を流し笑顔で固まっているのを発見した。よーしよし、哀れな同級生の為に頑張りましょう。


「設定を盛りすぎるなといつも言っているだろう?一般人がいることを忘れんな。好き勝手はしゃぐのは私は構わんが、ユキナリ君が困ってるだろうが。ユキナリ君が退部しようとしたのを無理言って引き止めてんのは誰で、どうしてもっていうから条件付きでここに留まってんのは誰と誰だ?ユキナリ君に帰ってほしくないならもうちょい気を遣え」

「あー、その、これは……」

「返事は?」

「えーとですね」

「そうかNOか。分かった。ヨシヨシユキナリ君、退部届け貰って帰ろうか」

「もうちょい話聞いてよーー!」

「え、無理」

「そんな!」


 見事なorzポーズでうなだれる霜。やっぱり楽しんでるだろ。


「さあ帰ろうか」

「すいません全面的にこちらが悪かったので許してください」

「……」

「沈黙を選ばれると怖いんだけど」

「ユキさん、もう俺は良いよ」

「しゃーないなー。で?今言い訳しようとしたのは?」


 DOGEZAを敢行した姿勢のまま報告を始める霜。


「いやー実は、大分この部にも人が集まってきたし、今日あたりに異世界に召喚されるだろうと思って、どんなチートをもらえるのか考えてた」

「すげーくだらねえ」

「酷いな!古来より異世界召喚にはチートが付き物であって……」


コンコンコン


「はいどなた?」

「ユキー忘れ物ー」

「おけ、ちょい待ち」

「美雪さん?」

「そう。ちょい出て来る」


 でも忘れ物なんてあったっけ?戸を開けると、美雪は何故かいなかった。代わりに小さな鈴のストラップが落ちている。拾い上げるとリンと音がした。その瞬間、床に模様の入った円が小さく浮かぶと、似たような造りの輪が幾つも浮き上がり、私の頭上には床の物と同じ円。


「え!?」

「魔法陣だ!異世界召喚だ!でも範囲狭くない!?雪しか入んないじゃん!ずるい!私も行く!」

「氷室さん、そのイタイ格好で出てこないでください!あと抱き着かないで!」

「待て氷室、抜け駆けは駄目だ!」


 わらわらと出てきた皆が駆け寄ってくる。


「おい待て止めろー!お前らくっつくなー!つーか先生までー!?」

「うわ、弾かれた!だが諦めるものか!うおおおお!」


 ペチッと弾かれてはまた駆け寄ってくる姿。シェルターの中で、這い寄るゾンビを見ている気分。


「ユキさん!」

「ユキナリ君!?」


 中二病達を掻き分けて伸ばされた彼の手を取ろうとして私も手を伸ばすと、その分円が大きくなって、彼の手が弾かれる。徐々に強くなる光に抗うようにもう一度手を伸ばし、視界が白く染まる中で何かを掴む。僅かに体が引っ張られ、そして今度は掴んだ何かも一緒に、何処かに吸い込まれる感覚を味わい、そして、視界が晴れていき……。


「成功だ!勇者を召喚したぞ!」

「待て、数が多いぞ!誰が勇者なんだ?」

「儀式召喚で勇者以外が召喚される筈が無いだろう。つまり、皆勇者に違いない!」

「それに気付くとは、お前まさか天才か?」


 見たこともない台座の上で棒立ちになる中二部の面々を、宗教団体っぽい人々が囲んでいた。そして何やら世迷い言をほざいている。


「み、巫女様!」

「平気です……とは、言えませんね。予定より多くの方が召喚されたため、魔力が枯渇しかけているのです。休ませていただけませんか」

「かしこまりました。元より説明は我等王族の仕事ですから、巫女様はどうぞお休みください」

「ありがとうございます……」


 グイグイと腕を引かれて振り返ると、霜がキラキラした目でコチラを見ていた。あれだ、新しいオモチャを買ってもらったときの子供みたいな?そして反対の腕が引かれて振り返ると、こっちには時雨先生。これまた「チート?チート来た?チーレムが始まるのか?」的な目をしている。あなた元の世界に嫁いるだろうが。


「勇者様方、どうか話を聞いてはくださらぬか」

「聞きましょう、勿論!」

「おお、何と慈悲深い。私は、エウトロピオ・ロルカ・バルデス。ここバルデス王国を治めておる」

「国王陛下でしたか!オレは氷山 霜といいます!」

「氷室 いちごです!霜の彼女です!」

「冬桜 時雨、シグレと呼んでくれ」

「霧氷 兎です!はじめましてー!」

「風花 蜜柑です」

「……冬凪 雪」

「えっと、霜月 雪成です」


 おい、霜。勝手に話を進めるなー?


