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いつか終る命の為にさよならを  作者: 遠里小野
1章 -海底ドロップ-
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探検隊はどこへ行く[1]

誕生日というものは何をあげるべきなのだろう。

 当然、おめでとうの言葉は掛けてあげるべきだ。一年間無事に生きていてくれたのだから。言葉は必需品だと言ってもいい。

 しかし、物だ。何をあげればいいのだろう。あまり世界を知らない自分。この世界では特別な何かをあげることが難しい。

 とか言うと、大切な人から貰う物ならなんでも良いよ。なんてことを言われるだろうが、本当になんでもあげていいのものか迷う。豚なんかプレゼントしても、きっとアニカは喜ばないだろう。既になんでもという言葉が破綻している。

 なので、なんでもではなく。本当に、女性が喜ぶようなプレゼントを探していた。

 「我々、探検隊は、プレゼントを求め、中央都市ナベリウスの捜索にでた。」

 「ラナ、張り切るのはいいけどほどほどにね。みんな、ラナがどれだけアニカ姉のことが好きか知ってるから。」

 「好き?そんな冗談を……」

 俺の言葉に、キャラバンの男友だちのヴォイドとダイスとビリーが俺から離れるように集まってひそひそと話し合っている。

 話は聞き取れないが、何となく悪口を言っているのだろうということは分かる。

 三人で何かが合意したようで、同時に頷くと俺へと戻ってきた。

 「行こー!ラナにぃ!」

 「スッゴいの買おうね!ラナニキ!」

 「さっ!カエル探検隊しゅっぱーつ!」

 「お、おう……」

 何を吹き込まれたんだろうか。悪いことじゃなければいのだけれど。

 カエル探検隊は俺とヴォイド、ダイスとビリーの構成だ。この四人がキャラバンに居る未成年男子だ。プレゼント選びの男性代表として、多少のお金を貰って街を歩いていた。

 探検隊の名前だが、これは一つ不満を言いたい。

 俺の名前のラナキュラス。ラナ=Rana=カエルの意味があるようで、となると聞く人によると、俺のことをカエル!カエル!と呼んでいることになる。それを昨日聞いてひとしきりショックを受けた。名前を借りたであろう、ラナンキュラスという花自体も葉の形がカエルの足と似ていることから名付けられたようなので恥ずかしがることはないと、アニカから慰められた。それでも、ショックである。

 そしてからかわれた結果が、今の探険隊の名前である。

 首都ナベリウスは、色んな人たちが集まることもあって、色んな物が売っている。

 スゴく高価な物から、需要の分からない物まで売っている。

 「どうやって使うんだ?コレ?」

 なんとも説明しにくい商品が売られているのを見かける。

 形状は鉄の棒をアルファベットのZのように折り曲げ、棒の先にはボール状の物がくっついている。テト◯スのなりそこないのようだ。

 なにか見覚えがあると思ったら、子どものギャグ漫画で似たような物を見たことがある。ハチャメチャなカオスで有名なギャグ漫画だった。

 この謎の物体の使用目的も方法も分からない。何故この世に誕生してしまったのかすらも、謎すぎる物体だ。作った人物はどういう精神回路をしていたというのだろうか。

 「ははっ、僕も分からないや……すいません。これ、どうやって使うんですか?」

 ヴォイドは店員に説明しにくい物を指して聞いた。

 「さあ?」

 「えええぇぇぇ…………」

 「いいよ。どうせ売れないしやるよ!」

 探険隊は謎の物を手に入れた。脳内でアイテムゲットのSEが流れたような気がした。テレテテー!

 「これで何をすればいいんだよ。」

 「スゴいね、ラナニキ。最強アイテムゲットだ!」

 ビリーは嘲笑うように、声が震えている。こんちくしょう!デコピンしてやろうか。

 しかし、俺はそんなに動じない。動じてやらない。

 また、街を歩き回る。

 プレゼントてどんなのがあったかな?

 例えば、時計。どちらかと言えば、大人向けの贈り物だろうか。それに、そこまで精巧に出来ているだろうか?正確な時刻を刻んでいるかと言って、そこまで時間に厳重である必要もない。こんな世界なのだから。重要度はかなり低めだ。

 となると、やはりアクセサリーだろうか?アニカはアクセサリーは着けていないが、ネックレスや髪飾りなんて良いかもしれない。ずっと着けていてくれる。

 服や雑貨も、日用使いができる。

 花なんかは、やはりプレゼントの代表格だろう。ロマンチックだ。

 考えれば、考えるほど深みに嵌まっていく。

 ここまで深く悩んだのは、二回目だ。一回目はあまりの昔過ぎて思い出せない。

 「どうしよもねえな。」

 「一杯あるよねー。どれがアニ姉に似合うだろー?」とダイス。

 ふと、長蛇の列が目につく。列の先へ歩いて行くと、一軒の建物にたどり着く。そして、入り口の看板には、赤い十字の絵が貼られていた。

 「あぁ……献血か。」

 献血はこの世界で、法律で定められているものだった。月一程度で実施され、大体八十ミリリットル程血を取られる。某乳酸菌飲料と量はだいたい同じだ。

 制定された理由は、魔物との戦闘で怪我をすることが多いので、怪我した人たちの輸血の為。とはいえ、治癒の魔法があれば必要のないものである。所有している人数はかなり少ないはずだが。

