甘酸っぱい一滴目
一年生、春
今日から高校生。
卸したての制服に身を包み、わずかに残っていた桜とともに、高校の門をくぐる。いま、自分がここに立っているという現実に心が躍る。もちろん不安はあるが、それすらもエッセンスになっている。
入学式も早々に終わり、始まる自己紹介。さっきまでの高まった気持ちが一気に沈む。紹介するほどの自己がない人にとっては単なる苦行だ。
自分より前の人の話なんて聞いてる余裕もない。
自分の番、趣味は無難に、読書と音楽鑑賞。最後に一言、1年間よろしくお願いします で締める。
漫画やラノベは本だし、ボカロやJ-POPは音楽で、ほどほどのグループに所属して、よろしくしていきたい。
そう、何も嘘はついてない。
その後二週間は行事も多く、学校になれた頃には中間テスト。少し落ち着き始めたら、次は期末テスト。終わって、夏休み。何もかもが慌ただしく過ぎていった。
そんな中で、ある思いも芽生えてきた。
(何か、新しいこと、やってみたいな。)
(誰かに、認められたい)
目に入ったのは、生徒会選挙のお知らせ。
(これは、、いきなりハードル高くね?)
でも、いい機会かもしれない。先生に話を聞くだけ。プリントを貰うだけ。絶対に、提出しなきゃいけないわけじゃない。やりたければ、出せばいいんだ。
そんなこんなで、結局プリントは提出した。<一年生学年代表>という聞き慣れない役職に、晴れて立候補してしまったわけだが、どうやらライバルもいるらしい。まともそうな女子、どう考えても強敵。選挙期間中は気まずくて、話しかけるどころか、目も合わせられなかった。
なんとか勝訴。辛勝もいいとこだが、勝てば官軍というやつだ。彼女も<サポーター>として生徒会の一員となった。
高校生として初めてのの夏休みは、部活動と生徒会活動に根こそぎ持っていかれた。青春を謳歌する暇など、微塵もなかった。
一年生、秋
今度は紅葉とともに門をくぐる。
当たり前だが、見える景色は全然違った。
生徒会活動も本格的に始動し、部活に満足に顔を出せない日々も続いた。
生徒会は青春のステージ、という幻想は打ち砕かれた。所属感はあるものの、裏方の仕事ばかりで、誰かに誉めてもらうことは少なかった。
勉強の成績は言うほど落ちなかったが、部活動の戦績は著しく落ちていった。
自分で選んだはずの<道>が、いまの自分の大きな大きな足枷になりつつある。