曰く、魔王がこの世界を滅ぼそうとしている。

曰く、魔王は何度でも蘇る。

曰く、魔王は勇者の力によってのみ倒すことができる。

曰く、魔王はときが経てばまた生まれる。

曰く、勇者はこの世界には生まれない。召喚するしかない。

曰く、勇者は魔王を討伐することによってのみ元の世界へ帰ることができる。

曰く、この世界に残ることもできる。


 かいつまむとこんな感じのことをウダウダと語り続ける王とそれを目を輝かせて聞いている中二病軍団。何だこいつら。


「では、勇者として、魔王を討ち取っていただけますかな」

「勿論!なあ、皆!」



 そして冒頭へ戻る。皆が「コイツ何言ってんだ」という目でコチラを見ているが、知ったこっちゃない。


「私は助けを求められて、魔王が世界を滅ぼそうとする目的すら知らないままハイワカリマシターと言えるような聖人じゃない。戦うのも嫌だし、死ぬかもしれないことなんてやりたくない。魔王を倒して本当に帰れるかも分からないし、向こうに友達もいるので」

「だが、確かに歴代の勇者は殆どが帰還している。魔王を倒して、な」

「歴代の勇者は一人なんでしょ?魔王を本当に倒して、それで帰れるのは何人なの?トドメを刺したヒト?それともこの中には一人だけ勇者がいてソイツだけ帰れるの?」

「む、ぐ、それは……」

「そんな確実性に欠ける手段なんていらないし、魔王を倒して帰れなかったときに絶望するより他の方法を探しながら生きていく方がいい。だから、勇者はやりません」

「そうか……。しかし、だとしてもこの世界の知識なしに渡りゆくのは厳しかろう。しばらくはここにいると良い。考えが変わるやも知れんしな」

「陛下のご厚意に感謝します」


 そうしてそれぞれ、客室をあてがわれた。一応豪華な調度品が揃っている。


コンコン

「はい?」

「あの、ユキさん。ユキナリだけど……」

「どーぞー」


 ユキナリ君は沈んだ顔で現れた。ギンガムチェックの赤いパーカーを着ている。赤いギンガムチェックは彼のお気に入りの柄だ。ベージュ色のふわっとした彼の髪は風呂上がりなのか少ししっとりしている。まーそりゃあそうだな。先輩達先生達と違ってユキナリ君は一般人だ。混乱もあるだろう。


「ユキさん、あの……。ユキさんは、これからどうするの?」

「どうするって、勿論ここを出る。ああ、大丈夫よ、ちゃんと地図も貰うつもりだし、魔物とかそういう常識は身につけていくから。働くなりなんなりして、お金もどうにかするし。そういうユキナリ君こそどうするのよ、あんたはあの人達と違って戦う覚悟だってないでしょう?此処にいさせてもらうのもアリだと思うけど?」

「でも……。ユキさんのことも心配だし、一人で上手くやれるか……。それに、いつの間にかユキさんが何処か見えないようなところに行ってしまう気がして、怖いんだ」


 まるでその恐怖を思い出したように、俯いて震えるユキナリ君。そこまで彼を怖がらせることが昔にあったのだろうか……。私と二人、途中まで一緒に帰る時、分かれ道で彼の目に垣間見えていた何かの感情は、その時のものなんだろうか。