 ということで、月一で人民から少しずつ血を収集していくらしい。

 「大都市なんだから、ここまで列が長いのも頷けるね。」

 「そうだな。」

 しかし、一つ不安なのが、衛生面だ。こんな世界なので、長期間の保存も難しいだろうし、様々な感染症もあり得る。救う為に輸血したのに、血液感染して病で亡くなるなんて元も子もないだろう。

 「衛生面ってどうなの?」

 「うーーん?どうなんだろうね?」

 そう言って、ヴォイドは自慢の前髪を弄ぶ。さして、興味ないようにみえる。彼の思っていることを想像したならば、きっと「知らんがな。」だろう。

 「そんなことどうでもいいしょ。行こうよ、ラナニキ。」

 「んん?あぁ、行こうか。」

 また街を歩き回る。気づいたら、食品などが売られている通りに来ていた。みずみずしい果物や、美味しい物が焼ける匂いに心惹かれる。

 「わー!うまそーだ!」「イカ焼きィー!」

 「おい!あんま走り回んな!」

 どこかへ行ってしまいそうになったダイスの手を掴むと逃げてしまわないように手を握った。

 「人が多いから迷子なるからね。ちゃんと、兄さんから離れないこと。」

 「「はぁーい」」

 二人は不満そうだが、納得してくれたようで、俺はダイスの、ヴォイドはビリーの手を繋いで歩く。

 少し歩いていると、ダイスが首を傾げるのが視界に入った。

 「どうかしたか?」

 「何もない。」

 俺は首を傾げて、また前を向き直る。少し強く握り過ぎただろうか。

 ダイスはビリーとふざけあっている。繋がれていない手で手刀を作り、突っつき合っている。思わず、ドゥクシッと言いたくなる。

 食料を売っている通りは本当に色んな物が売ってあった。中には、イノシシの魔物の丸焼きなんて物も売ってあった。真っ黒になった眼がギョロリとこちらを見たような感覚に襲われる。

 「魔物が売られているのは、やっぱり慣れないな。旨そうではあるんだけど。」

 「ほとんど変わりないからね。味は変わらないし。ちょっと見た目が厳つくなるのと、強くなること以外。」

 「お腹がへったー。アレ食いたい。」

 「んー。昼食にする?」

 「メーーシィーーーーー」

 ポケットの中の財布を弄ぶ。昼食代は貰っている。

 「そうだな。で、何が食べたいんだ?」

 「「アレ!!」」

 二人同時に指差したのは、ドラゴンの肉だった。

 「ドラゴン……ドラゴン肉ってあるんだな……」

 「ドラゴン肉か……アニカ姉が居ないし僕も食べようかな?」

 肉厚でジューシーそうなドラゴンのお肉が、隣の牛のステーキと同価格で売っているのに驚いた。

 若干、トラウマが甦るが唾と共に飲み込んだ。

 「おう!兄ちゃん買ってくかい?肉屋なら家で買ってきな!ガッツが付くぜ?!」

 黒い髭を蓄えたおじさんのガッツのある声が響く。おじさんの後ろは民家になっているのか、お腹の大きな奥さんが一人と、子どもが五人見えた。成る程、有言実行だな。

 「じゃあ、焼きドラゴン肉が…………ラナは?」

 「え?ああぁ…………」

 物凄く美味しそうなのだが、モラルのような生理的に受け入れられないような。けど、目の前にあったら間違いなく食べていることだろう。なんだろう、このモヤモヤは。あの時を思い出すからだろうか。

 「……俺は、この牛肉でいいや。」

 迷った挙げ句、同じ値段で隣に配置されていた牛を選んだ。

 「そ、なら焼きドラゴン肉が三つと、牛串一つで。」

 「あいよ!竜三、牛一ね……ほらよ!」

 俺はポケットからお金を取り出すと、おじさんに渡す。

 「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、と六つ。五六〇バラム、ピッタリ頂きました!まいど!」

 既にドラゴン肉を下二人に配ったヴォイドは、俺に牛串を渡す。

 「サンキュー!」

 俺は串にかぶり付く。肉の隙間という隙間から、濃厚な汁が溢れ出し舌へ染み渡っていく。肉も固く無く、簡単に噛み千切ることができる。

 対する、ドラゴン肉組はフォークで刺して美味しそうに頬張っている。その顔はまさに幸せそうで、唇に付いた肉汁を舐め取るほど美味しいようだ。

 俺の視線に気づいたヴォイドは「食べる?」と聞いてきたが、首を横に振った。

 もて余した串をペン回しのソニックの要領でクルクルと回していると、ダイスの握る力が少しだけ強くなった。何かよほど興味を示したものがあったようだ。

 「あっち行きたーい。」

 予想通り、ダイスは、左を指差した。そこは、店と店の間に路地が出来てあり、奥の方に続いている。

 男の子なら持つ冒険精神なのだろう。俺も分かる。だが、一度痛い目にあったことがあるので若干躊躇したが、ダイスとビリーの純粋な期待の眼差しに抗うことは出来ない。

 「じゃ、探険隊レッツゴー!」

 と路地に入っていく。ヴォイドは肩をすくめていた。

 しょうがない、男の子はカエルとカタツムリと犬の尻尾でできている。そして、男の子はいつだって冒険者なのだ。

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