「実は、昔。小学生の時なんだけど……」


 そう言って彼は語り始めた。




「ユキナリ。お前が転校しても、ずっと友達だぞ!」

「うん。ありがとう……」


 そう言って学校を後にしたのは、何回目だろう。親の仕事の都合で、何度も転校をして、その度に友達と別れて……。また一人になる。


「お母さん。俺、もう転校したくないよ……」

「ごめんね、ユキナリ。でも、きっと大丈夫よ。また次の学校でも、友達はできるから。だってユキナリはやさしいもの」

「でも、またすぐお別れしちゃうじゃん。それだったら、友達なんて……」



「今日からこの教室で一緒に勉強するユキナリ君です。みんな仲良くしてあげてね」

「「「はーい」」」


 俺は友達と別れることに嫌気が差し、休み時間には一人で本を読んで過ごした。そんな時、一人の男子が現れた。自分とそう変わらない小柄な、黒髪の大人しそうな子で、頬や指に絆創膏を張っていた。


「ねえ、僕と友達になってよ!僕、藍沢友哉(あいざわトモヤ)!君はユキナリ君、だったよね?」

「う、うん。えっと……いいよ。友達いないし……」

「やった!じゃあ、僕が転校先でユキナリ君の友達第一号だね!」

「友達……」

「あ、そうだ!ユキナリ君に言っておきたいことがあるんだけど……」

「何?」

「僕、実はいじめられてるんだけど、もし見かけても、助けてくれなくてもいいよ!」

「ええ!?」


 よく見るとところどころ痣がある。それなのに本人は明るい顔をしている。


「それ、いいの?先生に言った方がいいんじゃ……」

「いいんだ。先生に言ったらもっと酷くなるだけだし。それに、ユキナリ君が助けに来たら、ユキナリ君までいじめられちゃうよ。だから、友達でいてくれるだけで良いよ!」

「うん、分かったよ」



 それから、二人で一緒に遊ぶようになった。登下校も一緒に。怪我をした小鳥の世話をしたり、学校でのことを語りあったり。


「ただいまー!」

「おかえり、ユキナリ。学校にはもう慣れた?」

「うん、友達もできたんだ!」

「良かったわね!」


 家に帰ると、まず真っ先にノートを開く。これは、トモヤ君と始めた交換日記で、いつも好きな食べ物や今日のテレビの話など、些細な話をしている。


『ユキナリ君。昨日、近所のスーパーで猫が丸まってたんだ。可愛かったなあ!』


 交換日記を始めてからより友達という感覚は深まり、楽しくなってきた。そして、それがいつまでも続くと思っていたのに……。


「あれ?トモヤ君何処かな?」


 ある日の放課後、一緒に帰ろうとトモヤ君を探していると、廊下の方で声がした。


「うぁっ」

「おら!」

「うぐっ……」


 いじめだ。トモヤ君が背の高い上級生に殴られていた。丁度胸倉を掴まれたところに俺は出くわした。これは、始めてトモヤ君がいじめられている光景を見た時であり、後悔の始まりだった。


「ホラホラ、お友達の転校生君に助けを求めたらどうだい?」


 助けなくては。そう思うのとは裏腹に、足は動かず、そしてとうとう、


「ごめん、今日は、用事があるから……」


 そう言ってしまった。逃げてしまった。階段の方を向く時に見えたトモヤ君の顔に浮かんだ表情が、忘れられなかった。そうして、話すことが怖くなって。


「ユキナリ君、あの」

「あ……、ごめん」

「……」


 交換日記ももうしなくなって、別の友達を作って遊ぶようになった。そんなある日の夜。家の電話が鳴り出した。


「もしもし」

「ユキナリ君……?」


 トモヤ君だった。


「あ……」

「僕、いじめられてたでしょ?でも、それは耐えられたんだ。けどね……。友達に裏切られるのは、辛かった。友達でいてくれるだけで良かったのに……。僕にとっては、初めての友達だったんだ。こんな思いをするくらいなら、僕達、友達にならない方が良かったのかもしれないね」

「トモヤ、君……?」


 慌てて外に飛び出した。トモヤ君の家は長いこと行っていなかったし、暗いから全く見つからず、それで俺は、一縷の望みをかけて学校に向かった。どっちに行っても学校に着く、分かれ道。トモヤ君とよくここで分かれてまた出会ってをして遊んだ。校舎の屋上に、小さな影が見えて、走って、そして影が、落ちていく。


「トモヤ君!!」


 運動場に横たわる彼の横顔には、涙が浮かんでいた。




「もしも、あの時俺に勇気があったら。トモヤ君を避けていなかったら。そうしたら、どうなっていたんだろう……。ユキさんの明るさは、トモヤ君に似てて。それで、また手の届かないところに行ってしまうんじゃないかって思って」


 あの時、巻き込まれるかもしれなかった時にユキナリ君が手を伸ばしてくれたのは、そういうことだったのだろう。必死になって、先輩達を掻き分けて。


「大丈夫だって。ユキナリ君は、ちゃんと私を掴んでくれてたじゃない」

「え、ぇえ?聞こえて!?」

「アハハ、真っ赤になってらー」


 まったく、可愛い同輩だ。


「ちょっと待ってて」

「?はい」


 制服の内ポケットに御守りとして入れていたものがあった筈だ。


「はいこれ。うさぎの脚って、厄除けになるのよ?」

「え、このペンダントってユキさんのお姉さんの形見じゃ……!」

「いいのいいの。私にはちゃあんと思い出があるし。それに、貸すだけだから」

「へ?」

「帰る方法が分かったら戻ってくるの。だから、その時返して?」

「……うん」

「もー、泣くんじゃないの」


 さっきは顔を真っ赤にしていたのに、今度は目と鼻を赤くしている。


「ユキさん、それじゃあ、また明日」

「おやすみ、ユキナリ君」

「おやすみ、ユキさん。あ、最後に一つだけ」


 そう言って振り返ったユキナリ君が、真剣な男の子の顔で言った言葉は、


「君が好きだ」

「……え?」


 扉が閉じられてもしばらくの間、私を赤い顔で放心させるには十分だった。




「……ユキさん」


 頼りになって、優しくて、素敵な人。ダークブラウンのふわりとしたボブと、赤いリボン。守りたいと思うような笑顔。


「あなたを、どうか守らせてくれ……」

「……あー、聞ーいちゃった、聞いちゃった」

「うぇえ!?ソウさん!?」


 驚いて振り返ると、意地の悪い笑みを浮かべたソウさんがこちらを見ていた。


「な、ななな、なん……」

「いやー、青いねー。青春してるぅ!あんなにストレートに『君が好」

「わー!わー!なんで知って!?い、何時から?どこからいたんですかー!」


 慌てて声をあげる。ヤバい。そこも聞かれてた!


「明日の適性検査でどんな結果が出るかと想像していたら物音がしたもんで、出てみたらユキナリ君を発見したもんだからさ?もう見に行くしかないっしょ」


 全部見られてる!


「終わった……」

「まあ誰にも言わんよ?オレは口が軽いからね」

「自白してるじゃないですか。軽い人なんて信用できません」

「し、しまった!いや、今のは軽いと固いを言い間違えたんだよ!」

「しまったって言ってる時点で無理ですよ」

「まあ、どの道公然の秘密と化すけど」

「……え?」


 キョロキョロと見渡すと、角に薄っすらと影が……。


「おいー、ばらすなよー」

「恋バナって良いですよね!恋バナ初めてで楽しいです!」

「みんないる!?巫女さんまで!?あなた休んでたんじゃないんですか!?」

「ちょっと、もう夜も深いんだから静かに……って、何の騒ぎ?」

「おー、いちご。実はだなー」

「ちょちょ、いきなり口が軽い!開き直るのは駄目ですよ!?」

「何でも良いけど、早く寝なさいよー。ソウ、あんましいじると、また怒られるよ」

「「「「「はーい」」」」」

「しゃ、釈然としない……」


 そうして、ゆっくりと始まりの日が近づいてくる……。



「マスター。対象の確保に失敗しました。先手を打たれたようです。鈴の音を利用して異世界の召喚者とリンクする術と推測。術者は既に能動的転移の準備に入っていると想定し、転移波長に同調、介入転移を行うべきと判断します。……はい、彼女は此処に居ないと把握しております。……ええ、そうです。……了解しました、マスター。では、作戦の成否が出次第、連絡致します」


 それは、もぬけの殻となったある部屋の前での出来事。



 翌朝。今日は適性検査がある。魔法適正やその他の技能の適正を調べるらしい。朝から厨ニはテンションが高い。そしてとりあえず昨日の最後の言葉は聞かなかったことにしてユキナリ君と挨拶を交わす。


「ユキナリ君、おはよう。随分眠そうだけど、あれから何かあった?」

「あ、おはよう、ユキさん……。あの、ち、ちょっと色々、あって……」


 明らかに挙動不審なんだけど、本当に何があったんだ?


「昨日めっちゃ勇気出したんだけどな……。対応も昨日までと変わんないし……」

「何?はっきり言ってくれないと聞こえんよ?」

「いやあ、ななな、何でもないヨ?本当だヨ?ただ、みんな遅いな〜って……」

「めっちゃ上擦ってるけど……」

「う~っす、おはようさん」

「お、霜。おはよう」

「ソウさん、おはようございます!」

「さてさて、今日は待ちに待った……って、もうちょい話聞いてよ!」

「え?聞く意味無いでしょ?」

「ユキさん、今日の朝食は何だろうね?」

「いやー楽しみだなー」

「ゆ、ユキナリ君まで……。良いのか、あれを言いふらしても良いのか!」

「どうせほぼ公然の秘密でしょう」


 こういう場合朝食は豪華か質素の二択である。夕食主体で朝はあまり出ないかもね。それにしても「あれ」ってなんだ?公然の秘密らしいけど、私知らないぞ?


「朝っぱらから何騒いでんの、ソウ」

「おお、いちご。おはよう」

「はしゃぐならもっと静かにはしゃいでくれる?」

「静かに?」

「たとえば、今自分に与えられる可能性が最も高い職業とか。私だったら」


 あ、ヤバいスイッチ入ったわ。エスケープだ、逃げろおおおおお!


「え、ちょ、ユキさん?急に走り出すなんて」

「悪い、ユキナリ君、先に行く」

「ソウさん?」

「私は元の世界においてファンクラブができるほどの人気を誇るため指揮力の高いスキル、範囲内補助や複数人への付加(エンチャント)もしくは通信、テレパシーとか?それか洗脳系などの精神に干渉するタイプであり、厨ニであるという側面を隠していたことから二面性になる可能性がありデメリットがあるかもしれない、そして小回りが効く普段使いと切り札である超高火力のパターンが考えられる上そこから更に予想できる展開として『やるしかない、本来片方ずつしか使えない二面の合体は副作用が多い上に成功するかどうかも分からないが……』的な……って誰も聞いていない!?起きてユキナリ君!私の話を聞いて!」


 すまん、ユキナリ君。私は君を今生贄にした。後で謝るわ、霜(本来生贄にすべきはコチラである)と一緒に。だから、死なないでね?いちごさんの長話とか、聞きたくないから。



 結論。朝食は簡素でした。王族が贅沢するなんてあってはならないとの弁。


「今日から皆様には適性検査を受けていただきたいと思います。説明した通り、基本的な六属性の魔法適正と特殊魔法適正、聖術を初めとした魔法以外の力の適正、そしてスキル、潜在能力の調査です。適性検査は時間がかかり、且つ大変疲労を伴うので、二日に分けて行います。今日は魔法適正と魔法以外の適正を調べます」


 魔法学部長だという男、アニセトがスケジュールを説明する。午前は魔法、午後はその他。まずは魔法から。


「ではみなさん、まずは火の初級魔法『トーチ』を使います。私が詠唱しますので、それを真似してください。『ここに光と熱をもたらせ トーチ』」


 詠唱に従ってアニセトの指先に何か(多分魔力)の流れが集まり、指先に蝋燭くらいの小さな火が生まれた。おおっ、と皆が驚くが、そこまで凄いとは思えない。こんなの、要は火種を出しただけでしょうに。生活魔法といった方が良いんじゃなかろうか?攻撃力ないし。


「詠唱すれば良いのか。『ここに光と熱をもたらせ トーチ』」

「あ、何か出た」

「『ここに光と熱をもたらせ トーチ』」

「えっと、『トーチ』」

「『ここに光と熱をもたらせ トーチ』『ここに光と熱をもたらせ トーチ』……あれ?」

「……」

「あれ?詠唱何だっけ、とりあえず火種を出すのか?……うわっ!」


 順に、霜:詠唱 成功 いちごさん:無詠唱 成功 時雨:詠唱 成功 兎さん:詠唱短縮 成功 蜜柑さん:詠唱 失敗 私:無詠唱 成功 ユキナリ君:無詠唱 成功?となった。ユキナリ君は、うん。なんか指先からデカい火が出てたけど。


「素晴らしいです!特に、ウサギ様は詠唱短縮、イチゴ様、ユキ様、ユキナリ様は無詠唱で、大変適正が高いようです!ユキナリ様は魔力が多く調節が難しいのかもしれません。ミカン様も気にすることはございません。他の属性に適正がある可能性がありますからね」

「ちょ、この火消えない!いちごさん、どうすれば!?これ、このままじゃ……」

「え、どうって……。普通に消えろーって」

「消えろ消えろ消えろ消えろ、消えない!」


 ユキナリ君が慌てて消そうとしているが火は逆に勢いを増して、もはや炎である。私はそっとユキナリ君の手に触れて、魔力の流れを整えてやった。


「落ち着け。慌てると魔力が乱れる。指先の魔力を、徐々に体に戻していく。ゆっくり、馴染ませていく」

「あっ、消えた。ユキさん、ありがとう」

「良いって。可愛い同輩が魔力暴走なんて起こしたら大変だし」


 続いて水属性。

「おおお、水出たー」

「よゆー」

「フン」

「『アクア』」

「『ここに潤いをもたらせ アクア』『ここに潤いをもたらせ アクア』……のおおお」

「……」

「えーと、水、水、ってうわあああああっ」

「落ち着けユキナリ君」


 まあお察しだわな。蜜柑さん大丈夫か?なんか凄い落ち込んでるけど。


「チート、チートください。チートをチートチートチートチトトトトーオオオォ」


 うん、大丈夫じゃないな。


「ええっと、皆様、大変……素晴らしい、です!ミカン様、まだまだ属性はありますからね!次、風行きましょう!風!いきますよ!『ここに流れをもたらせ ブリーズ』」


 そよ風か。扇風機になりそうやなー。


「『ここに流れをもたらせ ブリーズ』」

「むむっ。『ブリーズ』」

「『ブリーズ』。だめか。『ここに流れをもたらせ ブリーズ』……うお?出ねええ」

「『ブリーズ』」

「へへへ、時雨さんも仲間ですねえっへへへ」

「……」

「あーっ髪が、髪が目に刺さるーっ」


 蜜柑さん……。壊れてしまった……。


「ミカン様!お気をたしかに!ミカン様!?」


 以下、ダイジェスト。

・地属性

「『ここに恵みをもたらせ ソイル』」

「ぬう、『ソイル』」

「『ソイル』。っしゃああっ」

「『ソイル』」

「時雨さああん!オンドゥルルラギッタンディスカー!ナンデ!ナンデ!!」

「『ソイル』」

「……」

「ぐぼいおばあばぶ」


・光属性

「よし、出た」

「よゆー」

「っしゃああっ無詠唱キタ!」

「『ブライト』」

「出ないよぅ、出ないよぅ」

「……」

「うわあああああ、目が、目があああああ」


・闇属性

「『ここに安寧をもたらせ シャドウ』」

「いえい」

「『ここに安寧をもたらせ シャドウ』よし」

「『シャドウ』」

「チートチートチートチートチートチートチートチートチートチートチート……」

「……」

「あれーっ?皆どこー!?」


 うん、何と言うか、というか、何と言えばいいのか……。


「あー、ミカンさん大丈夫っすか?」

「うるせー兎!無詠唱の奴等に混じって目立たないと思ったら大間違いだぞ!しれっと全部詠短しやがってえええ!!」

「……火に油だな」

「ユキさん、それより助けて……。前が見えない」


 大の……いや、小の大人ががん泣きしている。そしてアニセトはオロオロしている。こっちは大の大人だ、同情の余地は無い。何とか慰めてやれ。


「ええっと、とりあえずこれで全ての基本属性が検査できましたので、少し休憩を挟んでから次に進みましょう!それでは、失礼します!」


 逃げやがった。


「あー、ミカンさん、まだ検査は半分も終わってないですから」

「うるせー兎!チクショウメエエエエエ」

「ユキさん、あの、ユキさん?」

「私に頼ってたらいつまでも覚えられないよー。闇属性ならあんま危険無いからガンバ」

「そんなああ」


 その他の面々はデュフフ、グフフ……とほくそ笑んでいてキモかったのでスルー。いちごさん、デュフフしながら恍惚とした表情でトリップしないで。女子ならざる顔と膨らむ妄想が漏れてるから。彼氏が引いてるから。ちなみにその彼氏こと霜は複合魔法を生み出そうとして見事なアフロになっていた。何やってんだ。


「……お、ユキナリ君が 闇から 解き放たれた」

「その言い方やめて!?」



「それでは、特殊魔法について説明します。特殊魔法は基本属性を除いた魔法で、本来無数に存在します。使える者が少ないものや、従来の形態から外れたものなどがあります。無属性魔法や氷魔法などですね。特殊魔法はその人だけが使えることもあるので、みなさんには思いつく言葉を唱えてもらいます。魔力補助装置を使って、詠唱に変換し魔法を顕現させますので、まずはソウ様から」

「この球に触れればいいんだな。うーん……。『凍りつけ アイェスド』」

「氷魔法ですね!素晴らしいです」

「これ以上は思いつかんな」


まあ、名前がすでに寒そうだしな。


「それでは次はいちご様ですね」

「おっけー。『衝撃よ、我が元よりいでよ インパクト』」

「無属性魔法ですね!」


 ……なんか高そうな銅像が吹っ飛んだけど、良いのか?あれ。


「次はシグレ様、お願いします」

「良いだろう!……ヤバい、何も思いつかん」

「ウサギ様、お願いします」

「流されたああ!」

「シグレさん?どいてください」

「うあああああ剥がさないでええええ」

「ふう。……『遥かなる空より来たりし力、我を天上へ導け エアー』」

「浮遊魔法といったところですかな?飛行魔法までではない、と……」

「あ、まだ行けそう。『空より天罰を下せ ライトニング』」


 ……ここ、屋内だったよな。綺麗な屋外に変わったな。雷魔法、エグい。


「もう何も出ないんでミカンさん、パース」

「ナニソレひどい」

「ミカン様、お願いします」


 どうやらアニセトさんはツッコミを諦めたらしく。ひたすら次を促すだけの人形と化した。


「えーと、何でもいいから、何か何か何か!ええっと、ええっとええっと、もうあれでいいやっ!『汝 我が求めに応え 顕現せよ サモン・ラビ』!」

「きゅいーっ!きゅいきゅ「出たああああああ!」きゅ!?」

「しょ、召喚魔法!素晴らしいです、ミカン様!」

「良かったよう、良かったよう……」

「……確かラビって、蜜柑ちゃんの飼ってた小兎だよな?」

「時雨、それで合ってます。でも何か強そうなオーラ出てる。ボクも名前兎だから補正入らないかな」

「いや、雷魔法あるだろお前……」

「あー、コホン。では、ユキ様、お願いします」

「パス。何も出ないから。それより手伝って」

「あ、ハイ。ええっとユキナリ様……ユキナリ様!?」

「ユキナリ、生きてるかー?」


 説明しよう。ユキナリ君は瓦礫の下敷きである。そして今助け出された。説明終わり。


「ううう……」

「ユキナリ君、耳貸せそしてリピートアフタミー。ゴニョゴニョ」

「?『万物は在るべき姿に戻る リペアー』?どぅわああああ!瓦礫が〜!」


 説明しよ終わり。え?説明できてない?いや復元魔法だよ察しろ。


「こ、これは……。何という魔力量!凄い、これだけの力があれば……!ふふふ、ふはっはっは!」

「申し訳ございません、アニセト様は所謂魔法馬鹿というものでございまして、桁違いの魔法に興奮すると素が出てしまうお方です。今直します」


 そういって何処からか現れたメイドさんがアニセトさんの頭を掴むと……アニセトさんの頭が、弾けた。飛び散る肉片、舞う血飛沫。その幾つかは私の顔に掛かったが、服に付いたらどうしてくれるんだ?血って洗っても中々落ちないんだぞ?他の皆は呆然と目を見開き、ユキナリ君に至っては腰を抜かして青褪めた顔でへたりこんでいる。それも当然か。

 あまりにもリアル。あまりにも突然。あまりにも非日常。そしてあまりにも危険。そんな光景に一瞬誰もが置き去りにした感情をいち早く彼が取り戻したのは幸運だろう。それはつまり思考できるということだから。そうそれは恐怖。そして止まったかのような時間は男の身体が音を立てて地に落ちた時、一気に動き出す。


「う、そだ……!うぁ、うあああああああああ!」

「マスター、対象を目視にて確認。経験値、能力値を総合して最も脅威たりえる障害を排除。対象の近くに多数の生命反応を確認、一つは恐慌状態にて行動を開始。対象の逃走確率72%、例の術者は確認できません。対象の確保に移行します」

「は……?」

「一体、何が、起きて」

「アニセトさん……?」

「ここには、魔族は居ないはずじゃ……」

「……ユキナリ君、逃げて」

「え?」


 驚くほど冷静に対処できる自分がいて、まるで前にもこんなことがあったかのような気がして。私は指先に魔力を流し、構築を開始した。


(物理 魔力障壁 同時展開 設定開始 出力 最大 強度 最大 持続時間 無限大 範囲 敵生体と己の中間点より半径三メートル 排出フィルタ 敵生体と己を除く生命反応及びそれに接する物質 設定完了 展開式 起動)


「うぁっ!」

(思念送信 対象 霜月雪成 起動 ユキナリ君、時間無いから簡潔に言うけど見た感じコイツの狙いは私だから、頑張って引きつけるわ)

「対象から魔力反応を検知。作戦の実行に影響無し。作戦を続行します」

「ちょっと!雪、何してるの!」

(いい?私の部屋に抜け道作っといたからそこから逃げて。鍵は開いてるから。できる限りたくさんの人を助けてほしいけど、最悪一人で脱出して。そうしたら門とか、城に入れそうなところを全部封鎖して。できる限り早く、ね。間違っても戻ってきちゃ駄目よ?)

「早く助けを呼ば、呼ばないと……!」

「あーうん、御免けど無理。ユキナリ君、もう理解できたね?」

「……ユキさん」

「どうした」

「いつか、必ず迎えに行きます。だから、どうか守らせてください」


 ああ、もう、全く。この同輩は私の心を揺さぶるのがお得意で。そんなだから私は、こう思うんだからね?


「ユキナリ君」


 ―――きっと勇者っていうのは、臆病でも怖くても、大切な何かの為に諦めずに頑張る。


「好きだよ」


 ―――そんな、君みたいな人のことをそう呼ぶんだろうな。


「っ!ユキ、さん」

「行って!」

「……みんな、行こう」

「でも、雪は」

「行くんだ!!」


 ああ、きっとこれで大丈夫だ。それに、大好きな同輩のお願いだしねえ。


「悪いけど、迎えが来るまでは捕まる気は無いから。帰ってマスターとやらにそう伝えてくれる?」

「否。直ちに確保します」

「ま、できるんならやれば良いよ。できるんなら、ね」



 少年は決意を抱いた。必ず愛する少女を救うと。そしてその結末は、いつか描かれることになるだろう。未だ異世界に姿を見せない、もう一人によって……。


「んもう、序盤からいきなりピンチ、バイオレンス、そしてラブ!やっぱ異世界はこうでなくっちゃね!いやー霜月君も化けたねえ、それにユキもやっぱ最アンド高じゃん!その他のモブキャラにもこれから挽回してもらわなきゃねー!小説のネタはいつでもリアルが一番よ!にしてもアイツ、さてはあたしの執筆活動の邪魔をする気?ま、いい感じの悪役に仕上がってるからいいけどさー」


 それは、世界の狭間での出来事。

続きは書くかもしれないし書かないかもしれません。

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